環境庁(当時)の職員から大学教授へと華麗な転身を果たしたH教授が、環境にかかわる内外のタイムリーなできごとを、環境行政マンとして過ごしてきた経験に即して解説します。
トップページへ
第67講 『戦いすんで日が暮れて─洞爺湖サミット終了!』
第66講 「福田ビジョンを超えて」
第65講 「08年5月、神戸のG8環境大臣会合をめぐって」
第64講 「エコツーリズム推進法と小笠原」
第63講 「風雲急を告げる道路特定財源問題と温暖化問題」
メルマガ申し込み 会員登録 ヘルプ サイトマップ
国内ニュース 海外ニュース イベント情報 環境Q&A 機関情報 環境リンク集 環境用語集 ライブラリ 森づくり宣言
No. 第66講 「福田ビジョンを超えて」
page 2/4  1
2
34
Issued: 2008.07.03
H教授の環境行政時評 (第66講 その2)
温暖化対策最新動向
Aさん―ふふ、センセイ、今だって9時からの1限の授業は辛そうですものね。
早寝早起きしましょうよ。年寄りが夜型生活を送るなんて、不健康だし、第一エコじゃないですよ。
だから、トレッドミル検査なんて特殊な心電図検査まで受けさせられる羽目になって、しかも、それでも引っかかっちゃったんじゃないですか。

H教授―…(真っ赤になって下を向く)。

Aさん―(慌てて)そんな落ち込まないで…
この福田ビジョンの具体化の第一歩として、経産省では住宅への太陽光発電の支援措置の強化を進めるようですし、カーボンフットプリントの指針作りにも乗り出すそうです。
同省の総合エネルギー調査会新エネルギー部会の緊急提言(中間報告)が26日に公表されていますが、ポスト京都では経団連などの自主行動計画を、政府との協定に切り替えるなどの、より法的な効力のあるものにすべきだとしました【7】。きっと、先日新聞で「京都議定書策定時に政府と産業界とが法的な規制を行わないと密約した」と報じられたことが利いているんでしょう。
一方、環境省の方でも、環境省と温暖化対策に熱心な自治体などとの連携組織である、「日本カーボンアクション・プラットホーム」(JCAP)を7月に設立すると発表しました。自治体などでスタートし、また検討しているカーボンオフセットのような経済的手法の情報交換を密にして、その促進を図るとのことです。
また官邸に設けられた温暖化問題懇談会も提言をまとめ提出しましたが、これは福田ビジョンを補完するもののようで、環境税創設の必要性も示唆しています。

H教授―具体的な施策として、一部自治体ではコンビニの深夜営業自粛を要請しているし、京都市では規制を導入しようとしている。これに対して、業界側は効果は小さいと反論している。
要請とか規制じゃなく、深夜営業に対して新たな課税をするという手法がとれないのかなとボクなんか思っちゃうけどね。

Aさん―温暖化対策と関連する国際会議もこの間、いろいろありましたねえ。
【7】 総合エネルギー調査会新エネルギー部会の緊急提言
総合資源エネルギー調査会新エネルギー部会中間とりまとめ(緊急提言)案
「新エネルギー政策の新たな方向性―新エネルギーモデル国家の構築に向けて―」(第26回新エネルギー部会資料)
総合資源エネルギー調査会新エネルギー部会 中間とりまとめ(緊急提言)案に対する意見募集について
H教授―福田ビジョンの出される直前、G8+αのエネルギー大臣会合が青森で開かれ、「青森宣言」が出された【8】。ここでは「国際省エネ協力パートナーシップ」(IPEEC)の創設が決まった。G8に中、印、韓の11カ国が、それぞれエネルギー消費原単位目標を含む行動計画を策定し、その進捗状況を相互に検証するとのことだ。

Aさん―福田ビジョンの「環境エネルギー国際協力パートナーシップ」とはまた別なんですね。
【8】 G8+αのエネルギー大臣会合(青森)
資源エネルギー庁「G8エネルギー大臣会合及び5カ国エネルギー大臣会合の開催について」
2008年G8エネルギー大臣会合等青森県協力本部ホームページ
H教授―(自信なさげに)うーん、別だと思うけどなあ。
6月中旬には、今度はG8財務省会合が大阪で開かれ、「気候投資基金」の設立を呼びかける声明が発表された。この基金は、ポスト京都までの暫定的な財政支援措置として、世界銀行内に設置する2つのファンドで運営するとしている。
福田ビジョンで言っている12億ドルの支援とは、この基金への拠出のことだろう。
また「気候変動G8アクションプラン」も決定した。新たな金融ツールの開発を奨励するとともに、排出量取引や環境税などの経済的手法について有効性を認めつつ、課題も指摘したそうだ【9】
【9】 G8財務大臣会合(大阪)
2008年サミット財務大臣会合
財務省 北海道洞爺湖サミット 大臣会合声明のポイントなど
民間・公的金融機関の関与を強化するための気候変動G8アクションプランのポイント

Aさん―アタマが混乱しちゃいますねえ。そもそも京都議定書のときにそういう基金ができたんでしょう。だったら、それへの拠出金を増やすだけでいいんじゃないですか。いろんな基金がいっぱいできて、なんだかよくわかりません。

H教授―…うん、正直言って、ボクだってよくわからないんだ。
あと、6月下旬にはソウルで主要16カ国とEU、国連を加えた主要排出国会議(MEM)が開催され、洞爺湖サミットで発表する宣言案を発表した。
数値目標に触れるかが注目されたが、結局途上国と米国との溝は埋まらず「参加国は共通の理念を支持する」というにとどまった。もっとも、途上国側も長期目標の理念に理解を示したということで、一歩前進という見方もできる。
もう先進国対途上国という構図だけではなく、途上国側も成長著しい排出大国とそうでない最貧国があるという構造も明確になってきていることを忘れちゃいけない。

Aさん―ええ、あと環境省の動きですけど、18日には地球温暖化の日本への影響と適応策についての報告書を発表したそうですね。
H教授―うん、地球環境局長の諮問委員会として設置された「地球温暖化影響・適応研究委員会」の検討結果について取りまとめ、報告書「気候変動への賢い適応」を発表した【10】
日本への影響予測については、温暖化影響予測プロジェクトの研究成果をすでに公表している【11】けど、その悪影響を回避、軽減、遅延させるための適応策をまとめたものだ。
ここで注目しておきたいのは、「賢い適応(効果的・効率的な適応)」が必要であるとしていることだ。
堤防や海岸保全施設といったインフラ整備は予算上制約があるので、それだけに頼るのでなく、地域ごとの特性に応じた避難体制を検討するといった対策を組み合わせる必要があり、そうした適応計画を策定することを提言している。

Aさん―適応策ってどんなものが挙げられているのですか。

H教授―例えば、食料問題に関しては高温耐性品種の開発や栽培地・栽培方法の変更や禁漁域の設定、水問題では雨水利用の促進普及、生態系の変化ではスギ林の自然林化や自然保護区の設定、災害問題では防災訓練 などなどだ。
ま、報告書の全文はすでに公表されているので、読んでみるといい。

Aさん―センセイは読まれたんですね。

H教授―…まだだ。とりあえずの新聞情報による要約だ(照れ隠しの笑い)。
【10】 「気候変動への賢い適応」
地球温暖化影響・適応研究委員会報告書「気候変動への賢い適応」の発表について(平成20年6月18日環境省報道発表)
【11】 温暖化影響予測プロジェクトの研究成果の公表について
第65講(その2)「「温暖化影響総合予測プロジェクト」の発表」

 
国内排出量取引制度と都内排出量取引制度
Aさん―やっぱりねえ。
ところで、その福田ビジョンと自民党の推進本部の中間報告が出されたあと、急ピッチで国内排出量取引制度の構築に向けて進展しているそうですね。

H教授―うん、産業界、とりわけ電事連などはあくまでも“どんな課題があるか見極めるための実験”という立場を崩してはいないが、経産省も制度の本格導入があとに続くものであると腹をくくったようだ。
環境省の今までの自主参加による模擬事業には、電力、鉄鋼などの主要業種からの参加がなかったけど、今秋からの試行的実施には主要業種も参加し、1,000社を越すんではないかと言われている。今、両省で制度設計を急ピッチで進めているみたいだ。

Aさんキャップはどうなるんですか。

H教授―うん、そこが大問題なんだ。
排出量取引なるものは、厳しいキャップがあって初めて意味のあるものとなるんだけど、試行的実施においては、経団連の自主行動計画のような自主目標をそのままキャップとするようだ。
この点は不満が残るけど、2010年の準備的運用までにはポスト京都も決まり、それを踏まえた厳しいキャップが被さることを期待しよう。
そして、それにはボクが前から言ってた国内CDMグリーン電力証書、カーボンオフセットなどを取り込むことも必要となるだろう【12】
問題なのは、あくまで試行的実施にしか過ぎないから、今協議中の国際ルールづくりに関与できなくなるんではないかとの懸念が残ることだ。

Aさん―ところで、国の試行的実施に先んじて、一足先に東京都では、都内排出量取引制度が決まったんでしょう。

H教授―うん、あれはすごかった。
環境確保条例改正案が都議会で25日に可決されたんだけど、大規模事業場に対するCO2削減、つまりキャップを義務付けるというもので、そのキャップは2020年度までに15から20%削減するということを目安に、今年度中に専門家による検討会で決めるそうだ。そして一種のCDMのようなものも認めるとのことだ【13】
もっとも実施そのものは2010年度からのようだから、国の準備的運用開始と同じになるかもしれない。

Aさん―リーケージと言うんですか、都の事業所が都外に逃げ出したりしないんですかねえ。
都の産業振興関係の部局がよくそんな条例案を認めましたね。

H教授―ボトムアップじゃ絶対ムリだったろうね。
当然猛反対したろうが、石原知事の一喝で無念やるかたなく引き下がらざるを得なかったんだろう。

Aさん―スポンサーの産業界は猛反対したでしょうに、都の自民党も賛成したんですね。

H教授―そりゃあ、抵抗勢力にみられたら、選挙に落ちちゃうと思ったんじゃないかな。

Aさん―これが、他の自治体に波及する可能性はないんですか。

H教授―うーん、そうなればいいんだけど、黒字自治体の東京都だったから強気に出られたという面もあったろうし、何よりもあの石原サンの特異な超ワンマン体質がこの場合プラスに出たんだろう。
良識人が首長になれば、いくら環境保護派の首長だって、ああいうことはできないだろうと思うよ。そういう点、長野の知事だった田中康夫サンによく似ているよ。
【12】 国内CDMやグリーン電力証書、カーボンオフセットなどの実現について
第63講(その3)「国内排出量取引制度の動向」
第62講(その2)「国内排出量取引制度の検討開始へ」
【13】 東京都環境確保条例の改正について(2008/6/25 都議会可決)
東京都環境確保条例の改正の概要等について
温室効果ガス排出総量削減義務と排出量取引制度の導入
東京都の地球温暖化対策
第54講(その4)「都が拡大排出権取引にチャレンジ?」

Aさん―へえ、センセイが石原サンを褒めるなんて珍しいですね。

H教授―好き・嫌いと、政策評価は別だ。今だって大嫌いには変わりないさ。
 ページトップ
page 2/4  1
2
34
前のページへ 次のページへ

Copyright (C) 2004 EIC NET. All rights reserved.