環境庁(当時)の職員から大学教授へと華麗な転身を果たしたH教授が、環境にかかわる内外のタイムリーなできごとを、環境行政マンとして過ごしてきた経験に即して解説します。
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第58講「アフリカの心、日本の心―サンコン氏との対談」
第57講「第三次生物多様性国家戦略案をめぐって」
第56講「上方環境夜話 付:回想―役所新人時代」
第55講「政治の空白に直面する環境政策―と標題だけは大げさに」
第54講「猛暑を前に激動の環境行政あれこれ」
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No. 第57講「第三次生物多様性国家戦略案をめぐって」
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Issued: 2007.10.04
H教授の環境行政時評(第57講 その3)
第三次生物多様性国家戦略案まとまる

Aさん―毎回、毎回温暖化の話で、まあ、一番動きの早い分野だからそれも仕方がないんでしょうが、他の話に行きましょう。第三次生物多様性国家戦略の案がまとまったそうですね【9】

H教授―うん、日本政府は、平成7年に『生物多様性国家戦略』を、これを改訂した『新・生物多様性国家戦略』を平成14年に決定した。それ以降はあまり新聞報道はなされなかったけど、生物多様性の問題は、生物多様性条約COP6での2010年目標国連のミレニアム生態評価(MA)、COP事務局報告のGBO2を経て、国際的課題として重要性は温暖化と並ぶほどになってきているようだ。
今年3月にドイツ・ポツダムで開かれたG8環境大臣会合でも、6月のハイリゲンダム・サミットでも取り上げられている【10】
2010年に開催される生物多様性条約のCOP10は、すでに名古屋に招致することを閣議了解していて、多分それで決まりとなるだろう。
そんな中、この4月に第三次生物多様性国家戦略について中央環境審議会へ諮問。それを受けて自然環境・野生生物合同部会で設置した小委員会がとりまとめたものが、9月14日に公表され、いまパブコメ中だ【11】
11月中旬頃には地球環境保全関係閣僚会議の議を得て、正式決定ということになるらしい。

Aさん―中身はどうなんですか。

H教授―いくつかある。これまでの国家戦略では、現状認識として「三つの危機」──人間活動や開発による危機、人間活動の縮小による危機(里地里山問題)、人間により持ち込まれたものによる危機(外来種等による生態系撹乱)──を言っていたんだけど、さらに「地球温暖化の危機」を新たに付け加えた。

Aさん―じゃ、「四つの危機」ですか。

H教授―うーん、構成上は「三つの危機」と対等ぐらいの新たな危機と位置づけている。
それから、目標を100年先に置いているのも特徴的だろう。100年間で壊してきた自然の生態系を100年かけて回復するという壮大なものとして提示している。

Aさん―50年じゃなくて?
【9】 第三次生物多様性国家戦略について
第53講(その4)「国立・国定公園の見直しと生物多様性保全」
第51講(その3)「第三次生物多様性国家戦略と自然公園全面見直し」
第49講(その4)「生物多様性保全を巡って」
第1講(その5)「キョージュ、生物多様性の行方を占う」
EICネット国内ニュース「第3次生物多様性国家戦略がまとまる」
【10】 G8環境大臣会合とハイリゲンダム・サミット
「G8環境大臣会合」の結果について(平成19年3月19日環境省報道発表)
G8環境・開発大臣会合(概要と評価)
2007 ハイリゲンダムサミット
政府インターネットテレビ「G8 Summit 2007 Heiligendamm(June 5-8,2007)
【11】 第三次生物多様性国家戦略のパブリックコメントの募集
生物多様性国家戦略の見直しに関する意見募集(パブリックコメント)について(平成19年9月14日環境省報道発表)

H教授―うん、今までの超長期計画がおしなべて50年先としていたものを100年としている。キミの孫の世代まで見据えているんだ。その意気込みは買えるね。

Aさん―だって、100年先の前提となる社会の状態なんか、わからないじゃないですか。

H教授―とりあえず人口は5000万人、うち65歳以上人口は40%としている。
この人口予測は、まあ妥当じゃないかと思うよ。
そして気温は、最善の温暖化対策を取ったときのIPCCの平均予測値である1.8℃上昇と想定している。
そもそも、この国家戦略案は二部構成になっていて、第一部が「戦略」で、理念、現状と課題、そして100年先を見据えた目標と基本方針となっている。
第二部が「行動計画」で、今後5年間の国土空間的施策、横断的・基盤的施策をまとめている。
この行動計画の中で具体的な数値目標もあげている。ラムサール湿地を10箇所増やす、種の保存法希少種指定を15種増やす、というようにね。

Aさん―ふうん。5年先と100年先に、森林を何%増やすといった、土地利用の定量的な目標は掲げていないんですか。

H教授―それは担保がないから、やれなかったんだろうなあ。
でも100年先の国土の土地利用は、生物多様性保全の観点からみてどうあるべきかという定量的なビジョンは必要だと思う。
ま、それがムリだとしても、例えば人口はどんどん減るんだから、ニュータウン、ゴルフ場やスキー場などの面的開発への圧力は減るだろうと単に予測するだけじゃなく、新規の面的開発や埋立を抑制するといったぐらいの戦略=基本的方針は打ち出してほしかったな。

Aさん―それこそ、強い政治的リーダーシップのもとでないと不可能でしょう。ところでSATOYAMAイニシアティブってコトバをよく聞きますけど。

H教授―21世紀環境立国戦略でも出てくるよね。この生物多様性国家戦略案の第一部の「戦略」の最終章では、日本の自然共生モデルを作り上げそれを世界に提案していくことで世界の持続可能な社会づくりに貢献していくとして、これをSATOYAMAイニシアティブと称している【12】

Aさん―ふうん、行動計画の方は、目玉というか、何か目新しいことはありますか。

H教授―うーん、地域空間施策として森林、田園地域・里地里山、都市、河川湿原等、沿岸・海洋に区分して、基本的な理念や方向性を示してはいるし、いくつかの数量的な目標を明示していることも前進だと思う。
もっとも、国立・国定公園制度の生物多様性保全の観点からの総合的な見直し以外の施策になるとトーンダウンし、既存の各省の施策の羅列以外は、調査・普及啓発みたいな話ばかりになってしまう感がするね。新規施策となると財務省だって目を光らせていて露骨には書かせてくれないだろうし、各省の合意も必要だということになると、これが限度かもしれない。
ただ、国内における生物多様性の総合評価を行い、「危機の状況の地図化」とか「生物多様性ホットスポット」を進めることや、そのための「生物多様性指標」の開発を行うと言っているから、相当の意欲と危機感は感じられるよ。

Aさん―ホットスポット? まさかネット用語じゃないですよね。
【12】 SATOYAMAイニシアティブ
21世紀環境立国戦略
第53講(その1)「美しい星50」戦略を祝す

H教授―当たり前だ。
ぼくが昔から知ってるホットスポットは、マントルからマグマが直接割れ目を通って地表にまで上昇する、ハワイのような地域を指す地学用語だったけど、ここで言うホットスポットは、生物多様性の保全の上で重要な地域のことだ。
Conservation International(CI)という国際的なNGOでは、生物多様性の観点から緊急かつ戦略的に保全すべき地域を「生物多様性ホットスポット」として、世界34箇所を選定し発表しているんだけど、日本列島そのものがホットスポットに選定されている。
その理由は、「貴重(固有種が一定種数以上)な地域ながら、開発の影響を受けている」ということらしい。
だから、世界のホットスポットである日本から、その中でも特に生物多様性の観点から大事な地域、いわばウルトラ・ホットスポットを抽出しようというものだ。

Aさん―どの程度の広さの地域をどれぐらい選ぶんですか。

H教授―そこまでは書いてない。総合評価の結果をみてから議論するらしいから、まだイメージとしては固まってないんじゃないかな。

Aさん―ホットスポット保全法をつくるとかそういうことじゃないですよね。

H教授―抽出をしても、その大半はなんらかの保護地域に指定済みだろうし、具体的な保全はそうしたなんらかの保護地域システムに委ねるつもりじゃないかな。
むしろ、生物多様性やホットスポットのことを踏まえて、理念法としての自然環境保全法とか、同法による自然環境保全基本方針を抜本改正するということなら考えられるかもしれない。
また、調査面では「生態系総合監視システム」を構築するとしている。
環境省では平成15年度から「モニタリングサイト1000」事業を開始し、すでに700余りのモニタリングサイトを構築している。これをさらに1,000にまで増やすとしているんだけど、そうしたモニタリング体制を土台として、総合的な監視システムを造りあげるいうことなんじゃないかな。

Aさん―でも莫大なオカネがかかるんじゃないですか。

H教授―そうでもないだろう。既存の自然環境保全基礎調査(略称「緑の国勢調査」)の予算を充当するなどによって、相当部分カバーできるんじゃないか。

Aさん―ふうん、でもこの行動計画だけじゃ、なんか物足りないなあ。
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