環境庁(当時)の職員から大学教授へと華麗な転身を果たしたH教授が、環境にかかわる内外のタイムリーなできごとを、環境行政マンとして過ごしてきた経験に即して解説します。
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第66講 「福田ビジョンを超えて」
第65講 「08年5月、神戸のG8環境大臣会合をめぐって」
第64講 「エコツーリズム推進法と小笠原」
第63講 「風雲急を告げる道路特定財源問題と温暖化問題」
第62講 『ニッポン、国内排出量取引制度導入に政策転換』
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No. 第65講 「08年5月、神戸のG8環境大臣会合をめぐって」
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Issued: 2008.06.05
H教授の環境行政時評(第65講 その2)
脱温暖化2050プロジェクト
H教授―はは、なかなか鋭いじゃないか。それだけ政府部内や、政府と経済界との水面下では激しいつばぜり合いをしているんじゃないかな。
環境省の方も、環境大臣会合に間に合わせるかのように、5月22日には国立環境研究所を中心とする研究チームによる「脱温暖化2050プロジェクト」の成果報告として『低炭素社会に向けた12の方策』を発表した【5】
この12の方策をすべて実施することにより、2050年の対90年比70%削減は可能とした。

Aさん―へえ、その中身は?
【5】 低炭素社会に向けた12の方策(脱温暖化2050プロジェクト成果報告)
環境省報道発表
国環研記者発表

H教授―全28ページの報告書で、環境省や国環研のホームページに全文公表されているから読んでみるといい。
オフィス・住宅のエコ化、トップランナー機器のレンタル、旬産旬消農業、森林との共生・木材活用等々12を挙げている。
横断的な対策として、国内排出量取引環境税も挙げているし、ボクがかねてから言っている、電力料金体系の見直しや自然エネルギー固定価格買取制度もその中に入っている。
もっとも今後の技術開発に期待している部分も大きいし、エネルギー源はCCS付き火力と原発も想定し、エネルギー需要は減少させず、経済はこれからも成長し続けるとしている。
産業界や国民に不安を感じさせないように配慮したようにも読めて、その辺りはちょっと納得しがたいし、いささか楽観的すぎるんじゃないかと本能的に思ってしまうけどね。

Aさん―センセイは経済の無限成長は非現実的だというペシミストですものね。

H教授―うーん、ちょっと違うな。
結果的に成長が続くならいいけど、成長それ自体をもはや目標とする時代は過ぎたと思ってるんだ。
気候変動によるパニックを今から避けるために、まずやらなければいけないことは、エネルギーの総量抑制で、それで結果的に成長ができなくなっても仕方がないという覚悟をしておくこと、いわば社会全体が“足るを知れり”をモットーとすることなんだ。

Aさん―ふーん、でもそれじゃ夢がないんでは?

H教授―非エネルギー消費型の趣味を持てばいいんだ。ボクなんか高級車だとかブランド品だとかにはまったく興味がないけど、夢は今でもいっぱい持ってるぞ。
 
「温暖化影響総合予測プロジェクト」の発表

Aさん―(小声で)石っころか…。
で、温暖化影響の方も、何か新しい知見がまとまったんですよね。

H教授―うん。環境省は地球環境研究総合推進費で『温暖化影響総合予測プロジェクト』【6】を立ち上げていたんだけど、前期研究期間が終了したというので、5月29日にその結果を発表した。
多くの大学や研究所の研究者を結集したプロジェクトで、今世紀中頃(2050年頃)までに重点を置きつつ今世紀末までを対象として、水資源、森林、農業、沿岸域、健康といった、我が国の主要な分野における温暖化影響予測及び経済評価を行ったんだ。
報告書本文は全95ページ、概要版でも15ページもある。これらもすべて環境省及び国環研のホームページ上で公表されている。

Aさん―かいつまんで言うと、どんな内容なんですか。
【6】 「温暖化影響総合予測プロジェクト」成果発表
環境省報道発表
国環研記者発表

H教授―ボクだってじっくり読んだわけじゃないけど、IPCCの現状程度の対策の延長線でいくとどうなるかというシナリオ、つまり90年比で2030年に1.9℃、2050年に2.8℃、2100年には4.8℃上昇した場合、どんな影響が出てくるかを予測したんだ。
これまで、日本は温帯域だから、温暖化の影響は比較的小さいだろうと予測、あるいは願望する向きもあったけど、被害は相当深刻であることが示唆された。
全国的に豪雨が増えるし、一方日本海側では農業用水が不足する。ブナの分布域は激減し、白神山地では2050年以降ブナは壊滅。コメの収量は2040年頃から北日本で減少をはじめ、今世紀末には九州、中国も減少するそうだ。また海面上昇と高潮増加による浸水被害も顕著になる──などだ。その他、熱中症などの暑さによる死亡率が増加するなどと予測されている。
 
再びG8環境大臣会合

Aさん―ひゃあ、おそろしい。
にもかかわらず、神戸の環境大臣会合で、具体的・定量的な話がされなかったんですね。
じゃあ、洞爺湖サミットでも似たようなことになるのかな。

H教授―いや、こういう状況になればなるほど、トップの意向が最後に利いてくるかもしれない。道路特定財源の一般財源化のときでもそうだっただろう。これを政治学的にはボナパルチズムというんだ。
今月公表されるという福田ビジョンがどうなるかだね。ボクはそういう意味でも、福田サン個人には相当期待しているんだけどなあ。

Aさん―議長総括では、今までにないことも言及したでしょう。
H教授―うん、日本政府は低炭素社会の国際研究ネットワークの構築を提唱し、これを『神戸イニシアティブ』と呼んだ。まあ、こういう造語は役人の得意とすることだね。
で、議長総括でも『神戸イニシアティブ』を検証するための主要国会合を呼びかけた。
また、狭い意味での温暖化問題に限定することなく、生物多様性の保全に言及したり──これは多分、同時期にボンで開催されていた生物多様性条約のCOP9を意識したんだと思うけど──3Rの国際的連携による推進などにも言及した。
あと特筆すべきは、日本の、特に経産省や産業界が言い出している「セクター別アプローチ」【7】について、国別総量目標の設定には有効だが、それを代替するものでないということで釘を刺したことだろう。

Aさん―途上国や米国の反応はどうだったんですか。

H教授―米国については、あまり報道されなかったから知らない。
どうせポストブッシュは大幅な政策転換を強いられるに決まってるんだから、代表団もあまりがんばらなかったんじゃないかな、ま、ボクの独断と偏見だから間違ってるかもしれないけど。
途上国の方は、招待国として参加したんだけど、例え削減量がマイナスであっても義務付けされるのには抵抗はあるみたいだ。ただ、自主目標として数値目標を掲げる国がいくつも出現したみたいで、それが救いといえば救いだね。
もちろん、そのための資金や技術援助を先進国に要請しているし、先進国サイドもそれにはマジメに対応しようとしているみたいだ。
 
【7】 セクター別アプローチ
第63講(その2)「温暖化対策の国内動向」
関連行事その1 ──キョージュのシンポジウム
Aさん―ふうん。
そういえばセンセイ、関連行事のシンポジウムにパネリストとして参加されたって言ってたじゃないですか【8】。いかがだったですか、引き立て役のご感想は。
【8】 キョージュのシンポジウム
第64講(その2)「米国の新GHG総量目標発表」

H教授―う、うるさい。
研究者に混じってのパネルディスカッションというのは初めてだったので、少し緊張したけど、なんとか無事終了した。
みなさん、パワーポイントを使ったけど、ぼくだけは使わずに話した。

Aさん―使わなかったんじゃなくって、使えないんでしょう。正確に言わなくちゃ。

H教授―ホント、キミは一言多いねえ。
ま、引き立て役だったかどうかは、聴衆の評価に任そう。
基調講演の代わりの基調対談として、兵庫県知事の井戸サンと滋賀県知事の嘉田サンがそれぞれ話された。

Aさん―え? ぶっつけ本番で対談されたんですか。

H教授―ま、あれを対談というのはムリがあるなあ。コーディネーターが間に立って両知事がそれぞれの県を目指すことを話すという形式だった。
それなりに聞き応えはあった。

Aさん―ふーん、関連行事でセンセイが出席されたのはそれだけなんですか。
 
関連行事あれこれ2 ──「気候変動と水」特別シンポジウム
H教授―いや、環境大臣会合前日の、IGESなどの主催、つまり実質的には環境省主催といっていい『気候変動と水』という特別シンポジウムも聞きにいった。
去年のノーベル平和賞を受賞したIPCC議長のパチャウリさんが基調講演し、そのあとボクも知ってるパネリストが入ったパネルディスカッションで、超満員だった。何人も知ってる顔に出くわした。
気候変動の具体的な現われは、水資源の不足と過剰―洪水―という形で表出し、すでにその兆候が現われているというのが基本的なスタンスで、なかなか説得力があった。
なかでもアルピニストの野口健サンが、ヒマラヤの決壊のおそれがある氷河湖のことを、しきりに訴えてたのが印象的だった。

Aさん―フロアとの交流はあったんですか。

H教授―もちろんあったよ。ボクのゼミ生も出席し、盛んに手を挙げていたけど、指名されず、前方の招待客からの挙手だけを指名したかの感があったな。
最初の発言者は国会議員だった。

Aさん―つまり、あらかじめ準備された「サクラ」との交流だったと。

H教授―はは、そんなことは言ってないよ。

Aさん―つまり、そういうことでしょう。

H教授―たまたまだろう。
で、終ったあと環境行政学会で旧知の某氏に会ったんだけど、そのあとレセプションがあって、それに出ると言ってた。ボクはさっさと帰ったけど。

Aさん―はは、センセイは呼ばれなかったんだ。

H教授―特別シンポジウムの裏話を書かれるのが嫌だったのかな。
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