環境庁(当時)の職員から大学教授へと華麗な転身を果たしたH教授が、環境にかかわる内外のタイムリーなできごとを、環境行政マンとして過ごしてきた経験に即して解説します。
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第44講 「夏の夜の四方山話―附:富栄養化断章」
第43講 「拡大ミティゲーション論」
第42講「キョージュ、今国会での成立法案を論じる」
第41講 「エコツーリズム推進法案と国立公園」
第40講「50年、過去と未来 付:第三次環境基本計画」
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No. 第43講 「拡大ミティゲーション論」
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Issued: 2006.08.03
H教授の環境行政時評(第43講 その3)
アセスとミティゲーション

H教授―「拡大ミティゲーション」ってのはどうだい。

Aさん―なんですか、それ。

H教授―ま、追々わかるよ。まずはミティゲーションの説明をしてごらん。

Aさん―ええと、アセス用語ですね。確か、「環境影響緩和措置」じゃなかったですか。

H教授―うん、開発に伴う環境影響をできるだけなくすための手法だ。

Aさん―開発による環境影響をなくすために事業の「回避」をまず考え、回避できないなら環境影響の「低減」を考える。低減もできない、あるいは低減しても残る環境影響は「代償」するっていう3段階ロケットですね。

H教授―「回避→低減→代償」の3段階って言われてるけど、「回避→最小化→修整・修復→軽減→代償」の5段階に細分する考え方もある。アメリカやヨーロッパの一部で以前から言われてたんだけど、日本でもアセス法アセスでその考え方が導入されたとされている【9】

Aさん―何か具体例で説明してくれませんか。

H教授―湿原や藻場干潟のある海浜の埋め立てを計画したときのことを考えればいいよ。
例えば干潟を100ヘクタール埋め立てて、運動公園を造るという計画だった場合、最優先に考えなきゃいけない「回避」とは?

Aさん―他の場所を探すとか、既存の校庭の活用策を考えたりして、埋め立てせずにその目的を達成する方法を考えることですね。

H教授―じゃあ、「低減」と「代償」は?

Aさん―「回避」の方法がどうしても見つからない場合には、平屋建ての計画だった体育館を高層化したりして埋め立て面積をできるだけ減らすことを考えます。これが「低減」です。
少々低減したところでやはり80ヘクタール埋め立てしなくちゃならないとなれば、埋立地の前面や脇に、埋め立ててしまう干潟の面積より少し多目の100ヘクタール以上の人工干潟を作るといった手段が「代償」です。2割くらいは活着しないと見越せば、80ヘクタールの人工干潟が確保されます。

H教授―うん。現にアメリカのサンフランシスコ湾では、人工海岸の前面海域であっても、埋め立てる場合は埋立面積以上の面積を海に戻すことを義務付けている。つまり干潟や自然海浜だけでなく、湾の絶対面積を減らしちゃいけないということを決めているそうだ。
ところで、埋立地のすぐ脇でそういう代償措置をとることをオンサイトというんだ。だけど、そういうところがなくて、うんと遠いところにしか人工干潟なんかを作れないこともある。それをオフサイトという。

Aさん―そういうのもミティゲーションというんですか。

H教授―うん。それと、今までの話は埋め立てで失われるのと同質の環境を造成しようというものだった。干潟を埋めるんだったら人工干潟を造るとかね。
だけど失われる干潟と同等以上の価値のある環境、例えば広大な森林を造ればいいじゃないかという考え方もありうる。これをアウト・オブ・カインドという【10】
【9】 ミティゲーションの緩和段階
第2講(その3)「環境アセスメント私論」

Aさん―そんなのおかしいわ。その価値の程度を、誰がどう決めるんですか。

H教授―うん、干潟とかサンゴ礁とか湿原だとか里山だとか原生林だとか、そういった環境ごとの特性―これをハビタットというんだけど─、ハビタットごとの交換価値を決めなきゃいけないということになるね。
環境価値を決める方法は有識者を集めて決めたっていいし、環境価値を決める方法というのもいくつか提案されていることは提案されている。

Aさん―なんだか環境への冒涜だって感じがするなあ。
センセイはそれでいいと思ってるんですか。
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【10】 アウト・オブ・カインド(Out-of-kind Mitigation)
On Site/Off Site & In-kind/Out-of-kind Guidance[Naitonal Wetlands Mitigation Action Plan]
ミティゲーション・バンキングとノーネットロス原則
H教授―ボクが言ってるんじゃない、アメリカなんかの最新の議論を紹介しているんだ。
で、こうした議論の延長線上に「ミティゲーション・バンキング」なんて概念が考えられ、現に動いているそうなんだ。

Aさん―ミティゲーション・バンキング? なんです、それ?

H教授―要するにオフサイトもOK。アウト・オブ・カインドもOKというのを前提にして考えると、代償ミティゲーションをするんだったら、いちいちその都度人工干潟をつくったりせずとも、あらかじめ第三者がそういう代償ミティゲーションの広大な環境を整備─これがミティゲーション・バンクだ─しておいて、その一部を買えばOKということになる。
どうだ。合理的だろう。

Aさん―(あきれて)さすが、排出権取引を考えるお国柄ですね。合理的というかなんというか…。
日本ではどうなんですか?

H教授―実は日本ではアセス法アセスでミティゲーションを取り入れたといいながら、ミティゲーション概念の一番肝心なことをスポイルしているんだ。だからミティゲーション・バンキングの議論なんて、はるか先の話だね。
ま、どちらにしてもミティゲーション・バンキングなんてのはあまり日本に向いている制度には思えないけど。

Aさん―一番肝心なことをスポイルしてるってどういうことですか?

H教授―つまりミティゲーションの本来目指すものは、なんらかの定量的な評価により、環境影響をゼロにするということなんだ。これを「ノーネットロス原則」という。
日本のミティゲーションは、このノーネットロス原則を明示していないし、前提ともしていないんだ。だからしばしばミティゲーションと称して、見せかけの「代償」でお茶を濁す。
少なくとも公共事業においては、まずはノーネットロス原則というのを確立すべきだろうな。
あとは、個別具体的に議論していけば、落ち着くところに落ち着くと思うよ。
あとねえ、ノーネットロス原則はなぜ必要かといえば、そもそもはその対象になるような環境が減少しており、それを食い止めることの公益性が高いということにあるんだ。つまり、アウト・オブ・カインドの考え方とはある意味二律背反の関係になるということも忘れちゃならない。

Aさん―民間の開発ではノーネットロス原則はどうなるんですか。

H教授―ボクは必要だと思うが、憲法上の財産権との関係で社会的な合意を得ることは難しいと思うな。
それよりは開発面積に応じてかなり高い自然改変税を課し、これで開発を抑制するとともに、その税額で保護対策を図るとかの方が手っ取り早いと思う。

Aさん―話を元に戻しますが、「代償」よりは「低減」を優先し、「低減」よりは「回避」を優先というのがミティゲーションの本線ですね。でも今の話だともっぱら「代償」ばかりじゃないですか。
3つのRではRecycleよりReuse、ReuseよりはReduceと言っておきながら、現実にはRecycleばっかり優先しているのにも似ていませんか。

H教授―うん、なかなか鋭い指摘じゃないか。でも、それは当然なんだ。
そもそも、アセスってのは誰がやるんだ。
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日本型「回避」とは

Aさん―計画・事業主体です。…あ、そうか、だったら自己否定するに等しい「回避」を最優先するわけありませんね。

H教授―うん、だからアセス図書では「「回避」を最優先に考えたけど、できませんでした。ついで「低減」を考え、目いっぱい「低減」したけど、これが精一杯でした。その代わりにこれだけの「代償」をします」というストーリーづくりに励むことになる。

Aさん―じゃあ、日本ではホントの意味での「回避」というのはないんですか。

H教授―日本では、そもそも大きな開発構想というのは事前に環境部局と協議調整を図るのが当たり前なんだ。その時、これはいくらなんでもということで、環境部局が拒否して流れたというケースが結構ある。これが「回避」だ。あるいは大幅に規模を縮小させたりもしている。これが「低減」だ。
だけど、こういう回避や低減は水面下で行われ、表に出てこないから、実態はよくわからない。
環境部局との調整がつき、これでいいでしょう、アセスしましょうということになって初めてオープンになる。だからアワスメントになっちゃうんだ。
まあ、中には環境部局との調整未了のまま突っ走ったりして、大きな反対運動が起こった結果として、回避や低減を余儀なくされることもままあるけどね。藤前干潟とか三番瀬がその典型例と言えるだろう。
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