環境庁(当時)の職員から大学教授へと華麗な転身を果たしたH教授が、環境にかかわる内外のタイムリーなできごとを、環境行政マンとして過ごしてきた経験に即して解説します。
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第40講「50年、過去と未来 付:第三次環境基本計画」
第39講「PSE法騒動やぶにらみー付:プルサーマル&水俣病再説」
第38講「文明崩壊」を読む
第37講 「新春呆談」
第36講 「本時評の2年半を振り返る(その4)付:2005年環境十大ニュース」
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No. 第39講「PSE法騒動やぶにらみー付:プルサーマル&水俣病再説」
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Issued: 2006.04.06
H教授の環境行政時評(第39講 その4)
水俣病再説
H教授―はは、そりゃまあキミの言う通りだけど、現実には最高裁判決、つまり確定判決だって無視している例だってあるくらいだからなあ。

Aさん―えー、そんなバカな。あっそうか、水俣病ですね。

H教授―うん、一昨年10月に最高裁判決が出され、環境省の水俣病認定基準は厳しすぎるとの判断が下された。
22講(その3)でこの判決を取り上げ、「今回の判決で認定基準を再検討せざるを得ないんじゃないか」「それに95年の「最終解決」も蒸し返されるかもしれない」と言ったけど【11】、環境省は頑強に見直しを拒んだままだ。
一方じゃ、昨年には新たな提訴も起った。最高裁判例が出されている以上、時間はかかるが、同様の判決が下されるだろう。

Aさん―その後の行政の動きはどうなっているんですか。

H教授―もともと公害健康被害補償法というのがあって、'75年から地元県が法定受託事務(当時は委任事務)として国から請け負い、専門家による「認定審査会」を作り、ここで環境省の認定基準に照らして、認定か棄却かを決めていた。
ところが申請者数が多く、また認定作業は結構面倒な作業らしくて、これだけでは対応できないので、議員立法で「認定業務促進臨時措置法」というのが制定し【12】、これに基づいて県の認定審査会とは別に、国でも審査会を作って対応したんだ。
'95年には政治決着としての「最終解決」が出されたし、認定申請者も大幅に減ってきたんで、臨時措置法は延長されず、'96年には申請受付を打ち切り、国の審査会も終わっちゃったんだ。それから以降は当初通り、県の認定審査会で認定業務を行ってきた。
これまでに3,000人が認定されたし、「最終解決」でさらに約1万人が一応は救済された。
ところが一昨年の最高裁判決で状況がガラリと変わった。ひょっとすればというので申請者がいっぱい出てきたけど、県の認定審査会は国の認定基準と最高裁判決とが整合性がとれてない状況では認定業務はできないとストップしてしまった。
そんな中で申請者が4,000人近くになったけど、宙に浮いたままの状態になっているらしいんだ。

Aさん―なんか打開策はないんですか。

H教授―今月に入って、自民党の水俣問題小委員会では業を煮やして臨時措置法をもう一度復活させて、国の方で審査会を再開させようという動きがあるらしい【13】

Aさん―再開したって、そんな状況の中で審査会の委員に就任してくれる専門家がいるのかしら。
【11】 水俣病関西訴訟最高裁判決と、水俣病の経緯
第22講(その3)「時評4 ─水俣病関西訴訟最高裁判決」
  参考資料
水俣病について[熊本県]
EICネット環境年表「水俣病」
【12】 認定業務促進臨時措置法
正式には「水俣病の認定業務の促進に関する臨時措置法」という。昭和53年制定。
総務省法令データ提供システム

H教授―うん、それが最大のネックだね。
そしてまた別の動きも出てきた。
実は今年は水俣病の公式確認から50年になる節目の年なんだ。
だから、5月1日に式典を行い、ここで過去の検証と再発防止のための有識者の提言を踏まえ、大臣が「誓い」を宣言しようというので、その提言をしてもらうべく有識者を集めて大臣の私的機関としての「水俣病懇談会」というのを昨年立ち上げたんだ【14】
ところが先日行われた第10回会合では、環境省の思惑とはうらはらに、現行の救済制度や認定基準の見直しを議論すべきだという意見が続出したらしいんだ。
新聞では、「5月1日の式典までに提言はまとまらない見通し」だと書いていた。
【13】 自民党水俣問題小委員会
水俣病認定審査促進のため議員立法の手続き進める[自民党]
【14】 水俣病懇談会
「水俣病問題に係る懇談会」の概要情報
水俣病問題に係る懇談会(第10回) 議事次第・配布資料

Aさん―なぜ環境省は見直さないんですか。

H教授―歴史の重みだろうな。今まであまりにも多くの経緯があり、積み重ねがある。それを簡単にガラガラポンするわけにはいかない。
それに最高裁判決を踏まえた救済制度にして、政治決着としての「最終解決」も見直すとすれば天文学的な予算が必要になり、とてもじゃないけど財務省もコイズミさんも、「うん」とは言わないだろう。

Aさん―センセイはどう思われるんですか。

H教授―最高裁判決で否定された現行の認定基準を維持することの妥当性・正当性を法的に明確に説明することはできないんじゃないかな。
だったら、どんなに苦しくても三権分立国家なんだから、最高裁判決に従って見直すしかないと思うけどな。

Aさん―でも水俣病の認定基準って、お医者さんたちの専門家が作ったものなんでしょう。お医者さんじゃない最高裁判事が誤りって決めるのもなんか変に思うんだけど。

H教授―認定基準を決める行政的な前提ってのがあって、結局のところお医者さんたちの専門家もその前提の中で決めざるを得なかったんだろう。
ボクはまったくのド素人だから、水俣病=有機水銀中毒なのかどうかもよくわからないんだけど、一口に水俣病とか有機水銀中毒と言っても悲惨な劇症性のものもあれば、比較的症状が軽いものまでいろいろあるに違いない。そうしたことを踏まえた基準にすべきだったんじゃないかな。
また、もし仮に有機水銀中毒の一定レベル以上のものだけを水俣病というんだとしても、そのレベル以下の有機水銀中毒の人たちだって公害の被害者には違いないんだから、単に棄却するんじゃなくて、その程度に応じた補償がなされて当然だったと思うけどな。

Aさん―ふうん。
ところで、第37・38講と先延ばしにしてきた「第三次環境基本計画案」ですが、いかがでしたか【15】

H教授―もうページ数がない。その話はまた今度にしよう。

Aさん―あ、逃げた。まだ読んでないんだ。

H教授―うるさい。それよりまもなく新年度だ。今度こそ修士論文をきちんとやれよ。

Aさん―放っておいてください! そんなこと言うんだったら、センセイもきちんとしたレフェリー付きの論文【16】を一本くらいは書いてくださいよ。大学に来て満十年過ぎたんでしょう!

H教授Aさん―(同時に)ふん!

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【15】 第三次環境基本計画案
第37講(その4)「超長期ビジョン検討開始」
第38講(その3)「環境行政最新動向」
【16】 レフェリー付きの論文
査読をクリアした論文の意で、学術論文、研究論文と評価される最低条件。
(平成18年3月26日執筆、同月末編集了)
※本講の見解は環境省およびEICの見解とまったく関係ありません。
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