環境庁(当時)の職員から大学教授へと華麗な転身を果たしたH教授が、環境にかかわる内外のタイムリーなできごとを、環境行政マンとして過ごしてきた経験に即して解説します。
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第46講「動物愛護とミティゲーション」
第45講 「安倍新内閣発足と日本の超長期ビジョン」
第44講 「夏の夜の四方山話―附:富栄養化断章」
第43講 「拡大ミティゲーション論」
第42講「キョージュ、今国会での成立法案を論じる」
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No. 第45講 「安倍新内閣発足と日本の超長期ビジョン」
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Issued: 2006.10.05
H教授の環境行政時評(第45講 その4)
バイオマスのエネルギー利用に向けて

Aさん―再生可能エネルギーといえば、バイオエタノール燃料のことがしきりに言われてますね。エタノールってエチルアルコール、要するに飲用アルコールのことですよね。

H教授―うん、C2H5OHだ。ブラジルでは国家プロジェクトとして力を入れている。サトウキビの砂糖を抽出した残り滓を発酵させてエタノールにするんだ。

Aさん―あ、昔アントニオ猪木さんが入れあげて山ほど借金をこさえたやつですね。猪木さんって先見の明があったんだ。

H教授―いくら先見の明があってもタイミングを見誤っちゃどうしようもない。
ガソリンに混ぜたり、あるいはエタノールだけでもガソリンの代わりになる。日本でも一定のエタノール混入を認めているし、いずれ日本でもエタノール専用車が走るようになるかもしれない。
アメリカでも将来の石油枯渇を見越してトウモロコシからのバイオエタノール生産の技術開発に力を入れている。

Aさん―でもやはり二酸化炭素は出るんでしょう?

H教授―うん、それはそうだけど、もとが植物でいずれ分解して二酸化炭素になるんだから、増加とはみなさないんだ。

Aさん―廃物利用ですね。いいことじゃないですか。

H教授―廃物ならいいけど、アメリカでの動きをみていると、廃物じゃなく、食料や家畜の飼料に使っていたものまで利用しかねない。
10年前くらいにマイ箸運動てのがあった。割り箸を使うと森林破壊になるというんだけど、まったくナンセンスな話で、端材や間伐材を使って割り箸をつくっていたんだから、有効利用、廃物利用そのものだったんだ。
ところが近年急速に状況が変わって、今じゃほとんどが中国の白樺林を割り箸をつくるために伐るようになって、本当の森林破壊の元凶になっちゃったんだ。
そう考えると、食とエネルギーで資源の取り合いになる恐れがある。
それにバイオマスの活用を考えるんだったら、やはりまず国内からだろう。

Aさん―日本国内に資源なんてあるんですか?

H教授―原理的に言えばいくらでもある。
生物体を構成しているたんぱく質などの高分子有機物は嫌気性条件下ではアミノ酸などに分解したあと、酸発酵して有機酸やアルコールになる。エタノール生産はこの時点でアルコールを取り出せばいいわけだし、さらに放置しておくとメタン発酵して、最終生成物として炭酸ガス、水素、硫化水素、窒素などとともにメタンガスが生じる。
つまり生物性のものならなんでも原料になる。生ごみ、家畜糞尿、下水汚泥、焼酎かす…。
こうしたものをバイオエタノールという液体燃料にしたり、あるいはメタンガスにしたりというバイオマスエネルギーの可能性は大きいと思うよ。
そしてなによりも日本では膨大なスギ、ヒノキの放置林があるし、放置林でなくても間伐材あるいは間伐すべき材がある。これらバイオマスのエネルギー利用に向けて技術開発を進めるべきだろう。健全な林業と森林を取り戻し、保水力を高めて災害を減らすことにも寄与する。
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日本超長期ビジョン

Aさん―(冷淡に)それだけじゃ原発や火力発電に取って代わることはできないでしょう。
それにコスト的にも合わないんじゃないですか。

H教授―コストに関しては、化石燃料や原子力燃料に高い課税をして、一方、再生可能エネルギーには優遇措置を講じていけばいいだろう。幸い原油価格も上昇傾向にあることだし、思い切って舵を切り直すべきときが近づいていると思うよ。
前にも言ったけど、超長期社会のビジョンのひとつは総エネルギー需要抑制型の社会をつくること、もうひとつはバイオマスや小規模水力風力太陽光など地域分散型再生可能エネルギーを最大限に活用し、その範囲内で<持続可能で豊かな社会>を目指すことだろう。ロビンスのソフトエネルギーパスってやつだね。
最終的には資源もエネルギーも原則自給すべきで、年間食料生産量や雨量、森林成長量などが人口や生産の上限を規定するし、年間再生可能エネルギー量がエネルギー使用量の上限になる。無限成長の幻想を捨てるべきだ。

Aさん―そんなこと言ったら、「昭和30年以前に戻れ」ということになるじゃないですか。
…いや違うか。明治以降には石炭をいっぱい使ってたから、じゃあ「江戸時代に帰れ」ってことじゃないですか。
ヤダ! 絶対ヤダ! センセイだって、そんなことできないでしょう。

H教授―なにも今すぐそうしろと言ってるんじゃない。
幸い日本の人口は減少傾向にある。今世紀末には半減するかもしれない。そうなれば食料自給は難しくはないだろう。
また、われわれは太陽のエネルギー、風のエネルギー、水のエネルギーといった自然界のエネルギーのほんの一部しか利用してないんだ。その恵みをもっと効率的に利用できるようにする技術開発と蓄電技術のブレークスルーに全力を傾注すりゃいいんで、その進歩の度合いに応じて化石燃料とか原子力への依存度を減らしていけばいいんだ。

Aさん―ううん、ほんとかなあ。

H教授―あとは大規模自然災害で東京や大阪がぶっつぶれたってなんとかやっていける多極社会というかムカデのような多節型の構造をつくる。
もともと日本は自然の恵みを最大限に活かすとともに、自然のおそろしさには畏敬しつつ順応してきた国なんだ。自然を征服するなんて傲慢なことを思わず、自然の至るところに精霊が宿ってると長い間考えてきたんだ。

Aさん―センセ、なんだかU原先生の言うことに似てきましたね。

H教授―あの先生は講演を頼むと目の玉が飛び出るほど高い講演料を請求されるそうだ。言行不一致も極まれりだね。その点ボクなんか、一切そういう話はしない。謙虚なもんだ。

Aさん―当たり前です。交通費付きで話を聞いてもらえるだけでも御の字じゃないですか。

H教授―うるさい。安倍内閣が発足して成長を謳い文句にしているけど、今こそ「Small is beautiful」というE. F. シューマッハのコトバを噛み締めるべきときだと思うよ。

Aさん―出ましたね、得意技。読んでないけど、とりあえずそういうコトバだけ知ってるってやつでしょう。

H教授―…(赤面)。
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(平成18年9月27日執筆 同月末編集了)
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