環境庁(当時)の職員から大学教授へと華麗な転身を果たしたH教授が、環境にかかわる内外のタイムリーなできごとを、環境行政マンとして過ごしてきた経験に即して解説します。
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No. 第37講 「新春呆談」
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Issued: 2006.02.02
H教授の環境行政時評 (第37講 その4)
超長期ビジョン検討開始
Aさん―ところでセンセイ、超長期ビジョンを作れというのが持論ですけど【30】、環境省も検討を始めたそうじゃないですか。

H教授―お、そうそう、忘れてた。
中央環境審議会で第三次環境基本計画の策定を進めていて、年末にその素案が発表されたんだ【31】。200ページを越すぶ厚いものだから、まだ読んでいないんだけど、年度内には閣議決定に持ち込むつもりらしい。
【30】 超長期ビジョンの策定について
持続可能社会超長期ビジョンの必要性・可能性[第24講(その1)]

Aさん―関係ないじゃないですか。話を逸らさないでください。

H教授―話は最後まで聞け。
この素案については、実は昨年半ばに中間とりまとめが発表されているんだ【32】。その中で2050年あたりをターゲットにした環境政策の超長期ビジョンを作れといっている。それも現状のトレンドをただ伸ばすんじゃなく、50年先のあるべき社会から現在の政策を見直すというバックキャスト方式を考えろと、まあこういう趣旨だ。

Aさん―へえ、審議会に言われて環境省も重い腰を上げたというわけですか。

H教授―そんなわけないだろう。中間とりまとめの原案づくりにも事務局としての環境省が関わっていたに決まってるじゃないか。役所のジョーシキだよ。
で、そのための来年度予算も政府予算案のなかで計上された。ついでに言えば、中間とりまとめだって、予算要求に間に合うように出されたんだと思うよ。
予算説明書によると、第三次環境基本計画で将来展望の基本的な方向性を示し、19年度中に具体的なビジョンをとりまとめるそうだ。

Aさん―それは審議会でやるのですか。

H教授―データ収集やシミュレーションはコンサルにやらせ、有識者による検討会で議論するところから始めるんじゃないかな。

Aさん―へえ、楽しみですね。

H教授―うーん、でも難しいと思うよ。

Aさん―何がですか。

H教授―50年先の社会経済状況がどうなっているかを枠組みというか前提として想定しなくちゃいけない。人口、年齢構成、GDP、エネルギー需給等々だよね。
ところがこうしたものは公的に決定したか、暗黙の了解かはともかくとして、個々に見れば予測は一応はあるんだ。例えば、人口だとか出生率も一応の想定があるからこそ、年金支給ができる。
問題は、それらの見通しは楽観的で願望が入り混じったとしかいいようがないものばかりだということだ。

Aさん―そんなの無視して、本当にシビアで客観的なシナリオを書けばいいじゃないですか。
【31】 第3次環境基本計画の策定に向けて
「第三次環境基本計画(素案)」(平成17年12月22日)[中央環境審議会総合政策部会(第36回)資料]
【32】 第三次環境基本計画(中間とりまとめ)
第三次環境基本計画策定に向けた中間とりまとめの公表及び新しい環境基本計画のあり方に関する意見の募集について[平成17年7月19日 環境省報道発表]
環境基本計画に関する意見交換会[地球環境パートナーシッププラザ]

H教授―そんなもの作ったって各省は無視するだけじゃないか。だとすると環境省のマスターベーションにしか──。

Aさん―(遮り、睨みつけて)センセイ!

H教授―う、言いなおそう。環境省の自己満足にしかならない。
かといって各省の参加の元でやれば、甘い技術開発の見通しを語り、ライフスタイルの見直しだとか価値観の転換をお説教するだけの、毒にも薬にもならないものしかできないよ。

Aさん―じゃあ、どうすればいいんですか?

H教授―それこそ、ソーリがリーダーシップをとって、各省の今までの計画はとりあえず棚上げして、「客観性の高いベストなものを作れ」「各省もそれに全面協力せよ」と言ってくれればいいんだけど、それも望み薄だから苦労すると思うな。
それだけじゃない。予測困難、あるいは予測を口外しづらいものだっていっぱいある。なんせ50年も先の話だから。
確かなのは、キミが生きていれば嫌われ者の婆さんになっているということだけで...。

Aさん―(間髪を入れず)そしてセンセイは、墓の中で誰からも忘れ去られているんですね。あ、それは50年先じゃなくて、5年先かも知れないですけど。
それはともかくとして、予測困難、予測口外困難って、例えば?

H教授―ホントに減らず口の多いやつだなあ。そんな暇があれば修士論文に取り掛かればいいのに。
ま、いいか。ピークオイル論が今、盛んだけど、50年先に原油は枯渇しそうになっているのか、相変わらず「あと50年」なんて言っているのかわからない。ただ、50年先だと新たな油田発見という事態はもうないだろう【33】
それから巨大な隣人、中国がその頃も統一国家であり続けているのかどうかだってわからない。もし統一国家だとしたらGDPは米国を抜いて世界一になっているだろうし、分裂したとしたらそれはそれで巨大な影響を及ぼす。
暖冬かどうか半年先の予測だって間違うのに、50年先の予測なんてムリだろう。

Aさん―じゃ、作るなってことですか。

H教授―ノン、ノン。だからこそいくつもの選択肢を考え、常なる見直しを図りつつ、挑戦しなきゃいけない命題なんだ。シジュフォスの神話じゃないけど、挑戦しつづけることに意義がある。

Aさん―ふうん、挑戦か。
【33】 石油埋蔵量と資源枯渇について
「成長の限界」の限界 ―石油は化石燃料か?[第20講(その3)]

H教授―そう、挑戦、挑戦。もうひとつの隣国がどうなるかも考えに入れながらね。

Aさん―は?

H教授―朝鮮!

Aさん―...(シラー)。
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(平成18年1月24日執筆 平成18年1月末日編集了)
※本講の見解は環境省およびEICの見解とまったく関係ありません。
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