環境庁(当時)の職員から大学教授へと華麗な転身を果たしたH教授が、環境にかかわる内外のタイムリーなできごとを、環境行政マンとして過ごしてきた経験に即して解説します。
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第68講 「夏の夜の夢―キョージュの2030年論」
第67講 『戦いすんで日が暮れて─洞爺湖サミット終了!』
第66講 「福田ビジョンを超えて」
第65講 「08年5月、神戸のG8環境大臣会合をめぐって」
第64講 「エコツーリズム推進法と小笠原」
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No. 第67講 『戦いすんで日が暮れて─洞爺湖サミット終了!』
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Issued: 2008.07.31
H教授の環境行政時評 (第67講 その1)
大分県教育委員会の不祥事―ウチ社会の陥穽

Aさん―センセイ、大分県の教育委員会の採用試験で大揺れですね。あれじゃあ、学校の先生の信用なんてなくしちゃいますよね。
…(小さく)ま、アタシャ、はじめっからセンセイのこと信用してませんけどね。

H教授―うん、2〜30年前まで一気に時代を遡った感じだな。

Aさん―え? 昔はあんなことがざらだったのですか。

H教授―そうさ、今だって就職のとき縁故採用なんて話がよくあるだろう。

Aさん―でも、それは民間企業の話です。お役所がそんなことしちゃあダメでしょう。
H教授―だから役所はある意味、民間の鏡なんだってば【1】
小さい市町村に行けば、縁故採用が当たり前だったし、国家公務員だって、人事院試験に合格することと省庁に採用されることは別だから、合格さえすればコネがある方が有利だったことは否めないだろう。

Aさん―え? そうなんですか。
【1】 役所は社会を写す鏡
第24講(その2)「脱線 ―ウラガネ考」

H教授―うん、人事院試験を受けて合格すれば、官庁訪問したりして、いろんな省庁に優先順位をつけて志望する権利ができる。一方、各省庁の方だって、面接などを行って、定員の枠内で選択することができる。
トータルで言えば、平成17年度の場合、I種試験の合格者は1674名だけど、採用者数は593名。つまり人事院試験に合格しても、行きたい省庁に行けるわけじゃないし、どの省庁からも採用されないということだっていっぱいある。
人事院試験の席次がよかったって、省庁の面接でどう考えたって非常識な人間だと思われたら、採用されないことだってあるのは当然だろう。

Aさん―つまり各省庁は改めて採用試験をするわけじゃないから、コネが利くことだってあるわけですね。そんなあ…。センセイもそうだったんですか。

H教授―今は基本的には成績順に採用しているらしいし、組織のためにも本当にいい人材を採用しようとしているらしいから、政治家の介入などはまずないだろうと思うけど、昔は結構あったらしいよ。
今だって外交官の息子は外交官になるケースが結構あるなんて言われているよね。李下に冠の喩もあるから、採用についても制度的に客観性・透明性をもっと担保し、本人に開示する必要はあると思うな。
もっとも総理大臣の息子だって人事院試験に合格されなければ採用されることはありえないし、人事院は独立性が高く、試験結果に手加減する余地はないだろうから、そういう意味では最低限の歯止めはかかっていたとはいえる。
でも市町村レベルになるともっと恣意的だったと思うよ。
残念ながらボクの場合、使うコネなんてなかった。「人事院試験の場合、席次まで開示されるから、とにかく合格するだけじゃなくて、いい席次で合格しなきゃあ採用は覚束ないぞ」ってハッパをかけられたくらいだった。
ボクは幸い造園職試験に合格し、厚生省に採用されたけど、ボクのときだって造園職試験の席次一番は採用されなかった。

Aさん―え、どうして? コネがなかったからですか。

H教授―女性だったからだ。造園職を採用する省庁って、当時は厚生省か建設省しかなかったんだけど、レンジャーにしろ、都市公園の技術屋にしろ、女性の来る世界じゃないって認識だったんだろうな。

Aさん―ヒッドーイ。今だったら裁判沙汰ですね。

H教授―環境庁になってからは、そういう女性差別はなくなったけどね。
ま、いずれにせよ、昔は国会議員の秘書だとか地方議員にとって、仕事の半分以上が、就職や入学の口利きと交通事故の揉み消しみたいなことだったなんて話も聞く。それを公然と本に書いている人だっているくらいだしね。

Aさん―そういうのが、大分じゃまだ生きていたんだ。
あ、それとも、あれは氷山の一角で、大分だけじゃなくて、他にもまだいっぱいあるかもしれないということですか。

H教授―昔にくらべれば大きく減ったことは間違いないだろうが、ないとはいえないと思うな。現に頼まれた県議に結果を知らせていた自治体が、ぞろぞろ出てきただろう。ホントにそれだけだったかって疑い出せば切りがない。

Aさん―でも、なんでそういうことが通用するんですか。

H教授―第21講(その3)で“ムラ”とか“シマ”という話をしたろう。ボクがかつて仕えたI先生は、それを一般化して「ウチ社会」と呼んでおられて、刺激的な論考をされている【2】
役所とか会社とかいうのは、ひとつのウチ社会なんだけど、その中はまた入れ子のように小さいウチ社会の集まりで成り立っている。
ウチ社会にはそれぞれ独特のルールがあって、大分の教育界というウチ社会では、報道されたようなことがウチ社会の一員になり、また昇進していくための暗黙のルールだったんだろう。
他の県でもそうだった可能性は否定できないな。

Aさん―そんなバカな。誰が考えてもおかしいじゃないですか。
でも、なんでそんな口利きが横行するんですか。

H教授―口利きを受け入れた理由として考えられるのは、まずそれで県議なり、何なりに恩を売ることができる。具体的には県会などでいじめられなくて済む、あるいは予算要求なり組織定員要求なりのときに、応援団になってくれるかもしれない。
つまり、ウチ社会にとってメリットがあるんだ。
もう一つは、ウチ社会から反逆者を出さないようにするためということも考えられる。ウチ社会のルールは世間一般のルールとはかけ離れていることがある。それに反逆しようとしたり、ウチ社会から飛び出そうとするものも出てくるだろうけど、縁故採用の方が歯止めがかけやすいし、そういうウチ社会のルールに従順になるということがあるだろう。
民間で公然と縁故採用が行われるのも同じ理由じゃないか。
また事実、ペーパー秀才が実社会でも優秀だという保証は何もないからなあ。
【2】 “ムラ”・“シマ”と、I先生の「ウチ社会」論
第21講(その3)「環境行政の人的側面」
I先生の「ウチ社会」論

Aさん―そりゃあ、昔はそうだったかも知れないけど、今は時代が違いますよ。少なくともお役所の採用試験でそんなことが今も行われていたなんて…。

H教授―それだけ教員社会というのが、閉鎖的だということだろう。
ウチ社会の中でも、とくに閉鎖性が強い社会、例えば警察だとか検察だとかいったところが怪しげなウラガネもどきのものに最後まで固執したのをみてもわかるだろう。第58講(その1)で取り上げた防衛省だってそうだ【3】。ことほどさように、ウチ社会システムは厳然として今もある。
それにボクはウチ社会で育った人間だから、ウチ社会システムって必ずしも悪いことばかりじゃないと思うし、大分の事件を叩いているマスコミにしたって、縁故入社が完全にないとはいえないと思うと複雑な思いもある。もちろん、今度の事件はさすがに時代錯誤も甚だしいと思うけどな。

Aさん―それとワタシたちの方だって、すぐなにかあると議員サンだとか有力者に口利きしてもらおうなどと考えるのがよくないですよね。
あ、そうだ、センセイ、アタシもぼちぼち就職活動をはじめようかと思うんですけど、どっかにコネないですか。

H教授―ほら、言った尻からまたそれだ。ボクにそんなコネがあれば、まず息子に使ったかもしれないが、幸か不幸かまったくなかったし、今もない。
【3】 防衛省問題
第58講(その1)「防衛省を解体せよ」
環境省にプロパー次官誕生

Aさん―ところで人事と言えば、環境省の人事異動で初のプロパー次官が誕生したそうですね。

H教授―うん、環境庁一期生の西尾サンだ。他にも次官以下局長級の幹部をほぼプロパー勢が占めた。環境庁誕生から37年目になるのかな。でも逆に言うと、出身省庁に顔を利かすということができにくくなるから、仕事上はしんどいことが多くなるかもしれない。
あと、技官への配慮が目立った異動だった。
具体的には、次官級ということになっていて、初代は理工系技官が就いたことから「理工系技官の最高ポスト指定席じゃないか」と噂されていた地球環境審議官だったが、その後、事務官が就いていたんだ。これが今回、技官に戻った。
そして自然環境局長ポストは、自然系技官──つまりレンジャー──と事務官が交互に就いていたんだが、事務官局長が2代続いていた。これも、今回の異動でレンジャーが就任した。

Aさん―センセ、センセイ。そういうのって読者には興味も関心もないウチ社会の裏話ですよ。

H教授―いや、そうでもないさ。これも前出のI先生に教えていただいたんだけど、例えば中国では理工系のバックグラウンドを持った人が閣僚の大半を占めている【4】。政官界でも産業界でもトップ層の大半が文系人間だなんて国は日本以外そうないと思うよ。理系離れを嘆く人が多いけど、その根っ子はこういうところにあるんだと思うよ。それがなぜかはI先生の論考が参考になる。また環境省の人的構成については第21講(その3・4)を再読してほしい【2】
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【4】 日本社会と諸外国の理工系出身者の存在感
「行政技官に見る日本社会の理系」
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