環境庁(当時)の職員から大学教授へと華麗な転身を果たしたH教授が、環境にかかわる内外のタイムリーなできごとを、環境行政マンとして過ごしてきた経験に即して解説します。
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第55講「政治の空白に直面する環境政策―と標題だけは大げさに」
第54講「猛暑を前に激動の環境行政あれこれ」
第53講「今後の国立・国定公園のありかたをめぐって」
第52講「独断と偏見のキューバ社会論」
第51講『キョージュ、「拡大」国内排出権取引制度を論じる』
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No. 第54講「猛暑を前に激動の環境行政あれこれ」
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Issued: 2007.07.05
H教授の環境行政時評(第54講 その3)
IWC年次総会顛末
Aさん―そうそう、生物ネタといえば、IWC(国際捕鯨委員会)の第59回年次大会が米国のアンカレッジで開かれたけど、またもや日本の主張は通らず、IWC脱退も示唆したそうじゃないですか。

H教授―うん。実は、反捕鯨団体の過激な調査捕鯨への妨害活動に対して加盟国は責任ある対応を取るべきだとの日本の動議は可決されたし、先住民生存のための捕鯨枠の更新・拡大は可決されたんだ。
だけど、ミンク鯨などの日本の沿岸小型鯨類捕鯨枠の設定は認められなかったし、そのための鯨類資源管理機関としてのIWCの見直しも平行線のままだ。
日本はこのままではIWC脱退もあり得るとし、2年後のIWCの年次会場としていた横浜の立候補も取り下げるとしている。
いつまで経ってもこの問題の解決の見通しはないね。IWC脱退はアイスランドのような小国ならともかく、脅しとしては使えても、実際に脱退できるかどうかは疑わしい。

Aさん―センセイは日本側の主張をどう思われますか。
H教授―前にも言ったように【14】、沿岸の小型鯨類捕鯨自体の主張は正しいと思うけど、先住民生存捕鯨と同じだという主張はちょっと首を傾げるねえ。
それと正面きっては言わないにせよ、国内では鯨害獣論が結構はびこっている。そう主張する漁民の気持ちはわからないでもないけど、GDP超大国ニッポンがそういうことを言うのはマイナスだと思うなあ。

Aさん調査捕鯨という名目で、実際は捕獲したクジラの肉を市場に下ろしているのも批判を浴びる原因じゃないですか。

H教授―うん、かつては1,000トン以下だったのが年々増加、昨年は5,000トンを超したものなあ。この20年間で捕獲したクジラは1万頭を越した。「形を変えた商業捕鯨」と非難されるのは、ある意味仕方がない。名を捨てて実をとるという日本流のやり方は不信感を招いているみたいだね。
【14】 捕鯨に関する日本の主張とキョージュの見解
第15講(その2)「獲るべきか獲らざるべきかそれが問題だ 〜クジラ〜」
第50講(その2)「我、疑う故に我あり―「水伝」ブーム」
第51講(その2)「前講へのお便り」

Aさん―で、そういう事態を受けてセンセイはどう思われるんですか。

H教授―正直言ってIWCはもはや機能不全だね。
昨年の総会では「捕鯨禁止は必要ない」との宣言が採択され、単純多数決じゃ捕鯨再開派がやっと過半数になったみたいだけど、モラトリアム、つまり商業捕鯨一時停止という重要決定を引っ繰り返す4分の3には程遠い。
第一、再開派も反捕鯨派も、クジラとはそもそも縁もゆかりもない大半の加盟国相手に多数派工作しているのが実態みたいだし、科学的な議論も通用しそうにない。

Aさん―だからどうすればいいんですかと聞いているんです!

H教授―ボクの考えを大胆に言わせてもらえば、IWCを脱退、沿岸商業捕鯨を再開するが、捕獲量は誰が見てもミンク鯨の増加分に見合うものに限定し、乱獲を厳に戒めるとともに、すべてのデータを公表する。
一方じゃ、大型鯨類やジュゴンなどの絶滅に瀕した海棲哺乳類ウミガメは厳正に保護する。
魚網に非意図的にかかったイルカやアザラシなどの海棲哺乳類やウミガメはその保護に万全を期する。
また、日本では縄文の昔から、人間の都合で食べられてしまう動物への感謝と慰霊を行う風習があったんだけど、それを盛大に復活する。
というようなことをやればどうかなあと思うけど、他の外交問題にもどのように発展するかわからないから、断固としてIWC脱退、沿岸商業捕鯨すべきだとまでは言えないなあ。
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東京大気汚染訴訟
Aさん―なんだか煮え切らないなあ。
あと東京大気汚染訴訟(→49講その1)がどうやら解決の方向に向かいそうですね【15】
【15】 東京大気汚染訴訟
第49講(その1)「PM2.5の環境基準制定へ動き出す?」
東京都の大気汚染医療費助成制度(東京都福祉保健局環境保健課)

H教授―東京都内のぜんそく患者らが96年に国や都、そして自動車メーカーを相手取って提訴。一審では国や都が敗訴し、賠償を命じられた一方で、メーカー側には責任はないとした。
国と原告は当然のごとく控訴したんだけど、昨年高裁が和解に向けて動き出した。
これを受けて、都は医療費助成制度の創設を提案し、国やメーカーに費用負担を呼びかけた。
メーカー側も都の新制度に拠出金を出すとともに原告側に解決金を支払う意志を表明、かたくなだった国――環境省が矢面に立ったけど、実際には財務省の意向が相当効いていたと思う――も、5月に官邸が60億円拠出すると決断し、6月には道路環境対策の強化を提示した。
先週、高裁が正式に和解勧告。原告がこれを呑めば、一気に解決に向かいそうで、どうやら原告側も呑みそうだ。

Aさん―よかったですねえ。石原サンもなかなかやるじゃないですか。センセイはお好きじゃないようですけど。

H教授―ま、石原サンのヒットだということは認めるよ。環境派とは到底思えないし、およそ論理的思考とは無縁な人だと思うけど、ポピュリストなんだね。大受けすることだと思ったんだろう。
今度、あの猪瀬サンを副知事にするとか。でも目立ちたがり屋同士でうまく息が合うのかなあ。

Aさん―それに一審は「メーカー側に責任なし」となったんでしょう。よくメーカー側も呑みましたねえ。

H教授―今やCSRが騒がれている時代だ。世論を敵に回したくなかったんだろう。幸い企業自体は好景気らしいからねえ。
和解案でも法的責任といわず社会的責任というコトバを使い、企業に花を持たせるとともに、額そのものは12億円と相当の高額で、原告側にとってはメーカーが事実上の法的責任を取ったと解釈できるようにした。
いかにも日本的な解決だ。

Aさん―どうしてですか。

H教授―さっさと判決を下せばいいのに、和解といういわば手打ちに持ち込んだ。それだっていきなり和解勧告じゃなく、和解できそうだという見通しが立ってから勧告という手法は日本型そのものじゃないか。それに勧告の中身自体も両方、いや三方一両損みたいな内容だしね。

Aさん―センセイはそれがいけないと?

H教授―そんなことは一言も言ってないし、むしろいいことだと思うよ。
でもバブル崩壊後、時代の流れはそういう日本型スタイルはダメだという方向にひたすら押し流されてきた。
ボクらは、そういう時代の流れそのものを、もう一度疑わなきゃいけないと思うな。
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