環境庁(当時)の職員から大学教授へと華麗な転身を果たしたH教授が、環境にかかわる内外のタイムリーなできごとを、環境行政マンとして過ごしてきた経験に即して解説します。
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第53講「今後の国立・国定公園のありかたをめぐって」
第52講「独断と偏見のキューバ社会論」
第51講『キョージュ、「拡大」国内排出権取引制度を論じる』
第50講「我、疑う故に我あり ──反温暖化対策論考」
第49講「IPCC第四次報告書と生物多様性保全」
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No. 第52講「独断と偏見のキューバ社会論」
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Issued: 2007.05.10
H教授の環境行政時評(第52講 その1)
統一地方選挙終わる

Aさん―センセイ、統一地方選も終わりましたね。都知事選については、いろいろとおっしゃりたいこともあるんじゃないですか。

H教授―(苦い顔で)いろんな人がいろんなことを言ってるからもういいよ。
それよりも滋賀県の県議会選挙で新幹線の栗東新駅【1】推進を公約にした自民党が惨敗し、少数野党に転落した。そこでこのままでは参院選も危ないとして、急遽新駅推進という方針を見直す方向で協議に入ったそうだ。

Aさん―なんだ、節操がないじゃないですか。もっと頑張ればいいのに。

H教授―選挙民の意向で簡単に方向転換するのが自民党のいい点でもある。昭和40年代半ばのシュトルム・ウント・ドランク(Sturm und Drang=独)──つまり公害国会その他の疾風怒濤の時代にも同じことが起きたんだ。
で、嘉田サン(滋賀県知事)は、脱ダムに関しては手ごわそうだとしていったん後退というか方針転換、当面は新駅の凍結一本に絞ったらしい。<一点突破・全面展開>を狙っているのかどうかは知らないが、なかなか巧妙な戦略ではある。

Aさん―ほかには?

H教授―高知県の東洋町選挙も興味深い結果が出た。
【1】 栗東新駅
新幹線新駅(仮称)南びわ湖駅整備計画の概要[滋賀県]
Aさん―高レベル核廃棄物処理場の立地調査に前町長が独断で公募【2】。それを批判されるや、いったん辞職して再出馬。町を二つに分ける選挙を展開したが、結果は惨敗。町民の意向は「核廃棄物処理場 NO!!」と出たんですね。

H教授―うん、賢明な選択だとは思うけど、前町長の判断を簡単に批判して済む問題じゃない。切り捨てられる中山間地としては年10億円のカネは魅力的だったろうからねえ。前町長だって、彼なりに地域振興のことを考えたんだろう。
結果は、札束でホッペタをひっぱたかれることを潔しとしなかった住民の意向を示すことになったんだろうけど、じゃあ地域としてどう自立していくかということに答えが出たわけじゃない。
前町長の選択は、ある意味でボクら国民に問題を突きつけたと言えるだろう。そして、町を二分した選挙戦の後遺症は大きいだろう。そのことを、例えばカネのあまっている東京都民がどれだけ自分のこととして考えているか…。

Aさん―全体として、今度の統一地方選の審判をどうみたらいいんですか。

H教授―変えなきゃいけないことはわかっているけど、どう変えたらいいかがわからず、変えることへの不安がまだまだ大きいということを示したんじゃないかなあ。
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【2】 高レベル核廃棄物処分場の立地調査応募
東洋町の応募に対する徳島県等の動き[徳島県]
放射性廃棄物 : 高レベル廃棄物処分問題の参考資料[原子力資料情報室(CNIC)]
東洋町からの応募取下げに伴う事業計画変更の認可申請について[原子力発電環境整備機構
応募取り下げ文書[徳島県東洋町]
温家宝首相来日

Aさん―ところで日中関係ですが、温家宝首相が来日【3】。ガス田の共同開発だとか中国の温暖化対策への技術協力だとか、前向きな話がいろいろ決まりましたね。タカ派だとかいう安倍サンの下馬評とは随分違うんじゃないですか。

H教授―うん、だから国際情報解説家の田中宇氏なんかは、「米国の意向でやむなくそうさせられている。米国はアジアでの覇権を重荷だとして中国を主、日本を従としてアジアを任せる戦略で、在韓・在日米軍も縮小撤退を考えている。だからこそ自立した強力な軍隊を持たせるべく憲法改正への動きが急ピッチで進んでいる」などと言っている。
ま、どこまでホントかわからないけど、お隣の大国と協調するのはいいことで、中でも温暖化対策についての技術協力は喫緊の課題だと思うな。
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【3】 温家宝首相来
温家宝・中華人民共和国国務院総理の来日[外務省]
温暖化・気候変動問題最新動向
Aさん―その温暖化、気候変動問題ですが、IPCCの第二作業部会も4月に入ってから、第四次報告書の要約を発表しましたね。第三作業部会も近々第四次報告書を発表するそうですし【4】
【4】 IPCC第4次評価報告書(AR4)と作業部会報告書
IPCC第4次評価報告書について[環境省]
IPCC第4次評価報告書作成に向けて[環境省]

H教授―うん。IPCCでは、第四次評価報告書(AR4)に向けた新体制を2002年4月の第19回総会で成立していて、各作業部会が連続的に報告書をまとめ、統合報告書に取りまとめることにしている。
3つの作業部会は、「自然科学的根拠(The Physical Science Basis)」について評価する第一作業部会(WGI)、「影響、適応、脆弱性(Impacts, Adaptation and Vulnerability)」について評価する第二作業部会(WGII)、「緩和策(Mitigation of Climate Change)」についての評価と横断的事項の方法論的側面の評価を行う第三作業部会(WGIII)だ。
「影響・適応・脆弱性」について論じる第二作業部会では相当の激論があったようだったが、すでに地球の自然環境は温暖化の影響を受けていて、それは人間社会にも影響を及ぼしていることを明確にした。第三次報告(TAR)の「影響は地域的・部分的に出始めた」という記述よりは明らかに影響が大きくなったことを示唆している。
そして、水不足が将来顕著になるだろうということ、全生物種の2割から3割が絶滅する可能性があること等々深刻な事態にあることを明記した。その上で、そういう悪影響はまず途上国が受けるだろうとしている。つまり加害者が先進国で被害者が途上国だという、加害―被害関係が明確なかつての産業公害型の構造と同じだ。
温度上昇はそういう各種の悪影響をもたらす一方で、2℃上昇するまでは潜在的食糧生産量は全体として増加し、それ以上になって減少に転じるという原案だったんだけど、2℃は1〜3℃と変更された。また気候変化による影響の損失が便益を上回る分水嶺は原案は2℃だったが、それが2〜3℃に修正された。まあ、この辺りはさまざまな国益も絡んで、揉めたところなんだろうなあ。
いずれにせよ従来の緩和策、すなわち排出抑制を強めるとともに、適応策の強化を打ち出したのも特徴だ。

Aさん―で、それと時を同じくして、米国連邦最高裁の重大な判決が出ましたね。

H教授―うん、連邦政府がCO2規制をしないのは違憲であると判決を出した。米国の自治体でもCO2規制をしようというところが続出しているみたいだし、愚かなイラク戦争のツケに苦しんでいるブッシュさんは任期中に大転向して、CO2の規制導入や京都議定書復帰を宣言するかも知れないなどという観測まで出だす始末だ。事実、訪米中の安倍サンとの共同声明でもGHG濃度の安定化を目指すとまで言い切った。

Aさん―乾坤一擲の大勝負というわけですか。

H教授―そうなればいいけど、ボクはやはり任期中は京都議定書復帰はムリだと思うな。最高裁判決も無視を決め込むんじゃないかな。日本の水俣病の判断基準みたいに。
ただ、次期大統領がオバマさんになるにしてもヒラリー夫人になるにしても、米国の政策大転換が起きるのは必至だと思う。

Aさん―米国初の黒人系大統領か、初の女性大統領ってわけですね。いずれにせよ米国の歴史に新しい1ページが加えられそうですね。
でもその反面、お隣のカナダでは早々と京都議定書目標の達成は不可能との判断を明快にしました。

H教授―カナダは日本と同じ90年比△6%が京都議定書の割当目標。だが実際には04年で90年比27%増加となっている。だから到底不可能と居直っちゃったんだろうな。その代わり2020年までには06年比で△20%にすると言ってるけど、それが達成されたとしても90年より相当に増えてしまう。まあ、正直といえば正直なんだろうけど、ちょっとねえ。

Aさん―日本は達成可能だと、いまだに言ってますが…。

H教授―現実には達成は困難だと思うから、達成不可能と言い切っちゃってもいいと思うけど、居直っちゃダメだな。ペナルティを受け入れ、ポスト京都議定書がどうなろうとも2020年とか2030年をターゲットにして、90年比2割とか3割カットといったよりハイレベルの目標を明示し、そのための政策手段を同時に明らかにするってのなら話は別だが。
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安倍サンの「環境立国戦略」雑考
Aさん―ま、それはともかくとして、それとほとんど同時期に安倍サンの言い出した「環境立国戦略」の論点整理ペーパーが出されましたね【5】。読まれましたか?

H教授―うん、環境省のホームページに出ている。そもそもが「立国戦略」というものと違うんじゃないかなあという思いが拭えなかった。中央環境審議会に26名の特別部会を設置。委員の意見をもとに事務局が案を取りまとめたものだと思うけど、そうなるとどうしても総花的になって、立国戦略、つまり日本が環境でメシを食うために何をしなきゃいけないかっていう具体的な戦略作りには向いてないと思う。
誰か強烈なカリスマが独断と偏見で処方箋を書くのでない限り、総花的になってしまい、抽象的なビジョンとそれに向けての定性的な方針だけしか書けないんじゃないかな。
だったらいっそのこと、コンペ方式にすると面白いと思うけどねえ。

Aさん―それはともかくビジョンとしてはどういうことを言ってるんですか。

H教授―21世紀中に日本の目指す社会は、低炭素社会・自然共生社会・循環型社会であるべきだということのようだ。まあ、このことには異論はないし、産業界だって、経済官庁だって反対はしないだろう。
ただ、具体的なビジョンとして低炭素社会を言うなら、現在よりどの程度低炭素化させるのかってことぐらいは言わなきゃいけない。だけど、そうなると論点整理ペーパーを見る限りは、両論併記──つまりEUのような半分カットというような意見と、実現可能かどうかわからないことは言うべきでないという意見が併記されることになってしまう。
「立国」はともかくとして「戦略」というからには、じゃあポスト京都議定書の枠組みはどうするのか、国内排出権取引制度はどうするのか、環境税はどうするのか、という部分をクリアにしなければいけないけど、そうしたところはすべて両論併記になっている。
各省の合意を得てのビジョンなんて言ってたら、いつまで経ってもダメなような気がするなあ。
【5】 21世紀環境立国戦略
21世紀環境立国戦略[環境省]
「論点整理(案)」(平成19年3月29日中央環境審議会21世紀環境立国戦略特別部会)

Aさん―なんだか随分悲観的ですね。

H教授―結局、呉越同舟なんだろうなあ。官邸や永田町とすれば、とにかく参院選挙に向けてPRできるようなものを作ればいいということだろう。だが環境省としてはこれになんとしてでも環境省の悲願──例えば将来社会は50%低炭素社会だといった定量的な事項や、EPR原則を明記したいだとか思うだろうし、各省としても自省でやりたいことを盛り込むとともに、やりたくないことはなんとか抽象的な美辞麗句で留めたいだろう。
結局は安倍さんのリーダーシップにかかってくるんだと思うんだけど、このまま行けば一見積極的だけど、何とでも読めそうな美辞麗句の羅列に終わりそうな予感がしないでもない。
例えば、自然共生社会を謳うなら、もはや人口が減少し出したんだから、新規の埋立やゴルフ場の原則禁止だとか、パンチのある政策を打ち出してほしいよ。でも、それにはよほど強力なトップのリーダーシップがないとダメだと思うよ。
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