環境庁(当時)の職員から大学教授へと華麗な転身を果たしたH教授が、環境にかかわる内外のタイムリーなできごとを、環境行政マンとして過ごしてきた経験に即して解説します。
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第51講『キョージュ、「拡大」国内排出権取引制度を論じる』
第50講「我、疑う故に我あり ──反温暖化対策論考」
第49講「IPCC第四次報告書と生物多様性保全」
第48講「2006年の総括と2007年の展望 ―附:ハワイ秘話」
第47講「秋の夜の環境冗話 ―COP12、大阪湾青潮、読者のお便りを巡って」
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No. 第50講「我、疑う故に我あり ──反温暖化対策論考」
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Issued: 2007.03.08
H教授の環境行政時評(第50講 その4)

H教授―温暖化自然現象説がある。温暖化は起きているけど、それは太陽の磁場の変化だとか地球内部の脈動が主因だといった説だよね。
第三次報告書の頃には温暖化懐疑論者は影を潜めたけど、こういう論者は今でも後を絶たないみたいだ。やがて公表される第四次報告書第一作業部会の本文にはそれに対する詳しい言及があると思う。

Aさん―この説はセンセイどう思うんですか。

H教授―ボクは素人だから、全否定はできないし、科学は多数決で決めるものじゃないけど、直感的におかしいと思えることの傍証がある。

Aさん―そうですよねえ。だって温室効果ガスが産業革命前から40%も増えているんですもんねえ。

H教授―それは傍証とはいえない。それは温暖化の原因じゃなく、自然現象としての温暖化の結果だという説を彼らは唱えているからね。詳しい理屈は忘れたけど。

Aさん―へえ? そういう屁理屈もあるんですか。じゃあセンセイの言う“傍証”ってなんなんですか。

H教授―産業界は総じて──原子力業界を別にすれば──、温暖化対策なんて歓迎しないはずだし、現に環境税の導入や国内排出権取引制度の構築に猛反対しているよねえ。
だとすれば、この説に見込みがあるのなら、産業界がこういう説のスポンサーになってどんどん研究費を出して、学会誌などで研究発表していけばいいじゃないか。なのに、まったくそうはなっていないということが、この説がピント外れだという最大の傍証だと思うな。

Aさん―なあるほど。あとは、温暖化そのものは認めるけど、温暖化対策は否定する立場の人たちですね。

H教授―温暖化は人為的な原因で起きているのは事実だが──いかにも口先だけって感じがありありなんだけど──、対策は不要だという論者だ。
日本ではネットが中心だけど、アメリカなんかじゃこういう立場にたつ大衆ジャーナリズムが結構あるらしい。読んだことはないけど。

Aさん―センセイ、コトバづかいは正確に。「読めないけど」と言わなくっちゃ。

H教授―う、うるさい。
で、これにはいろんなバリエーションがある。
いつだったかプーチンさんが「わが国は寒い国だから温暖化は歓迎だ」と言ったことがあるし、農業生産にはいいところだってあるだろう。つまり温暖化のプラスマイナスを計算すればマイナスにならないという説がその一つだ。

Aさん―温暖化好影響論ですね。他には?

H教授―マイナスはマイナスだろうが、たかだか2度や3度上がるくらいだったら、それほど大したマイナスにはならないという温暖化軽視論者もいる。
全球平均で2〜3度ということは、影響を著しく受ける地域では5〜6度も上がることだってあり得るということに気づいてないのか、わざと無視しているのか、それが日本じゃなければそれでいいと考えているのか知らないけどね。
あとはどんな排出抑制対策を取ったって、温暖化を高々数年遅らせるぐらいの効果しかない。それくらいだったら悪影響が現に出だしてから堤防を築くだとかの「適応策」を打てばいいし、排出抑制対策に必要な巨大な経費を、新エネルギーの技術開発や途上国が緊急に必要としている貧困対策だとかに充てた方が費用対効果がいいという有象無象のロンボルグ【9】信者が山ほどいて、最近の反温暖化対策論はこちらが主流のようだ。
中には温暖化など大した問題じゃないが、原油が枯渇すれば大変だから、省エネルギーをもっと進めるべきだし、そのために炭素税をとるべきだなどという論者もいて、まったくバラバラだな。

Aさん―じゃあ、反温暖化対策論者にもいろんな考え方があって、彼らは彼らの間で百家争鳴というか、内ゲバしているんじゃないですか。

H教授―はは、それが普通だよね。ところが不思議なことにボクの見た範囲内では、反温暖化対策論者間ではまったくそういう論争などないみたいだ。「温暖化を煽る環境省とメディア憎し」「京都議定書ナンセンス!」でお互いにエール交換しているみたいだから、あきれちゃうよ。
【9】 ロンボルグ
第12講(その2)「ロンボルグの波紋」

Aさん―ふうん、でもIPCC第一作業部会報告が承認されたり、スターンレビューが出されたりしたんだから、彼らの命運は尽きたんじゃないですか。

H教授―いやあ、余計に意気軒昂みたいだぜ。年内には温暖化の影響などについてのIPCC第二作業部会の報告書が出るはずだけど、そうなればもっと盛んになるかもしれない。
ただねえ、ボクらが考えなくちゃいけないのは、こういう雑多な反温暖化対策論者がネット世界でかくも跳梁跋扈しているのはなぜかということだ。
ひょっとすれば産業界や経済官庁だけでなく、われわれ国民自体が、温暖化など起きていないかもしれないし、起きたとしても大した問題じゃないんだと思い込みたい気持ちがどこかにあって、それが反映しているんじゃないかなあ。
いずれにせよ、温暖化問題が典型的だけど、さまざまな社会的な問題は、はじめに予断というか結論ありきでスタートし、そのための都合のいいデータだけ集めれば、どんな結論でも出せちゃうようなところがあるということを忘れちゃいけない。

Aさん―はいはい、十分心します。
H教授―キミの場合はオトコの問題だってそうだ。はじめに予断を持ってしまい、それに合う面しか見ようとしないと、最後は悲劇が待っているんだということを忘れちゃいけない。

Aさん―いえいえ、ワタシの場合はもはや悲劇じゃなく茶番劇【10】ですから(軽くいなす)。
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【10】 もはや悲劇じゃなく茶番劇…
第24講(その1)「COP10 ─コップの中の嵐」
もし地球が寒冷化したら…

H教授―ところで一つキミに聞いておこう。
自然現象として地球が周期的に寒くなったり暖かくなったりすることがあるよね。
短い現象で言えば例えばエルニーニョ、ラニーニャだとか北極振動とか言われているものだ。
何千年、何万年とかいう長期の単位になれば、氷河期だとか間氷期だとか言われるような事象がある。
IPCC第一作業部会の報告では、ここ数十年は長期の自然現象としての温暖化・寒冷化は顕著なものは認められていないし、これからも数百年のオーダーではそうしたことはないみたいだけど、もし、遠い将来、自然現象として地球が寒冷化する、つまりこれから氷河期に向かうことがはっきりしたら、ヒトはどうしたらいいんだろう。

Aさん―化石燃料をどんどん使い温室効果ガスを人為的に出して、寒冷化をストップさせるべきかどうかということですか。そんな現実性のない話をしたって仕方がないじゃないですか。自然現象としての寒冷化と人為の温暖化とじゃあ、そもそも進み方の時間の単位も違うでしょうし。
H教授―そりゃそうなんだけど、一方じゃ、遠い将来海洋大循環がとまって急激に寒冷化するかもしれないなんて話もあるから【11】、あえて思考実験として聞いているんだ。

Aさん―うーん、寒冷化がストップできるんならいいんじゃないですか。

H教授―つまり寒冷化をストップさせるためには、積極的に温室効果ガスの人為的な排出をするべきという説だな。

Aさん―センセイは違うんですか。
【11】 海洋大循環の停止と急激な寒冷化の可能性
第43講(その1)「温暖化から一挙に寒冷化?」

H教授―万一、数十数百年という短期間で急激な寒冷化が自然現象として起こるんなら「適応策」は必要だろうが、それでも人為的に大気の組成を変えるようなことは、例えできたとしてもするべきじゃないというのがボクの立場だ。
多分、そのときは圧倒的少数派になっちゃうだろうと思うけどね。
どちらが正しいというのじゃなくて、価値観の問題かも知れないけど、人為でそこまでやるのはヒトの傲慢だと思うし、思わぬ副作用―それも激甚な──があるかも知れない。
もっと大自然に対して謙虚であるべきだと思う。

Aさん―ふふ、センセイは教え子に対してもっと謙虚であるべきだと思いますけどね。
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(平成19年3月4日執筆、同年3月6日編集了)
註:本講の見解は環境省およびEICの見解とはまったく関係ありません。
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