環境庁(当時)の職員から大学教授へと華麗な転身を果たしたH教授が、環境にかかわる内外のタイムリーなできごとを、環境行政マンとして過ごしてきた経験に即して解説します。
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第56講「上方環境夜話 付:回想―役所新人時代」
第55講「政治の空白に直面する環境政策―と標題だけは大げさに」
第54講「猛暑を前に激動の環境行政あれこれ」
第53講「今後の国立・国定公園のありかたをめぐって」
第52講「独断と偏見のキューバ社会論」
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No. 第55講「政治の空白に直面する環境政策―と標題だけは大げさに」
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Issued: 2007.08.09
H教授の環境行政時評(第55講 その3)
食品不祥事と食品安全委員会

Aさん―たまたまでしょう(軽くいなす)。
それにしてもBSEの問題だけでなく、国内でもミートホープの事件が起きたり、外国牛を和牛と偽って給食に入れたり、中国ではダンボールをほぐして肉まんの中に入れて増量しただとか──中国政府は、あとになって否定していますけど──、食の安全性が問われる事件が頻発していますねえ。企業のモラルが崩壊したんじゃないですか。

H教授―それはどうかなあ、昔からああいう事件があったことはあったからね。以前には老舗の雪印乳業や不二家までも不祥事を起こしているしね。ボクだってやったことがある。

Aさん―はああ?

H教授―35年も前の話だけど、平湯でレンジャーしてた頃、シーズンになるとバイトだかボランティアだかわからない大学生が事務所兼住宅に何人もゴロゴロしていた。毎晩、貰い物のサントリーオールドを飲ませてやってたんだけど、あっという間に在庫が尽きかけて、仕方がないのでポケットマネーでサントリーレッドを買ってきて、それをオールドと混ぜて飲ませた。最後にはレッドをオールドの空き瓶に移し変えて飲ませたんだけど、「さすがオールドだ、うまいうまい」って、連中は飲んでたぜ。

Aさん―食品安全基本法や食育基本法ができたりして、食の安全性への関心が高まっているんですよ、茶化さないでください!

H教授―わかった、わかった。それにつけても不思議なのは食品安全委員会だね。そもそもは、平成15年に食品安全基本法が制定されたのに伴って内閣府に発足した「関係行政機関から独立して、科学的知見に基づき客観的かつ中立公正」で強い権限を有する委員会のはずだ。事務局も4課1官を持っているというのに、あそこのホームページをみても中国の食品問題については、ただ厚生労働省の通達や事務連絡を転載しているだけだし、国内の問題じゃあミートホープのミの字も出てこない。
同じように内閣府に設けられた原子力安全委員会のホームページでは、中越沖地震による柏崎刈羽原発の事故について、さっそく一応の見解を示している。この違いは何なんだと思っちゃうよね。
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日本の黒い霧
Aさん―それにしてもミートホープの事件や赤城農水大臣の訳のわからない話、そしてそのあと中越沖地震と話題の事件続出ですっかり霞んじゃいましたけど、元・公安調査庁長官が逮捕された事件って、なんか奇怪ですねえ。

H教授―われわれには窺い知ることのできない闇があるんだねえ。松岡大臣の謎に包まれた自殺といい、“日本の黒い霧”は連綿と続いているみたいだ。

Aさん―日本の黒い霧? なんです、それ。

H教授―今は亡き松本清張の書名だ。彼が後半生、追い続けていたテーマなんだ。彼が生きてりゃあ、きっと突っ込んで真相に肉薄してくれたと思うけどねえ。
ところでキミ、松本清張ぐらい知ってるだろうな。

Aさん―…。

H教授―情けないなあ。貧しさのどん底の中、ちびたエンピツで小説を書きはじめ、ついに「或る『小倉日記』伝」で芥川賞を受賞。「断碑」や「菊枕」「真贋の森」などの初期の短編は森鴎外や菊池寛を凌ぐ大傑作だと思うぞ。後に推理作家として一世を風靡したけど、古代史にも造詣が深かったし、現代の闇にも挑んだんだ。
…そうか、清張を知らないんなら、吉本ばななは知ってても、父親の隆明の方は知らない口なんだろう。

Aさん―バナナ? 隆明? (きっぱり)両方とも知りません。
でもセンセイ、アタシ吉本興業の話なら結構ウンチクがあるんですよ。

H教授―…(ため息)はあ、こりゃダメだ。
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水俣病新救済案の行方
Aさん―ところで水俣病については今までも何回か話題に出ましたが【6】、与党プロジェクトチームの救済案が出てくるそうですね。

H教授―最終案が固まったのかなあ。新聞情報だけでは救済の対象となる未認定患者を水俣病患者と位置づけるかどうかがよくわからないけど、水俣病の認定基準そのものを見直さないままの救済案じゃあ、どうにもならないと思うよ。破産した95年の政治決着をもう一度やることになるだけだろう。
一度目は悲劇だとしても、二度目は茶番劇だ。

Aさん―出ましたね、得意のセリフ。でも認定基準を見直したら、莫大な補償金がいるでしょう。

H教授―水俣病と認定することと、補償金の一律制とは別だろう。症状の深刻さなどに応じた一定の計算式をつくればいいんじゃないかな。
水俣病患者じゃないと決め付けられた上で、「救済のためにカネを出す」と言われること自体が耐え難いという心理的な側面もあると思うよ。「オレたちはニセ患者でもなければ、物乞いでもない」って思っちゃうんじゃないかな。
テレビでちらっとみただけだけど、第二水俣病に関して、新潟県知事は国の未認定患者も水俣病と認めた上で、県独自で救済することを考えると言っていた。環境省も大いに見習うべきじゃないかと思うよ。

Aさん―でも認定基準は医学的判断ですでに決着済みって環境省は言ってますよね。
【6】 水俣病についての話題
第45講(その2)「水俣病懇談会の提言」
第40講(その2)「50年その1 ―水俣病、カネミ油症」
第39講(その4)「水俣病再説」
第28講(その1)「水俣病新救済策発表」
第22講(その3)「時評4 ─水俣病関西訴訟最高裁判決」

H教授―その見解はどうかと思うよ。7/21付けの朝日新聞の記事によると、肝心の医学界からも今の認定基準は医学的でないと異議が出ているらしいからねえ。そもそもが71年の認定基準を77年により厳しい現行のものに変えてしまったこと自体が政治的な匂いがしないでもない。
政治的に認定基準を変えるのはもちろんいけないことだけど、いろんな立場の医学者や公衆衛生の専門家が公開討論をするようなところからスタートするのがいいんじゃないかな。
もし、水俣病の認定基準に複数の解釈が医学的に成り立つとすれば、より多くの国民や被害者の納得するようなものにするのが妥当じゃないかと思うけどね。
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その他の話題
Aさん―ところでセンセイ、今回は自然関係の話はないんですか。

H教授―そうだな。前講で尾瀬国立公園の独立の話をしたけど【7】、自然公園の再編成は他でも具体的に動き出しているみたいだ。
西表国立公園は石垣島にも区域を拡張して、名称も「西表石垣国立公園」になるし、日本三景のひとつの京都の天橋立は若狭湾国定公園から独立して、区域を周辺に拡大して「丹後天橋立大江山国定公園」が誕生するそうだ。
まあ、ぼくはウラの事情はまったく知らないから、これ以上の言及はできないけど。

Aさん―リサイクル関係などは?

H教授―いろいろあるようだが、それはこの次にしよう。
あと海洋基本法が議員立法で成立した。沿岸管理については各省の利害や権限が交錯しているんだけど、その一元化というか交通整理をきちんとやろうというのが立法目的の一つらしい。本部も立ち上がったらしいんで、これからどういう議論が展開されるか目を離せない。
【7】 尾瀬国立公園独立について
第54講(その2)

Aさん―なるほど、ところで前講に読者から誤りの指摘がありましたねえ。

H教授―うん、不勉強で申し訳なかった。前講で環境省が自治体に補助しているSO2やCOの環境基準の常時監視は大幅に縮小して、その分の経費を他に回せばいいという趣旨の発言をしたんだけど【8】、補助金はもうすでに地方分権の名の下に廃止されているというご指摘を複数いただいた。あわてて訂正したんだけど、そのうちの一通はこうだ。
実は三位一体の改革により、水や大気の常時監視に係る補助金は既に廃止され、地方に税源移譲されています。しかし、地方の事情は厳しく、「人減らし」、「金べらし」にあえいでおり、これに「2007年問題」(団塊世代の大量退職)が追い打ちをかけています。ご指摘のとおり「SO2やCO」などの見直しはそのとおりなのですが、浮いたお金は財政当局に召し上げられてしまうというか、予算カットのためにSO2やCOの測定の見直しをしていかざるを得ない状況にあると思われます。したがって、環境行政の基盤を支えてきた「環境の常時監視」は、今「大きな転換期を迎えている」といえますし、「危機的な状況にある」ともいえるのではないかと考えています。

Aさん―うーん、考えさせられますねえ。
政策絡みの話以外には、何かありませんか。
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【8】 前講に対する誤りのご指摘
第54講(その2)
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