環境庁(当時)の職員から大学教授へと華麗な転身を果たしたH教授が、環境にかかわる内外のタイムリーなできごとを、環境行政マンとして過ごしてきた経験に即して解説します。
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第46講「動物愛護とミティゲーション」
第45講 「安倍新内閣発足と日本の超長期ビジョン」
第44講 「夏の夜の四方山話―附:富栄養化断章」
第43講 「拡大ミティゲーション論」
第42講「キョージュ、今国会での成立法案を論じる」
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No. 第45講 「安倍新内閣発足と日本の超長期ビジョン」
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Issued: 2006.10.05
H教授の環境行政時評(第45講 その3)

Aさん―ふうん、この講義でも何度か淀川流域委員会の話を取り上げていますけど【6】、足元でも似たような話があったんだ。

H教授―それだけじゃないんだ。河川法改正で環境重視と住民参加を強調したんだけど、M川の場合は「河川整備基本方針」がまだできていないから、具体的な整備のための「河川整備計画」がつくれないんだ。でも予算もあるし必要な整備はしなきゃいけない。

Aさん―河川整備計画ができるまでの間は今まで通り、河川管理者が勝手に決めて整備するんですね。

H教授―いや、それがM川のS市区間を管理する県のS土木事務所は、「M川上流ルネサンス懇談会」という、NGOや川に関心のある住民を集めた組織を立ち上げたんだ。そこの意見を踏まえて、ちょっとした工夫とアイデアで親水性と環境保全に資する事業を実施するという。ミニ自然再生事業もこの懇談会の意見を取り入れてやりたいと言っている。その懇談会は公開するし、傍聴者も自由に意見が言えるようにすると言う。
つまり法定の河川整備基本方針や河川整備計画ができる前に、市域レベルで有識者と関係住民の意見を集約して、事実上の河川整備計画的なものをつくっちゃって、それにより整備を実施しようとするものなんだ。

Aさん―へえ、随分先進的な試みなんですね。S土木事務所の独断でやったんですか。

H教授―上の指示のもとでやったかどうかは知らないが、少なくとも上の了解を取り付けてはいると思うよ。
そして、この背後には若い熱心な研究者の働きかけがあったんだ。
こういう試みがどこでもなされるようになると、随分風通しはよくなると思うよ。

Aさん―S市役所はその懇談会に参加してないんですか。
【6】 淀川水系流域委員会
第2講(その2)「脱ダム宣言と淀川水系流域委員会提言について」
第5講(その1)「淀川水系脱ダムの行方」
第9講(その2)「夏のできごと・4 ──淀川水系5ダムのその後」
第12講(その2)「淀川水系のその後」

H教授―呼びかけたし、参加の意向はあるようだけど、どのセクションが担当するかが決まらず、まだ参加していない。呆れちゃうよ。

Aさん―センセイ、妙に詳しいけど、その懇談会となんか関係あるんですか。

H教授―歳食った地元のキョージュだというんで、無理矢理座長にさせられちゃったんだ。メンバーは皆、川や川の生物に詳しくって、いやあ勉強になるよ。
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総合治水と水辺の高密度利用
Aさん―ぷっ、情けない。でも総合治水の考え方ですけど、それだとリバーサイドだとかウォーターフロントの高密度利用を避けろということになりません?

H教授―もちろん、そうだよ。日本は台風も多いし、高波や地すべり地帯も多い災害列島なんだ。治水、つまり堤防だとか護岸だとはもちろん必要だけど、それに100%頼ることはそもそも不可能だという認識に立つ必要がある。
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激動の日本列島
Aさん―そんなことを言えば、地震や火山だってあるでしょう。

H教授―もちろんそうだ。先日、石黒耀という火山マニアが書いた「死都日本」「震災列島」というパニック小説を読んだけど、ますますその感を強くした。

Aさん―どういうことですか。

H教授―地球科学的にいえば、日本列島の下では北米プレート、太平洋プレート、フィリピン海プレートの三つのプレートがせめぎ合いながら、ユーラシアプレートの下に潜り込もうとしている。つまりニッポンは地下で四つのプレートがひしめき合い、衝突している。だから世界でも稀な火山と地震の巣になっているんだ。
幸い20世紀は比較的平穏無事で、多くの死者を出したのは関東大震災と阪神大震災ぐらいだった。でも21世紀はどうなるかわからない。「震災列島」によれば、関東の大地震、富士山の噴火、東海地震、南東海地震が連鎖反応的に起きることも考えられる。統計的に言えば、今世紀の前半に関東と東海で大地震が起きることになる。
さらに破局噴火ともいうべき超火山(スーパーボルケーノ)爆発だって、過去十万年に何度も起きている。たった一度の噴火で南九州全体を覆うシラス層ができちゃったんだ。「死都日本」は霧島山が吹っ飛ぶ破局噴火が起きたら…というパニック小説だけど、たった一日で何百万の死者が出て、西日本は数日で機能不全、東日本も安泰ではなくなるという恐ろしくリアルな物語だ。

Aさん―要は何が言いたいんですか。

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原発とエネルギー

H教授―日本の繁栄は都市化・工業化と東京への一極集中がもたらしたものなんだけど、百年、千年単位での持続可能なニッポンということを考えれば、それらからの脱却を考えなきゃいけないということだ。
世界の大都市はニューヨークにせよロンドンにせよ安定した地塊の上にあるんだけど、日本は違うんだ。だったら欧米型のまちづくりに追随するのではなく、日本型の安定と繁栄を考えなくちゃいけない。
災害等のあと、簡単にリセット可能だった江戸時代のまちづくりや暮らしに学ぶことは多いと思うよ。
繁栄にはエネルギーが必要だというんで、原発を日本各地に造ってきたけど、そういう意味では恐ろしいと思うよ。フォッサマグナや中央構造線のすぐ間近に作っちゃったなんて、信じられないよ。

Aさん―だからこそ、原発については耐震指針があり、9月19日には耐震指針も強化されたじゃないですか【7】

H教授―万が一の事故のときでも、飛行機や新幹線の事故ならば、一過性なんだ。ところが、原発事故が起きたら半永久的に日本列島の相当部分に人が住めなくなってしまう可能性だってないとは言えないんだぜ。想定をはるかに上回る直下型の大地震が起きたらどうなるか、ぞっとしたよ。

Aさん―だけど原発をやめて火力発電にしたら、地球温暖化を進行させるばかりじゃないですか。

H教授―それだけじゃない。その燃料は石炭にしろ石油にしろ海外からのものだ。そりゃあ、備蓄だとかいろんなことをやってはいるけど、安定供給という面では不安だ。
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【7】 原発耐震指針の強化
「発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針」等の耐震安全性に係る安全審査指針類の改訂等について[原子力安全委員会]
「サハリン2」の教訓
Aさん―そういえば日本企業が出資しているサハリンからの石油・天然ガス開発のプロジェクト「サハリン2」の事業認可をロシア政府が取り消したそうですね【8】。とんでもない話じゃないですか。

H教授―いろんな政治的背景があるんだろうけど、建前では環境問題を盾にしているよね。それこそノーネットロス原則を貫徹させるぐらいのことをしておかないと、いつだってこういう問題は起きかねない。
だからこそ国産の再生可能エネルギーをギリギリまで追求する必要があると思うよ。
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【8】 石油・天然ガス開発のプロジェクト「サハリン2」
サハリンプロジェクトの概要[資源エネルギー庁]
Sakhalin Energy
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