環境庁(当時)の職員から大学教授へと華麗な転身を果たしたH教授が、環境にかかわる内外のタイムリーなできごとを、環境行政マンとして過ごしてきた経験に即して解説します。
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第66講 「福田ビジョンを超えて」
第65講 「08年5月、神戸のG8環境大臣会合をめぐって」
第64講 「エコツーリズム推進法と小笠原」
第63講 「風雲急を告げる道路特定財源問題と温暖化問題」
第62講 『ニッポン、国内排出量取引制度導入に政策転換』
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No. 第65講 「08年5月、神戸のG8環境大臣会合をめぐって」
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Issued: 2008.06.05
H教授の環境行政時評(第65講 その1)
天災と人災―ミャンマーのサイクロンと中国四川省の大地震

Aさん―センセイ、先月(5月)の上旬はミャンマーのサイクロンに引き続き、中国四川省の大地震と、悲惨な災害が続きましたね。

H教授―ああ、ミャンマーじゃ国連推計で10万人の犠牲者が出たというし、四川省の大地震ではすでに7万人弱の犠牲者が出て、まだ増え続けているそうだ。
多くの方々の、かけがえのない命が奪われた。謹んでご冥福を祈ろう。

Aさん―確かに天災には違いないけど、人災の面も大きいんじゃないですか。
各国からの救助隊の派遣の申し出を両国とも最初は拒否していたでしょう。
最終的には受け入れましたけど、“条件付で受け入れを許可してやる”ってな感じじゃないですか。
天災は何よりも初動時対応でしょう。速やかに救助を受け入れていれば、何万人かが助かったかもしれないじゃないですか。あんまりだわ…。

H教授―うん、確かにキミの言う通りだし、ボクもそう思う。だが、残念なことに、国際政治の場はそうすんなりとはいかないんだ。
ミャンマーでは軍政が敷かれていて、つい昨年も仏教徒のレジスタンスを圧殺したばかりだ。不用意に外国人を入国させて機密を知られたくはないのだろうし、それがきっかけで被災者の不平不満に火がついたらかなわないと思ったのかも知れない。カネや物の援助なら大歓迎だけど、人はゴメンだと思っても不思議ではない。
救助隊を送ろうとする方だって、メンバーに諜報員を紛れ込ますことを考える国が出てきても不思議ではないしね。

Aさん―そういう意味では、中国の方だってそうですね。チベットで暴動というかレジスタンスを鎮圧したのは、ついこの間のことですものね。

H教授―うん、四川省では四つの原発のほか、多くの軍事施設や核関連施設も被災したらしい。だから、よけいに機密保持にセンシティブなのかも知れない。

Aさん―放射能漏れはなかったんですか。

H教授―可能性はないわけじゃない。放射能被爆の恐れがあるというので9,000人が避難させられたという記事が出ていた。また、土砂崩れで川が塞き止められできた「土砂ダム」が、その後の大雨で決壊の恐れがあって、下流にある放射性物質と化学物質を回収し、移転させる作業を突貫工事で進めている、なんて記事も報道されている。
どちらも断片的な情報で、続報がないから真相はよくわからないけど。

Aさん―それにしても学校などの公共施設は、緊急時には避難所の役割を果たすものなのに、そうした施設が簡単に全壊しちゃってますね。

H教授―貧しい地域では、学校などはまず作ることが急務で、耐震性がおろそかにされたのかも知れない。でもそれだけじゃなくて、至るところで手抜き工事がされていたのが発覚したなどの報道もなされている。

Aさん―こんなことでオリンピックなんて本当にできるんですか。

H教授―不測の事態が起きない限り、国家の威信にかけてもやろうとするだろう。
日本だって、阪神淡路大震災のあと、神戸が元気を出すためにといって空港を造った【1】
それと日本は食料や資源などを相当程度中国から輸入しているんだ。だから今回の大地震は日本にも大きな影響が出てくるかもしれない。

Aさん―そういえば四川省はレアメタルの宝庫だそうですね。

H教授―うん、多くの鉱山が被災しており、レアメタルの価格は急上昇しているそうだ。日本の在庫は数ヶ月だそうだから、その先が大変だ。
地震前の話だけど、山口県にある喜和田鉱山という昔のタングステン鉱山では、レアメタルの価格高騰で坑内の取り残しの鉱石を取り出したそうだし、ケータイやPCのリサイクル──いわゆる都市鉱山だけど──も、この地震がきっかけで一気に進むかもしれない【2】

Aさん―でも、こういう大災害が起きると、人間が自然を征服しただなんて考えがいかに傲慢かがわかりますね。人間はせいぜい高さ何百メートルかのビルを建てるぐらいだけど、プレートの動きはヒマラヤ山脈をつくり、マリアナ海溝をつくるんですもの、スケールが違いますね。
【1】 コーベ空港
第6講(その4)「コーベ空港・断章」
【2】 都市鉱山(携帯電話・PC等のリサイクル)
第61講(その4)「レアメタルのリサイクルと国内資源の確保」

H教授―それはそうなんだけど、人間の活動が原因で、気候変動が起き、海水温が上昇し、サイクロン、ハリケーン、台風などの規模も大きくなったことを忘れちゃいけない。
もちろんミャンマーの今回のサイクロンや、2005年のフロリダのハリケーン・カトリーナ【3】が直接的な温暖化の影響だと即断するつもりはないけど。

Aさん―あ、そうか。北極の氷がどんどん減っていくのは、多分に人間活動がもたらした温暖化のせいですもんね。
そのおかげでそれまで氷原が太陽光を反射させていたのが、直越海洋に吸収されるようになり、それがまた氷原の消失を加速させるんですよね。

H教授―うん、そういう意味では北極は極めてピンチな状況なんだ。にもかかわらず、先日テレビで知ったんだけど、北極海の海氷が少なくなったことで、開発に有利な条件ができたというので、先進国では北極海の海底地下資源の争奪戦が盛んになっているというんだから、人間の業というしかないね。

Aさん―まあ、あきれた…。
そのおかげでシロクマが激減、ついに米国内務省ではシロクマを絶滅危惧種に指定しましたものね。ブッシュさんの手前、温暖化とは無関係だと注釈付きですけど。

H教授―聞きようによっては、ブッシュさんに対する、すごい当て付けのような気もしないではない。
つい数日前も、ブッシュさんの腹心だったマクレラン前大統領報道官が、イラク戦争は誤りだったと著書で公言した。
また、日米同盟の観点からか安全保障の観点からか、渋る防衛省を尻目に、福田サンはクラスター爆弾の実質的な即時全面廃止の条約案に同意することに、最終段階で政治決断した。
コイズミさんや安倍サンならできなかったよ。
ま、皆、ブッシュさんの泥舟から逃げ出そうとしているんだと言えなくもないかも知れないけど。
 
【3】 カトリーナ災害
第33講(その1)「温暖化と自然災害」
神戸でG8環境大臣会合開催さる
Aさん―ぷっ、ついに“泥舟”扱いですか。
ところで5月24日から26日まで、神戸でG8の環境大臣会合がありましたね。あの結果をどうみられますか。

H教授―うん、新聞報道による限り、だいたい想定の範囲内だったなあ。

Aさん―何がですか。

H教授―あの会合は鴨下環境大臣を議長として開かれ、最後に議長総括が出された。その総括を読んでも、本質的な部分では昨年末の気候変動枠組条約COP13より踏み込んだ内容にはなってはいないと思ったな。
2050年の長期目標に関しては世界で半減、先進国はより大幅な削減というのにとどまり、COP13と同じことを再確認したに過ぎなかったし、中期目標やピークアウトに関してはむしろ一見、後退したかの感さえある。

Aさん―え? 後退?

H教授―うん、中期目標に関してCOP13では、議長提案で2020年に90年比25〜40%カットを示唆し、すったもんだしたんだけど【4】、今回の議長総括では実効的な中期目標の必要性を述べるにとどまったし、ピークアウト──つまり世界全体で排出削減に向かう時期──についても、COP13の「今後10〜15年」というのから「今後10〜20年」となってしまった。

Aさん―うーん、どうしてですかねえ。

H教授―国内事情が大きかったのかもしれない。伏線はあったんだ。
(5月)11日付けの新聞では、政府は2050年の日本の長期目標として「現状より60〜80%削減」が有力で、それを福田ビジョンとして今月発表という情報が流れたが、続報はないままだ。
その2日後の新聞には官房長官談話として、福田ビジョンについて長期目標のことは一切触れず、このビジョンには中期目標は盛らない、これからの交渉ごとであり、手のうちのカードを年内に見せることはありえないと言明した。

Aさん―見せることはありえないというより、見せられるカードをまだ持ってないというべきじゃないですか。
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【4】 気候変動枠組条約COP13の結果
第60講(その2)「検証:COP13」
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