環境庁(当時)の職員から大学教授へと華麗な転身を果たしたH教授が、環境にかかわる内外のタイムリーなできごとを、環境行政マンとして過ごしてきた経験に即して解説します。
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第46講「動物愛護とミティゲーション」
第45講 「安倍新内閣発足と日本の超長期ビジョン」
第44講 「夏の夜の四方山話―附:富栄養化断章」
第43講 「拡大ミティゲーション論」
第42講「キョージュ、今国会での成立法案を論じる」
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No. 第45講 「安倍新内閣発足と日本の超長期ビジョン」
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Issued: 2006.10.05
H教授の環境行政時評(第45講 その2)
25年50歳体制の崩壊

Aさん―センセイ、そんなこと考えるより、まずは禁酒禁煙に心がけましょうね。
それにしても若林新大臣を迎えて環境省はどう進むんでしょうねえ。

H教授―さあなあ。
ところで、それに先駆けて事務次官以下の幹部が人事異動になったんだけど、ちょっと驚いた。

Aさん―え? 大番狂わせですか? 

H教授―違うよ。単純なことさ。年齢をみてびっくりしたんだ。
新事務次官が59歳。次期事務次官が確実な環境庁一期生のN氏が56歳。以下、局長クラスはみな50代後半なんだ。

Aさん―それがどうかしたんですか。センセイより皆、お若いじゃないですか。

H教授―うるさい。要するに、昔より確実に5歳以上遅くなっている。昔は事務官エリートは50そこそこで局長、われわれレンジャーのトップが準局長クラスの審議官になり、同期の者は役所の世話で転職、つまり天下りするのが常識だった。
一部のトップ官僚以外は25年勤務・50歳で後進に道を譲るという役所の常識が、この十年で完全に崩壊したんだ。
そういえば地方環境事務所長クラスもはや50代半ばで、ほとんど転職していない。
つまり、国家公務員も地方自治体と同じように定年まで勤務するという時代になったんだ。大なり小なり他省庁もそうなりつつあるんだろうなあ。

Aさん―そうなるとどんな影響があるんですか。

H教授―相対的な高給取りがいつまで経ってもやめられないから、人件費が高くなる。
そうなると民間企業がやっているように55歳で昇給停止しろとかいう圧力も高まるだろう。定年後に天下りできるところも激減するから、非常勤嘱託で再雇用みたいなことも当たり前になってくるかもしれない。
だとすると使命感に燃えて国家公務員になるという野心的な人材は減っていき、安定感だけ求めて、国家公務員にでもなるかというデモシカ役人が増える気がする。
ま、世間知らずなまま、ひとりよがりな正義感や野心だけ燃やすような役人が減るのはいいことだという見方もできるかもしれないけど。
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水俣病懇談会の提言
Aさん―さ、センセイ。環境行政時評に行きましょう。
環境大臣の私的諮問機関である水俣病懇談会の最終提言が9月1日に出されましたが、一部委員の主張した水俣病認定基準の見直しはついに断念したみたいですね【5】

H教授―うん、その代わり未認定患者を漏れなく救済・補償する恒久的な枠組みの構築をはじめとして、胎児性患者の福祉や地域再生の提言などを盛り込んだ。
ともかく認定基準の見直しだけは絶対認められないという環境省側の姿勢はあまりにも固かったし、逆に言うと、認定基準の見直しさえ明言しなければ、何を提言しても実現に努力するという環境省の姿勢を逆手に取ったと言えるかもしれない。
【5】 水俣病問題
水俣病問題に係る懇談会 議事次第・会議録[環境省]
第39講(その4)「水俣病再説」
第22講(その3)「時評4 ─水俣病関西訴訟最高裁判決」

Aさん―漏れなく救済・補償するんだったら、認定基準の見直しと結果的に同じじゃないんですか。

H教授―そうはいかないだろう。これまでも政府は未認定患者に対してはいろんなことをそれなりにやってきていたんだ。だが、認定患者と同様の補償はできないし、新たな救済・補償も最高裁判決よりは低いものになるだろうから、訴訟に訴える患者も後を絶たないだろう。
10年後か20年後かは知らないけど、認定基準にも手をつけざるをえないんじゃないかな。
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新たな河川行政の芽生え
Aさん―その他になにかあります。

H教授―ちょっとローカルな話題なんだけど、ぼくの住んでいるS市の中央をM川が流れている。県管理の二級河川なんだけど、緩やかにS市を流れていたM川はそのあと渓谷になって、T市に出て再び緩やかに流れ、瀬戸内海に注ぐんだ。
ここの渓谷部にダムを設けて下流の洪水を防ぐっていう計画があって、それがずうっと議論になっている。

Aさん―ダムができれば渓谷の景観が台無しになるし、生態系への影響も大きいってわけですね。

H教授―まあ、そうなんだけど、いろいろと経緯がある。もともとは古く62年に多目的ダムとして計画されたんだ。つまり一大ニュータウン構想があって、その水がめとして考えたのが最初じゃないかな。

Aさん―なんだ、もとはそっちなのか。

H教授―そのニュータウン構想は頓挫したんだけど、87年には洪水時だけ水を貯める穴あき式の治水ダムに計画変更し、93年に事業採択された。だけど、反対運動がやむことはなかった。

Aさん利水から治水に目的変更して事業継続ですか。似たような話はどこにでもあるんですね。長良川河口堰もそうだったし、諫早干拓だってそうですよね。

H教授―ちょっと違うのは県が強硬突破しようとはせず、04年にいったん白紙に返し、流域委員会を公募方式で発足させた。その委員会に97年の河川法改正を受けて、今後100年の川づくりの指針である「河川整備基本方針」と今後30年間の具体策を決める「河川整備計画」の原案づくりを諮問したんだ。当然、このダム計画を将来どうするかで議論が沸騰する。

Aさん―流域委員会…。どこかで聞いたような話だなあ。あ、淀川水系のときの話に出てきてましたよね。河川法の改正で各水系に流域委員会の設置が義務づけられたんでしたっけ。

H教授―正確に言うとそうじゃないんだ。新河川法では、「河川整備基本方針」を国土交通大臣が決めようとするときは社会資本整備審議会、知事が決めようとするときは河川審議会が設けてあれば河川審議会の意見を聞かねばならないと決めている。
河川管理者、つまり国土交通大臣または知事は、その河川整備基本方針のもとに「河川整備計画」を定めねばならないとしているんだけど、その案を作成しようとするとき、必要があるときには学識経験者の意見を聞かねばならないし、関係住民の意見を反映させるために必要な措置を講じなければならないし、また同計画を定めるときには自治体の長の意見を聞かなければならないと義務づけられたんだ。

Aさん―あれ、「流域委員会」なんて出てこないですね。

H教授―うん、現実には新河川法の地元住民や有識者の意見を尊重するという趣旨をさらに進めて、河川整備基本方針の案作りの段階で国土交通省の地方整備局長が、学識経験者や地元住民の意見を集約する組織として「流域委員会」をつくるようにしたんだ。このひとつが淀川水系流域委員会だ。逆に言うと、法定の審議会が形式化・形骸化しているって現実への反省を踏まえてのことなんだろうな。

Aさん―M川は県知事の管理する二級河川だから、県版の流域委員会をつくり、その答申が出たというわけなんですね。

H教授―うん、いわゆる「総合治水」ってやつで、今後30年間はダムなしって提言をまとめた。流域内の公園、校庭や水田、ため池を遊水地として活用したりして、対応しようということだ。
田中前長野県知事の脱ダム宣言を住民参加方式で下から積み上げたようなもんだ。

Aさん―県はどうなんですか。

H教授―新聞で読む限り、建前上はダムは必要という姿勢は崩してない。だけど、それはダムは必要だとする流域の市町村の手前そうしているだけで、本音は撤退じゃないかという気がする。第一そんなカネがないだろう。
いずれにせよ、ここ1〜2年で「河川整備基本方針」をつくり、そのあと「河川整備計画」づくりに着手することになる。
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