環境庁(当時)の職員から大学教授へと華麗な転身を果たしたH教授が、環境にかかわる内外のタイムリーなできごとを、環境行政マンとして過ごしてきた経験に即して解説します。
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第52講「独断と偏見のキューバ社会論」
第51講『キョージュ、「拡大」国内排出権取引制度を論じる』
第50講「我、疑う故に我あり ──反温暖化対策論考」
第49講「IPCC第四次報告書と生物多様性保全」
第48講「2006年の総括と2007年の展望 ―附:ハワイ秘話」
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No. 第51講『キョージュ、「拡大」国内排出権取引制度を論じる』
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Issued: 2007.04.05
H教授の環境行政時評(第51講 その4)
低炭素社会に向けて ──拡大排出権取引

Aさん―それはそうと、環境省と国立環境研究所が「40年後にはCO2を7割削減することが可能」って、発表したそうですね。

H教授―詳しくは知らないけど、「脱温暖化2050プロジェクトチーム」がまとめたものだね【10】
人口減や合理的なエネルギー利用によるエネルギー需要減、需要側でのエネルギー効率改善により、2050年までに日本のエネルギー需要の40〜45%削減が可能と推定。これと供給側での低炭素エネルギー源の適切な選択、エネルギー効率改善の取り組みを合わせて、「豊かで質の高い低炭素社会を構築し、日本が主要温室効果ガスであるCO2の排出を、2050年までに90年比で70%を削減することは可能」と結論したそうだ。
技術革新を前提にしているし、確かにそのポテンシャルはあるんだろうけど、それを発揮させるような価値観や社会システムの方の改革がなければどうにもならないと思う。
そして今年度も来年度も、そういう意味ではびっくりするような大きな変化はないと思うよ、残念だけど。

Aさん―だって、安倍サンの「美しい国」に関連しての「21世紀環境立国戦略」も夏には決まるそうだし【11】、超長期の低炭素社会のビジョンづくりもそのプロジェクトチームの提言をベースにして審議会での検討もはじまっているようじゃないですか。

H教授―そうはいかないさ。関係各省の合意を取り付けるんだから、総論賛成だけの国民のライフスタイルの見直しを訴えて終わる、きれいごとの作文に終わる可能性が強いと思うよ。
環境税だって安倍サンの時代はムリだろう。国内的にはコイズミ改革のひずみ──格差拡大――を是正するための何かをやらなくっちゃ、内閣自体が保たないだろうから、環境税みたいな増税路線は当面取れないだろう。

Aさん―そんなあ。暗くなるようなこと言わないでください。

H教授―でもねえ、当たるも八卦、当たらぬも八卦だけど、2009年度には急展開する可能性があると睨んでるんだけどね。
【10】 2050日本低炭素社会プロジェクトチーム」の報告
地球環境研究総合推進費戦略的研究プロジェクト「脱温暖化2050プロジェクト」成果発表のお知らせ 〜2050日本低炭素社会シナリオ:温室効果ガス70%削減可能性検討〜(2007年2月15日 環境省記者クラブ、筑波研究学園都市記者会同時発表)
同上(平成19年2月15日環境省報道発表)
報告書「2050日本低炭素社会シナリオ:温室効果ガス70%削減可能性検討」
【11】 21世紀環境立国戦略
「21世紀環境立国戦略」の策定について(平成19年2月2日環境省報道発表)

Aさん―え? どんな?

H教授―その頃になればEUは京都議定書を何とかクリアできることが明白になるし、一方じゃ米国も大統領交替を機に、熱心に温暖化対策に取り組むようになるのは確実。
そうなるとお互い競争するかのようになり、第二約束期間に向けての何らかの積極的で定量的な枠組みへの合意も見えてくるだろう。
そうなると日本だけがこれまでみたいな呑気なことを言ってはいられなくなる。外圧に弱いのがお家芸だからね。

Aさん―米国のバイオエタノール転換がうまくいき出すということですか。

H教授―いや、むしろ伝統的な米国のお家芸で、SO2で実績のある排出権取引へのシフトが中心だろう。いくつかの州ですでに動き出した国内排出権取引を合衆国全体に広げて制度化すると思うよ。
またイラクで失墜した信用を回復するためにも、CDMJIに乗り出すに違いない。

Aさん―じゃあ、日本もそれにつられて環境税が導入されるってことですね。

H教授―さあ、それは特会見直しと絡んでの厄介な制度設計、それに直接の税負担をイヤがる産業界の抵抗もあって、そう簡単にはいかないだろう。
でも、そうなったとき、ボクにはそれに関する秘策があるんだ。

Aさん―へえ? どんな?
「化石燃料の輸入制限」だとか、「電気代などのエネルギー使用料の累進性」なんて夢物語はだめですよ。

H教授―「拡大国内排出権取引制度」だ。大発生源にまず排出可能量つまりキャップを割り当てる。キャップを決めるのに少しもめるかも知れないが、その頃にはインベントリーも整備されているだろうし、外圧もあることだからアメも同時にセットすればなんとかなるだろう。

Aさん―そんなこと言ったって、国内企業の省エネ努力は限界に来ているらしいし、そう簡単にいかないんじゃないですか。

H教授―うん、だからキャップの決められた企業はこぞってCDMに乗り出す。今だってその兆候は出ている。

Aさん―でもCDMって海外の適当な案件発掘もそう簡単じゃないみたいだし、折衝も大変なんじゃないですか。

H教授―だから「拡大」排出権取引制度と言ったろう。つまり、国内版CDM制度が動き出す。

Aさん―はあ? なんですか、それ?

H教授―省エネが限界に来ているのはキャップが決められるような大発生源に限られるんじゃないかな。多分、それ以外の中小発生源はそれほど排出抑制策が取られていないんじゃないかな。
だからそうした中小発生源の排出抑制に協力した場合、その抑制量を協力したキャップのある大発生源の抑制量にカウントする制度を作る。
メディアもそういう企業に対しては好意的な報道をするだろうから、一気に国内CDMがブームになって、競争がはじまる。
日本は伝統的に大企業と中小企業の二重構造と言われていて、格差拡大の一因はそこにあるんだけど、それが国内CDMによって、一挙に解消に向かうかもしれない。

Aさん―…(呆然と聞いている)。

H教授―それだけじゃない。そうなるとアイデア競争になるから、中小発生源だけじゃなく、例えば熱心なNGOやコミュニティと共同しての自然エネルギー開発にも力を入れるだろう。
さらに吸収源も抑制量にカウントするようにすると、吸収源対策にも乗り出す。
これまで何度も言ってきたように、日本には戦後のスギ・ヒノキの一斉造林された人工林で今や放置林化したところがいっぱいあるし、中山間地域には休耕田畑が藪化したところもいっぱいある。
そうしたところでも企業と市民による健全な森造りがはじまる。放置林を計画的に伐採して、出てくる膨大な材はバイオマス発電にも使える。
生物多様性の回復にもつながるし、一石二鳥じゃないか。

Aさん―それをみんな大発生源の企業がやるんですか。
じゃあ行政は何をするんですか。

H教授―行政はカネがない。なんせ800兆円以上の借金を背負っているんだから。
だからキャップの決まった大発生源に関して抑制量に見合う減税をするシステムをつくるのが行政の役目。
役人はカネよりアタマを使うんだ!
その減税分を補填するための薄く広い増税をすればいいんだ。制度設計の大変な環境税――炭素税――でなくても、水源税みたいなものでもいいかもしれないし、税金を払うのがイヤな人は、年に一日森造りの労働奉仕に代えたっていい。
そうなると市民の価値観やライフスタイルも変わってくる。
2012年、つまり京都議定書の第一約束期間の最終年度には一気に大幅カットできて、国際公約をクリアできるかもしれない。

Aさん―センセイ、冗談も過ぎますよ。まるで夢物語。ひょっとすると熱があるんじゃないですか(額に手を当てようとする)。

H教授―こらこら、逆セクハラだぞ。
まあ、いいじゃないか。今日は4月1日、つまりエイプリルフールだ。

Aさん―…。
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(平成19年4月1日執筆、同年同月4日編集了)
註:本講の見解はEICおよび環境省の見解と一切関係ありません。
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