環境庁(当時)の職員から大学教授へと華麗な転身を果たしたH教授が、環境にかかわる内外のタイムリーなできごとを、環境行政マンとして過ごしてきた経験に即して解説します。
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第38講「文明崩壊」を読む
第37講 「新春呆談」
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No. 第38講「文明崩壊」を読む
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Issued: 2006.03.02
H教授の環境行政時評(第38講 その4)
「文明崩壊」を読む

Aさん―えっ? なんの書評ですか。

H教授―ジャレド・ダイアモンドの「文明崩壊 ―滅亡と存続の命運を分けるもの」(草思社)で上下合わせて800ページを越える大著だ。

Aさん―要はいろんな文明がなぜ滅んだか、環境面から考察するっていう話ですね。でもその手の本はいろいろ出てるじゃないですか。

H教授―そりゃあそうなんだけど、今まではチグリスユーフラテスだとかローマ帝国だとかの大文明の崩壊を取り上げたものが多かったし、崩壊は必然だったという論調が多かった。しかも、その結論を欧米文明のせいにし、いまこそ「縄文の心を!」などというタイプのものが多かった。

Aさん―センセイだって、よく言ってたじゃないですか。

H教授―まあ、そりゃあそうなんだけど、この本が一味違うのは、大文明だけでなく崩壊した小社会、例えばイースター島とかビトケアン島とかヴァイキングのグリーンランドなども取り上げていること、そしてもうひとつは、同じような環境条件下にありながら、崩壊しなかったいろんなタイプの社会を取り上げ、なぜ崩壊しなかったかを論じていることだ。

Aさん―へえ、崩壊しなかった社会って?

H教授―イヌイットのグリーンランドとかニューギニア高地だとか江戸時代の日本だとか、崩壊寸前で建て直しに成功したアイスランドとかさまざまだ。
ま、江戸時代の日本についてはちょっとくすぐったいし、疑問を呈したいところもあるけどね。

Aさん―崩壊した文明とそうじゃなかったところとどう違うんですか。

H教授―英明な指導者がいてトップダウンで持続したケース、あるいは住民全体で危機意識を共有し、ボトムアップで対処することで持続できたケースなど個別に論じている。

Aさん―現代も論じているんですか。

H教授―もちろんだよ。単なるフツ族とツチ族の憎悪に満ちた民族抗争と片付けられがちなルアンダも論じていれば、カリブ海の大きな島、イスパニョーラ島を二分するハイチとドミニカを取り上げ、同じような環境条件下にありながら前者は崩壊に瀕し、後者は希望が持てるのはなぜかと論じているし、中国、オーストラリアの迫り来る危機を描写するとともに、希望の萌芽をも探り当てている。そしてわれわれが何をなすべきかも提言している。

Aさん―何をなすべきかって「縄文の心に戻れ」じゃないんでしょうね。

H教授―もちろんだよ、例えばネイティブアメリカンなど先住民社会を「聖なる人々」とあがめる人たちもいるけど、それを「“エデンの園”風環境保護主義」として斥ける。
彼らのライフスタイルが持続的であったのは、先人たちのさまざまな失敗や崩壊を学んでそうしたのだと実証的に論じている。そうした先住民社会の人肉食などはでっち上げだという論に対しても否定し、人肉食習慣が価値論的に劣っているということこそ差別だという。

Aさん―へえ、面白そう。
H教授―うん、一読の価値はある。これ自体、ロンボルグの超楽観主義【13】に対する厳しい批判だと思うな。

Aさん―そのJ. ダイアモンドさんは、他にどんな本を書いているんですか。
【13】 ロンボルグの超楽観主義
第12講(その2)「ロンボルグの波紋」

H教授―「セックスはなぜ楽しいか」。

Aさん―やだ! エロ本じゃないですか、センセイ、そんなの読んだんですか。

H教授―いや、まだ読んでないけど、エロ本じゃないと思うな。
読んだのでは「銃・病原菌・鉄」。いやあ、これは名著だよ。
現代社会はアングロサクソン、つまり白人が世界を制しているけど、それは決して人種として彼らが優秀だったからでなく、いくつかの環境条件の違いがそうさせたにすぎないと論じたものだ。
著者は、もともとはニューギニアでフィールドワークしていて現地の人の頭のよさに感心したそうなんだ。その現地の人から、「いろんな資源を活用してさまざまな現代的な製品を作り、世界を制したのは白人で、われわれではなかったのはどうしてか」と聞かれたそうだ。
それを何十年か考え続けてその答えとして書いたそうだ。

Aさん―環境条件の差って?

H教授―例えば、栽培に適した植物があったか、家畜化しうる動物がいたかどうかだ。馬は家畜に適しているが、シマウマはどうやら無理なようだ。

Aさん―それだけ? 随分大胆な推理ですね。

H教授―もちろんそれだけじゃないけど、そうしたちょっとした条件の違いが、加速度的に差を広げていったと論じている。ボクはすごい推論だと思い感服したけど、同僚のT先生は、ハッタリが過ぎると否定的だった。そこがアカデミシャンとボクの差かな。

Aさん―じゃ、これで今回は勘弁しますけど、第三次環境基本計画案、きちんと読んでおいてくださいよ。

H教授―ちょっと待て、あれはちゃんと公表されているんだ。だったらキミが読むべきじゃないのか。

Aさん―アタシャ、読まなきゃいけないものがいっぱいありますから。

H教授―F4のグラビア本だろう【14】。まったく院生だというのに。
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【14】 F4
若者や主婦に大人気の台湾の4人組アイドルグループのこと。日本でも人気を博し、近頃、Aさんがお熱をあげているらしい。
(平成18年2月26日執筆、同月末編集了)
★本講の見解は環境省およびEICの公的見解とは一切関係ありません。
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