環境庁(当時)の職員から大学教授へと華麗な転身を果たしたH教授が、環境にかかわる内外のタイムリーなできごとを、環境行政マンとして過ごしてきた経験に即して解説します。
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第55講「政治の空白に直面する環境政策―と標題だけは大げさに」
第54講「猛暑を前に激動の環境行政あれこれ」
第53講「今後の国立・国定公園のありかたをめぐって」
第52講「独断と偏見のキューバ社会論」
第51講『キョージュ、「拡大」国内排出権取引制度を論じる』
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No. 第54講「猛暑を前に激動の環境行政あれこれ」
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Issued: 2007.07.05
H教授の環境行政時評(第54講 その2)
国立公園ヌーベルバーグ

Aさん―そんなものなんですかねえ。なんか悲しいなあ。
ところで前講で国立公園の話をしましたけど【4】、あれからいくつかの話があったみたいですね。

H教授―うん、一つは日光国立公園から尾瀬とその周辺地区を独立させて尾瀬国立公園にするという話だ【5】
もともと尾瀬地区は植生なども他の日光国立公園とはだいぶ違っていて、この話は何年か前から進められてきたんだけど、夏のシーズンを前にようやく話がまとまったみたいだ。
もうひとつ、宮内庁管理の那須御用邸というのがある。ここは以前から大半が日光国立公園に入ってはいたみたいだけど、皇族以外は使えなかった。このほどその敷地の半分、570ヘクタールを環境省の管理に移して、広く国民に開放することにするそうだ【6】
尾瀬の話は数年前から小耳に挟んでいたけど、これはまったくの初耳。なんでも言い出しっぺは天皇陛下みたいだよ。うれしいねえ。

Aさん―でも、環境省はどういうふうに管理するんですか。
【4】 前講の国立公園の話
第53講(その3)「国立・国定公園の見直しと生物多様性保全」
【5】 尾瀬国立公園の独立
国立公園の指定及び公園計画の決定等に関する意見の募集について(平成19年6月5日環境省報道発表)
【6】 那須御用邸の一部移管・国民への公開
那須御用邸用地の北側地区等を国民の利用に供することについて(平成19年6月19日環境省報道発表)
御用邸(宮内庁)

H教授―那須御用邸は天然林でなくて二次林が主体らしいけど、よいところらしいよ。
環境省が地主になったんだから、一種の営造物公園としての整備と管理ができる。数年かけて、自然観察路などの利用施設の整備を進めてから、国民に開放するんじゃないかな。生態系モニタリングなどの拠点にもするそうだ。
法制度上は自然公園の利用調整地区にして、エコツアーのモデル地区にでもすればいいんじゃないかと思うけどな【7】

Aさん―利用調整地区?

H教授―2002年に自然公園法の改正でできた制度なんだけど、利用者数を制限したりして利用の適正化を図ることができる地区だ。
公園の計画には保護計画と利用計画、内容的には施設の整備と規制がある。これらが組み合わさって、保護の規制計画、保護の施設計画、利用の施設計画と利用の規制計画の4つがあることになるんだけど、従来は公園計画というと、もっぱら保護の規制計画と利用の施設計画だけだった。最近は、植生復元事業など保護施設計画もかなり見られるようになってきたが、利用の規制計画はわずかにマイカー規制が取り上げられるくらいで公園計画上はほとんど無視されているような状態だったんだ。利用調整地区制度ができて、利用の規制計画の中身ができたといえるんじゃないかな。保護規制計画上の特別地域に設定し得る地区だ。

自然公園法に基づく公園計画の分類
 利用面保護面
規制計画利用規制計画保護規制計画
施設計画利用施設計画保護施設計画
  • 植生復元事業など
【7】 エコツアーのモデル地区
エコツーリズムモデル事業(環境省)
この利用調整地区をエコツアーのモデル地区にして、質の高い利用を図れというのがボクの以前からの主張なんだけど【8】、実際には土地所有者との調整が難しく、やっと先日、吉野熊野国立公園の大台ケ原の一部で指定されたのみで【9】、まだほとんど指定がされていない。
エコツー推進法【10】も今国会では成立したみたいだし、この那須御用邸敷地と尾瀬地区を全域利用調整地区にすることで、日本の国立公園史に新しい1ページを開いてほしいねえ。

Aさん―え? 尾瀬国立公園も利用調整地区に、ですか。

H教授―うん、尾瀬の方は大台ケ原と同じ雄大な原生的自然。那須の方は良好な二次林で、性格は違うけど、多様性の時代だ。いろんな利用調整地区があったっていいだろう。
もともと尾瀬は東京電力の土地と国有林、それに若干の環境省所管地で構成されているんじゃなかったかな。昔は尾瀬ダム構想なんてのがあったけど、今じゃ東電だってそんなことは考えておらず、国立公園管理に協力的だ。だから、環境省が林野庁や東電に働きかけて合意が取れれば、全域を利用調整地区にすることだって可能だろう。
以前、大国立公園という考えを話したことがあるけど【11】、その第一歩につながるという考え方も成立するかもしれない。尾瀬を独立の国立公園にするからには、このくらいの目標を掲げてほしいと思うのはボクばかりじゃないと思うけどね。

Aさん―その場合、入園料は取るんですか。

H教授―うん、国立公園の利用調整地区では、立ち入りには環境省か指定認定機関の認定が必要だし、手数料の納付も必要になる。利用者負担という考え方からすれば当然そうなるだろう。ツアーガイド付きの入園しか認めないなら、ツアー会社からまとめて取ればいい。
尾瀬全域はちょっと難しそうだから、それに代わる簡便な方法を考え出さなきゃいけないね。
ま、いずれにせよいろんなステークホルダーの意見を広く聞いて、いい公園づくりをやってほしいと思うよ。
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【8】 利用調整地区をエコツーリズムのモデル地区へ──キョージュの持論
第41講(その4)「自然公園体系の課題と展望」
【9】 大台ヶ原の「西大台利用調整地区」
吉野熊野国立公園 大台ヶ原
 【通知】吉野熊野国立公園西大台利用調整地区の立入認定申請の受付開始(2007.06.12 近畿地方環境事務所)
吉野熊野国立公園大台ケ原「西大台利用調整地区ガイド」
吉野熊野国立公園西大台利用調整地区における利用調整の期間及び利用者の人数の範囲等を定める告示についての意見の募集について(平成19年4月19日環境省報道発表)
大台ヶ原自然再生ホームページ「西大台利用調整地区の指定について」
【10】 エコツー推進法
第41講(その4)「エコツーリズム推進法案」
【11】 キョージュの大国立公園構想
第7講(その4)「レンジャーの現在と将来」
ツボカビ、ホワイトシンドローム

Aさん―あと、自然関係では以前お話されていたツボカビ症が国内の野生のカエルからも発見されたという記事がありましたねえ【12】

H教授―うん、昨年、ペットショップのカエルから発見されて危惧されていたけど、ついに野生種にも及んだ。現行法制では対応が難しいそうだけど、緊急に対応策を打つとともに、そのための法整備と予算措置も大至急進めてほしいね。たかがカエル、されどカエル。このまま放置しておけば、大変なことになりかねない。
ま、この件では国際的な問題になっているし、環境省もいろいろ検討していると思うけどね。

Aさん―それだけじゃなくて、サンゴにホワイトシンドロームという奇病が見つかったなんて記事も出ていましたね【13】

H教授―以前から、サンゴは海水温の上昇など外的環境の変化が起こると、組織内に共生する藻類を追い出すか逃げ出すかしていなくなってしまうことが知られている。共生藻類は、光合成をしてサンゴに栄養分と酸素を供給しているから、長期に渡って共生藻類が戻らないとサンゴは死滅する。これが白化現象だ。
エルニーニョだけでなく、温暖化でもすでにかなりのダメージを受けているらしい。
今回報じられたホワイトシンドロームは感染症らしいんだけど、原因は不明。ただ、やはり海温上昇が関係しているようだから、温暖化対策を至急打たねばならないし、ホワイトシンドロームについても緊急に調査してほしいね。
ホッキョクグマはこのままいけば遠からず絶滅は避けられないんじゃないかと言われている。豊かな海のパラダイス、サンゴ礁だってこのままいくと赤信号。
温暖化対策は経済に悪影響を及ぼすなんて議論は、もういい加減にしてほしいよね。

Aさん―本当に、行政がやるべきことは次から次と出てきますよね。でも一方じゃ、というか、総論部分では役人をもっと減らせだとか、小さな政府だとかいろいろ言われていますよね。どう考えればいいんですか。
【12】 ツボカビ症
第49講(その3)「気候変動の生態系影響とツボカビ」
【13】 ホワイトシンドロームの脅威
国際サンゴ礁研究・モニタリングセンター ニュースレター Lagoon, No.7, 2006.9
H教授―自治体のやっている環境基準の常時監視【註】でもSO2COに関してはもはや大半が不要だと思う。環境省や各省でも、そういう部分があるはずなので、業務内容を見直して、節減した財源を自前で機動的に使えるようにしてほしいよね。
ましてや今国会の会期を延ばして参院選も先延ばしにしたなんてのはとんでもない話だ。それだけでウン億円のカネがかかるらしいじゃないか。宙に浮いた年金だとか住民税増税だとかで、自民党の苦戦は必至なんだから、党利党略での姑息なあがきはやめて、選挙後にじっくりと百年の大計を議論してほしいね。
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【註】 環境基準の常時監視は、すでに自治体の法定受託事務として税源移譲されているとのご指摘をいただきました。訂正させていただきます。
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