環境庁(当時)の職員から大学教授へと華麗な転身を果たしたH教授が、環境にかかわる内外のタイムリーなできごとを、環境行政マンとして過ごしてきた経験に即して解説します。
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第62講 『ニッポン、国内排出量取引制度導入に政策転換』
第61講 『日本列島、1月の環境狂騒曲』
第60講 『京都議定書第一約束期間初年』
第59講 『翼よ、あれがバリの灯だ! 付:拡大フィフティ・フィフティ』
第58講「アフリカの心、日本の心―サンコン氏との対談」
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No. 第61講 『日本列島、1月の環境狂騒曲』
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Issued: 2008.02.07
H教授の環境行政時評(第61講 その3)
捕鯨問題再考
Aさん―ところで捕鯨がまた問題になっています。
オーストラリア近海の公海上で、シー・シェパードが日本の調査捕鯨を妨害し、挙句の果てに捕鯨船に乗り込んで拘束される始末。
迷惑な話ですね。ああいうのは一種のテロと変わらないんじゃないですか。ほんと、無茶苦茶だわ。

H教授―ま、キミの気持ちはわからないわけでもないけど、例えばそのオーストラリアなんかの国民の見方はまた違うんじゃないかな。ひょっとすると英雄視されているかもしれないということも知っておいた方がいい。

Aさん―だって公海上の合法的な調査捕鯨じゃないですか。

H教授―そりゃあそうなんだけど、調査捕鯨という名目で、実際にはその肉が流通している。捕鯨量はだんだん増えて現在では年間千頭、5,000トン。調査のための捕鯨じゃなく、調査という名目で捕鯨しているんじゃないかと言われても仕方がない面があると思うよ。
ましてや、公海とはいえ、自分の国の近海まできて、そういうことをやられりゃあ、鯨食文化のない国民の反感を買うのもやむをえないだろう。

Aさん―え? センセイは消極的とはいえ捕鯨賛成派じゃなかったんですか。

H教授―うん、この問題は何度か話したよね【8】
ある種のクジラは増加しているのは事実だし、そのクジラが魚を大量に捕食するのも事実だ。ただ、どうしてもクジラを食用にしなくちゃいけないほど、蛋白源が不足しているわけでもないことも事実だし、公海とはいえ、わざわざ捕鯨反対派の国の近海まで行って捕鯨を実施して、神経を逆なでする必要もないだろう。

Aさん―じゃあどうすればいいと?

H教授国際捕鯨委員会(IWC)の場では、科学的なデータに基づいた管理捕鯨の主張をすればいい。
ただ、当面の措置として、調査捕鯨は日本沿海に限って、そして、明らかに増加している鯨類に限って実施する、というのが大人の態度じゃないかな。
もちろん、捕鯨によらない調査は世界の海で広く行わなきゃいけないし、そのための技術開発も必要だけど。

Aさん―そりゃあ、日本に限れば蛋白源は今は不足していないですけど、いつ不足するかわからないし、いろんな蛋白源があった方が栄養バランス上もいいんじゃないですか。それに蛋白源の不足している国だっていっぱいありますよ。
【8】 捕鯨問題について
第54講(その3)「IWC年次総会顛末」
第50講(その2)「我、疑う故に我あり―「水伝」ブーム」
第15講(その2)「獲るべきか獲らざるべきかそれが問題だ 〜クジラ〜」

H教授―じゃあ日本は調査捕鯨した鯨肉を、そういう国々にODAか何かで供給しているか。
そんな主張をすれば世界の笑いものになるし、蛋白源が不足している国からだって、余計なお世話だと言われかねないよ。
あと蛋白源の多様化だけど、日本にはいろんな外来生物がいるじゃないか。アメリカザリガニだとかウシガエルだとかタイワンドジョウだとかブラックバスだとか、ああいうものの駆除も兼ねた食肉利用を、政策的に進めればいいと思うな。

Aさん―じゃ、センセイはクジラを食べられなくなってもいいんですか。

H教授―そりゃあ食べたいさ。ひとつのアイデアだけど、伝統的な漁法での沿岸調査捕鯨や、クジラ料理を、村おこし町おこしの手法に使うことだって可能かもしれない。捕鯨見学や鯨肉を食べたい人間が押し寄せるかもしれないじゃないか。

Aさん―うーん、そううまくいくかなあ。

ダボス会議は政策転換の表明か?
Aさん─ところで、毎回欠かさず話題にしている温暖化ですけど、いわば世界の賢人会議にあたるダボス会議で福田サンが演説をしたそうですね【9】

H教授―最終日前日にようやく参加したらしい。

Aさん―解せないですよね。国会の関係があるのかもしれませんが、別に野党が反対したわけでもなさそうなんだから、最初に行ってぶちあげて、会議全体をリードすればよかったのにって思っちゃいますよね。
まあそれでも、ようやく国際的な国別総量目標の策定導入に向けた決意表明をするとともに、日本としての総量目標の設定を国際公約しましたね。COP13では言わなかったことを言ったんだから、よかったんじゃないですか。

H教授―そのことについて、前講の(その3)では年末の4閣僚会合で決まったって言ったけど【10】、経産大臣は同意したわけじゃなかったみたいだ。今年に入ってからの関係閣僚会合で、経産大臣が徹底抗戦し、国別総量目標を言明するかどうかは福田サンに一任、というところまで押し返したみたいだ。

Aさん―じゃ、福田サンはご自身の意志でそうおっしゃったということですね。
施政方針演説でも、低炭素社会へ転換と明言されたそうですし【11】、大英断じゃないですか。
EUでは2020年までに対90年比で20%減らすための、EU域内各国の国別数値目標を先月(08年1月)欧州議会に提案したそうですし、ブッシュさんも年頭教書で温暖化対策で途上国を支援すると言ったみたいですから、国際的に少しは前進したと言えるんじゃないですか。

H教授―ただ、福田サンの場合、問題はその中身だ。
目標設定の考え方として、業種や分野別に削減可能量を積み上げるとした。
つまり、気候変動を抑止するために、50年先にはどの程度にGHGを抑えなければいけないか、というところからスタートするバックキャスト方式【12】でなく、今までのトレンドを重視する考え方で、経産省や経団連が常々主張していたものだ。経産省サイドからすれば、名を捨てて実をとったという考え方も、できるかもしれない。

Aさん―トレンド重視の考え方でいけば、2050半減というのはどうなるんですか。

H教授―画期的な省エネ技術だとか、CO2地中隔離だとかを目指しての技術開発重視になる。それができりゃあいいけど、できなかった場合のことは考えないでおこうということだ。
【9】 ダボス会議での福田首相演説
World Economic Forum Special Address by H.E. Mr. Yasuo Fukuda, Prime Minister of Japan
【10】 国別総量目標の閣僚会合決定
第60講(その3)「COP13の後に―ついに政府の方針転換か」
【11】 福田首相の施政方針演説における低炭素社会への転換について
第169回国会における福田内閣総理大臣施政方針演説
第169回国会における施政方針演説(政府インターネットテレビ)
【12】 バックキャスト方式による目標設定
第37講(その4)「超長期ビジョン検討開始」

Aさん―そんな無責任な。
でも洞爺湖サミットまでには、日本の総量目標を設定しなくちゃいけないことは事実ですよね。
だとすると、これからその目標値をめぐって、国内で一波乱も二波乱もありそうですね。
ダボス会議ではこの他、基準年の「90年」は、公平の見地から見直すべきだと提言したそうですね。

H教授─うん。でも基準年を90年とするというのは、気候変動枠組条約スタートのときからの先進国サイドでの約束事で、それを今さら日本に不公平だから見直せというのはちょっとあんまりだよねえ。

Aさん―でも中国やインドが、数量目標を仮に設定するとしたときの基準年としては、90年は必ずしも適当じゃないでしょう。

H教授―そりゃそうだ。だが、少なくとも先進国は90年とすべきで、途上国に便乗してまで自国に有利にしようというのは、あまりにもアコギだ。日本の信用を失墜させかねない提言だと思うぜ。
あとは2020年までにエネルギー効率の30%改善だとか、途上国の支援のために5年間で100億ドル規模の資金メカニズムを構築するというというような内容だったらしい。
途上国支援については、似たようなことは英国も言っているし、ブッシュさんも年頭教書で言っている。いいことには違いないけど、途上国をなんとか味方につけたい、という各国の思いが滲み出ているな。

Aさん―その割に、日本は「聖域なし」とかいって、ODA予算を毎年カットしてますよね。

H教授―ま、残念ながら、大幅な政策転換とまではいってない、というのが現状じゃないかな。
あと残念だったのは経済同友会【13】だねえ。第58講の(その2)で、環境税だとか国内排出権取引制度に対して、経団連は頑迷に反対しているけど、経済同友会は賛成していると紹介した。
ところが、あれは単に代表幹事の個人的な意見で、先日まとめられた同友会としての提言では、排出権取引制度には経団連に歩調を合わせて反対。環境税に関しては議題にものぼらなかったそうだ。
「同友会よ、おまえもか!」ってところだね。

Aさん―気候変動、温暖化関連の自然現象の方はなにかありました。

H教授―シベリアの永久凍土―つまりツンドラだね―の融解が、この数年に急速に進行しているということを海洋研究開発機構が発表した【14】。融けた深さが2000年頃の倍になっているところもあるそうだ。

Aさん―温暖化の影響ですね。生態系にも変化が出そうですね。

H教授―いや、もっと深刻な話があるんだ。
ツンドラの下には大量のメタンを含んだ層があるんだけど、ツンドラの融解でそれが地表部に出ると、メタンが大気中に放出されて、一気に温暖化が加速するおそれがあるんだ。
【13】 経済同友会の姿勢
第58講(その2)「万華鏡・その3 ──経済同友会の動き」
【14】 海洋研究開発機構発表
シベリアの凍土融解が急激に進行〜地中の温度が観測史上最高を記録し地表面で劇的な変化が発生〜

Aさん―本当ですか。研究者だって予算取りのためオーバーに言う可能性があるって、センセイ、言ってたじゃないですか。

H教授―データがあるから、融解が進行しているのは事実だろう。
実は、もう15年くらい昔になるんだけど、ボクが国立環境研究所にいるとき、ある研究者が同じことを言い出した。予算や手続きで相当厄介なことがあったんだけど、その熱意に押される形で研究所としても支援することにし、調査を開始したんだ。
そのときはあくまで将来の可能性の話だったんだけど、この新聞記事を読んで、言い出しっぺの研究者は先見の明があったんだなあって感心した。

Aさん―メタンの温暖化係数はCO2よりずっと高いですものねえ。他には?

H教授―NASAの発表じゃあ、南極の氷床の消失速度がこの10年で2倍近くになったらしい。海水温の上昇が原因とみられている。

Aさん―じゃあ、海面上昇に大きく寄与するんじゃないですか。

H教授―さあ、そこまでは書いてなかった。南極ではグリーンランドと違って、消えていく氷床はもともと大陸の上じゃなく、大陸の縁にくっついてるものが大半だし──氷山が溶けても海水面の高さは変わらないってことは知ってるよな──、結局雪になって大陸上に降るので、海面上昇にはむしろマイナスの影響を与えているという記事を読んだことがある。だけど、科学の最前線は常に動いているから、本当のところはわからない。ただ、生態系に大きな影響を及ぼすことは間違いないだろう。

Aさん―ところで、このところ新聞の一面を賑わすようなトピックの他は、温暖化だとか生物多様性だとかの話ばっかりですね。今まで取り上げたことのない、新しい話題はないんですか。でないと飽きられちゃいますよ。
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