環境庁(当時)の職員から大学教授へと華麗な転身を果たしたH教授が、環境にかかわる内外のタイムリーなできごとを、環境行政マンとして過ごしてきた経験に即して解説します。
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第50講「我、疑う故に我あり ──反温暖化対策論考」
第49講「IPCC第四次報告書と生物多様性保全」
第48講「2006年の総括と2007年の展望 ―附:ハワイ秘話」
第47講「秋の夜の環境冗話 ―COP12、大阪湾青潮、読者のお便りを巡って」
第46講「動物愛護とミティゲーション」
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No. 第49講「IPCC第四次報告書と生物多様性保全」
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Issued: 2007.02.08
H教授の環境行政時評(第49講 その4)

H教授―うん。この条約では加盟国が生物多様性国家戦略を定めるとしている。
日本の一番最初のものは国家戦略とは名前だけで、各省のやっているさまざまな、結果的には生物多様性保全に寄与している可能性のあるものを羅列して修文しただけのものだったけど、その後、現在の新・生物多様性国家戦略が策定されて、それなりに体系だったものになっており、問題意識も明確になった【11】
だが、生物多様性保全を直接的な目的とした明確な骨太の施策は依然として不十分なような気がする。
現在、環境省では「生物多様性国家戦略の見直しに関する懇談会」を設けていろいろ議論しているようだ【12】。今まで環境省の自然環境局は国立公園などの保護地域の管理が中心だったが、もう一つの柱として確固とした生物多様性保全政策を打ち立てようとしているのかもしれない。
本講でも、いずれこの懇談会での議論なども取り上げていこう。

Aさん―そういえば生物多様性センターというのがありましたねえ。

H教授―何を今頃言ってるんだ。ボクのゼミで毎年実習に行ってるじゃないか。
このセンターがデータバンク機能と生物多様性政策のシンクタンク的機能を果たしてくれるのを期待しよう。

Aさん―その国立公園ですが、自然公園法が今年で50周年を迎えるそうじゃないですか。

H教授―うん、国立公園も昔とは随分様変わりした。そろそろ全面的に見直すときが来ているんだろうし、環境省が指定や管理に関する検討会を設けているのもそういうことなんだろうと思うよ【13】
次回あたりでもう少し詳しく議論したいけど、今回の話との関連で言えば、やはり生物多様性とのリンクだとか、自然公園間を結ぶ回廊の保全・創出というのもひとつの大きなテーマじゃないかという気がする。
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【11】 生物多様性国家戦略
第1講(その5)「キョージュ、生物多様性の行方を占う」
【12】 生物多様性国家戦略の見直ししに関する懇談会について
新・生物多様性国家戦略の見直しに関する検討について(生物多様性センター)
【13】 国立・国定公園の指定及び管理運営に関する検討会について
第47講(その3)「世界遺産と国立公園見直し」
レンジャーアンケート

Aさん―国立公園といえば、無記名のレンジャーアンケートを実施したって言ってたじゃないですか【14】。どうだったんですか。そもそもアンケート対象にしたレンジャーの定義ってなんですか。

H教授―もちろん「レンジャー」は俗称で、広義にいえば環境省が採用した自然保護系技官全員ということになる。で、ボクなんかがレンジャーOB。
アンケートを行ったのは、そのうち現在地方環境事務所とその傘下で自然公園・自然保護業務に従事している自然保護官などの環境省技官で、アクティブレンジャーを除いた228人。回答はちょうど半分の114人だった。

Aさん―じゃ新人から地方環境事務所長まで全部ですか。

H教授―うん、だからはじめに属性調査として環境省(環境庁)採用後の年数、レンジャー経験年数と勤務地数、採用職種、現地自然保護官事務所勤務か地方環境事務所勤務か、職住隣接か通勤か、家族同居か単身かを聞いた。
で、生活・処遇面と業務面でアバウトな満足度を聞いた後、5つのことに絞って訊いた。
最初は2〜3年で転勤という現在の人事ローテーションについてどう思うかということ。
次が、将来ともずうっとレンジャーでいたいか、本省勤務なども希望するかどうかということ。
3つ目が地方環境事務所に現在はある程度許認可の権限委譲がなされている【15】が、それを拡大すべきかどうか。
4つ目が自然公園について施設整備の強化とソフト面の充実のどちらを重要と思うかということ。
最後は、環境省の自然保護行政の今後の方向性について、保護地域の管理充実と保護地域以外への関与の拡大のどちらが重要と思うかということだ。
そして各設問には「○」を付けてもらう選択肢だけじゃなく、それぞれに自由記述の欄も設けた。

Aさん―結果はどうだったですか。

H教授―うん、言い出しっぺのゼミ生がそれを卒論に仕上げた。時間的な関係で考察や分析はまだまだ不十分だけど、それなりによくまとめていた。
アンケート結果に関して言うと、回答をくれた人の8〜9割までが各設問の選択肢に「○」をつけるだけでなく、自由記述欄に具体的で熱心な意見を開陳してくれたのに驚いたし、うれしかった。

Aさん―で、集計結果はどうだったんですか。
【14】 レンジャーアンケート
第47講(その3)「世界遺産と国立公園見直し」
【15】 地方事務所への権限委譲
第7講(その4)「レンジャーの現在と将来」

H教授―人事異動のローテーションについては「短い」と「適当」と「一概にいえない」がほぼ同数。また「おおむね2〜3年で人事異動がありますが──」という設問だったけど、自由記述欄に2年では短い、3年が適切というのが結構あった。

Aさん―第2の質問、将来の希望はどうだったんですか。

H教授―「生涯レンジャーで」というのが半分。残りの半分はおおむね本省勤務なども経験してみたいが、あくまで本線はレンジャーと考えている人たちで、脱レンジャーを考えている人はごくわずかだった。

Aさん―権限委譲についてはどうだったんですか。

H教授―過半が現在程度でいいという答えだったけど、自由記述欄ではその理由として人手不足などを挙げている人が多く、条件さえ整えば権限委譲を進めるべきという人が多いような気がした。

Aさん―施設整備の強化かソフト面の充実かというのはどうだったんですか。

H教授―6割の人がソフト面の充実を挙げ、施設整備の強化を挙げた人は1割、どちらとも言えないという「その他」が3割で、具体的なことを自由記述欄に書いている人も多かった。
維持管理が問題だし、施設整備はもう十分、そのカネをソフトに回せという意見が多数派のようだ。

Aさん―今後の環境省の自然保護行政の目指すべき方向性についてはどうだったですか。

H教授―当然のことだけど、保護地域の管理充実がもっとも多かった。それでも意外と少なくて約半分。4分の1の人は保護地域外への関与強化を挙げ、残りの4分の1の人はどちらかに絞ることはムリというようなニュアンスの「その他」だった。

Aさん―属性別のクロスチエックはしてないんですか。

H教授―それがほんとは一番重要で、ある程度はゼミ生がやったんだけど、詳細にはこれからボクがヒマを見て学生と一緒にやろうかと思っている。
だけど、実に貴重な資料だね。自由記述欄にはいろんな意見もいっぱい書いてあったし、夏の実習や合宿でレンジャーに個別インタビューもした上で、分析と考察をきちんとして──というか学生にやらせて──、いずれは『国立公園』にでも寄稿しようかと思ってるんだ。
いずれにせよ、日本のレンジャーは許認可や行政計画中心の行政官なんだけど、ナチュラリスト的機能も必要なことは言を俟たないし、レンジャー本人もナチュラリスト的才能を持っている人も多数いる。
現在じゃ純粋の単独駐在はごく少数だと思うから、いっそのこと行政官レンジャーとナチュラリストレンジャーに分けて、後者は地域別の選考採用として人事のローテーションはまったく別にする。そして自然保護官事務所は行政官レンジャーとナチュラリストレンジャーとアクティブレンジャーのトリオで構成するなんて体制が考えられないかなあ。
ナチュラリストレンジャーは有能なアクティブレンジャーから採用したり、定年を迎えたベテランレンジャーの再任用でもいいかも知れない。

Aさん―なるほど、でもセンセイの論文なんて載せてくれるのかなあ。

H教授―し、失敬な。ボク以外にこういう論文を書ける奴はそういないと思うぞ。

Aさん―書ける人はいっぱいいるけど、立場上発表しにくいだけじゃないんですか。
それより、アクティブレンジャーや本省勤務など現地以外の広義のレンジャーにもアンケートをしてみると面白いんじゃないですか。

H教授―うーん、あまり手を広げてもなあ。

Aさん―あっ、今「切手代だってバカにならない」って思ったでしょう。ほんとケチなんだから。
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平成19年2月3日執筆、同年2月6日編集了
註:本講の見解はEIC及び環境省の見解とはまったく関係ありません。
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