環境庁(当時)の職員から大学教授へと華麗な転身を果たしたH教授が、環境にかかわる内外のタイムリーなできごとを、環境行政マンとして過ごしてきた経験に即して解説します。
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第64講 「エコツーリズム推進法と小笠原」
第63講 「風雲急を告げる道路特定財源問題と温暖化問題」
第62講 『ニッポン、国内排出量取引制度導入に政策転換』
第61講 『日本列島、1月の環境狂騒曲』
第60講 『京都議定書第一約束期間初年』
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No. 第63講 「風雲急を告げる道路特定財源問題と温暖化問題」
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Issued: 2008.04.10
H教授の環境行政時評(第63講 その2)
温暖化対策の国内動向

Aさん―ところで温暖化対策の国内の動きはどうなっているのですか。

H教授―いろんな動きがあるようだ。
温暖化対策法の改正案が3月始めに閣議決定されたが、これは改正法が成立したらまた取り上げよう【3】
いずれにせよ京都議定書第一約束期間に今日から突入した。これからもいろんな動きが出てくるだろう。

Aさん―え? もうとっくに突入しているんじゃないですか。

H教授―日本の場合は会計年度ということで、一部例外はあるものの、基本的には今日、4月1日からなんだ。
じゃあ、3月からの動きを簡単にとりまとめておこう。
福田サンは1月のダボス会議で「ポスト京都で国別総量目標を定める」とはじめて明言し、帰国後も国内排出量取引制度に積極的な姿勢を見せている【4】。このこと自体は環境省サイドの動きに乗ったようだが、中身的には経産省サイドに近いようだ。

Aさん―「積み上げ方式」に「セクター別アプローチ」ですね。

H教授―うん、発電や鉄鋼、セメントなどエネルギー多消費産業など8つの部門、つまりセクター別にGHGの削減可能量を積み上げるって方式で、このこと自体には環境省も異議申し立てはしていないようだ。
一方では、この方式を具体化するための包括提案を気候変動枠組条約事務局に提出、洞爺湖サミットでの合意取り付けを目指しているようだ。

Aさん―で、日本の積み上げた結果は出たんですか。

【3】 温暖化対策法の改正
EICネット「地球温暖化対策推進法改正案 閣議決定」
【4】 温暖化対策に関する福田首相の姿勢
第61講(その3)「ダボス会議は政策転換の表明か?」
第62講(その2)「国内排出量取引制度の検討開始へ」
「長期エネルギー需給見通し」の陥穽
H教授―うん、明らかにそれと連動させて3月下旬に経産省が「長期エネルギー需給見通し」の改定案を出し【5】、その中で2020年と2030年のCO2排出量の試算結果を出している。

Aさん―へえ、どんな結果だったんですか。

【5】 長期エネルギー需給見通しの改正について
資源エネルギー庁「長期エネルギー需給見通し(案)について ─エネルギー起源CO2排出量の見通し─」

H教授―現状固定ケース、努力継続ケース、最大導入ケースの3つのケースで見通しを述べているんだけど、新聞によると、対90年比で2020年にはそれぞれ+20.4%、+8.0%、△3.1%。2030年だと+27.3%、+6.9%、△15.3%としている。
あと電源として、またぞろ原発の9基から13基の新増設を謳っていて、これは先月閣議報告された原子力委員会の2007年版原子力白書ともひょうそくを合わせている【6】

Aさん―最大導入ケースで2020年でやっと△3.1%ですか。だって、京都議定書では2008〜2012年の平均で対90年比△6%を達成すると約束したんでしょう。その約束を守れるって大見得切っちゃってるのに、2020年には2008〜2012年よりCO2の排出量が増えちゃうっていうんですか。

H教授―まあ、京都議定書の△6%は京都メカニズム分と森林吸収分を合わせた△5.4%を含めての結果だから、増えてるとは言えないだろう。
そもそも京都議定書の△6%が達成できるかどうかについても、ボクはきわめて懐疑的、というか、新銀行東京の再建が成功する確率と同程度以下じゃないかと思ってるよ。
政府は3月末には削減量を上積みした目達計画の改定を閣議決定し【7】、あくまで達成できるとしているけどね。

Aさん―EUは2020年に対90年比で20%削減を目指していますよね。それと較べると、あまりにも落差がありすぎで、国際的にも問題じゃないですか。

H教授―いつも対90年比で言われるんだけど、その90年という基準年自体を変えるよう日本は主張している。90年だと日本は二度のオイルショックを経て、すでに相当の省エネを達成しちゃってるからねえ。
それに例えば単位GDPあたりのGHG排出量でいうと、日本はEUなどよりまだまだ排出抑制が進んでいて、2020年でようやくEUが日本に肩を並べる程度じゃないかな。

Aさん―それは産業界や経産省の言い分じゃないですか。センセイはどう思われるんですか。それにその「積み上げ方式」や「セクター別アプローチ」についてのご意見は。

H教授―まあ、産業界の言い分はある意味もっともなんだけど、決定的に欠けている視点があると思うな。
【6】 原子力白書
平成19年版原子力白書(平成20年3月原子力委員会)
内閣府原子力委員会「原子力白書」
【7】 改正目達計画の閣議決定
京都議定書目標達成計画快晴の閣議決定

Aさん―それはなんですか。

H教授IPCC第4次報告書【8】と対比させると、日本流のやり方じゃ、地球、いや人類の危機である気候変動に対応できない可能性が強い。
日本は今までもっぱら省エネ技術の徹底で対応してきたし、今も技術的なブレークスルーでなんとかしようと思ってるみたいだけど、もうひとつ必要なのは成長の限界を知るということと、そのための社会的なシステムのブレークスルーなんだ。

Aさん―よくわからないな。

H教授―省エネの徹底で、エネルギー効率を上げて単位エネルギー当たりのGHGの排出を半分にすることはできるかもしれない。でもそれだけじゃダメだってことだ。

Aさん―どうしてですか。

H教授―例えば冷蔵庫を考えてみよう。初期の電気冷蔵庫と今のものでは、エネルギー効率の面で比べると今の方がはるかに省エネ・高効率化している。でも国内の冷蔵庫全体で消費する電力量は決して減っていない。電源構成の話や発電効率の話をするとややこしくなるけど、冷蔵庫起源のGHG排出量はトータルでは減っていない。
クルマだってそうだ。燃費はどんどんよくなっているが、クルマ全体でのガソリン消費量は減っていない。

Aさん―あ、そうか。クルマも冷蔵庫も、台数が増え、大型化して、しかもいろんな機能がどんどん追加されてますもんね。
【8】 AR4
第49講(その2)「IPCC第四次報告書の波紋」
第52講(その1)「温暖化・気候変動問題最新動向」

H教授―つまり化石燃料起源エネルギーの需要=供給量全体を何としてでも、場合によっては強権的な手段を使ってでも大幅に減らさなければいけないという視点が欠けていると思うな。
そのことは「積み上げ方式」や「セクター別アプローチ」にしてもそうだ。
いずれも現在のトレンドでものごとを考えている。
エネ効率の向上の技術的可能性に焦点をあてているみたいだけど、2020年や2030年のCO2排出量はエネ効率だけで決まるんじゃない。もうひとつエネルギー需要=供給総量や生産量という要素がある。これを単なるトレンドやGDPの伸びの予測―というか願望―で決めるのはとんでもない話だと思うよ。

Aさん―つまりトレンドではなく、バックキャスティング方式【9】が必要だということですね。

H教授―うん、超長期目標から出発して、2020年や2030年に何%GHGをカットしなければいけないかという大枠がまず優先されなければならない。
そして、そのために環境税、国内排出量取引、国内CDM、自然エネルギー固定価格買取制、クルマへの重課税や渋滞税制度と公共交通機関や自転車の優遇策、電力の累進料金制、カーボン・オフセットやフィフティ・フィフティの制度化といった社会的なシステムの大胆なブレークスルーが必要なんだ。
少なくともEUはその方向を目指していると思うし、それでしか持続可能な低炭素社会の実現は不可能だと思う。

Aさん―でもそんなこと、国民が受け入れるかしら。誰だって豊かで快適な暮らしを望むのは当然じゃないですか。貧しくなるのはイヤでしょう。

H教授―エネルギー消費に制約を受けるけど、だからといってGDPは下がるかもしれないし、下がらないかもしれない。上がることだってあるかもしれない。
経済成長を絶対視することから脱却しろといってるだけで、問題は何に豊かさを求めるかだ。
終戦時にはあの混乱の中で価値観の大転換だって受け入れたんだ。もともと稲作文化の地域コミュニティで、助け合って生きてきた国民なんだから、大丈夫だよ。
問題は格差だ。絶対的な貧困なら話は別だが、日本みたいな国は貧しいか貧しくないかは隣人との比較なんだ。だから物質的な格差の拡大は避けた方がいい。

Aさん―でもそんな社会ってあまり楽しくないんじゃないですか。自由がなさそうだし。

H教授―そんなことはないよ。
現にボクはグルメにもブランドにも興味がない。いい服もクルマも最新の電化製品も別に欲しいと思わない。
家族と友人がいて、石を採りに行けて、本が好きなだけ読めれば、それで十分だ。
【9】 バックキャスティング方式
第37講(その4)「超長期ビジョン検討開始」

Aさん―ウソばっかり。アルコールとニコチンも必要でしょう。

H教授―う、まあ、そう言われればそうだな。
ま、老子の「足るを知る」というコトバを今こそ噛み締めるべきだと思うな。
あと、キミも非エネルギー消費型の趣味を何か一つは持った方がいいとは思うけどね。

Aさん―放っておいてください。余計なお世話です。センセイと人生を論じる気は毛頭ありませんから。
それより、国際的な動きはどうなんですか。「積み上げ方式」に「セクター別アプローチ」という日本の提案は受け入れられそうなんですか。



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