環境庁(当時)の職員から大学教授へと華麗な転身を果たしたH教授が、環境にかかわる内外のタイムリーなできごとを、環境行政マンとして過ごしてきた経験に即して解説します。
トップページへ
第60講 『京都議定書第一約束期間初年』
第59講 『翼よ、あれがバリの灯だ! 付:拡大フィフティ・フィフティ』
第58講「アフリカの心、日本の心―サンコン氏との対談」
第57講「第三次生物多様性国家戦略案をめぐって」
第56講「上方環境夜話 付:回想―役所新人時代」
メルマガ申し込み 会員登録 ヘルプ サイトマップ
国内ニュース 海外ニュース イベント情報 環境Q&A 機関情報 環境リンク集 環境用語集 ライブラリ 森づくり宣言
No. 第59講 『翼よ、あれがバリの灯だ! 付:拡大フィフティ・フィフティ』
page 2/4  1
2
34
Issued: 2007.12.06
H教授の環境行政時評(第59講 その2)
温暖化をめぐる攻防―バリを目前にして
Aさん―そんなもんですかねえ。さて、いよいよ来週からCOP13ですね。

H教授―うん、温暖化のね。とっくにその前哨戦がはじまっているよ。

Aさん―そうですね、それからざあっと見ていきましょう。

H教授―ブッシュ包囲網がせばまってきた。ブッシュさんの盟友がまたひとり姿を消した。米国に引き続いて京都議定書を離脱したオーストラリアで総選挙があり、ハワード首相率いる与党・保守連合が敗退、ハワードさんまでが落選しちゃった【4】
勝利した労働党は京都議定書を批准、ポスト京都に向けても厳しいGHG排出抑制を行うとしている。記録的な旱魃で農業被害が深刻化し、国民の間に温暖化の懸念が広がったからだという識者も多い。
外交も対米より対アジア重視に転回するだろうという見方が強い。

Aさん―そういえば米国の連邦議会の上院でも、結構ラジカルな温暖化対策法案が小委員会で可決されたそうですね。

H教授―「米気候安全保障法案」だ【5】。2050年までにGHGを63%減らすという長期目標を掲げている。小差での可決だったけど、反対票の中にはラジカルだからでなく、これでもまだ微温的だという反対票まであったらしい。もちろんブッシュさんは本会議で可決されても、拒否権を発動するだろうけど。

Aさん―それからカナダ、米国の11の州が、EUと排出権取引市場の共通化を目指すことで合意し、政治宣言に署名しました。
【4】 オーストラリア連邦総選挙と、京都議定書の批准
オーストラリア 京都議定書批准へ[EICネット海外ニュース]
Kyoto Protocol[UNFCCC]
オーストラリアの政治動向[JETRO]
オーストラリア連邦総選挙(1998年)[(財)自治体国際化協会]
【5】 米気候安全保障法案
第58講(その2)「万華鏡・その2 ──米国上院の動き」

H教授―この11の州はGHGを現状から2050年には60〜80%減らすことを目標としていて、その手段のひとつとして排出権取引を活用するということだろう。将来的にはEUの排出権取引市場(EU ETS)に一本化するんじゃないかな。
カナダも連邦政府は温暖化対策に及び腰だけれど、先進的な州政府が独自に動き出した。米国とまったく同じ構図だね。
シュワルツネッガーさんのカリフォルニア州政府も、米連邦政府を提訴した。2020年までに25%GHGを減らすことを目的とした州の自動車排ガス規制を、連邦政府が許可しないからだ。
ブッシュさんは日本やカナダと一緒になって、中国やインドを味方につけてポスト京都では国連やEUに対抗しようとしているけど、これだけ身内からの反乱が起きてりゃどうしようもないんじゃないかな。
日本政府も、ブッシュさんが転けて、ふと後ろを振り向くとアガサ・クリスティじゃないけれど「そして誰もいなくなった」と驚くことのないようにしてほしいね。

Aさん―国際機関の動きも急ですね。IPCCの第四次統合報告書が先日出された【6】かと思えば、UNEP(国連環境計画)は「第4次地球環境概況(GEO4)」を公表【7】し、その中で温暖化や種の絶滅、食料や水資源等地球環境の危機は一層深刻化しているとしているそうですし、UNDP(国連開発計画)も人間開発報告書を発表【8】。その中で先進国は2050年までにGHGを90年比で80%削減しろと言っているそうです。

H教授―うん、パン・ギムン国連事務総長も温暖化の影響を探るとして、南米から南極に降り立った。COP13に向けてのパフォーマンスだろうけど、国連機関はEUやノーベル賞委員会と手を組んで、ブッシュさんを包囲しようとしているように見えるね。
【6】 IPCC 第4次評価報告書統合報告書の公表
気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第4次評価報告書統合報告書の公表について[気象庁]
IPCC Fourth Assessment Report[IPCC]
【7】 GEO4(第4次地球環境概況)
GEO-4 Report[UNEP]
UNEP 第4次環境概況を公表[EICネット海外ニュース]
【8】 UNDP「人間開発報告書」
Human Development Report 2007/2008[UNDP]
人間開発報告書2007/2008[国連開発計画(UNDP)東京事務所]
人間開発とは[国連開発計画(UNDP)東京事務所]

Aさん―国連とブッシュさんは反りが合わないんですか。

H教授―そりゃあそうさ。ブッシュさんはアフガニスタンでもイラクでも、国連など意に介さず軍事介入。分担金も滞納して国連に圧力をかけ続けたからなあ。

Aさん―ところでGHGの排出量や濃度の最新データはどうなっているんですか。

H教授WMO(世界気象機関)は06年の全球平均のCO2濃度は381ppmに達し、観測史上最高を記録したと発表した。
一方、気候変動枠組条約事務局は、05年までの先進国のGHG排出量を公表した。それによると対90年比でドイツが18.4%減、英国が14.8%といずれも大幅に減少させていて、EU全体では1.5%減。それに対し日本は6.9%、米国は16.3%、カナダも25.3%といずれも増えているそうで、くっきりと分かれている。
またIEA(国際エネルギー機関)の見通しでは、07年には中国が米国を上回る世界最大の排出国になるそうだ。

Aさん―でも単位GDP当たりのGHG排出量は、日本の方がドイツや英国よりまだ低いんでしょう。
ドイツは旧東ドイツの旧式の生産設備を最新のものに変えるだけで、また英国は石炭から石油や天然ガスに切り替えるだけで、相当GHG削減を稼げるなんて、ちょっとズルイんじゃないですか。

H教授―うん、そりゃあそうだし、産業界や経産省は盛んにそれを言い立てているけど、日本の場合、省エネは温暖化対策ではなくコスト削減、国際競争力アップのためにやったことで、そんなに威張ることじゃない。
また再生可能エネルギーの割合は、両国とも日本よりヒトケタ高い。
それに第30講(その4)でも言ったけど、1973年以来、両国とも一次エネルギー消費を増やしていないのに対し、日本は5割以上増やしていることも忘れちゃならない【9】
ドイツやイギリスは、もはや「果てしない成長」や「生活の物質的な快適さ」だけを求めることから脱皮していることは素直に認め、見習わなくちゃならないよ。

Aさん―うーん、で、来週始まるCOP13&COP/MOP3はどうなるんですか【10】

H教授―あ、それはもう決まっている。激しい議論はされるだろうけど、平行線に終わり、何も決まらないことは明らかだ。新たな議論の展開はポスト・ブッシュに持ち越されるだろう。
09年までの妥結を目指すという「バリ・ロードマップ」についてだけは合意されている【11】が、ポスト京都の中身が固まるのには、さらに1〜2年かかるんじゃないかな。
 ページトップ
page 2/4  1
2
34
前のページへ 次のページへ

【9】 一次エネルギー消費とCO2排出推移の国際比較
第30講(その4)
【10】 COP13&COP/MOP3
UN Climate Change Conference 2007 in Bali
PRESS RELEASE United Nations Climate Change Conference in Bali poised for political breakthrough
【11】 バリ・ロードマップ
バリ会議では交渉開始と国連の新協定に向けた「ロードマップ」の制定が必要
事務次官会見要旨(平成19年10月1日)
Copyright (C) 2004 EIC NET. All rights reserved.