環境庁(当時)の職員から大学教授へと華麗な転身を果たしたH教授が、環境にかかわる内外のタイムリーなできごとを、環境行政マンとして過ごしてきた経験に即して解説します。
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第63講 「風雲急を告げる道路特定財源問題と温暖化問題」
第62講 『ニッポン、国内排出量取引制度導入に政策転換』
第61講 『日本列島、1月の環境狂騒曲』
第60講 『京都議定書第一約束期間初年』
第59講 『翼よ、あれがバリの灯だ! 付:拡大フィフティ・フィフティ』
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No. 第62講 『ニッポン、国内排出量取引制度導入に政策転換』
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Issued: 2008.03.12
H教授の環境行政時評(第62講 その4)
中国ギョーザと再発防止策

Aさん―うーん、そうなんですか。
ところで前講でもとりあげた中国製ギョーザへの農薬混入事件【11】、真相はますます混沌としてきましたね。

H教授―うん。過失ではなくて、意図的な犯罪だというのは確からしくなってきたと思うけど、日中捜査当局の言い分が真っ向から対立したままだ。
こういうとき第三者機関、つまり日中以外の国や国際機関が両国の依頼を受けて捜査する仕組みがあった方がいいかも知れないね。

Aさん―それはともかくとして、政府では関係閣僚会議を開き、冷凍加工食品の残留農薬検査をはじめるなど、緊急の再発防止策をまとめましたね。

H教授―うん、その中に関係省庁に局長級の「食品危害情報総括官」を新設するというのがあったろう。

Aさん―ええ、それがどうかしたんですか。
【11】 中国製ギョーザへの農薬混入事件
第61講(その1)「日本を揺るがせた謎のギョーザ騒動」

H教授―すべての役所の悲願は予算・定員の増加と、あとポストを増やすことなんだ。それもできれば指定職ポストを。
純増か、振替かは知らないが、厚労省や農水省はしてやったりとほくそ笑んでるんじゃないかな。
前から言ってるように食品安全委員会という独立組織があって、権限もあり事務局も張り付いているんだから、ここの有効活用、活性化を考えるのが本線だと思うけど【12】、そのことには一言も触れてないのが印象的だった。

Aさん―センセイが現役の役人だったら?

H教授― …もちろん、ありとあらゆる屁理屈をこねて、新しい組織・予算・定員要求にしゃかりきになっただろうなあ。

Aさん―ところで何か目新しい環境関係のニュースがありますか。
【12】 食品安全委員会
第55講(その3)「食品不祥事と食品安全委員会」
超長期ビジョンの検討結果
H教授―うーん、そうだなあ。超長期ビジョンの必要性や困難性については何度も話したよね【13】
実は環境省でもその重要性を認識していて、第三次環境基本計画【14】では、2050年をターゲットにした超長期ビジョンを作成するとし、そのビジョンから出発して、ビジョンに到達するための政策の道筋を決めるというバックキャステイング方式が必要だとしている。
これを受けて予備検討を国立環境研究所が中心となって行い、その結果、2050年にCO2の70%カットが可能だという結論になった【15】。このプロジェクトについて以前にも紹介したことがあるけど、実は平成18年6月、総合環境政策局長の下、有識者による超長期ビジョン検討会及び超長期ビジョン検討アドバイザリー・グループを設置し、十数人のいろんな分野の専門家が、このレポートも踏まえた検討を開始していたんだ。
合宿を含む十数回の会合が開催され、昨年末には報告書をまとめている。付録として各メンバーの補足意見というかコメントがついている。
その報告書を中央環境審議会の総合政策部会で一応の説明を行い、審議会の委員からはいろんな意見、異見が出されている。

Aさん―へえ、そうだったんですか。全然知らなかった。それは公表されているんですか。

H教授―うん、環境省のホームページには出ている【16】。だが、記者発表はしなかったんじゃないかなあ。
実はボクも昨日、その検討会の座長の安井至先生のブログで、そのことを始めて知ったばかりで、まだ中身をじっくり読んだわけではない。

Aさん―ちらっとくらいは見たんでしょう。どういう中身なんですか。

H教授―「21世紀環境立国戦略」では2050年には世界のGHGの排出量を半減させねばならないという前提で、低炭素社会=循環型社会=自然共生社会にしなければいけないと言っていたね。つまり三位一体というわけだ【17】
この報告書では、それに「快適生活環境社会」を加えていて、いわば「四位一体」としていて、それぞれの切り口から、定性的に望ましく実現可能な社会を論じている。低炭素社会の方は国立環境研究所のレポートを下敷きにしているみたいだったけど、なんせまだ読んでないから…。

Aさん―でも前提がいろいろあるんでしょう。

H教授―そりゃあ、そうだ。
ただ核融合のような、現在の時点ではまったく実用の見通しの立たない技術イノベーションは想定していない。
あくまで現在の技術の延長線上で、実現可能な最善の場合を描写しているような気がしたな。また、戦争や関東大震災、あるいは突発的な何十万〜何百万人ものボートピープルが押し寄せるといったカタストロフの発生はないという前提だ。

Aさん―社会経済情勢の変化はどのように想定しているんですか。

H教授―うん、可能な限りのデータを用いているし、人口だとか、GDPだとかも一応は想定している。ただ、それは不確実な要素が多い上、既存の公的予測──願望の入り混じったある意味楽観的な──を使わざるを得ないという制約もあったようだ。

Aさん―で、そこに至るための政策提言のようなものもあるんですか。
【13】 超長期ビジョンの必要性や困難性
第24講(その1)「持続可能社会超長期ビジョンの必要性・可能性」
第37講(その4)「超長期ビジョン検討開始」
第45講(その4)「日本超長期ビジョン」
【14】 第三次環境基本計画
第40講(その2)「第三次環境基本計画スタート」
【15】 超長期ビジョン検討会報告
第51講(その4)「低炭素社会に向けて ──拡大排出権取引」
第58講(その3)「万華鏡・その7 ──「2050低炭素社会プロジェクト」再説」
【16】 超長期ビジョン検討会報告
超長期ビジョンの検討について
同 検討員意見
総合政策部会議事録
【17】 21世環境立国戦略の三位一体
第52講(その1・2)「安倍サンの「環境立国戦略」雑考」
第53講(その1)「「美しい星50」戦略を祝す」」
第54講(その4)「「21世紀環境立国戦略」再説」

H教授―いや、それは基本的にない。
そのためには現在の社会構造を根本的に変えなければならず、それはどう考えても現時点では不可能だと断念されたのかもしれないし、委員の意見としてもまとまらなかったのかもしれない。
描かれているビジョンは楽観的に見えるが、実はその裏には深いペシミズムが貼りついているような気がしないわけでもない。
まあ、ちらっと見ただけなので、それ以上はなんともいえないし、結構分厚いものなので、じっくり読んでから、また取り上げるよ。
でも、これだけは言える。報告書以上に面白そうだと思ったのは、各検討員のコメントと審議会部会での委員と安井先生のやりとりだ。

Aさん―で、今後はこの報告書はどう取り扱われるんですか。

H教授―さあ、わからない。議事録で読む限りでは、環境省はなんか煮え切らなかったなあ。これを大々的に出して、「これを素材にしてこの国の未来を皆で考えよう」というキャンペーンをすればいいと思うんだけど、なんだかこそっとやって、ホームページに公表だけはしましたよというエクスキューズみたいなものを感じたなあ。
あと個人的な感想を言えば、もうひとつ「このままなにもせずにいたら、例え戦争や大地震のようなカタストロフがなくても、こうなってしまいますよ」という悲観的な見通し、“美ジョン”というより“悲ジョン”とでもいうものも必要じゃないかと思った。
そしてその両方をマンガなどで、わかりやすくビジュアルに対比させれば面白いと思うけどなあ。
ゴアさんの『不都合な真実』のように映画化もいい。その場合はやはりドラマ仕立てだな。

Aさん―(にやっとして)で、そのヒロインはセンセイの大好きな蒼井優チャンってわけですね。

H教授―(ギクッ)な、なんでそれを…。

Aさん―へん、それぐらい、とっくにお見通しですよーだ。

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(平成20年2月29日執筆、同年3月10日編集了)

註:本講の見解は環境省およびEICの見解とはまったく関係ありません。また、本講で用いた情報は朝日新聞と「エネルギーと環境」(週刊)に多くを負っています。なお排出量取引については25歳の俊秀、松本健一博士にいろいろ教示してもらいました。ここに明示して感謝の意を表するとともに、一切の文責はもちろんぼくにあることを申し添えます。
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