環境庁(当時)の職員から大学教授へと華麗な転身を果たしたH教授が、環境にかかわる内外のタイムリーなできごとを、環境行政マンとして過ごしてきた経験に即して解説します。
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第66講 「福田ビジョンを超えて」
第65講 「08年5月、神戸のG8環境大臣会合をめぐって」
第64講 「エコツーリズム推進法と小笠原」
第63講 「風雲急を告げる道路特定財源問題と温暖化問題」
第62講 『ニッポン、国内排出量取引制度導入に政策転換』
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No. 第65講 「08年5月、神戸のG8環境大臣会合をめぐって」
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Issued: 2008.06.05
H教授の環境行政時評(第65講 その4)
“遊び”のない社会、ゆとりのない社会

Aさん―そういえば、また国家公務員制度改革基本法が与野党で合意、成立したそうですね。

H教授―うん、キャリア制度の解体と幹部人事の一元化、政治家との接触や天下りの原則禁止だとかということでスタートしたんだけど、そもそも当初案がぐちゃぐちゃになってしまい、なんだかどれも中途半端に終わったみたいで、どの程度実効性があるのかよくわからない。
公務員や行政制度に関しては、他にも地方分権推進委員会の勧告を一部受ける形で、一級河川の一部については管理権限を自治体へ移管するだとか、あるいは福田サンが言いだしっぺの消費者庁の設立だとか、いろんな案件が目白押しだ。

Aさん―でも公務員制度も昔とは随分変わったんでしょう。

H教授―うん、まったく様変わりしている。でも、それは公務員制度が変わったというより、社会そのものが変わったんだと思うな。
一言で言えば、効率性ばかりを強調して、コマネズミのようなゆとりのない社会になっちゃった。いわばクルマのハンドルの“遊び”がなくなっちゃったんじゃないかという感じがするなあ。

Aさん―えー、どういうことですか。

H教授―役所の中からは、勤務時間中に談笑するなんてことが、ほとんどなくなってしまった。街に出ても、量販店やコンビニは年中無休、夜間営業もあたりまえ。元旦だって営業しているところが多い。
今や大学だってそうだ。かつては教員の都合で休講にして、それで学生も喜んだなんてことがあったけど、今じゃ休講にすることも容易じゃないし、秋学期などは祝日を何回かつぶしてまで講義しなくちゃいけなくなった。

Aさん―センセイにとってはあまり喜ばしい変化じゃないみたいですね。
老い先短いんだから、ゆっくりさせろというわけですか。

H教授―こらこら。
若い頃こそ、そういう“遊び”みたいなものがないと、心身がすり減ってしまうんじゃないかと思うなあ。
 
生物多様性基本法成立

Aさん―ところで生物多様性基本法【14】が成立しましたね。

H教授―うん、議員立法だ。5月28日に参院本会議で全会一致で可決成立した。

Aさん―何か大きく変わることがあるんですか。

H教授―まあ、理念法だからねえ。理念法としてはすでに環境基本法自然環境保全法があるし、それの改正で生物多様性保全を入れるという方法もあったんだろうけど、そうすれば、各省協議やなんやでもみくちゃになる恐れがあるので、議員立法になったのかもしれない。

Aさん―既存の理念法と矛盾する点はないんですか。
【14】 生物多様性基本法
第64講(その2)「生物多様性基本法の動き」
生物多様性基本法が成立!(WWF-J)
衆議院>第169回国会 衆法一覧
(提出時法案)
H教授―それはないと思うよ。
この基本法は現在の生物多様性国家戦略の根拠法となるだけでなく、自治体でもそれぞれ多様性戦略の策定がなされることになる。
あと、25条で、「生物の多様性に影響を及ぼすおそれのある事業」については「計画の立案の段階から」の環境アセスメント【15】、つまり戦略アセス【16】を行うことが義務付けられた。

Aさん―どんな事業が対象になるんですか。またアセスメントの中身は?

H教授―25条にはそこまで書いてない。だから、今後施行規則案の検討段階で、対象事業の定義と具体的な規模要件、アセスの内容やアセス法との関係などが議論されるんだろう。
関係法案の改正などで、結構手間取りそうな気がするなあ。

Aさん―センセイのご意見は?

H教授―もちろん大きく一歩前進したと評価しているよ。
ただ、前にも言ったかもしれないけど、既存の法体系で保全の手立てがなされていない地域、水域がいろいろある。そうしたところの開発・改変の原則禁止規定を盛り込んで欲しかった。
残されたサンゴ礁藻場干潟、自然湿原、自然河川や自然海岸や原生流域などは、いちいち自然公園などの保護地域に指定するまでもなく、開発・改変の原則禁止や抑制を規定したっていいと思うな。

Aさん―私権との関係で、そう簡単にはいかないんじゃないですか。
【15】 環境アセスについて
第2講(その2)「環境アセスメント私論」
第32講(その3)「アセスの課題」
【16】 戦略アセスについて
第2講(その4)「戦略アセスと政策決定システム」
第51講(その3)「SEAガイドライン」

H教授―そうしたところのほとんどは国公有地のはずだぜ。
特に今年は国際サンゴ礁年だ。サンゴ礁がある海域は公有水面に決まってるんだ。戦略アセス云々以前にサンゴ礁埋立の原則禁止規定くらいは入れたっていいだろう。
生物多様性に関してはさっきもちょっと話したように、先月末にCOP9がドイツのボンで開かれたんだけど【17】、そこで報告書『生態系と生物多様性の経済学』が発表されている。『生物多様性版スターン報告』とも呼ばれているらしい。
新聞によると、2050年までに自然地域の11%、サンゴ礁の60%が喪失する可能性があること、また森林生態系の劣化によって2050年における経済的損失は200から500兆円にのぼり、GDPを6%押し下げる可能性があるとしているらしい。
ま、ボクは経済学オンチだから、細かい数値はよくわからないし、そもそも世の中には経済価値で計ることのできない重要なものがいっぱいあると思っているけど、このままいけば大変なことになって、気候変動とも絡んで、ボクらの首を絞めることになることくらいはわかる。まさにウロボロスの蛇だね。
【17】 生物多様性条約第9回締約国会議(COP9)
会議概要発表(外務省)
会議概要発表(環境省)
生物多様性条約第10回締約国会議の開催地及び日程の決定について(環境省報道発表)

Aさん―ウロボロスの蛇ねえ【18】。はいはい。
ところで確か2010年に生物多様性のCOP10が名古屋で開催されることが決まったんですよね。

H教授―うん、2010年は節目の年で、国際生物多様性年にもなっている。
2002年にハーグで開かれたCOP6では2010年を目標年とする『2010年目標(2010 Target)【19】が定められたんだ。そういう意味でも単にお経の文句としてでなく、中身のある生物多様性保全のための骨太の政策を定めてほしいね。
さあ、今日はこの辺りで終わろうか。

Aさん―え? 今日のオチはないんですか。

H教授―バカ、何を言っているんだ。漫才じゃあるまいし。

Aさん―え? そうだったんですか。アタシャ、てっきり環境をネタにした漫才だとばっかり思ってましたが。

H教授―…。
【18】 ウロボロスの蛇
第1講(その5)「キョージュ、ヒトの未来を語る」
【19】 生物多様性に関する2010年目標
第49講(その3)「生物多様性保全を巡って」

 
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(平成20年6月2日執筆 6月3日編集了)

註:本講の見解は環境省およびEICの見解とはまったく関係ありません。また、本講で用いた情報は朝日新聞と「エネルギーと環境」(週刊)に多くを負っています。
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