環境庁(当時)の職員から大学教授へと華麗な転身を果たしたH教授が、環境にかかわる内外のタイムリーなできごとを、環境行政マンとして過ごしてきた経験に即して解説します。
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第44講 「夏の夜の四方山話―附:富栄養化断章」
第43講 「拡大ミティゲーション論」
第42講「キョージュ、今国会での成立法案を論じる」
第41講 「エコツーリズム推進法案と国立公園」
第40講「50年、過去と未来 付:第三次環境基本計画」
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No. 第43講 「拡大ミティゲーション論」
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Issued: 2006.08.03
H教授の環境行政時評(第43講 その4)
拡大ミティゲーション論

Aさん―で、センセイのいう「拡大ミティゲーション」というのは? オフサイトとかアウト・オブ・カインドのことなんですか?

H教授―違う違う。ノーネットロス原則を、空間的な環境改変時の原則に限ることはないということだ。
例えば、空間だけじゃなく「時間」という要素を取り入れて考えてみるんだ。
そうすると自然再生事業なんてのは、まさに時間を要素に入れたミティゲーション、つまり時間差ミティゲーションじゃないか。

Aさん─まあ、そういえばそうですね。でも、それがどうかしたんですか。

H教授―空間や時間だけでなく、「次元」をもうひとつ上げたっていい。つまりアセス用語に限定することなく、環境保全の一般的な原則にするということだ。アインシュタインが特殊相対性理論を一般相対性理論に拡張したようにね。

Aさん―もう! わかりやすく説明してください。ネット資源が「もったいない」じゃないですか!!

H教授―先日、ある会合で日本を代表する電機メーカーの話を聞いたんだけど、「わが社は“2010年地球温暖化負荷ゼロ企業”を実現させる」って言うんだ。

Aさん―2010年には二酸化炭素排出ゼロを目指すというんですか。そんなバカな。できるわけないじゃないですか。

H教授―その説明はこういうことだ。以下の数字はデタラメで、単にわかりやすくするためだと思ってくれ。
現在年間100万トンの二酸化炭素を排出しているとしよう。もちろん単位製造量当たりの二酸化炭素排出量は年々減らしていくんだけど、2010年には製造量が二倍になり、そのときの二酸化炭素排出量は150万トンになるという予測なんだ。

Aさん―どこが二酸化炭素排出量ゼロなんですか。1.5倍になってるじゃないですか。

H教授―そっから先がミソなんだ。
そうして作り出される電化製品は省エネタイプの最先端を行くもので、現在使われている製品がそれだけ買い替えされると、その製品使用に伴うトータルの二酸化炭素排出量は現在の1000万トンから2010年には850万トンになる。つまり150万トン減る。
製品製造に伴う二酸化炭素排出量は150万トンだから差し引きゼロになるってわけだ。これを称して「地球温暖化負荷ゼロ企業」って言ってるわけだ。

Aさん―はあ? ちょっと待ってください。
現在の二酸化炭素排出量は製造時の100万トンに使用時の1000万トンで計1100万トン。
2010年には製造時150万トンに使用時の850万トンで1000万トン。
ちょっと減っただけじゃないですか。何が排出ゼロですか!

H教授―「排出ゼロ」とは言ってない。「負荷ゼロ」と言ってるんだ。要するに、排出量が減ることが重要なんだし、面白い発想だと思うよ。
これってある意味じゃあ、ミティゲーションの「代償」の発想じゃないか。
もちろん排出原単位を減らす努力をしない言い訳にさせちゃいけないけどね。

Aさん―なんかごまかされた感じがするなあ。

H教授―重要なのは、この発想は他にも適用可能だということだ。
例えば、大気や水質の汚染で健康に与えるリスクを減らすことはもちろん一番大事だし、ゼロに近づける努力が必要だ。だけど、原理的に完全ゼロにすることはできない。
一方、その健康リスクをはるかに上回る健康向上をもたらすような製品開発に力を入れ、トータルリスクをゼロどころか一挙に大幅マイナスにするというのを基本方針とするようなことも可能だろう。

Aさん―それって詭弁じゃないですか。

H教授―お、難しいコトバ知ってるな。

Aさん―馬鹿にしないでください。何が「拡大ミティゲーション」ですか! …どんないい話かと思えば。

H教授―そうかなあ、キミ若いのに頭が固いねえ。ある種の発想の転換だと思うけどなあ(未練たっぷり)。

Aさん―はあー(深い溜め息)。でももう夏休みだ。しばらくセンセイの顔を見ずに済むかと思うと、ほっとします。

H教授―それはこっちのセリフだよ。

AさんH教授―(同時に)フン!!
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(平成18年7月26日執筆、同月末編集了)
註:本講の見解は環境省およびEICの公的見解とは一切関係がありません)
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