環境庁(当時)の職員から大学教授へと華麗な転身を果たしたH教授が、環境にかかわる内外のタイムリーなできごとを、環境行政マンとして過ごしてきた経験に即して解説します。
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第36講 「本時評の2年半を振り返る(その4)付:2005年環境十大ニュース」
第35講 「本時評の2年半を振り返る(その3)付:アスベスト最前線その他」
第34講 「本時評の2年半を振り返る(その2)付:メディアの傲慢その他」
第33講 「本時評の2年半を振り返る(その1)付:コウノトリ放鳥その他」
第32講 「ミニミニアセスへの挑戦」
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No. 第35講 「本時評の2年半を振り返る(その3)付:アスベスト最前線その他」
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Issued: 2005.12.01
H教授の環境行政時評 (第35講 その2)
環境税と特会見直しと第二約束期間

Aさん―ところで先月の漫才の翌日、環境省が環境税の案を出しましたねえ【11】

H教授―あまり迫力のない案だったなあ。基本的に去年のものと同じだったけど、ガソリンの値上がりなどを気にして、ガソリンなどは当面の間非課税だそうで、税収見込みは3700億円で昨年の見込みの半分以下だって。
もちろん産業界はさっそく反対って打ち出したんだけど、まったく別のところから、別の話がでてきて、面白くなりそうだ。

Aさん―へえ、なんですか。

H教授―前回も言った特別会計の見直しの話があれよあれよという間に進展してしまった【12】。なかでも道路特会の話はもう結論が半ば以上出ちゃったみたいなんだ。
ガソリンにかかる税は暫定税率といって、道路整備という特別の目的のために高くなっている。これが目的税として道路特別会計の重要な財源になっているんだ。
それを一般財源化するって方針が出たみたいなんだ。道路特別会計をやめて特定財源から一般財源化するんだったら、暫定税率の分は税率を下げるのが筋なんだけど、コイズミ改革はもはや筋がどうとかじゃないみたいで、下げないってことで政府税調もOKの答申をした。
税を下げない理屈として税収不足だけでなく、環境対策を持ち出すことになるんじゃないかな。だとすると、環境税自体はどうやら今年も見送りの方向らしいんだけど、環境省案にあった温暖化対策としての財源に充てるというのは一定程度実現の可能性が出てきたんだ。

Aさん―だったら実質的に環境税は採用されたに等しいことになるんじゃないですか。

H教授―うーん、そう簡単に言えるのかなあ。
だってコイズミさんと財務省の本音は税収不足を補うためだろう? まあ、道路族と国土交通省の力を削ぐという意味もあるのかもしれないけど、いずれにせよ一般財源化された場合、暫定税率分数兆円をまるまる温暖化対策に回すとは考えられない。
そりゃあ、数兆円のなかの3700億円くらいだったらお安い御用ということになるのかもしれないけどね。だけど3700億円が温暖化対策予算として認められりゃそれでいいって話じゃない。
化石燃料の使用の抑制という環境税本来の目的はどうなってしまうんだということになる。
それにクルマはCO2発生源のひとつだけど、もうひとつの大発生源、発電のほうは現在のままだというんならまったく理屈のとおらない話になっちゃうよね。
エネルギー特別会計の見直しのほうはどうなっているのかわからないけど、道路特別会計とエネルギー特別会計はガラポンし、これらに関連する税と環境税の問題をこの際すっきりわかりやすく目的税化すべきだと思う。
そして化石燃料使用を控えれば控えるだけ得することが実感できるようにして、CO2抑制の道筋をこれにより付けるべきだと思う。
ま、いずれにせよこの問題がどう決着がつくか、お手並み拝見だけど、どうもこの税で、節約効果がでてくるとは思えない。国内排出量取引制度の構築とかそれとCDMとのリンクだとか、或いは一般国民の節約意欲を刺激するような大胆な電気料金の累進制とかを導入しなければどうにもならない。

Aさん京都議定書目標達成のためですか。
【11】 環境省の環境税案
「環境税の具体案」(平成17年10月25日、環境省)
【12】 特別会計の見直し
H教授の環境行政時評 第34講(その2)
特別会計の見直し(財務省)

H教授―もうそんな時期はとうに過ぎた。EU諸国のように超長期的な排出抑制ビジョンを確立し、それに向けての対策ということだ。
そういう意味では第二約束期間に向けてのはじめての国際会議、COP/MOP1が11月28日からカナダのモントリオールで開催される【13】んだけど、十分に注目しておかなければいけない。
多分立場の違いを反映して喧々囂々でまとまらないんだろうけど。

Aさん―MOPって議定書批准国会議でしょう? 米国も出るんですか? それに日本のスタンスは?

H教授―条約批准国と議定書批准国は大体同じだから一緒にやることになっていてそれでCOP/MOPというんだ。米国はMOPにはオブザーバー参加ということになる。
日本のスタンスは、まだ固まってないんだろう。だからとりあえずは様子見じゃないかな。「すべての国が参加する実効ある枠組みを」というのが日本の公式見解だ。そりゃあ、正しすぎるほど正しいけど、こんなもの、方針とかスタンスとか到底言えない。
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【13】 COP/MOP1
会期は、11月28日から12月9日まで。会場はカナダのモントリオール。この会議は、京都議定書締約国156カ国の最初の締約国会議であり、また、国連気候変動枠組条約締約国189カ国の第11回締約国会議と同時開催される。
United Nations Climate Change Conference (COP 11 and COP/MOP 1)
プレスリリース(UNEP)
プレスリリース(気候変動枠組み条約事務局)[PDF]
気候変動枠組条約第22回補助機関会合(SB22) 概要と評価(平成17年5月27日、日本政府代表団)
H教授の環境行政時評 第24講(その1)
アスベスト最前線
Aさん―ところで31講はアスベスト特集だったけど、依然としてアスベスト騒ぎはおさまらないですねえ。
最新の動きを紹介してくださいよ。

H教授―まずアスベスト被害者救済法ができるのは確実だ【14】中皮腫で死亡された方の全員を対象にするようだ。
問題は補償額をどうするか、そしてその財源をどうするか。アスベスト業界だけでは到底対応できない額だからねえ。
それから中皮腫は8,9割がアスベストが原因なんだろうけど、肺がんで死亡されたかたの場合は、アスベストとの接点があったかどうかということでなんらかの線引きが必要だろう。

Aさん―現在の一般環境中でのアスベストのリスクはどの程度なんですか。

H教授―うん、実はそれが大問題。
大気汚染防止法では工場の敷地境界濃度を10本/リットル以下にしている。これは1986年のWHOが出した見解「一般環境中の濃度(都市部でリットル当り1〜10本)では一般住民に対するアスベストのリスクを定量的に検出するのは困難であり、危険は検出不可能なほど低い」に拠ったらしいんだ。
【14】 アスベスト被害者救済法
脱稿後、11月29日の「第4回アスベスト問題に関する関係閣僚による会 合」で、石綿による健康被害の救済に関する法律(仮称)案大綱が示されている。
厚生労働省:石綿情報のページより[PDF]

Aさん―確か、発がん物質については生涯過剰死亡率が10万人にひとりから100万人にひとりぐらいだったら許容できるということじゃなかったんですか。

H教授―うん、それが(その後出され、)国際的に定着した現在の実質安全濃度(VSD)の考え方だ。
で、先日リスク研究学会の大会にいって、勉強してきたんだけど、この考え方でいくと、1リットル当たり0.1本とか0.2本程度になってしまうらしい。

Aさん―だったら国際的な考え方にしたがって、1リットル当たり0.1本オーダーの基準にすればいいじゃないですか。
ところで一般環境中濃度は増えているんですか。

H教授―80年代半ばにボクらがやった調査では、1リットル当たり0.1本から10本くらいまでデータのばらつきも見られたものの、0.5〜1本くらいが多かった。現在は0.2本から0.5本程度が多いようだ。

Aさん―えー、減ってきているんですか。じゃあセンセイがやった調査を踏まえてなされた大気汚染防止法の規制効果があったんですね。

H教授―そうだといいんだけどねえ。

Aさん―なんだか奥歯にモノが挟まったような言い方ですね。

H教授―1リットル中、0コンマ数本なんて低濃度じゃ、どの程度測定数値が信頼できるか疑問に思ってるんだ。なんせフィルター上の繊維の数を顕微鏡を通した人の目で測るんだから個人差もある。
屈折率が一定範囲の5ミクロン以上の長さの繊維を図るんだけど、発ガンは5ミクロン以上のものが原因だと決まっているわけじゃない。
もともと発ガンのメカニズムは定かでないんだけど、もっと微小なアスベストが原因かもしれないし、5ミクロン以上の数が微小アスベストを含めた総アスベストの数を代表しているかどうかもわからない。
この測定法では屈折率を量的に一番多いクリソタイルに合わせているんだけど、似たような屈折率を持つ非アスベスト繊維も数えてしまう可能性もあるし、逆に発ガン性が高いといわれる青石綿は見逃してしまうことにもなる。
そんなことをあれやこれや考えると、0.1本とか0.2本と言われたってなあって感じが拭えない。
かといって、物質の同定がきちんとできる電顕はオカネがかかるから、それほど簡単にはやれないだろうしなあ。

Aさん―測定技術や測定感度の話とリスク評価の話、それに発ガンメカニズムの話が噛み合ってないって感じですね。

H教授―まあ、そうだ。

Aさん―あと、環境省がアスベストを原因とする中皮腫と肺がんの死亡者数が、2010年までの今後5年間で、最大で1万5000人を超えるとする初の試算をまとめたそうじゃないですか。2039年までに中皮腫で10万人が死ぬという予測もあったそうですし。

H教授―うん、ただこれらの予測は「最大」とあるだろう。つまり、潜伏期間を40年とし、アスベストの取扱量に比例して発散量も増え、それに伴って死者が増えるという仮定での予測なんだ。ほんとうは取扱量じゃなくて、アスベスト粉塵の未処理発生量や発散量に比例してなんだろうだけど、大昔のものは推測不可能だからそうしたんだ。だけど、実際には70年代後半以降は、それなりに工場内でも各種対策を講じてきて、アスベスト粉塵がもうもうという感じじゃなくなってたろうし、規制もどんどん強化していったから、実際はもっと死者は少なくなると思うけどねえ。

Aさん―そうあってほしいですねえ。
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