環境庁(当時)の職員から大学教授へと華麗な転身を果たしたH教授が、環境にかかわる内外のタイムリーなできごとを、環境行政マンとして過ごしてきた経験に即して解説します。
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第60講 『京都議定書第一約束期間初年』
第59講 『翼よ、あれがバリの灯だ! 付:拡大フィフティ・フィフティ』
第58講「アフリカの心、日本の心―サンコン氏との対談」
第57講「第三次生物多様性国家戦略案をめぐって」
第56講「上方環境夜話 付:回想―役所新人時代」
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No. 第59講 『翼よ、あれがバリの灯だ! 付:拡大フィフティ・フィフティ』
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Issued: 2007.12.06
H教授の環境行政時評(第59講 その3)
バリを占う
Aさん―で、いよいよ来週からゴングが鳴るわけですが、やはりCOP3のときのようにEU−米国−途上国の三すくみになるわけですか。

H教授―基本はそうだけど、COP3では米国と途上国は対極にあった。
「途上国に義務を課さないのはけしからん」という米国と、「温暖化の原因は米国を先頭とする先進国だから、そんな義務を課される覚えはない」とする途上国が激しく対立していたんだ。
でも今回、米国はおそらく対EU戦略もあって、途上国には融和的な態度を示すだろう。
つまり、先進国、途上国ともに自主的に目標を定めて削減努力をすることと、途上国に対して技術的・経済的支援を行うことを米国は主張して、なんとか中国やインドを自陣営に引き込もうとするだろう。

Aさん―日本はポスト京都の国としての方針は決めたんですか。

H教授―いや、討議の進め方だとかの提案はしているが、中身については決めてない。
だけど、とりわけアジア諸国とは友好的に対話を進めていくということで、いろいろやっているけど、結果的には米国と同一歩調を取っていると言われても仕方がないんじゃないかな。

Aさん―APECのシドニー宣言に引き続き、東アジアサミットでは温暖化防止宣言、いわゆる「シンガポール宣言」が出されました【12】が、ああいったものですよね。
シンガポール宣言では、域内森林面積を1500万ヘクタール以上を増やすという努力目標を盛り込みましたが、エネルギー効率の数値目標はインドの反対で盛り込めず、シドニー宣言より後退を余儀なくさせられましたね。
対するEUはどうなんですか。

H教授―EUはすでに2020年までに対90年比20%削減という自主目標を公表している【13】が、COP13では先進国に京都議定書よりさらに厳しい削減義務を課し、2050年までに全世界での排出量を90年比で50%カットし、気温の上昇を産業革命前より2℃以内に抑えるとしている。
途上国に対しては削減義務を課すとはしておらず、それなりに気を遣っているようだ。また、国際炭素市場の強化・拡大や船舶や航空機からの排出規制も提言している。
国際炭素市場については先ほど述べたように、カナダ、米国の中央政府でなく州政府との合意を得ている。一方、船舶・航空機からの排出規制に関しては、EUの欧州議会で、EU域内のみならず域外と結ぶ航空機に対する規制を行うと決めたが、日米や航空機会社は猛反発している。

Aさん―途上国はどちらに付くのでしょう。

H教授―どちらにも付かず、先進国責任論と途上国への支援強化を言い立てるとともに、米国とEUの論戦を観戦すると思うよ。
日本や米国は、2050年に世界のGHG排出量半減と言っているけど、その割り当てなどには口を閉ざしたままだ。「世界各国が自主目標を設定する」という方向らしいけど、そんなんで達成できるかまったく説得力がないよね。
おまけに日本も米国も、2050年までに自国でどれだけ削減するかという点は明言を避けている。
途上国が手本にする先進国の姿を変えてみせるという意味では、圧倒的にEUに軍配があがると思うな。
もちろんこうした国際交渉はリアルポリティックスの世界だから、どうなるかわからないけど。
北極の話はよく聞くけど、ヒマラヤでも氷河の後退が著しく、氷河湖の決壊による大洪水の危機が増しているなんていう話もある。先日のバングラディシュのサイクロン被害だって、温暖化とまったく関係ない自然災害だとは言い切れない。
途上国も一枚岩じゃない。近代化から程遠く、温暖化の被害を真っ先に受ける国や住民は、EUに共感するんじゃないかな。そして日本や米国に対しては厳しい目を向けると思うよ。

Aさん―きっとバリ雑言を浴びせるんでしょうね。
【12】 APECのシドニー宣言と、東アジアサミットのシンガポール宣言
気候変動、エネルギー安全保障及びクリーン開発に関するシドニーAPEC首脳宣言(骨子)
第3回東アジア首脳会議の成果(気候変動・エネルギー・環境に関するシンガポール宣言及び日本の環境協力イニシアティブ)
【13】 EUの自主的削減目標「CO2排出を抑制する包括的なエネルギー・気候変動戦略」
Saving 20% by 2020: European Commission unveils its Action Plan on Energy Efficiency
Commission proposes an integrated energy and climate change package to cut emissions for the 21st Century
欧州委員会、21世紀のための、CO2排出を抑制する包括的なエネルギー・気候変動戦略を提案
EU環境相理事会、2020年までに20%CO2削減と決定
Environment: Commissioner Dimas welcomes Council results on climate change and pesticides

H教授―くっ、くだらん!
ハンガリーから排出枠を買う
Aさん―ところで、日本政府はハンガリーから排出枠を1000万トン買うことにした、と新聞に出てましたね。200億円くらいになるんじゃないかという話です。

H教授―うん、いわゆるホットエアーだね。
ロシアや東欧などの経済移行国は、社会主義体制の崩壊で依然として経済体制は立ち直らず、そのために京都議定書の削減目標を過剰達成しているので、それを排出権取引で買うというわけだ。
CDMならわかるが、別段意図的に排出削減に努力してできた枠でもないのを買うというのは、売る側、買う側どちらの国にもモラルハザードを起こしかねない。ボクは反対だな。

Aさん―でもその代金は、ハンガリーの環境対策に使うという条件らしいですよ。

H教授―でも経産省は、それは今回はそうだというだけで、必ずそういう条件をつけるわけじゃないと言ってるぜ【14】
それこそ以前から言ってるように、CDMを充実強化させるとともに、国内排出権取引制度と国内CDM制度を導入した方がよほどいいよ【15】。東京都がなんとか導入しようと苦闘しているらしいけどね。

【14】 ホットエアー ──日本政府の排出枠購入
北畑経済産業事務次官の次官等会議後記者会見の概要(平成19年11月26日(月))
【15】 キョージュの拡大排出権取引私案と、東京都の取り組み
第54講(その4)「都が拡大排出権取引にチャレンジ?」
環境雑感―水俣病新救済案、家電リ法見直し、第三次生物多様性国家戦略閣議決定

Aさん―ぼちぼち別の話にいきましょう。
与党プロジェクトチームの水俣病未認定患者の新救済案【16】は、一部の患者団体が拒否したうえ、チッソも拒否の姿勢を明確にしたことで、デッドロックに乗り上げましたね。

H教授―まあ、チッソの拒否の方は一種の条件闘争で、駆け引きかもしれないけどね。
新救済案では「水俣病被害者」というコトバをはじめて使ってるんだけど、「水俣病患者」とは言ってない。このあたりが姑息だよね。
それに「救済」などというコトバを使うのもおこがましい。やはりカネだけじゃ解決しないと思うな。

Aさん―それから家電リサイクル法の改正ですが、産業構造審議会と中央環境審議会の合同会合で見直しの方向が固まったそうです。
センセイ持論のポジティブリストなんて話題にもならず、懸案だったリサイクル料先払い制度への変更も見送りだそうです【17】
次は建設リサイクル法の見直しに着手するそうですが、なかなか政策のブレークスルーというのは難しいですね。

H教授―もうひとつ第三次生物多様性国家戦略は閣議決定されたが【18】、ボクの取っている新聞には、ただの一行も載ってなかった。
この国家戦略で挙げられた4つの基本戦略の最初のものが、「生物多様性を社会に浸透させる」というのもむべなるかな、だな。まるで世間は無関心だもんな。

【16】 与党の水俣病新救済案
第55講(その3)「水俣病新救済案の行方」
第58講(その1)「時評1 水俣病与党プロジェクト対策案まとまる」
【17】 家電リサイクル法の改正
中央環境審議会&産業構造審議会 合同会合
第43講(その2)「ミニ環境行政時評」
第48講(その2)「混沌とするリサイクル法制」
【18】 第3次生物多様性国家戦略
第57講(その3・4)「第三次生物多様性国家戦略案まとまる」
カーボン・オフセットとフィフティ・フィフティ
Aさん―さ、いよいよ12月ですね。バリの動きと、国内では税制や予算の動きをしっかりとフォローして、福田内閣の方向と「強さ」を見ておかなくちゃなりませんね。
でも温暖化に戻りますけど、センセイが以前から言ってた国内排出量取引制度、国内CDM、環境税、自然エネルギー固定価格買取制度以外になにか新しいアイデアはないんですか。

H教授―ひとつはカーボン・オフセットだ。

Aさん―カーボン・オフセット?

H教授―うん、新たにGHGを排出するときは、それを帳消しにするようなことをしようということだ。例えば海外旅行に出かけるということは、それだけ新たなCO2を排出するということだから、それに見合う分を吸収するために、自宅の庭などに植樹するといった方法だ。
環境省が「カーボン・オフセットのあり方に関する指針案」というのを今日(11月30日)発表して、パブコメにかけている【19】が、今のところそれをどう政策に組み込むかという段階までいってないようだ。

Aさん―他には?

H教授―フィフティ・フィフティというのが一部で行われはじめた【20】

Aさん―五分五分? なんです、それ?

H教授―学校の省エネプログラムだ。
例えば学校で省エネを徹底させることによって、年100万円の電気料金が節約することができたとする。そうすると節約分の半分の50万円はその学校で自由に使っていいという、節約にインセンティブを与える方法だ。
生徒なんかはこういうのを制度化すれば、必死になって省エネに励むんじゃないかな。
もともとドイツで始められたプログラムなんだけど、日本でもすでにいくつかの自治体では取り入れているらしい。
【19】 カーボンオフセット指針に関するパブコメ
「我が国におけるカーボン・オフセットのあり方について(指針)」に対する意見の募集(パブリックコメント)について
【20】 フィフティ・フィフティ・プログラム
国際NGO FoE Japan
NPOのCO2排出抑制事業
平成16年度地域協同実施排出抑制対策推進モデル事業>公立学校における省エネ及び光熱水費節減分還元プログラム
平成17年度地域協同実施排出抑制対策推進モデル事業>児童・生徒による学校環境監査プログラムの活用による公立学校における光熱水費節減分還元プログラム"フィフティ・フィフティ"

Aさん―へえ、それは面白そう。

H教授―ボクはA市の温暖化推進協議会長なんだけど、A市でもやらないかと言ったんだ。環境課は乗り気だったけど、やはり導入はできなかった。

Aさん―どうしてですか。

H教授―タテ割りだ。それでも奥の手として市長を説得できれば、他の部局はOKせざるを得ないんだけど、学校は教育委員会系列で全く独立しているんだ。環境課の提案に鼻もひっかけず、市長も教育委員会には何の権限もなく、人事権も持ってないから、どうしようもないって憤慨していたなあ。
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