環境庁(当時)の職員から大学教授へと華麗な転身を果たしたH教授が、環境にかかわる内外のタイムリーなできごとを、環境行政マンとして過ごしてきた経験に即して解説します。
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第55講「政治の空白に直面する環境政策―と標題だけは大げさに」
第54講「猛暑を前に激動の環境行政あれこれ」
第53講「今後の国立・国定公園のありかたをめぐって」
第52講「独断と偏見のキューバ社会論」
第51講『キョージュ、「拡大」国内排出権取引制度を論じる』
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No. 第54講「猛暑を前に激動の環境行政あれこれ」
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Issued: 2007.07.05
H教授の環境行政時評(第54講 その1)
消えた年金記録

Aさん―センセイ、宙に浮いた年金がなんと50,000,000件ですって。あきれちゃいますねえ。

H教授―うん、おかげで、せっかくの官邸・環境省タッグの「美しい星50」だとか「21世紀環境立国戦略」も霞んじゃったものな。
ま、この話はあとでするとして、この年金の件では、民主党の議員が随分前から社会保険庁に資料を出せ出せと突いていたんだけど、なかなか出そうとせず、全貌がおぼろげに見えてくるのに半年もかかったらしい。
昔と違い、今じゃどの役所もホームページを設け、情報公開に熱心みたいだけど、一皮向けばその隠蔽体質は変わらないねえ。そしてこれがようやく明るみに出たんだけど、実は社会保険労務士の間では公然の秘密、いわば常識だったと聞いて、驚いちゃったよ。

Aさん―国民が怒るのは当たり前ですね。で、ボーナス返納のパフォーマンス…。

H教授―そんなの、制度設計の話で、マジメに働いている職員には何の罪もないじゃないか。制度設計を最終的に承認したのは国会だ。参議院選挙向けのくだらないミエミエのパフォーマンスはやめてほしいね。そんなことしたって国庫に返納されるだけで、喜ぶのは財務省だけだ。
それ以上に現在の年金制度は人口が増大し続け、経済が成長し続けるという前提の下で設計されているんだけど、人口減少時代に入ったんだから、破綻は必至なんだ。
小手先のテクニックではどうにもならないことを知っておいた方がいい。

Aさん―また、そんな実も蓋もないことを。そうか、センセイはしっかりと年金を貰っているからそんなことをのほほんと言ってられるんだ。

H教授―冗談じゃない。ボクより十年くらい上の世代までは、どんな高収入であっても年金を満額貰ってるんだけど、ボクらは一定以上の収入があれば基本的に全額カットだ。生きているうちに満額もらえるようになるかどうかも怪しいんだぜ。
(段々怒りがこみ上げてくるのを抑えて)まあこの話はここまでにしておこう。ここは環境行政時評だからな。
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温泉の爆発事故
Aさん―ところで環境行政マターかどうかわからないですが、先日、渋谷の一等地にある日帰り温泉で天然ガスが爆発する事故がありましたね。事業者に責任があるのは当然ですが、行政の方には責任はないんですか【1】

H教授―建前だけでいくと行政は法を執行する立場で、法の不備は立法の責任だということになる。ま、実際には立法も政府提案が大半だから、道義的な責任は免れないだろう。
この事故の場合、温泉掘削の際、炭化水素を主成分とする天然ガスが同時に出てきているのに、それをきちんとチェックしていなかったみたいだ。
【1】 渋谷区の温泉施設における天然ガス爆発事故と、その後の対策について
温泉の採取場所等における可燃性ガスによる事故防止のための緊急対応について(平成19年6月20日環境省報道発表)
温泉に関する可燃性天然ガス等安全対策関係省庁連絡会議の設置について(平成19年6月27日環境省報道発表)

Aさん温泉法にはそういう規制はないんですか。

H教授―なかった。そもそも温泉法は「温泉を保護しその利用の適正を図る」ことを目的としている。ご丁寧なことに第二条の温泉の定義のところには「温水、鉱水及び水蒸気その他のガス」としておきながら「その他のガス」のあとに括弧して「炭化水素を主成分とする天然ガスを除く」とわざわざ明記までしてある。

Aさん―どういうことですか。

H教授―天然ガスは鉱業法の対象となっている。だから、天然ガスの採掘を省いたんだ。温泉掘削のとき、可燃性の天然ガスが出てくることまで立法の時点ではカウントしてなかったんだろうなあ。
厚生労働省の労働安全衛生法では爆発、火災等の防止のための規制はあるが、想定しているのは、化学工場のプラントなどだ。
関東平野の南部では「南関東ガス田」と呼ばれる天然ガスを大量に含む地層があって、掘削して湧出する温泉にはメタンなどの可燃性の天然ガスが含まれていることが多いらしい。温泉によってはそうした天然ガスをきちんと鉱業法の許可を取って、加温に使ったりしているところもあるというから、あの温泉の事業者の責任は大きいのはもちろんだけど、行政も批判されて当然だろうなあ。
自治体や国の出先機関などでも行政指導でいろいろやってるケースもあったみたいだけど、きちんとした規制がなかったのは事実のようだから。

Aさん―環境大臣は温泉法の欠陥だと指摘していましたし、環境省は都道府県にあわてて指導通知を出したようですが、もっと前になんとかならなかったんですか。

H教授―地質学者がそういう危険性をあらかじめきちんと指摘し、それを受け止める技術官僚、つまりテクノクラートが政策立案すればよかったんだ。でも、平時にはなかなか難しいんだろうなあ。

Aさん―どうしてですか。

H教授―温泉法を改正して規制を導入しようとすれば、目的規定まで変えなくちゃいけない大改正になる。
仮に学会の勧告や、国際的な規制の動き、マスコミの指摘だとかがまったくない状態では、立案したところで、省内での優先順位も低いだろうし、そこを突破できても、温泉業界の反対もあるだろう。業界にとっては余計な費用がかかるわけだから、政治家や各省に反対陳情をするだろうし、結果、各省協議でもみくちゃにされて潰される危険は極めて高い。
以前も言ったことがあるけど【2】、落としどころも見えないならば、普通の役人なら引いてしまうし、仮に不安になった市民が方々に陳情しても、「うちの権限ではない」とたらい回しされるのがオチだったかも知れない。
未然予防と口で言うのは簡単だけど、事が起こるまでは、消極的権限争いになってしまわざるを得ないことも多いんだ。

Aさん―でも地質学者ならそういう危険に気づいていたんじゃないですか。

H教授―それはそうだろうけど、研究者は研究が本命なんだ。だから、一文にもならないのに役所を走り回って説得する奇特な研究者はなかなかいないだろうし、平時に学会で勧告決議をするなんてことはあまりないんじゃないかなあ。

Aさん―なんだか情けないなあ。
【2】 役人生態学──消極的権限争い
第5講(その1)「淀川水系脱ダムの行方」
H教授―だけど、こういうことがあれば法改正もスムースに行くだろうし、温泉法だけじゃなくて、他省庁の管轄する法律だって改正するかもしれない。場合によっては「うちの縄張りだ」と積極的権限争いが始まるかも知れない。
温泉法って、ついこの間改正したばかりだけど【3】、今回の事故を受けての再改正は必至だろうな。
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【3】 温泉法の改正
第51講(その2)「今国会での話題」
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