環境庁(当時)の職員から大学教授へと華麗な転身を果たしたH教授が、環境にかかわる内外のタイムリーなできごとを、環境行政マンとして過ごしてきた経験に即して解説します。
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第67講 『戦いすんで日が暮れて─洞爺湖サミット終了!』
第66講 「福田ビジョンを超えて」
第65講 「08年5月、神戸のG8環境大臣会合をめぐって」
第64講 「エコツーリズム推進法と小笠原」
第63講 「風雲急を告げる道路特定財源問題と温暖化問題」
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No. 第66講 「福田ビジョンを超えて」
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Issued: 2008.07.03
H教授の環境行政時評 (第66講 その3)
淀川水系4ダムと橋下府政
Aさん―ああいうことを橋下サンもやればいいのに。

H教授―国土交通省近畿地方整備局は、諮問機関である淀川水系流域委員会の反対を押し切って、淀川水系4ダムの建設という内容の河川整備計画案を作成したんだ。
国庫事業であっても、自治体に負担金の支払い義務が生まれ、大阪府の場合、すでに支出した額は260億円に及び、今後の支払額も2ダムについてだけの試算でも140億円にも上るらしいんだ。
これについて、関係知事がコメントを述べているんだけど、京都府、滋賀県に較べると一番腰の引けたコメントだったような気がする。新聞情報では、「市町村長の意見をよく聞いて態度を決めたいし、国が事業をやると決めたら負担金は法律で決められているから、払わざるを得ない」みたいなことを言ってたよ。

Aさん―でも地元自治体の意見を聞くというのは、一応、もっともなようも気もするんですけど。

H教授―関係市町村長は推進派だ。だって、地元は大昔、無理矢理納得させられて、ダムができるという前提での町興しを考えざるを得なかったんだから、今さら梯子を外されても困るって思うのは当然だ。彼らだって被害者なんだ。
だからこそ、「ダム以外での町興しをもう一度いっしょに考えましょう」「そのために可能な支援をしましょう」と言えばいいじゃないか。
それに負担金を出さないのは法律違反だって言うけど、「そんなものは払えない」「無い袖は振れない」って徹底抗戦して、裁判でもなんでも受けて立てばいいじゃないか。
一方じゃ、片っ端から予算カットを目論み、人事委員会なんか無視してスト権を剥奪された職員の人件費まで大幅カットしようとしているんだから、べらぼうな負担金に対しても正面から戦おうという気構えをみせてほしかった。
この負担金問題については批判も高まり、さすがに一昨日の新聞では、地方整備局に対して優先度が低いと難色を示したらしい。やはりいくらなんでも、唯々諾々と受けるのはまずいと思ったんだろう。最後まで突っ張ってほしいよな。

Aさん―ぷっ、ほんとにセンセイは天邪鬼だわ。府民からは絶大な人気があるというのに。
ところで、その淀川水系流域委員会ですが、カネを使いすぎだといって国土交通省から兵糧攻めにされているらしいですよ。7年間で23億円使ったそうです。
H教授―くだらない話だねえ。ダムに何千億と使いながら、市民参加・情報公開のための経費をケチるなんて。600回以上の会合をやってるんだ。ムダ遣いってことはないだろう。明らかに意趣返しだ【14】
国土交通省の言う“市民参加”とか“有識者の意見を聞く”というのは、シャンシャンの御用委員会のことなんだろう。
国土交通省が手を回して国会議員に「道路財源で職員がテニスボール買うよりムダ遣いだ」などと言わせて、大臣が「お詫びの気持ちでいっぱいだ」なんて、まるで猿芝居以下じゃないか【15】
そんな何千億ものカネがあるんなら、温暖化で決壊が危惧されるヒマラヤの氷河湖の対策に回すべきだと思うよ。

Aさん―ふふ、H節炸裂ですね。それ以外に何かありましたか。
【14】 淀川水系流域委員会
第56講(その3)「淀川水系流域委員会再開」
第47講(その3)「淀川水系流域委員会休止」
第64講(その2)「暴走?する橋下サン」
【15】 とんだ猿芝居
第169回国会 参議院国土交通委員会(8号) 平成20年5月15日開催
書評―『“環境問題のウソ”のウソ』
H教授―最近、面白い本を見つけたからその話でもしようか。『“環境問題のウソ”のウソ』(山本弘、楽工社、1200円+税)という本だ。

Aさん―またトンデモ本ですか。センセイ、好きですねえ。地球温暖化問題は原発業界の陰謀だとでも言ってるんですか。

H教授―違う違う、よく題名をみろよ。『環境問題のウソ』なる本の類がいかにトンデモ本かということを徹底的に論証しているんだ。この本で主に取り上げているのは、ボクもちょろっと批判したことのある武田邦彦センセイ。

Aさん―ああ、『環境問題はなぜウソがまかり通るのか』ってベストセラーになったやつですね。なんでもあの本で印税が4000万円入ったという話で、センセイがカッカ来てましたねえ【16】
確か、パートIIも出したんじゃなかったんですか。

H教授―うん。で、『ウソのウソ』の著者の山本弘氏は環境学者でもなんでもないSF作家で、「と学会」の会長。

Aさん―「と学会」?

H教授―うん、空飛ぶ円盤に誘拐されただとか、日本人の先祖はユダヤ人だとかいう類の、荒唐無稽な説を唱えている本をそもそも「トンデモ本」と名付けたのは山本氏なんだ。
で、そういったトンデモ本を蒐集して、著者の矛盾や無知を片っ端から笑い飛ばすのを趣味にしているサークルが、「と学会」。
「と学会」は「トンデモ本の世界」シリーズを出していて、ボクはその熱心な読者なんだ。
でも山本氏は環境問題にはまるで素人。だから、本屋の店頭でこの本をみかけたとき、山本氏がどういうことを言うかとワクワクして買ってきた。

Aさん―ふーん、どうだったですか。
【16】 キョージュのトンデモ本批判
第58講(その2)「万華鏡・その1 ──IPCCとゴア氏にノーベル賞」
第14講(その3)「ダイオキシンの余波と、リサイクルの功罪?」

H教授―いやあ、面白かった。普通、こういうベストセラーについて書いた本は“便乗本”と言って、くっだらないものが多いんだけど、これは違っていた。
徹底的に武田センセイのデタラメさを暴露し、笑い飛ばしていた。

Aさん―例えば?

H教授―武田センセイは、ペットボトルリサイクルでは、平成16年度には600億円かけて24万トン回収したけど、再生利用したのはわずか3万トン、あとは全部燃やしているなどという、鬼面人を驚かすような珍説を言っている。
ウチの学生でも、それを真に受けているのが何人もいて、ボクも酷評したことがある。
山本氏も最初はそれを事実と信じて憤激したんだけど、自分で調べていくうちに、こりゃあおかしいと気付き、武田センセイとも直接対決して、それがウソとデッチアゲと恣意的な解釈であることを、これでもか、これでもかと暴き出し、笑い飛ばしている。

Aさん―どういうことなんですか。

H教授―まず回収量からしてウソ。市町村が回収したのが24万トンで、他に量販店など事業系の回収ルートがあって8万トン回収されているんだけど、武田センセイは後者はリサイクルのための回収じゃなく、外国に売るための回収だからといって含めなかったんだそうだ。

Aさん―だって、外国ではリサイクルするためにそれを買うわけでしょう。

H教授―でも、それはセンセイの言う“リサイクル”じゃないから、回収量に含めなかったそうだ。

Aさん―ひぇえ、変なの。

H教授―で、市町村が回収した24万トンのうち、狭雑物などを除いた残り18万トンが再生利用されているんだけど、例えばぬいぐるみの中の詰め物として再生利用したものなどは、センセイの言う“再生利用”の定義に当てはまらないそうだから含めなかったんだと。
結局、センセイのお眼鏡にかなった再生利用量は厳密に言うとゼロで、甘めに見積もってもせいぜい3万トンということだったようだ。
つまり、あの本で言う“回収量”とか“再生利用量”とかいうのは、武田センセイが恣意的に定義したものだった。

Aさん―無茶苦茶じゃないですか。そりゃあ、学会発表できる代物じゃないですね。

H教授―ま、これは一例にすぎない。『ウソのウソ』では、そういうデタラメを徹底的に暴き出しているんだけど、恐ろしいことに武田センセイはそれがデタラメだということの自覚がまるで欠如しているそうだ。それ以外にも武田センセイのいろんな妄説を木っ端微塵に粉砕している。
他にも温暖化問題にも言及、さまざまなレベルの温暖化懐疑論者の著書なども渉猟し、槍玉に挙げている。
もちろん山本氏は専門家じゃないからわからないことはわからないと言っていて、温暖化そのものについては、(1)温暖化は確実に起きている、(2)その原因は多分人間活動によるものだが、まだ疑問は残る ──と結論付けている。
温暖化による被害は深刻なものなのかという問いに対しては、楽観論者の意見を甘すぎると論難しつつも、あくまで深刻なものと言うのは可能性の話であり、「わからない」と言うしかないとしている。
そして「温暖化を食い止める努力をすべきか」という最後の問いには「あなたの考え方次第」と突き放している。

Aさん―え? どういうことですか。

H教授―未来世代に起きる被害の大きさを山本氏は「外部費用」と呼び、その費用は不確定要素が大きすぎてわからないとして、次のように言っている。
「環境破壊を深刻に心配している人にとって、外部費用は無限大である。無関心な人にとってはゼロである。客観的かつ公正な外部費用の額を知ることができない以上、ぼくたちは自分たちの主観と信念──いわば「心の中の外部費用」に基づいて行動や選択するしかないのだ」
そして、山本氏自身の心の中の外部費用はかなり大きいとしている。
つまり確実なことは誰にもわからないけど、山本氏自身は温暖化の被害は深刻なものと受け止め、それを食い止める努力をすべきだと考えているということと、しかし、その考えを他人に押し付ける気はないということのようだ。
非専門家としては、至極まっとうな意見だと思うよ。

Aさん―へえ、おもしろそう。今度読んでみようっと。

H教授―うん、武田センセイに印税がいくのは不愉快だけど、山本氏にいくんだったらいいと思う。
でも、多分ただの便乗本だと思われて、ベストセラーにはならないだろうなあ。
EM菌にしたってそうだけど、世間一般を惑わすような言説に対しては、山本氏のような素人じゃなく、研究者がきちんと反論すべきだと思ったなあ。
多くの研究者は研究業績としてカウントされないような仕事はしたがらないんだねえ。
もちろん、そういうことをしている人もいるんだけど、今度は言うことが専門的過ぎて、一般の人にはよくわからないことが多い。

Aさん―何を言ってるんですか、それこそセンセイの出番じゃないんですか。

H教授―ボクはそれで一冊の本を書くほどの学識も根気もないんだ。その代わり、いろんなところで、口頭で一言二言は言ってるつもりだけどねえ。
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