環境庁(当時)の職員から大学教授へと華麗な転身を果たしたH教授が、環境にかかわる内外のタイムリーなできごとを、環境行政マンとして過ごしてきた経験に即して解説します。
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第54講「猛暑を前に激動の環境行政あれこれ」
第53講「今後の国立・国定公園のありかたをめぐって」
第52講「独断と偏見のキューバ社会論」
第51講『キョージュ、「拡大」国内排出権取引制度を論じる』
第50講「我、疑う故に我あり ──反温暖化対策論考」
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No. 第53講「今後の国立・国定公園のありかたをめぐって」
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Issued: 2007.06.07
H教授の環境行政時評(第53講 その3)
最近の話題3 ──水俣病のダブルスタンダード問題

H教授―今まで何回か話したけど【11】水俣病の判断基準は行政と司法、つまり環境省と最高裁で異なる見解を示していて、ダブルスタンダードになっている。
「環境省の基準は水俣病の基準で、最高裁の方は有機水銀中毒の基準だから別に矛盾していない」などという三百代言みたいな話もあったけど、このほど最高裁で有機水銀中毒患者だとして賠償が認められた水俣病不認定患者が、政府に不認定処分を取り消すよう大阪地裁に行政訴訟を起こした。
最終決着がこれでつけばいいんだけどねえ。

Aさん―だって、最高裁の判例が出てるんだから、そんなの簡単に決着つくんじゃないですか。

H教授―さあ、原告は81歳という高齢。国が一審で敗訴しても最高裁まで争う気なら、時間切れになるおそれなしとは言えないだろう。硫黄島帰島問題と同じだね。

Aさん―え? どういうことですか。

H教授―以前に言わなかったかなあ。昨年から映画の世界ではブームになった硫黄島だけど、実はあそこには戦前1,000人以上の住民がいて、戦争中に強制移住させられちゃったんだ。アメリカから返還された今は米軍と自衛隊の基地しかない島になっているんだけど、旧住民たちが帰島させてくれと政府に陳情している。
【11】 水俣病のダブルスタンダード
第45講(その2)「水俣病懇談会の提言
第40講(その2)「50年その1 ―水俣病、カネミ油症」
第39講(その4)「水俣病再説」
第28講(その1)「水俣病新救済策発表」
第22講(その3)「時評4 ─水俣病関西訴訟最高裁判決」

Aさん―至極もっともな話じゃないですか。

H教授―まあねえ。だけど徹底的に破壊され尽くした島だ。帰島を認めると、本土との交通だとか学校だとか医療だとか日常の買い物だとか、あらゆるインフラ整備が必要になってくるから、おいそれと認めるわけにはいかない。
だから考え付いたのが引き伸ばし作戦。つまりそういう面も含めて多角的な調査が必要だから待ってくれというわけだ。
何年も何十年も調査を続けているうちに、元島民たちはどんどん亡くなっていくだろうし、二世たちは今さら戻ろうなんて気を起こさないだろうから、その時点で土地を買収すればいい。そうすれば厄介な難題の片が付く。

Aさん―へえ、センセイ、妙なこと知ってますねえ。環境省なんて関係ないんでしょう。

H教授―確か当時の総理府だか国土庁だかが仕切っていたと思ったんだけど、そこからの要請でボクも30年ほど前にその調査団の一員として硫黄島に自衛隊機で渡ったことがあるんだ。観光開発のフィジビリティスタディって奴だ。

Aさん―ヒドーイ。自分はそれを利用してちゃっかりと硫黄島に行ったんだ。
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最近の話題4 ──光化学スモッグと越境大気汚染

H教授―さ、次の話題だ。最近また光化学スモッグの観測頻度が増えてきているんだけど、その原因は中国からの越境移動だとわかったというニュースが出ていた。

Aさん―中国からやってくるのは黄砂だけじゃなかったんですね。
ところで、光化学スモッグの大半はオゾンですよね。

H教授―うん、正確に言うと、光化学スモッグ被害は光化学オキシダントと言われている物質群の濃度が高いときに生じる。そのオキシダントの大半がオゾン。オキシダントは窒素酸化物炭化水素類が大気中で光化学反応を起こすことで生じる。その大陸で生じたオキシダントが偏西風に乗って日本にやってきているということがシミュレーション実験などで明らかになったそうだ。
まあ、オキシダントは自然条件でもときに環境基準程度なら越すことがあるけど、大陸からの越境移動で注意報レベルの濃度が出現することもあるようだ。
また、窒素酸化物や硫黄酸化物はガスなんだけど、それが大気中を長距離移動しているうちに、一部が水に溶けて硝酸や硫酸になる。つまり酸性雨になって日本に降り注ぐってわけで、こちらの方はもう20年以上前から言われていた。

Aさん―じゃあ、ますます中国にしっかりと公害対策をやってもらわなきゃいけないですね。脱硫、脱硝、VOC対策、それにCO2対策で省エネも必要だし。日本の「技術」の出番じゃないですか。

H教授―うん。こういうのを long-range transportation、訳せば「長距離輸送」という。特に国境を超える場合には越境大気汚染とか呼ばれている。酸性雨の場合だと、米国からカナダ、EUの工業地帯から北欧などの例がよく知られている。
それとねえ、こういう越境汚染を引き起こすということは、それ以前に汚染物質の発生地域ですごい大気汚染がある可能性が高いということに注目しておいた方がいい。中国じゃあ酸性雨のことを「空中鬼」と呼んでいると言うんだけど、酸性の雨だけでなく、直接の亜硫酸ガス曝露もヒドイんじゃないかな。日本が半世紀前に経験したことだ。同じ轍を踏まないようにしてほしいね。

Aさん―でも、その全部が日本に来ているわけじゃないですよね。むしろ大半が海に落ちているんじゃないですか。海の方に影響はないんですか。

H教授―(虚をつかれて)うーん、そうだなあ。温暖化は海の酸性化を進行させるって話もあったよなあ。どの程度の寄与かはしらないけど、それをさらに促進させる可能性も考えなくちゃいけないね。今度専門家に聞いてみるよ。
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国立・国定公園の見直しと生物多様性保全
Aさん―さ、いよいよ本題です。
国立・国定公園の指定及び管理に関する検討会の提言はいかがでしたか。

H教授―戦前の国立公園法を発展的に解消し、自然公園法を制定して今年で50年になる。その間に自然公園をめぐる社会の変化はすさまじいものがあるので、もう一度原点に立ち返って考え、問題点を洗い出し、今後の方向性を模索しようという趣旨で、昨年10月に外部の有識者による検討会が発足、指定に関する分科会と管理運営に関する分科会の二つを設けて検討を重ねてきた。その提言が今年の3月にまとまり、公表されたわけだ【12】
実は検討会発足前に内々の問題点の洗い出しのようなものがあり、ボクなんかもヒアリングを受けたことがあるんだ。

Aさん―はいはい。それでその提言の中身はどうなんですか。
【12】 国立・国定公園の指定及び管理に関する検討会 提言
「国立・国定公園の指定及び管理運営に関する提言について ─時代に応える自然公園を求めて─」(平成19年3月9日環境省報道発表)
「国立・国定公園の指定及び管理運営に関する検討会」

H教授―指定の方では、現代のニーズに適合しているかという話があった。
つまり、かつては絶景ともいうべき大自然が自然公園の中心だったけど、今じゃ生物多様性の保全とか里地里山の保全のようなニーズも出てきて多様化していて、そのニーズに応えるべきだというのが最初の提言。
対応すべきものとして挙げられているのが「照葉樹林」「里地里山」「海域」だ。また、具体的な地域として奄美群島の国定公園から国立公園への昇格や、沖縄本島「やんばる地域」の国立公園化などを挙げている。
どれももっともだと思うけど、地域社会がそれを受け入れるかどうかだな。
それと海域は海中公園地区以外は規制がきわめて弱い普通地域としての指定しかできなかった。これをなんとかしたいというのが昔からの願望だったけど、各省のガードが固いからてこずるかもしれない。

Aさん―提言はそれだけですか。

H教授―いや、二番目は「国民の利用」の視点に立った指定をと言っている。
自然公園の存在の意義や多面的な役割をもっと国民にわかりやすく発信すべきで、その観点から区域の見直しを行なってわかりやすい公園をつくるべきだと提言している。

Aさん―なんだかよくわからないな。

H教授―公園を原生自然型、人文景観型のようにタイプ別に分け公園の特色を明確にするだとか、あるいは2つ以上の地域―ボクらは昔は「団地」と呼んだんだけど―をまとめて一つの公園とすることの妥当性を検証しろということのようだ。
例えば「富士箱根伊豆国立公園」というのがあるけど、富士山と箱根と伊豆半島と伊豆七島を一つにまとめていいのかということだ。

Aさん―そんなのいっぱいあるじゃないですか。でも、そもそもどうしてそういうふうになったんですか。

H教授―昭和30年当初まで、当時の厚生省は、国立公園は20程度が適当だと考えていたらしい。国立公園の指定要件もかなり厳密だったようだ。国立公園はムリだということで国定公園にしようとしたところも多いけど、この頃から観光開発が活発化していて、指定陳情が激しく、政治的な動きにまでなり、結局はこのような動きに押し切られて国立公園が増えてしまったんだ。しかし、国を代表するはずの国立公園が50も60もあるというのはおかしいというので、国立公園にする場合は近傍の既存の国立公園に無理矢理くっつけちゃったらしい。
また、その後も、地方からの陳情があって、国立公園や国定公園にしたところも多いけど、単独じゃちょっとスケールが小さすぎるというので、いくつかの地域をまとめて一つの公園をつくったりしたんだ。旧厚生省や旧環境庁にしたって自然公園の区域が広がることは基本的にウェルカムだったしね。
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