環境庁(当時)の職員から大学教授へと華麗な転身を果たしたH教授が、環境にかかわる内外のタイムリーなできごとを、環境行政マンとして過ごしてきた経験に即して解説します。
トップページへ
第39講「PSE法騒動やぶにらみー付:プルサーマル&水俣病再説」
第38講「文明崩壊」を読む
第37講 「新春呆談」
第36講 「本時評の2年半を振り返る(その4)付:2005年環境十大ニュース」
第35講 「本時評の2年半を振り返る(その3)付:アスベスト最前線その他」
メルマガ申し込み 会員登録 ヘルプ サイトマップ
国内ニュース 海外ニュース イベント情報 環境Q&A 機関情報 環境リンク集 環境用語集 ライブラリ 森づくり宣言
No. 第38講「文明崩壊」を読む
page 3/4  12
3
4
Issued: 2006.03.02
H教授の環境行政時評(第38講 その3)
アセスの限界?

Aさん―他になにかありますか。

H教授―いろいろあるけど、あまり新聞に取り上げてない話をしよう。これは「エネルギーと環境」という週刊専門誌【8】に出ていたんだけど、今、山口県の大型火力発電所のアセスが問題になっているらしい。

Aさん―中国電力ですか?

H教授―いや、今は電力自由化で、純粋の民間会社だ。100万キロワットという大型の石炭火力だ。昨6月に準備書が経産省に出されていて、県は昨年末に意見書を提出、経産省は1月末に環境大臣に意見照会、3月中に経産省は準備書に対して勧告というスケジュールなんだ。

Aさん―なにが問題なんですか。環境対策をろくにやっていないんですか。

H教授―いやあ、もちろん最新の環境対策を講じているよ。でもねえ、どんな高いエネルギー効率の設備を導入し、最新の環境対策をやろうが、年間の二酸化炭素排出量は580万トンにもなりそうなんだ。アセス審査の当事者である経産省原子力安全・保安院の助言機関である環境審査顧問会でも強い異論が出て、見解をまとめきれないまま、環境大臣に意見照会したらしい。

Aさん―強い異論って?
【8】 
週刊「エネルギーと環境」(エネルギージャーナル社)

H教授―つまり今までならゴーサインを出せたんだろうが、今じゃ「京都議定書達成目標計画」を閣議決定していて、電力業界からの削減目標量を定めている。それに真っ向から挑戦するような二酸化炭素排出量の増加をこのまますんなり認めてもいいのかという議論が、経産省内部からもあったらしいんだ。
ちなみにこの点に関し、従来はアセス手続きに係わってこなかった経産省の資源エネルギー庁の見解を今回は求めているらしいんだが、どういう見解が出されるか、みものだね。

Aさん―アセス審査で「建設不可!」という結果は出せないんですか。

H教授―そりゃあ、ムリだろう。もともとアセスは「建設するんだったら、これだけのことをしてください」という注文を、技術的に可能な範囲でつけるものなんだ。

Aさん―つまり何が問題だと?

H教授―政府・経産省は電力自由化を進めてきた。その一方で「京都議定書達成目標計画」を閣議決定したんだけど、もともと目標計画と電力自由化は矛盾するものなんだ。それがアセス手続きの中で明らかになった。
もちろん、事業者には代替として、CDMなり排出権購入なりで、別途、見合いの二酸化炭素排出量削減をさせるという手法はある。

Aさん―あ、それいいじゃないですか。一種の代償ミティゲーションですね。

H教授―ただ、その分がコスト高になって、随分高い電力になってしまう。それはもともと電力自由化の前提そのものをひっくり返してしまうことになるんだ。
この先、どういう結論になるかじっくり見ておくことだ。【註】
 ページトップ

環境行政最新動向

Aさん―なあるほどねえ。他に最近の動きはありますか?

H教授―新聞ベースではいろいろあるけど、毎回毎回、温暖化、リサイクルアスベストじゃあねえ。

Aさん―いいじゃないですか、時代がそうだったら仕方ないじゃない。簡単に紹介とコメントだけしてください

H教授―温暖化対策じゃ日本の環境省と英国の環境・食料・地方開発省が共同で、2050年温室効果ガス半減に向けての共同研究プロジェクトを発足させた。

Aさん―いいことじゃないですか。英国は温暖化対策優等生なんでしょう。

H教授―うーん、でもやはり半減化路線は相当キツイみたいで、最近は水素化社会みたいな超技術開発に夢を託したり、原子力復活にも色目を使い出したりしているという話も聞いたことがある。技術革新一辺倒じゃなく、総エネルギー抑制社会に向けての構造改革みたいな研究もきちんとやってくれるといいんだが。

Aさん―温暖化ではそんなところですか。

H教授―いよいよ政府が本格的に二酸化炭素排出権購入に動き出したという記事があった。国内法の整備も進んでいるらしい。
CDMは大賛成だけど、ホットエア購入は賛成しがたいなあ。それぐらいなら第二約束期間に向けてのペナルティ付き借金持ち越しのほうがいいと思う。

Aさん―第二約束期間の話がつかなけりゃあ意味ないというか、借金踏み倒しになるんじゃないですか。カナダや旧ソ連圏の動きを見ているとすんなり第二約束期間の枠組みが決まるとは思えないですけど。

H教授―もちろん、たとえ第二約束期間の枠組みが決まらなくても、借金踏み倒しはしないと高らかに宣言することが前提だよ。

Aさん―リサイクルでは?

H教授―これも新聞情報だが、環境省や経産省では地方自治体だけに認めていた廃棄物の輸出入を、リサイクル業者などの民間にも認める方向で検討を開始したそうだ。もちろんバーゼル条約の枠内でだけどね。
「東アジア循環共同体構想」の提示の一環なんだろうな。いいことだとは思うけど、一方じゃ、資源であれ、廃棄物であれ、地産地消の視点を失っちゃいけないと思うな。

Aさん―電気用品安全法がこの4月から広範な品目で本格実施され、中古家電の販売がむつかしくなるって聞きましたけど。
【註】 この会話の2日後の新聞に、事業者が事業を中断し準備書を取り下げると発表した旨の記事が出た。記事によると、どうやら断念する模様とあり、理由として石炭の価格高騰や地球環境問題への配慮を掲げている由である。「世界に冠たるMITIの行政指導」は健在か?(H教授)
H教授―PSEマークの話だね。実際はそうでもないようだ。詳しくは安井先生のホームページを読んでもらおう【9】。ただねえ、今の日本は安全性ということに非常に気を遣っているというか、気を遣いすぎている。そのくせ、一方じゃ、循環だとかリユースも強調される。
でも、安全性とリユースは時にコンフリクトしかねない概念なんだ。PSEマークの場合も、安全性を強調しつつも、リユースの観点からさまざまな抜け道を許容していることがその表れだね。
もともとPL法ができたときから、家電のリユースにはブレーキがかかっていたんだ。
ボクのいる市のクリーンセンターでも粗大ゴミを再生して市民に引き取ってもらっているけど、電化製品は一切それをしていない。自転車でも市民がクリーンセンターで自分で修理して安全性を確認してから引き取るという形をとっている。そうしないと万一の事故の際の責任をPL法でとらされちゃうからだ。
【9】 電気用品安全法と中古家電の販売
電気用品安全法に関する安井先生のホームページ:
「電気用品安全法へのご意見について(02.26.2006)」
「電気用品安全法は悪法か(02.24.2006 02.25追加)」
電気用品安全法のページ[経済産業省]
電気用品安全法[総務省法令データ提供システム]

Aさん―要は何が言いたいんですか。

H教授―なにがしかのリスク、自己責任を背負う覚悟がない限り、ほんとの意味での循環型社会の実現は難しいということだ。そして、万一の事故の場合は、社会が、法律的な意味ではないけれど、出来る限り被害者をカバーするという姿勢が必要なんだと思うよ。
Aさん―あとはアスベストですね。石綿新法が成立しました【10】。でも窓口ではいろいろ混乱がありそうだってありました。

H教授―うん、アスベスト関係労働者で時効で労災認定を受けられなかった人や近隣住民被害者の申請が3月20日から可能になるんだけど、窓口対応が間に合わないって話だよね。そもそも窓口も異なっているからね。前者は労働基準監督署で、後者は地方環境事務所【11】。または独立行政法人環境保全再生機構だ。そしてそのための人員確保もしてないらしい。
どうして住民に一番身近な保健所を第一窓口にしなかったのかなあ。ここでも小さな政府という、公務員減らしの政策との矛盾が出てきているね。

Aさん―さあ、あとは第三次環境基本計画案ですね【12】

H教授―うん、重点分野10項目の取り組み方針を提示するとともに、新たに72項目の定量的目標を盛り込んだらしいね。

Aさん―「らしいね」って、センセイ読んでないんですか。

H教授―200ページを越える大部なものらしいんだけど、ほら卒論や修論のチェックで忙しかったから。そうそう、キミいつ修論に取り掛かるんだ?

Aさん―誤魔化さないでください! 卒論や修論のチェックに忙しかったからって、その割にはマンガや小説はしっかり読んでいるじゃあないですか。
【10】 石綿新法
石綿による健康被害の救済に関する法律の施行について[環境省]
石綿による健康被害の救済に関する法律の概要[環境省]
アスベスト問題に関する関係閣僚による会合[首相官邸]
【11】 
地方環境事務所
【12】 第三次環境基本計画案
中央環境審議会総合政策部会がとりまとめた第三次環境基本計画(案)に対する意見の募集について(平成18年2月3日環境省報道発表)

H教授―(弱々しく)マンガや小説からだって環境問題を学ぶことはできるよ。

Aさん―言い訳になってません!

H教授―わかった、わかった。じゃ、その代わりに書評を一つしておこう。
 ページトップ
page 3/4  12
3
4
前のページへ 次のページへ

Copyright (C) 2004 EIC NET. All rights reserved.