環境庁(当時)の職員から大学教授へと華麗な転身を果たしたH教授が、環境にかかわる内外のタイムリーなできごとを、環境行政マンとして過ごしてきた経験に即して解説します。
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第47講「秋の夜の環境冗話 ―COP12、大阪湾青潮、読者のお便りを巡って」
第46講「動物愛護とミティゲーション」
第45講 「安倍新内閣発足と日本の超長期ビジョン」
第44講 「夏の夜の四方山話―附:富栄養化断章」
第43講 「拡大ミティゲーション論」
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No. 第46講「動物愛護とミティゲーション」
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Issued: 2006.11.09
H教授の環境行政時評(第46講 その3)

Aさん―そういう時代を経て、豊かになったけど、コミュニティの解体が進んで、核家族化が進行する中で、人々のアトム化、孤独感が深まり、それを代償するものとして、ペットブームが起き、動物愛護管理法ができたってわけですね。

H教授―なんだか随分図式的なような気がするけど、まあその通りだ。
で、動物保護管理法から動物愛護管理法になったとき、基本原則として生命尊重、友愛、共生等の観念が追加され、虐待などへの罰則も強化。動物の定義もそれまで哺乳類と鳥類に限定されてたけど、爬虫類も追加された。所管省庁も中央省庁再編で環境省になった。
時代も大きく変わり、ペットと呼ばずコンパニオン・アニマルなんて言う人たちも増えてきた。
犬猫の避妊も当たり前になり、野良犬はほぼ姿を消した。

Aさん―そうか、だから地域猫なんですね。センセイの家でも猫を飼ってるし、どら息子が──いや、お子さんたちも、確かペットを飼ってらっしゃいましたね。

H教授―うん、長男はフェレット3匹、次男は子猫を飼っている。うちの美生(ミオ)は客観的には老いたちょっと鈍い、そして何の役にも立たないメスデブ猫だけど、「癒し」だって実感するもんなあ。キミがいなくなりゃあ、ほっとするだけだけど、今やミオがいないボクの人生なんて考えられない。
愛猫ミオ

Aさん―そんなことはいいから、わが国の動物愛護管理法を中心にした動物保護行政のポイントをまとめてください。

H教授―わかった、わかった。
基本原則として動物と人間との共生をうたっていること、飼い主の責任を明確にしたこと、飼養・保管のガイドラインの明示、ペット業者などへの一定の規制、都道府県の犬・猫の引取りと負傷動物等の公的な収容を行うことなどだね。
そして昨年の法改正でさっきいった基本指針と推進計画を策定することとし、ペット業者への規制強化、違反への罰則の強化などがなされた。
あ、そうそう、人に危害を加える可能性のある飼育動物は特定動物として、マイクロチップなどの個体識別装置の義務付けが導入され、飼養・保管は全国一律の要許可制となった。

Aさん―特定動物って?

H教授―人間に危害を加える恐れのあるトラだとかタカだとかの危険な動物で、650種類が指定されている【4】。動物園だとかが対象で、一般人が飼うのを許可されることはまずないけどね。
さらに動物実験については3Rの原則が謳われるようになった。

Aさん―はあ、3R? Reduce,Reuse,Reycleですか。

H教授―ちがう、ちがう。Refinement(苦痛の軽減)、Replacement(代替法の活用)、Reduction(数の削減)の略だ。昔は人間のためになるんだからということで、モルモットからサルまでさまざまな実験動物が大量に使用されてきたけど、動物実験以外の代替法を積極的に活用して、動物実験を必要最小限にし、かつ動物の苦痛を軽減しなければいけないということだ。今じゃ、霊長類を殺すような動物実験はまず許されなくなってきている。
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【4】 動物愛護管理法に基づく特定動物
特定動物一覧
特定(危険)動物の飼養又は保管の許可について(環境省)
動物愛護を巡って3 ──動物との共生
Aさん―それって「動物の権利」とか「動物の解放」などというラジカルな環境倫理の考え方と一脈通じるものがありそうですね。

H教授―うん、第44講のホモ・フローレシエンシスの話の中でしたと思うけど、「人間」というものの概念がどんどん広がっていった【5】。もちろんそれはいいことだし、正しいことなんだけど、それと呼応するように、現代社会では動物の地位もあがっていき、愛犬や愛猫は今や完全に家族の一員になっちゃったんだ。そうしたペットだけじゃなく、他のさまざまな野生動物――現時点では哺乳類、鳥類どまりだけど――も生態系の一員として大事にしていこうという方向に来ている。
こうした方向に今後とも進んでいくのは間違いないだろう。
一方じゃ、今年も熊が人里に出現して物議を醸すだろうけど。

Aさん―だとしたらそれが極限までいくと哺乳類、鳥類を食べるのをやめろいうことにならないですか。それに同じ動物なんだから魚類だとか昆虫だとかすべての動物を愛護すべきだということに論理的にはなるんじゃないですか。そういえば昔、石油からタンパクをなんて話がありましたね。動物を食べるのをやめて石油タンパクで生きるのって、なんとなく味気ないな。
【5】 「人間」という概念の拡大
第44講(その2)「科学ニュース3 ─ホモ・フローレシエンシス」

H教授―石油タンパクはそもそも石油需給が逼迫しているから現実性がないだろう。
動物を食べることだけど、食肉用の家畜は神にそうつくられたんだからいいんだという人もいるけど、なんだかちょっとご都合主義だよね。
そういう意味での原理主義者として菜食主義者もいるけど、彼らだって植物は食べている。植物ももとをただせば同じ共通の原始生物の子孫なんだから、なぜ動物だけ特別扱いするのかってことになる。
ただねえ、自然界は食物連鎖で成り立っていて、人間も他の生物を食べなきゃいけない宿命を背負ってるんだ。だから無用の殺生はできるだけ控えるけど、食用に必要な生物は感謝しつつ食べる、人間生活に駆除が欠かせない場合も最低限必要な範囲の駆除にとどめ、種の絶滅は避けるということしかないんじゃないかな。ま、人間の勝手といえば勝手な話には違いない。
ユダヤ陰謀論を盛んに吹聴している太田龍、通称ドラゴン将軍は昔「虐げられた鼠やゴキブリのために立ち上がれ」なんてトンデモないアジテーションをしていたけどね(笑)。

Aさん―ま、それでも白人だけが人間だった昔や、犬猫を平気で殺していた昔よりは進歩しているということですね。

H教授―昔は平気で犬猫を殺していたかもしれないが、それでもトータルな動植物などの自然環境の破壊は現代社会の方がはるかに大きいんだ。だから簡単に進歩といえるかどうか問題だ。戦争だって大規模になっちゃったしね。
昔は自然と共生してた、あるいは動物と共生していたというのはその通りなんだけど、いわば粗野な強いられた共生だったという面も持っている。
貧しい社会では本当の意味での豊かな共生は難しいんだ。だから綱吉の高邁な動物愛護の考えも、現実に適用すると悲惨なことになって“犬公方”と嘲られることになった。
でも今のような豊かな社会なら意志的な高い共生ができるはずで、それを目指さなきゃいけない。“豊かな共生”ってのも今のところ不可視なんだけど。

Aさん―そんな抽象的な話でなく、具体的な話をしなきゃダメですよ。
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ミティゲーションと先住権
H教授―そうか、じゃ土地は誰のものかということを考えてみよう。例えば土地の所有権は憲法で保障されている。でもそれは絶対的な、何をしてもいいという権利じゃない。

Aさん―当たり前じゃないですか、公共の福祉のために一定の制限をかけられるんでしょう。確か公用制限っていうんですね。

H教授―うん、そういうのを土地所有の内在的な制約と言っている。でもそれだけじゃないだろう。

Aさん―え? どういうことですか。

H教授―土地の所有権なんて勝手に人間が決めたものにすぎない。
土地の所有なんて観念自体持たなかった先住民が生まれ暮らし死んでいった土地をわれわれのご先祖は侵略し、占有していったんだ。ネイテイブアメリカンやアイヌ、あるいはアボリジニなんかもそうだよね。今じゃ、そういう先住民の権利を尊重し回復させるというのが一つの国際的な流れになっている。

Aさん―それがどうかしたんですか。

H教授―その延長線上で考えればいいんだ。われわれが自分の土地だと思って開発しようとしているところにも、先住生物が人間が生まれるもっと以前からいるんだ。
彼らの先住権を尊重すべきじゃないか。

Aさん―うーん、だけどどういうふうに尊重するんですか。

H教授―つまり土地の内在的制約の中に先住生物の先住権を含めるんだ。いつかミティゲーションって話をしたと思うけど、それこそがミティゲーションを義務付けるときの倫理的根拠だし、それを法的に認めればいいんだ。
日本の場合だったらみせかけの代償ミティゲーションなんかより、多額の開発税を課すことで開発を抑制するとともに、その税収で自然環境の保全復元に充て、先住権を蹂躙された先住生物に幾分かの償いをする。こういうことこそが新たな動物との共生の道を切り開いていくんじゃないか(自分のアイデアに酔っている)。

Aさん―(呆れ顔で)センセ、センセイ。動物愛護管理法の話から随分脱線しましたよ。
元に戻しましょう。今後の課題はなんですか。
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