環境庁(当時)の職員から大学教授へと華麗な転身を果たしたH教授が、環境にかかわる内外のタイムリーなできごとを、環境行政マンとして過ごしてきた経験に即して解説します。
トップページへ
第44講 「夏の夜の四方山話―附:富栄養化断章」
第43講 「拡大ミティゲーション論」
第42講「キョージュ、今国会での成立法案を論じる」
第41講 「エコツーリズム推進法案と国立公園」
第40講「50年、過去と未来 付:第三次環境基本計画」
メルマガ申し込み 会員登録 ヘルプ サイトマップ
国内ニュース 海外ニュース イベント情報 環境Q&A 機関情報 環境リンク集 環境用語集 ライブラリ 森づくり宣言
No. 第43講 「拡大ミティゲーション論」
page 1/4 
1
234
Issued: 2006.08.03
H教授の環境行政時評(第43講 その1)
水没、日本列島

Aさん―センセ、「日本沈没」【1】と言いたくなるようなものすごい集中豪雨だったですねえ。九州や長野など各地で随分被害が出てますし、韓国や中国でも洪水ラッシュだそうです。ようやく晴れ間が出てきたけど、まもなく8月だというのに、まだ完全には梅雨は明けてないみたいですよ。

H教授―うん、被災地の皆様には心からお見舞い申し上げよう。

Aさん―3日間で1,200ミリを越す降雨の地域もあったけど、常識はずれですよね。一方、西ヨーロッパじゃ前代未聞なくらいの猛暑だそうですし、こう異常気象が続くと気候変動がホントに起きてるのかなあと思っちゃいますね。

H教授―その可能性はあるね。あと50年ぐらいしたら、20世紀末から誰の眼にも気候変動が起きていることが明らかだったのに、あの頃の人間の目は節穴だったのかと言われかねない。
事実、極地なんかでの氷河、氷床の後退は誰の眼にも明らかなそうだ。
 ページトップ

【1】 日本沈没
 1973年に刊行された小松左京著の長編SF小説「日本沈没」。超ベストセラーになるとともに、映画化、テレビ化、ラジオ化、劇画化などされ、一大センセーションを巻き起こした。2006年に、再び映画化されている。
映画「日本沈没」
温暖化から一挙に寒冷化?
Aさん―そういえば、先日の新聞(朝日7/24夕刊)に「メキシコ湾流水温が上昇、気候変動の恐れも」って出てました。

H教授―海洋大循環【2】って知ってるか? 熱帯で温められた暖流「メキシコ湾流」は、大西洋の表層を北上する。だからヨーロッパは緯度が高い割に温暖なんだ。それがノルウェー沖で冷気と接して冷え、それとともに塩分濃度も高くなる。比重が大きくなるので、沈み込みはじめ、冷たく重い低層の流れとなって逆流し、大西洋から太平洋を流れる。北太平洋で再び上昇して暖流となってUターンして、熱帯地方でさらに暖められて再びメキシコ湾流になるということらしい。
ところが、温暖化の影響でそのノルウェー沖での冷え方が鈍化し、また氷河や氷床の融解は塩分濃度を下げる方向に作用するという。だから沈み込み量が減ってきていて、将来は大循環がストップするかも知れないという話だ。
この熱塩循環ともいわれるベルトコンベアーみたいな海洋大循環が止まってしまうと、ヨーロッパをはじめ、各地で一挙に寒冷化する可能性も指摘されているんだ。現に、一万年ほど前に大循環の停止が起きていて、ヤンガードライアス期という寒冷期が千年ほども続いたという話がある。「The Day After Tomorrow」なんて映画の元ネタになっている【3】


海洋大循環
海洋大循環

海流は2000年周期で循環し、大きな熱容量で気候を維持している。
地球温暖化によって、メキシコ湾流(暖流)の速度・方向が変化し、ヨーロッパが寒冷化する可能性が指摘される。

Aさん―ああ、観ました。確か数日間で一気に寒冷化が起きちゃうんですね。おそろしい。

H教授―はは、あれはSF映画だから極端な話になっていて、そういう寒冷化が起きる場合でも数日間とかじゃなくて、数十年単位の話だろうし、しかもそれが起きるのが事実だとしても100年単位の先の話らしいけどね。
 ページトップ

【2】 海洋大循環
海洋大循環(東京大学理学部地球惑星物理学科)
極端な温暖化による破局的事象例:海洋大循環の崩壊(第3回地球温暖化対策技術検討会資料)
【3】 The Day After Tomorrow
 2004年に公開されたアメリカの映画。気候変動に関する研究成果を基に、地球温暖化によって引き起こされる可能性のある地球崩壊への道のりを描いたパニック超大作。異常気象がもたらす様々な大規模自然災害を壮大なスケールで映像化し、話題を呼んだ。
The Day After Tomorrow
デイ・アフター・トゥモロー
打ち水広告

H教授―ところで、23日の毎日新聞の19面を見たか。

Aさん―いえ、読んでませんが。何か出てましたっけ?

H教授―5段抜きくらいの大きな公共広告だ。「本日、7月23日(日)正午、日本全国いっせい打ち水」だって【4】
全国方々で大雨被害が続いているさなかに、なんという愚かな広告かと思っちゃったね。主催は「打ち水大作戦本部」とあったけど、後援に国土交通省と並んで環境省も名を連ねていた。知人から聞いてマサカと思ったんだけど、事実だった。
主旨はわかるけど、タイミングを見極めて実施しないと、せっかくの試みが台無しだ。
 ページトップ

【4】 打ち水大作戦
打ち水大作戦本部
北朝鮮ミサイル問題
Aさん―ところで、北朝鮮のミサイル問題がまた大騒動になってます。
とうとう国連安保理が非難決議を全会一致で可決しました【5】。ホント、とんでもない国ですよねえ。

H教授―その意見はボクも賛成だけど、日本の取った態度も評価できないねえ。

Aさん―え? どうしてですか。

H教授―制裁一本槍の強硬路線を突っ走った。同じ強硬派のアメリカでさえ、もてあまし気味だった。そしてアメリカの説得で渋々制裁決議から非難決議への移行に賛同したらしい。

Aさん―それがどうかしたんですか。

H教授―だったら、もっとはじめから他国との協調姿勢を取っておくべきだったと思うよ。大体あのミサイルは日本近海に落ちたんじゃないんだぜ、ロシアのウラジオストック沖だ。そのロシアは不快には思っただろうが、声高に抗議したりはしなかった。韓国だってそうだ。
だのに、なんで日本だけが─と思われるのがオチじゃないか。
そもそも、日本国内にだって米軍がミサイルを装備しているじゃないか、とアジア諸国は見ていると思うよ。
【5】 北朝鮮のミサイル問題と、国連安保理の非難決議
【SUNADAYウォッチ】「北朝鮮ミサイル問題」一色[インターネット新聞JanJan]
【SUNADAYウォッチ】国連安保理が「北朝鮮非難決議」[インターネット新聞JanJan]
軍事用語の基礎知識(4)テポドン2[インターネット新聞JanJan]

Aさん―まあ、そうかもしれませんが…。それにしても北朝鮮って国はよくわかりませんねえ。

H教授―うん、あの国はあのままでは持たないとは思うけど、どういう形でいつ変わるかが、誰にも予測がつかない。暴発させぬよう、挑発に乗らないというのが、原則だと思うよ。
 ページトップ

「もったいない」選挙
H教授―あと、滋賀県知事選で大番狂わせがあった【6】

Aさん―ええ、自公民相乗り現職候補を無名のオバチャンが破ったんですよねえ。

H教授―無名じゃないよ。環境の世界では有名な研究者だ。ボクもよく知ってるよ。なんせボクの大学の後輩だからな。

Aさん―へえ、センセイの知り合いだったんですか。

H教授―いや、ボクが知ってるだけで、向こうは知らない。

Aさん―そんなことだと思った。
勝因は何だったんですか?

H教授―新幹線の栗東新駅の是非、あとダム建設という公共事業に的を絞ったシングル・イッシューの選挙戦にした点だろうな。前知事も環境問題にはそれなりに熱心だったみたいだから、差別化するにはシングル・イッシューしかなかった。それが大成功したんだ。
2005年9月の衆院選、いわゆるコイズミさんの“郵政民営化選挙”みたいなものだ。もっとも郵政民営化は賛否はともかくとして、その是非は喫緊の課題ではなかった。それに対して、栗東新駅は─もはや遅すぎた感もあるけど─、未来の世代にも影響の出てくる大問題だし、それに関しては県民の意向は世論調査で明らかだったから、シングル・イッシューに持ち込めさえすれば大番狂わせということではなかったんだと思う。

Aさん―キーワードは、「もったいない」ですか。
【6】 滋賀県知事選挙
平成18年滋賀県知事選挙 開票結果
栗東新駅[滋賀県 東海道新幹線新駅(仮称)南びわ湖駅]

H教授―うん、250億円だ。うち240億円を県と地元市が負担する。
栗東だったら在来線を使っても京都から20分足らず、米原まで30分。その在来線の駅とは遠く離れたまったくの新駅で、しかも止まるのは「ひかり」「こだま」だけ。誰が見ても大赤字は確実じゃないか。さらに地元市長っていうのは知事の実弟。「もったいない」だけじゃなく、うさんくさく思われても仕方ないよねえ。

Aさん―でも、負けた現職候補は経済効果は抜群で、10年で元が取れると言ってましたよ。…ちょっと信じがたいけど。

H教授―ホントにそう思うんなら、「万一赤字のときは私財を投げ打ちます」ぐらい言わなきゃあ。
で、恥をさらしたのが、民主党だったね。この体たらくじゃあ、政権なんて取れっこないよ。

Aさん―でももう工事に着工しちゃってるんでしょう。ホントにストップできるんですか。

H教授―難しいのは事実だ。でもやるっきゃないだろう。大体、知事選前に協定を結んだり着工したりというのがトンデモない話なんだから、法廷で争ってでもやるんだろう。でなきゃあ、県民から総スカンだもんなあ。

Aさん―県議会と真っ向対決。不信任されるんじゃあないですか、長野県のように。

H教授―はは、面白いじゃないか。とことんやってみるんだな。
 ページトップ
page 1/4 
1
234
次のページへ

Copyright (C) 2004 EIC NET. All rights reserved.