環境庁(当時)の職員から大学教授へと華麗な転身を果たしたH教授が、環境にかかわる内外のタイムリーなできごとを、環境行政マンとして過ごしてきた経験に即して解説します。
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第35講 「本時評の2年半を振り返る(その3)付:アスベスト最前線その他」
第34講 「本時評の2年半を振り返る(その2)付:メディアの傲慢その他」
第33講 「本時評の2年半を振り返る(その1)付:コウノトリ放鳥その他」
第32講 「ミニミニアセスへの挑戦」
第31講 「アスベストのすべて」
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No. 第34講 「本時評の2年半を振り返る(その2)付:メディアの傲慢その他」
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Issued: 2005.11.04
H教授の環境行政時評 (第34講 その1)

H教授―いやあ、さわやかな小春日和だなあ。

Aさん―センセイ、とうとうぼけちゃったですね。今は秋ですよ。季節の感覚もなくしちゃったんですか。

H教授―♪今はもう秋、誰もいない海♪ ──か。辞書で「小春」「小春日和」というのを調べてみろ。陰暦の11月と書いてあるぞ。院生たってホント、常識ないんだから。

Aさん―(膨れて)イヂワル! そんな死語をつかわず、「紅葉の秋だなあ」でいいじゃないですか。(小さく)これじゃあ学生に嫌われるわけだ。
(思い直して)ところで前講から2005年10大事件に入るようなことが目白押しですね。

H教授―例えば?

Aさん―パキスタン大地震。4万人もの人が死んだという話です。

H教授―うん、悲惨だよねえ。カシミールを巡る印パ紛争がちょっと雪解け状態になったことだけが救いだ。ほかには?

Aさん―ドイツでは大連立政権ができて女性首相が誕生することが決まったし、イラクでは憲法制定の国民投票が行われ、タイミングを計ったようにフセイン裁判が始まりました。

H教授―タイミングを計ったんだろう、そりゃあ。新たな国民統合の第1歩になればいいけど、亀裂をさらに深めるだけになってしまうかもしれない。アメリカ以外のほとんどの派兵国はイラクから撤退しようとしているし、米国だって撤退したいんだろうけど、撤退すりゃあ内戦になるのは目に見えてる。大義なき愚かな侵攻のツケが回ってきたんだ。
コイズミさんは...。

Aさん―ま、その話は置いといて、国内に目を向ければコイズミさんが靖国参拝。郵政民営化法案が可決、自民党の造反議員たちも大半が転向。大阪市では突然市長が辞職し、市長選再出馬というドタバタ劇。
そして、何よりもタイガースがリーグ優勝しました。これだけはセンセイもうれしいでしょう。

H教授―なんで? しかも日本シリーズはボロ負けの2連敗。【1】

Aさん―え? センセイ、関西人なのにタイガースを応援してなかったんですか。

H教授―興味ない。今シーズンは楽天を応援していた。

Aさん―ホント、天邪鬼なんだから。

H教授―どこも引き取り手がなくなったロートルが頑張る姿って、胸をうつじゃないか。

Aさん―(小さく)自分の姿と二重写しにして自己陶酔してるんだ。

H教授―だけどもうやめた。あの田尾サンを突然首切りするなんてひどすぎるよ。おまけに後任がノム...。

Aさん―はい、ストップ。固有名詞を出しちゃあダメ。じゃ、TBSとの経営統合を言い出した楽天は。

H教授―今じゃあ大っ嫌いだ。ホリエモンのほうがあけっぴろげな分だけまだいいかも。

Aさん―あのう、いつまで経っても環境問題にいかないんですけど。

H教授―わかった、わかった。まあ、さっきキミが挙げたような事件が次々起きるというのも今が大きな過渡期だということかも知れないなあ。あと、この時評がアップロードされる頃には内閣改造があるはずだけど、どうなるのかなあ【2】
【1】 日本シリーズ
結局4連敗でよいところなく敗れ去った。
結果は、日本野球機構オフィシャルサイト参照。
日本野球機構オフィシャルサイト
メディアの傲慢

H教授―ところで先日のNHKのアスベスト特番視たか【3】

Aさん―みました。センセイ、2分間だけ出てましたね。

H教授―うん、でもその大半はナレーション。ボクの発言はその2分間の最初と最後の方で10秒ほど2回あっただけだった。2時間もインタビューを収録していったんだけど、力説した部分はすべてカットされた。

Aさん―どんなインタビューだったんですか。

H教授―ボクのやったアスベスト調査が主眼だったけど、アスベスト全般について31講のような話をした。
最初は調査なんかより一般環境中への排出規制をすべきだったんじゃないかって話だったんだけど、平時に調査なしで規制などできるわけがない、一般環境中の測定法からはじめなければならなかった、などとじっくり説明したらわかってくれた。
また調査終了から規制まで時間が経ちすぎたんじゃないかという話もあった。こっちの方はボクがやったわけじゃないけど、県を相手に測定法の研修をする一方、その間、各省や県にも排出抑制の指導を依頼していたんで、欧米と比べても実質的にも決して遅すぎたとはいえないという話をしたら「なるほど」と納得してくれたんだけどねえ。

Aさん―ふうん。全然そんな話は出なかったですねえ。

H教授―うん、要は、ディレクターか誰か知らないけど上の方では、なにがなんでも「省庁の縦割り行政」と「経済優先社会」が規制を遅らせたというストーリーにしたかったんだろうね。
ま、一般的にそのことは否定しないけど、アスベストに関しては欧米の動向を見て、追随するように排出抑制指導や規制をしたから、遅すぎたという批判は当たってない。旧・労働省なんかは法規制の前に業界団体に対する行政指導ではあったけど実態的な規制を先行させたそうだ。青石綿の使用禁止が10年近く遅れたなんていうけど、青石綿が使われなくなったのは欧米とほとんど同時くらいなんだ。

Aさん―センセイのやった調査に関しても冷淡なナレーションだったですねえ。

H教授―「環境庁のやった調査では一般環境中の濃度は低いとされた」みたいなナレーションだった(苦笑)。
報告書では、「一般環境中の濃度はアスベスト工場にくらべると低く、アスベスト労働者に比べてリスクは低いが、アスベストは環境蓄積性が高く、発がん物質の閾値はないとされていることから排出抑制の必要が高い」というような結論だったんだけど、「濃度は低いとされた」だけで片付けられて、それが大気汚染防止法の規制へとつながっていたことなんておくびにも出なかった。
インタビューでは「排出抑制の必要が高い」という結論をもっと一般国民に知らせるべきじゃなかったんですかと言われた。だから「ボクらもそう思い、記者発表もしたし報告書の市販もやった、NHKさんはじめメディアはなぜもっと持続的に報じてくれなかったのか、残念だった」と答えたけど、それもカット。
【2】 第3次小泉改造内閣の発足
平成17年10月31日午後4時過ぎ、改造内閣の閣僚名簿が発表された。
首相官邸 第3次小泉改造内閣の発足
【3】 NHKのアスベスト特番と、アスベスト問題について
NHKスペシャル「アスベスト 不安にどう向きあうか」
朝日新聞 ニュース特集「アスベスト被害」
Yomiuri Online「アスベスト問題」

Aさん―ま、そりゃあカットでしょうね(笑)。
でもそうすると、放映をみて随分腹が立ったんじゃないですか。

H教授―まあ、メディアはそんなものだと思ってたから、どうってことはないよ。
ボクらのやった調査をベースに大気汚染防止法で規制に持ち込むことができたんだから、なんと言われようと誇りに思っている。

Aさん―そういえば前講のお便りで、
開講当初から楽しく閲覧させていただいてます、都道府県庁で環境行政に携わっている者です。日頃からマスコミの非科学的扇動的報道や、その煽動に乗せられた市民団体の対応に腐心しています。希望するならば、そういうマスコミの非科学的な報道姿勢を実例を持って斬ってもらいたいなあと思います
──というのがありましたけど、ワタシたちがメディアの報道に接するときの注意事項ってなんかありますか。
H教授―そうだなあ。「環境会議」という雑誌に書いたことがあるけど【4】、もう一度繰り返そう。
まず第一に、新聞やTVで報道される頻度や大きさが、社会問題としては重要であると捉えねばならないことはもちろんだが、それが当該環境問題の真の重要性を反映しているかどうかはわからないということを意識しておくことだな。
地球温暖化でいえば、第二約束期間のことについてほとんど報道されてないけど、京都議定書のマイナス6%が達成されるかどうかよりもよっぽど重要だ。

Aさん―そりゃそうですねえ。どう考えてもマイナス6%は達成できませんもんねえ。

H教授―第2に新聞の見出しは、しばしばオーバーだということを知っておいたほうがいい。新聞記事にはあからさまなウソはまずないだろうから、見出しに興味を持てば、まずはじっくりと記事を読むことだね。
それにしてもうちの学生はそもそも新聞を取ってないというのが多いんだから呆れるねえ。
【4】 環境会議
2005年春号/3月5日発売「環境情報の正しい読み方 〜市民のための京都議定書講座」
Hキョージュ=久野武=越貴来翔の世界

Aさん―...(実はAさんも取っていない)。

H教授―第3にウソはないものの、先日のNHKもそうだけど、記事や報道にはしばしばあらかじめのシナリオというか図式が描かれていることがあるし、誘導という意図、あるいは記者の思い込みがあることもある。
また、記者のニュースソース、例えば記者発表だよね、そちらのほうに意図があることもある。
したがって、その図式や意図や思い込みにそぐわないデータや事実はカットされがちだ。だから、そうしたものがないかどうか、まずは疑ってかかることが必要だろう。

Aさん―それって新聞による違いも大きいんじゃないですか。

H教授―役人にはどういうわけかA新聞を嫌う人が多い。反政府的だって思い込みなんだろうなあ。
でもボクが役人現役の頃、商業新聞のほぼ全紙を部屋で取っていたけど、A新聞ではない1紙が異質なだけであとはほとんど変わらないと思い、逆に危惧したよ。いろんな見方があるのが当然で、もっと個性を出せよ、という感じだったなあ。
つまり、今のアスベスト報道もそうだけど、総じてどの新聞も同じ論調、方向になだれこむ傾向があるんだ。
だから、そうした方向に抗するものの言い分も探して、きちんと耳を傾ける必要もある。今じゃネット全盛だからそういう意見も割と簡単に拾えるよ。

Aさん―センセイ、いつ研究室に行ってもパソコンに向かってるのはそういうことなんですか。アタシャ、てっきりアダルトものかと...。

H教授―うるさい!!
一方、こうした流れに抗する論調は逆方向に偏する危険性も高いことに留意しておかなきゃいけない。

Aさん―12講でとりあげた「環境危機をあおってはいけない」のロンボルグなんかがそうですね【5】

H教授―うん。そして環境情報はどの程度の科学的な確かさがあるかという点を考えなければいけないし、その環境情報がどの程度の背後の広がりを持つものなのか、社会、経済、歴史やわれわれの日々の生活との関わりの程度を考える習慣をつけることだ。
97年当時、某大新聞はCOP3において日本がリーダーシップをとって大胆な温室効果ガス削減を進めよと論陣を張ったんだけど、その隣のページではガソリンの値段が日本は米国に比べ格段に高い、これで生活者大国といえるのかと一大キャンペーンを張っていたんだ。某大新聞はこの2つの命題は本質的に両立するかどうかに一抹の疑問も抱いていなかったようだけど、少なくともこの時評を読んでおられる読者は、この2つの命題は決して独立したものでないことはわかっておられると思う。
...ただ、キミや一般学生だとちょっと不安だなあ。

Aさん―偉そうに言ってセンセイだって──。

H教授―(遮るように)ボクだって環境問題以外は意外とそうじゃないかと、これでも一応は自戒しているんだ。
要は、まずは環境情報を自分の経験や理性で判断して、決して丸呑みにせず、常に疑いを心の片隅に持っておくこと、そして同時に疑いつつも自分なりの現時点での判断をし、必要に応じて行動するということになる。行動する中で得られる情報により行動自体を修正することもあると思うよ。
【5】 
第12講(その2)「ロンボルグの波紋」
Aさん―つまりはこの時評も鵜呑みにするなということですね。ま、センセイは始めから独断と偏見だと断っていましたもんね。
そういえば、先のお便りには続きがあって、
Aさんはもっと教授に鋭くツッコんでもらいたいです、でないとキョージュもどんどん惚けちゃいますよ。
──ですって。センセイのためにも、私ももっとがんばらないと!


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