環境庁(当時)の職員から大学教授へと華麗な転身を果たしたH教授が、環境にかかわる内外のタイムリーなできごとを、環境行政マンとして過ごしてきた経験に即して解説します。
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第51講『キョージュ、「拡大」国内排出権取引制度を論じる』
第50講「我、疑う故に我あり ──反温暖化対策論考」
第49講「IPCC第四次報告書と生物多様性保全」
第48講「2006年の総括と2007年の展望 ―附:ハワイ秘話」
第47講「秋の夜の環境冗話 ―COP12、大阪湾青潮、読者のお便りを巡って」
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No. 第50講「我、疑う故に我あり ──反温暖化対策論考」
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Issued: 2007.03.08
H教授の環境行政時評(第50講 その3)
Aさん―それと文献批判、資料批判とどう関係するんですか。

H教授―つまり日本側の捕鯨再開論の文献、資料ばかり読んでいるうちに、いわば洗脳されてしまう。別に結論として捕鯨再開論を支持するのはいいんだけど、疑うことはいっぱいあるはずだ。例えば、日本の遠洋捕鯨が一時期クジラ類──特にナガスクジラ類──の激減に影響を及ぼしたんじゃないとか、イヌイットの原住民生存捕鯨の延長に日本が反対したのはIWCで捕鯨再開が否決された報復だったのではないか、またそれは妥当だったのかとか。
まあ、こういう対立する見解がある場合には、できるだけニュートラルに、予見を持たずに両方の資料を読みこみ、そして両方とも疑い、自分のアタマの中で徹底的に咀嚼することが必要だと思うよ。だからこそ、スキルとしての英語力が必要なんだ。

Aさん―そうか、捕鯨再開反対論なんてのは読もうと思うと、基本的に英文ですもんね。でも、センセイ、学生にそんなこと言っておきながら、ご自分はほとんどというか、まったく英語文献なんて読まないじゃないですか。

H教授―(じろっと睨んで)読めないから仕方ないじゃないか。その代わり、鵜の目鷹の目でおかしいところはないかと疑いながら日本語文献を読んでるよ。
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温暖化を疑い、反温暖化対策論を疑う

Aさん―でも、センセイ、だったら「地球が温暖化している」ことだって疑わなきゃいけないことになりますよ。

H教授―そうだよ。一度は疑い、自分でいろんな資料を当たって、自分で判断することが必要なんだ。温暖化だってそうだ。
80年ごろに温暖化問題が米国から輸入された頃には、カナダとの酸性雨問題で窮地に追い込まれた米国、特に酸性雨の加害者とされたD社が、酸性雨問題など大したことのない小さい問題だと言わんがために温暖化問題をでっちあげたんだという陰謀説が環境庁の中でも囁かれていたぐらいだ。
ま、温暖化が本当かどうかということと、その政治的利用とは分けて考えるべきで、温暖化は本当だったけど、それを米国やD社が政治的に利用するという側面があったのは事実だと思うよ。
今だって、石油業界と原子力業界とじゃあ、温暖化対策をめぐる意見は真っ向から食い違うことになって当然だろう。
第12講(その2)でも、温暖化への異論反論の話をしたけど【6】、ネットで探せばいろんな反温暖化対策論者がいるから、彼らがどういうことを言っているかを知っておくことは必要だと思うよ。
池田信夫氏や田中宇氏のブログだとか、あるいは「2ちゃんねる」の温暖化板とか、いろいろある。
ただし、重要なのは、温暖化説を疑う以上に、こうした反温暖化対策論者の説も疑わなきゃいけないということだ。
Aさん―反温暖化対策論というのはどういうことですか。

H教授―反温暖化対策論者にもいろいろいる。
最初に温暖化否定・懐疑論者がいる。温暖化なんて起きていないだとか、起きているかどうかわからないってわけだ。

Aさん―えー、どういう論理ですか。だってグラフをみれば一目瞭然じゃないですか。
【6】 温暖化 異論反論
第12講(その2)「地球温暖化―異論反論オブジェクト」

H教授―反温暖化対策論者で経済学者の池田信夫氏の1月26日付けと2月2日付けのブログ記事に対して、それぞれこんなコメントの書き込みがあった【7】
「ほんとに地球温暖化なる現象があり、その原因のほとんどが人間活動によるものであることが事実ならば、それを回避する行動も必要でしょうが、そもそも地球温暖化なるものからして恣意的な統計によって作り出されているフィクションである可能性が極めて高い」(1/26の記事に対するコメント)
「地球上の「点」で観測された気温の平均値で温暖化を論じるのが如何に間違っているかは、物理のセンスがあればすぐわかることです」(2/2の記事に対するコメント)
池田氏自身は人為により温暖化していること自体は認めていると口先では言ってるんだけど、そういう彼の記事に対して、こんなコメントがいっぱい書き込まれているんだ。

Aさん―なんですか、それ。前のものは恣意的な統計だという根拠を何も言ってないし、後のやつはまるで意味不明じゃないですか。だったら、“物理のセンスがある人”は温暖化しているかどうかをどう判断するのかを言わなきゃ。これじゃあ何も言ってないのと同じじゃないですか。

H教授―ま、IPCCの第二次報告書の頃は温暖化そのものへの懐疑論が結構あった。年ごとの温度は太陽や地球の変動で揺らぐから、去年より今年の方が寒いことなんかいくらでもある。だから長期のトレンドがどうかということになるんだけど、そうなるとデータの取り方とか信憑性だとか統計処理の方法をめぐって異論もあった。
今じゃあ研究者でこういうことをいう人は姿を消したけど、さっきの書き込みのようなことをいうやからは後を絶たない。
でも矛盾のない温暖化否定論を組み立てることは今でも可能だよ。

Aさん―え? 例えば?

H教授―温暖化を主張する科学者やマスコミはすべて温暖化を捏造する秘密結社に属していて、データを偽造し、皆を騙しているという陰謀論を唱えることは可能だろう。
先ほどの書き込みのうちの前者はまさにこういうことを主張しているんだろう。
【7】 反温暖化対策論者・池田信夫氏のブログ記事
アル・ゴアにとって不都合な真実(1/26)
地球温暖化のメディアバイアス(2/2)

Aさん―そんな馬鹿な。

H教授―国際情勢解説者だという田中宇氏なんかも温暖化否定論者で、その類の陰謀説をぶってるよ【8】
氏の温暖化否定論は、安井至先生がブログで反論されておられるから、そちらを参照してほしいけど、面白いのは陰謀説の方だ。
氏によると、温暖化危機説を煽っているのはイギリスのブレアさん。彼は米国を陰で操って世界を米英覇権のまま存続させようとしていて、その最大の武器が温暖化問題の政治的利用ということらしい。

Aさん―米英覇権のために温暖化対策をやろうとしているというんですか。そんなバカな。だったらなんでブッシュさんは温暖化対策に後ろ向きなんですか。

H教授―ブッシュさんは米国の覇権など重荷だから、脱ぎ捨て身軽になって国際資本のもとで金儲けに勤しみたい勢力の代表だそうで、だから米国覇権をつづけさせられる温暖化対策などやりたくないんだそうだ。

Aさん―冗談でしょう。ブッシュさんのイラクでの遣り口なんか見ていると、米国の覇権主義そのものじゃないですか!

H教授―世界は米国の覇権を簡単にやめさせてくれない。だから、あえて失敗確実なイラク政策を選択したそうだ。そうすれば世界は米国を見捨てて身軽になれるそうだ。氏によるとブッシュさんやネオコンは「隠れ多極主義者」だそうだよ。

Aさん―(目をシロクロ)

H教授―論理のアクロバットもここまでくれば芸だね。
ま、いろんな複雑な仮定やありえない仮定をいくつも置けば温暖化否定論を組み立てるのは可能だけど、そんな仮定を置くよりは、現に温暖化しているということを認めた方が、よほど合理的だよね。こういう考え方を「オッカムの剃刀」という。

Aさん―また意味のない雑学が出てきた。
【8】 国際情勢解説者・田中宇氏の温暖化陰謀説と、安井至先生の反論
田中宇氏の主張
安井先生の反論

H教授―うるさい。これは科学哲学上の重要な概念なんだ。つまり、必要以上に複雑な仮説を立てて説明するよりも、単純な仮説で説明できることの方が正しいことが多いという経験則のことだ。
一方で、懐疑論者とは逆に、なんでもかんでも温暖化に結びつける論者もいる。都会で熱帯夜が増えたのも温暖化のせいだなんていう論法がメディアなどでも結構まかり通っていて、こういう「なんでも温暖化論者」の存在が、かえって懐疑論者につけこまれる原因にもなっている。

Aさん―だって熱帯夜の増えたのはヒートアイランド現象のせいでしょうけど、温暖化の進行も少しは寄与しているんじゃないですか。

H教授―寄与しているったってごくわずかなんだから、ここで温暖化を騒ぎ立てることはヒートアイランド現象の真犯人を隠蔽する役目を負うことになるじゃないか。

Aさん―なるほどねえ。で、温暖化否定・懐疑論以外には?
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