環境庁(当時)の職員から大学教授へと華麗な転身を果たしたH教授が、環境にかかわる内外のタイムリーなできごとを、環境行政マンとして過ごしてきた経験に即して解説します。
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第43講 「拡大ミティゲーション論」
第42講「キョージュ、今国会での成立法案を論じる」
第41講 「エコツーリズム推進法案と国立公園」
第40講「50年、過去と未来 付:第三次環境基本計画」
第39講「PSE法騒動やぶにらみー付:プルサーマル&水俣病再説」
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No. 第42講「キョージュ、今国会での成立法案を論じる」
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Issued: 2006.07.06
H教授の環境行政時評(第42講 その3)
温暖化対策法改正と京都メカニズム

Aさん―は〜い。こちらは京都メカニズムのスムーズな活用を推進させるための規定を整備する改正ですね。CDM(クリーン開発メカニズム)JI(共同実施)排出量取引で民間が取得した「排出削減したとみなされる量」を、国際的にはクレジットと呼んでいます。
そのクレジットをこの法律では「算定割当量」とし、国はこの算定割当量口座簿をつくって、これにより算定割当量の取得、保有、移転を行うための口座を開設します。
算定割当量口座簿では国の口座と民間も法人ごとの口座があります。法人が口座を開設しようとする場合には…。えーい、なんだかよくわからなくなっちゃった。

H教授―はは、ボクもよくわからないよ。国会議員もこの仕組みがきちっと理解できたかどうか。要は、このクレジットをきっちりと管理できる仕組みを作ろうということだろう。
もともと京都メカニズムへの参加資格として、「国別登録簿」という国として排出枠の移転や獲得などを管理するための記録簿の整備が義務付けられている。そのための国内法整備として、温暖化対策法を改正したんだ。
改正法でいう「算定割当量口座簿」が、「国別登録簿」に相当するんだろう。
それよりも京都メカニズムそのものをきちんと理解しておくことのほうが大切だ。CDMっていうのは?

Aさん―途上国に対して資金・技術援助を行い、GHG(温室効果ガス)が削減できた場合はその削減量がクレジットとして援助国に与えられるということで、そのための認証をCDM理事会という国際機関が行うんです…よね。

H教授―うん、実際には理事会が指定するDOE(指定運営機関)に任せられているんだけどね。旧式の火力発電所を最新鋭の発電所に建て替えるときなんかは現実に排出量が削減されるんだからわかりやすい。
じゃあ、未電化地域に先進国が援助して新たに最新鋭の火力発電所を建てる場合はどうなる? この場合はGHGは増加するよね。とするとCDMとしては認められないの?

Aさん―そりゃそうでしょう。増加するんだもの。

H教授―いや、ところがこの場合も、どうやらCDMになり得るらしいんだ。
途上国がある開発プロジェクトを先進国の援助でやる場合と、自前の資金及び技術でやる場合のGHG(温室効果ガス)排出量見通しの差、すなわち仮想の削減量見通しがクレジットとして認められるらしい。
さっきの例で言えば、未電化地域のあるような国は資金も技術も乏しいに決まっているから、自前でやれば旧式の熱効率の悪い発電所しかつくれない。そうなると大量のGHGを出すことになるわけで、先進国の資金援助・技術支援によって、排出量がぐんと削減するという理屈のようだ。
つまり現に排出量が削減される場合だけでなく、現実には増加する場合もあるということだ。

Aさん―ホントですか。

H教授―環境省の法案趣旨説明の資料を読む限りはそうとしか読めない。
それがクレジットとして認められないなら、そんな援助はや〜めたってなることを考えると、あながちおかしいとも言えないだろう。
では、JIは?

Aさん―先進国同士が協力して行うプロジェクトの場合のことです。

H教授―例えば?

Aさん―え? …どんな場合が想定されるんだろう?

H教授―先進国といったってさまざまだ。先進国ではあっても技術の低い国に、より技術が高い国が技術のノウハウや資金を提供することによって、排出量の削減につながることだってある。

Aさん―じゃあ、JIでも現実に削減する場合だけでなく、増加する場合もありうるということですか? さっきの未電化地域の発電所のようなケースで。

H教授―う〜ん、どうなんだろう。だけど先進国である以上、割当量が決まっているからなあ。

Aさん―日本はマイナス6%だけど、プラスの国だってあるわけでしょう。マイナスの場合だって必要なケースもあるでしょうし。

H教授―そりゃまあ、そうなんだけど…。うーん、多分そうなんだろう(自信なさげ)。
(思い直して)ま、ことほどさように法や条約というのは難解なんだ。
今国会の法改正にしても環境省関連法案がアスベスト関連以外は新聞でほとんど報道されないというのは、マスコミが無関心なんではなくて、やっぱり中身がわかりにくすぎるんだろうと思うよ。
法の条文がわかりにくいのは仕方がないとして、概要説明、趣旨説明を読んでもよくわからない。キミやゼミ生が読んでふんふんと納得するような、わかりやすいものにしなきゃいけないんだ。

Aさん―なんだか責任転嫁しているような気もするなあ。
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排出量取引制度の陥穽

H教授―うるさい。あと、排出量取引の説明をしてもらおうか。

Aさん―え〜と、排出量取引は排出権取引ともいいます。
もともと米国の二酸化硫黄削減に用いられた手法で、あらかじめ発生源ごとに排出枠というか排出限度量を決めておいて、それよりも多く削減した企業はその分を未達成の企業に売ることができ、買った企業はそれを自分の削減量としてカウントできるという制度です。
アメリカご自慢の制度だけど、センセイは必ずしも評価されてないようですね。

H教授―だって単位GDPあたりの二酸化硫黄排出量を日米で比較すれば一桁もアメリカの方が高いんだぜ。だからこそアメリカ・カナダ間での酸性雨問題が生じるんだ。
せめて単位GDP当たりの二酸化硫黄排出量を日本の2倍くらいにまで削減する規制や対策をしてから、補完的に導入すべき制度だと思うな(怒)。

Aさん―まあまあ(となだめて)。
その排出量取引制度をGHGに応用し、国家間で認めたものを国際排出量取引と言います。
買い手国と売り手国が、取引の種類、取引量、価格、時期などについて合意したら、条約事務局が管理する国際取引ログというコンピューターシステムに通知し、検証を受けた後、両国の国別登録簿が書き換えられることによって排出量の取得、移転が完了します。

H教授―ちゃんとイメージできるかい?

Aさん―(ぺろっと舌を出して)えへへ、実はもうひとつピンとこないんです。
ロシアなどは、排出量というかその排出権を高く売り付けようとしているって聞きますけど。

H教授―うん、ロシアの場合、別に排出削減に努力した結果じゃなくて、経済の不調が結果として排出枠のあまりを生み出したんだ。これをホットエアと呼んでいる。
実際にはCDMや排出量取引のクレジットは企業間でも取引され、自国企業の取得したクレジットを国に移転する。それをスムースに動かすための仕組みを決めたのが、さっきの温暖化対策法改正なんだ。

Aさん―確か、英国でも導入していませんでしたっけ?

H教授─英国では、すでに国内の工場間で排出量取引制度を運用していたが、EU全体として域内工場間の排出量取引の枠組や市場の設定等を規定するEUの指令が昨年(2005年)1月にスタートしたんだ。

Aさん―ところで、日本では何で国内の排出量取引制度を取り入れないんですか? 環境税もそうですけど。

H教授―別に国内企業間で排出量を売り買いしたって構わないよ。それは勝手だ。現に環境省の呼びかけで、自発的な参加による企業間の排出量取引が試行されている。
ただ、排出量取引という制度はキャップ、すなわち排出限度量というか排出枠というか、主要工場ごとにどこまでなら排出しても構わないと割り当てて、その違反に対してはペナルティを与えるようにしないと動きっこない。つまり規制とセットなんだ。
そのキャップをどう決めるかがネックになっていて、当面は動きそうにない。
そのためには主要工場ごとの排出量をきちんと把握しなきゃいけないしね。
もともと京都メカニズムの参加資格にはGHGの排出量と吸収量が国内で算定されるシステムが確立しなくちゃいけないことになっていて、こちらの方も動き出したばかりだからな。

Aさん―キャップなんて、現在の排出量をきっちりと把握し、それからマイナス6%分を差し引けばいいんじゃないですか。

H教授―そうすると、今まで一所懸命省エネに取り組み、GHGの排出抑制に努めてきた企業が損をするとういうか、不利になるじゃないか。

Aさん―だったらそれを加味した計算式を作ればいいじゃないですか。

H教授―そりゃそうなんだけど、その計算式の係数をどう決めるかによって不利になったり有利になったりする業種や個別工場が出てくる。全員が納得するものなんてできっこない。こういうときこそ強いリーダーが必要だと思うね。
それに産業界の言い分は、CO2などのGHG排出抑制を産業、運輸、民生と分けて考えると、産業界が一番努力している一方で、運輸と民生部門が増やしているじゃないかということだ。
国民のライフスタイル、つまりわれわれのせいだと言うわけだ。

Aさん―だって、運輸にしたって民生にしたって、その増加の元になる電化製品やクルマを作って、売って、儲けてるのは産業界じゃないですか(怒)。

H教授―ボクに怒ったって仕方がない。
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