環境庁(当時)の職員から大学教授へと華麗な転身を果たしたH教授が、環境にかかわる内外のタイムリーなできごとを、環境行政マンとして過ごしてきた経験に即して解説します。
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第65講 「08年5月、神戸のG8環境大臣会合をめぐって」
第64講 「エコツーリズム推進法と小笠原」
第63講 「風雲急を告げる道路特定財源問題と温暖化問題」
第62講 『ニッポン、国内排出量取引制度導入に政策転換』
第61講 『日本列島、1月の環境狂騒曲』
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No. 第64講 「エコツーリズム推進法と小笠原」
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Issued: 2008.05.15
H教授の環境行政時評(第64講 その4)
小笠原の旅

H教授―え、ボク? 50年間、自然、つまり鉱物を学び、鉱物から学ぶ、という意味での究極のエコツーを、ひとりで、あるいは仲間と実践してきたと思ってるよ。
家族サービスだとか、石仲間以外との旅行のときは、ガイド付きツアーもいいけどね。
先日の小笠原でのホエールウォッチングなど面白かったし、迫力があったよ。

Aさん―あ、そうだ。小笠原の話をしてくださいよ。前講で予告したじゃないですか【16】
原生的な自然でいっぱいの島なんでしょう。

H教授―いや、違うよ。昔っからの無人島は別にして、人が住んでいた島は大半が開拓されたんだ。
太平洋戦争で負けて米軍統治になって以降、ほとんど放置されて自然回復が進んできたけど、今でも植物に関してはアカギやモクマオウ、リュウキュウマツなどの外来種がかなり多く生育している。

Aさん―あ、そうなんですか。じゃあ、何が貴重なんですか。

H教授―小笠原は日本の中で唯一の大陸とは無縁の海底火山起源の海洋島だ。
聟島列島、父島列島、母島列島を総称して小笠原群島という。多くの島から成り立ち、戦前は結構有人島が多かったが、今では父島、母島の二つの島に合わせて2,300人ほどが生活し、あとは無人島だ。
小笠原に初めて人が住みついたのはわずか180年前。多くの人が移住し始め、本格的な開拓が始まったのは明治中期頃からなんだ。だから原生林が少なくなったとはいえ、独自の進化を遂げた貴重な固有種がきわめて多い。「東洋のガラパゴス」と言われてるくらいだ。そういう意味では地史を知るうえに貴重だし、そこにつくられた生態系に独自のものがあって、そうしたものが世界自然遺産にふさわしいということなんだろう。
ところで小笠原にはじめて住んだのはどこの人か知っているか。
【16】 キョージュの小笠原紀行
第63講(その4)「ボン・ボヤージュ」

Aさん―江戸? それとももっと地方の人ですか。

H教授―実は日本人じゃないんだ。発見したのは日本人なんだけど、住み始めたのは欧米系の人たちなんだ。
当時は欧米では鯨油を得るためのクジラ漁が盛んで、世界の海をかけめぐっていた。そうした人たちの一部が住み着いたらしい。だから明治維新のとき、小笠原はどこの領土かということが問題になったんだけど、島自体の発見は幕府だったこと、先住していた人々の国籍がバラバラだったことなどから、日本の領土ということで決着した。今でもその欧米系の人たちの末裔がわずかだけどいるんだ。ボクらの乗ったホエールウォッチングの船長もそうだった。
“国家”ってなんだ、“領土”ってなんだって、少し考えさせられるねえ【17】

Aさん―そんなことはいいですから。センセイは30年ほど前にも行かれたことがあるんでしょう。だいぶ変わってましたか?

H教授―うん、すっかり観光の町、エコツーの島になってたね。
30年前には往復の船もがらがらだったけど、今度は往きも帰りも、老若男女の旅行者で満員。
あの頃は宿も数軒だけだったし、レンタカーもなかったんだぜ。今回はレンタカーがすべて出払っていて借りられず、仕方がないんで宿のクルマを借りた。港周辺は旅行者相手の商店が立ち並んでいる。
30年前は旅行者もまばらというか、ほとんど見かけなかったけど、今はどこに行っても旅行者がいるって感じだったな。
ホエールウォッチング、ドルフィンスイミング、グラスボートなどエコツー関連のさまざまなアクティビティもいっぱい準備されていて、老若男女を問わず楽しめるようになっている。
小笠原村の産業構成では、8割が第三次産業らしいから、屋久島や西表よりもさらに観光業に特化していて、文字通り観光の島といってもいいだろう。ダイビングに来た若者がはまってしまって、そのまま居ついてしまうことも結構あるそうだ。
ああいう離島は老人ばかりというのが普通なんだけど、若者の姿も目立ち、少子高齢化がウソのようで、随分活気に満ちているなあという気がした。
ま、ボクにとっては、30年前の方が素朴でよかったという気がしないわけじゃないけど、そんなのは旅人の感傷というかエゴだから、これ以上は言わないでおこう。

Aさん―環境保全の方で気づいたことはありますか?

H教授―やはり世界遺産登録に期待しているようで、方々にポスターや垂れ幕があった。立派なビジターセンターに、都の職員が何人もいた。港のタラップのところでも都の自然保護監視員だかなんだかの腕章を巻いた人がいて、環境省の影はなんとなく薄かったなあ。
【17】 国家としてのレゾンデトール
第27講(その2)「道東周遊随想―世界遺産登録と海域保護」
Aさん―世界遺産登録の話はどうなっているんですか【18】

H教授―93年に屋久島と白神山地が世界自然遺産に登録されたんだけど、その後、多くの地域が名乗りをあげ、2003年に環境省と林野庁が検討会を設けた【19】。その結果、世界自然遺産に登録できる可能性が高い地域として知床、小笠原、琉球諸島の3地域が選定され、2005年には知床が自然遺産に登録された。
検討会では小笠原については外来種対策と重要地区の保護担保措置をとる必要があるとされ、調査検討が開始。2007年1月には「暫定リスト」へ記載された。

Aさん―暫定リスト?

H教授―将来推薦を予定しているものは、正式の推薦・登録の1年以上前に「暫定リスト」に記載しなければいけないことになっている。
今後外来種対策などに取り組み、3年後をメドに正式に推薦することを目指しているようで、2007年には環境省、関係機関、自治体、専門家の手により「保全再生基本計画」が策定された【20】

Aさん―ふうん。で、ホエールウォッチングはどうだったですか。
【18】 小笠原の世界自然遺産登録について
第37講(その3)「来年度予算案と環境政策の新たな動向」
第47講(その3)「世界遺産と国立公園見直し」
【19】 環境省・林野庁の検討会
世界自然遺産候補地に関する検討会
【20】 小笠原の自然環境の保全と再生に関する基本計画
http://ogasawara-info.jp/
saisei_kihonkeikaku.html

H教授―うん、勇壮だったね。何頭も船の近くでジャンプしたりして飽きなかった。ボクは捕鯨再開には消極的賛成派なんだけど【21】あれを見ているとさらに消極サイドにシフトしちゃった。

Aさん―ちぇっ、いいなあ、自分だけ。

H教授―あとホエールウォッチングの船は南島というところに行ったんだけど、ここは都条例で立入り制限がされているんだ。ガイド付き15人以内で2時間以内、しかも上陸しても歩けるところはごく一部に制限されている。沈水カルストで素晴らしいところだったなあ。
ここは小笠原国立公園の特別保護地区なんだけど、自然公園法の利用調整地区にはなっていなくて、都条例の自然環境保全促進地域としての立入り制限をしているというのが印象的だった【22】

Aさん―動物の外来種は見ました?

H教授子ヤギは見たけど、昔来たときにいっぱいいた大型のカタツムリ、アフリカマイマイは見なかったなあ。グリーンアノールも見なかったし。
【21】 捕鯨問題とキョージュのスタンス
第50講(その2)「我、疑う故に我あり―「水伝」ブーム」
第15講(その2)「獲るべきか獲らざるべきかそれが問題だ 〜クジラ〜」
【22】 小笠原における立入制限
小笠原諸島における自然環境保全促進地域の適正な利用に関する協定
自然公園法に基づく利用調整地区について

Aさん―空港問題【23】はどうなったんですか。

H教授―石垣と同じで候補地が二転三転したけど、今は戦時中軍用空港のあった国立公園以外の場所が候補地になっているみたいで、いろいろ調査しているらしい。
滑走路が短すぎるので、延長するため地先海岸を埋め立てねばならないが、小型飛行機が発着する小型飛行場なら可能だと思う。数年先にはアセスメントに入るんじゃないかな。
もし空港を作るのなら住民が優先的に利用できるようなものとし、旅行者は原則として船を使うという選択肢もあると思うよ。間違ってもジャンボジェットなどを考えちゃいけないと思うな。

Aさん―そういえば前にアホウドリの移住の話題がありましたけど、あれはどうなったんですか【24】

H教授―うん、聟島への移住をようやく開始したという話だった。
【23】 小笠原の空港問題
第37講(その3)「空港、食う幸」
【24】 アホウドリの移住計画
山階鳥類研究所「アホウドリ 復活への展望」
聟島のアホウドリ 順調に発育
アホウドリ新繁殖地形成事業によるヒナ移送日の決定について
第41講(その2)「アホウドリ移住計画」

Aさん―あーあ、小笠原か。アタシも彼氏と一緒に行きたいなあ。青い海原で彼氏と二人でイルカと戯れる…、ロマンチックだわあ。

H教授―ぷっ、彼氏を探すのが先決だろう。

Aさん―しっ失礼な! キー!!
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(平成20年5月3日執筆、同年5月8日編集了)

註:本講の見解は環境省およびEICの見解とはまったく関係ありません。また、本講で用いた情報は朝日新聞と「エネルギーと環境」(週刊)に多くを負っています。
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