環境庁(当時)の職員から大学教授へと華麗な転身を果たしたH教授が、環境にかかわる内外のタイムリーなできごとを、環境行政マンとして過ごしてきた経験に即して解説します。
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No. 第56講「上方環境夜話 付:回想―役所新人時代」
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Issued: 2007.09.06
H教授の環境行政時評(第56講 その3)
関空、第二滑走路オープン
Aさん―他に、何かありましたか。

H教授―関西国際空港、つまり「関空」の二期工事が行われていて、途中当初計画から縮減したりしていろいろあったんだけど、8月2日にようやく第二滑走路が供用開始された【10】

Aさん―これで24時間運用の本格的な国際空港らしくなったわけですね。

H教授―うん、その第二滑走路でバードストライクが多発しているという記事が出ていた。絶滅危惧II類に分類されている渡り鳥のコアジサシが被害にあっていて、対策に苦慮しているらしい。
大阪湾にはほとんど砂浜や砂地が姿を消したんだけど、空港工事中は一時的に広い砂地ができるから、そこに営巣しちゃうんだね。
【10】 関空の第2滑走路の供用開始
関西国際空港>2007年8月2日、第2滑走路オープン!
関西国際空港2期事業に対する環境保全上の見地からの知事意見及び事業者の見解(大阪府環境アセスメント情報)

Aさん―罪作りな話ですね。

H教授―神戸空港でも似たような話があったね【11】
バードストライクは空港だけじゃなくて、風力発電でも大きな問題になっている。
一方じゃ、ロードキルといってクルマにはねられるキツネやタヌキなどの動物が後を絶たない。高速道路のロードキルだけで、昨年一年、全国で3万5千件にも達したらしい。一般道も入れるとそれの何十倍にもなるんだろうなあ。沖縄では絶滅危惧IA類に分類されている超希少種のヤンバルクイナが今年だけで21羽が被害にあい、環境省事務所では「非常事態宣言」を出したほどだ【12】
人と自然との共生って口で言うのは簡単だけど、実際にはなかなか難しい。高速道路だったら侵入防止のフェンスとかで対応はある程度できるけど、一般道じゃそれも難しいし、動物が道路を挟んで往来するのを妨げてしまうこと自体にも問題がある。

Aさん―ドライバーのマナー任せで啓発するしかないんですかねえ。どうもクルマを持った近代文明の原罪のような気がしますね。

H教授―関空に話を戻すと、その反面、今度はスナメリが空港島の周辺で繁殖している可能性が高いという記事も出ていた【13】

Aさん―スナメリってクジラですよね。

H教授―うん、世界最小のクジラだ。大きさはほぼ人間並み。全国的に激減していて、大阪湾では個体密度が低いとして環境省の調査も行わなかったほどだけど、近年目撃情報が相次いでいて、水族館や動物園のスタッフを育成する専門学校が調査したところ、空港島周辺を餌場として春から夏にかけて繁殖している可能性が高いことがわかったそうだ。
【11】 神戸空港の利用率と“野鳥の楽園”化
第44講(その3)「苦戦するコーベ空港」
【12】 ヤンバルクイナの交通事故被害防止「非常事態宣言」
【通知】ヤンバルクイナ交通事故非常事態宣言
【開催予定】平成19年度ヤンバルクイナ交通事故防止キャンペーン
【通知】ヤンバルクイナ交通事故防止キャンペーン中におけるヤンバルクイナの交通事故
【13】 関空の空港島周辺水域におけるスナメリの生息と繁殖について
大阪湾内の海洋生物(スナメリ)調査 〜学生らによるスナメリ生息調査〜
関西国際空港周辺水域におけるスナメリの生息状況について(大阪府水産試験場研究報告)
瀬戸内海のスナメリ(せとうちネット)

Aさん―いいですねえ。瀬戸内海をスナメリの里にしたいですねえ。

H教授―関係者は「大阪湾スナメリネットワーク」を結成し、保護活動に乗り出したそうだ。
空港島建設がやむをえないとするならば、できるだけ環境負荷を抑えようとし、緩傾斜護岸や藻場の造成などに取り組み、漁業権も消滅させて、禁漁にした。そういうことが効いたのかもしれない。

Aさん―他には何かないですか。
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淀川水系流域委員会再開
H教授―淀川水系流域委員会が8月9日から再開された。

Aさん―あ、流域委員会の休止のことは第47講(その3)でかなり手厳しく批判されてましたねえ【14】

H教授―うん、それまでのことを高く評価していただけにねえ。
流域委員会ってのは国土交通省近畿地方整備局の諮問機関だ。今までの諮問機関はともすれば御用機関になってしまったんだけど、時の整備局の英断で公募制とし、そこから第三者委員会が選んで、整備局ご用達という形にはしなかった。そして流域委員会は「河川整備基本方針」のあり方を徹底的に議論。問題の流域5ダムを「原則として建設しない」と提言。
一方、国土交通省は05年に流域委員会の提言とは異なる「5ダムのうち2ダムは当面実施しない」という方針を打ち出したあと、今年の2月に流域委員会そのものを休止してしまった。
そして今年7月に5ダムすべてが必要とするという「河川整備基本方針」を決めてしまってから、今度はその具体的な内容を決める「河川整備計画」について意見を聞くため流域委員会の再開を決めたそうなんだ。

Aさん―近畿地方整備局はその計画の原案を昨日(8月28日)発表しましたが、1ダムを除いては建設を進めていくという原案らしいですね。

H教授―うん、今日(8月29日)その流域委員会の第1回目が開かれるそうだけど、実は委員選定の方法も変更、整備局の意向が強く反映されるようにしてしまったし、前委員長は年齢制限で外しちゃった。

Aさん―やれやれ、外堀も内堀も埋めてしまったあとで再開ですか。じゃ、今度こそ単なる御用機関になっちゃうんじゃないですか。

H教授―そうなってしまう可能性は高いかも知れないけど、面白いことに、元の流域委員会を実質的に立ち上げ、画期的な運営をはじめたキーパーソンは当時の近畿地方整備局淀川工事事務所長だった。彼はその後、退官して家業を継いだんだけど、再開された流域委員会に公募で選ばれたんだ。

Aさん―へえ、じゃあ今度は役人=事務局としてでなく、委員として発言するわけですね。

H教授―元役人が天下りしていろんな委員になるときは大抵は元の役所の意向を代弁するんだけど、多分彼は違うと思う。これはボクの勘だけど、彼は当時から随分板挟みの立場で苦しんだと思うんだ。退官したのもそれがきっかけだったんじゃないかとも思う。ボクも元役人として、彼がどういう発言をしていくのか、すごく気になるんだ。
【14】 淀川水系流域委員会の休止批判と、再開について
第47講(その3)「淀川水系流域委員会休止」
淀川水系流域委員会
「『淀川水系河川整備計画原案』を作成しました。」(2007.8.28 淀川河川事務所)
淀川水系流域委員会>委員リスト
※新河川法と流域委員会との関係──第45講(その2)「新たな河川行政の芽生え」

Aさん―センセイなんかはもともと環境省の意向を代弁しようにも、そもそも環境省の意向がなんだかわからないまま、こんなところで与太話やってますもんね。

H教授―う、うるさい…。

Aさん―ところでお盆はどうされてたんですか。

H教授―ゼミ卒業生の同窓会が何度かあって、それに呼ばれた。社会人になるというのが、どういうことかようやく実感したらしくて、みな初々しかったよ。
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回想―役所新人時代

Aさん―あ、そうだ。センセイの社会人1年生ってどうだったんですか。50年前の話を聞かせてください。

H教授―ばか、50年前じゃない、40年前だ。
ボクは昭和42年にレンジャーになりたくて厚生省に入省したんだ。レンジャーになるには「造園職」という公務員試験の職種で入らなくちゃいけない。造園職試験はそれまでは人事院試験じゃなくて、人事院のお墨付きをもらって行う省庁独自試験だったんだ。それが、ちょうどボクのときから正規の人事院試験に昇格した。
だからボクらはその1期生ということになるんだけど、残念ながら1期生だなんて言うのはボクら同期だけで、局内じゃあレンジャー15期生と言われた。
また、その前の年には大臣官房国立公園部はついに国立公園局に昇格した。
だから、「キミたちの前途は洋々たるものである」と恩師に言われて上京してきたんだ。

Aさん―へえ。で、どうだったんですか。

H教授―はは、人事院の研修を一週間受けてから国立公園局に配属されたんだけど、若い女性は課にまったくおらず、庶務の主任さんにしごかれて新人の仕事は朝の床掃除や灰皿清掃、お茶入れから始まる。上級職だなんてプライドは3日で徹底的に粉砕されちゃった。
その頃、国立公園局はオンボロな別館にあって3課構成。レンジャーの先輩たち技官と、国立公園行政一筋といういわゆるノンキャリ──まあ、あまり好きな言い方じゃないけど──の事務官それぞれ20名くらいの2つのグループで構成されていて、それ以外は局長以下、数名の腰掛のようなキャリア事務官がいるだけ。
キャリア事務官以外は他の部局との人事交流はほとんどないという独自の小宇宙だった。

Aさん―独自の小宇宙? スゴイ表現ですね。

H教授―これ以外の表現を使おうとすると差別語になってしまうから仕方がない。

Aさん―でもどうしてそうなっちゃったんですか。

H教授―多分出自の特異性だろう。
日本の国立公園行政というのが本格的に始まったのは戦後だけど、決して内発的なものとは言えなかった。

Aさん―え? どういうことですか。
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