環境庁(当時)の職員から大学教授へと華麗な転身を果たしたH教授が、環境にかかわる内外のタイムリーなできごとを、環境行政マンとして過ごしてきた経験に即して解説します。
トップページへ
第69講 「激動の9月」
第68講 「夏の夜の夢―キョージュの2030年論」
第67講 『戦いすんで日が暮れて─洞爺湖サミット終了!』
第66講 「福田ビジョンを超えて」
第65講 「08年5月、神戸のG8環境大臣会合をめぐって」
[an error occurred while processing this directive]
No. 第68講 「夏の夜の夢―キョージュの2030年論」
page 3/4  12
3
4
Issued: 2008.09.04
H教授の環境行政時評(第68講 その3)
真夏の夜の夢―キョージュの2030年論

H教授―そうだなあ。夏の夜の夢として、2030年の日本を考えてみようか。
2050年は、「美しい星50」から「環境立国戦略」、そして福田ビジョンから今度の「低炭素社会づくり行動計画」までの、共通した長期目標の年次だ。
だけど、その頃には間違いなくボクは生きていない。ボクがギリギリ生きているうちに見られる可能性のある日本社会の姿を考えて見たいんだ。

Aさん―センセイ、糖尿に高血圧にメタボでしょう。タバコをはじめ、ありとあらゆる不摂生をやっておきながら、2030年にまだ生きているつもりなんですか。ついこの間もトレッドミル検査でひっかかって、高価な心筋シンチ検査とかいうのを受けさせられたんでしょう。
絶対ムリですって。ムリ、ムリ。せいぜい5年ですよ。いや下手すれば年内だって──。

H教授―そ、そこまで言わなくたって(激しく落ち込む)。

Aさん―あ、冗談、冗談。センセイ、絶対長生きしますよ。100歳までだって大丈夫。だって研究もせず、学生をいたぶって楽しんでばかりなんだから、ストレスなんてこれっぽっちもないですし。

H教授―キ、キッミー…(絶句)。

Aさん―いけない、また言い過ぎちゃった。
でも、なぜ2030年なんですか。低炭素社会の中期目標なら2020年でもいいんじゃないですか。

H教授―(気を取り直して)2020年というとあと12年後だよね。その頃だったら、まだまだ社会全体が大きく変わるということにはなってないだろうという直感だよね。
いろんな新しい動きが起きているものの、社会全体が大きく変わるには慣性のようなものがあって、まだ時間がかかる。

Aさん―なんだか抽象的だなあ。

H教授―少し具体的に言おうか。日本の人口が減少してきたのは知ってるよね。じゃ、世帯数はどうだ。

Aさん―当然減ってるんじゃないですか。
 
H教授―ところが、人口が減ってはきていても、世帯数はいまだに増えているんだ。
核家族化はまだまだ進行していて、あと10年や15年くらいは増えていきそうなんだ。その後は世帯数が減少に転じるんだけど、2030年には世帯数の減少傾向もほとんどすべての地域で明確になっている。
いつも人口ばかりが問題になるけれど、環境に関して言うと、より重要なのは世帯数なんだ。

Aさん―ふうん、なんだかよくわからないけど、まあ、いいわ。
で、2030年の日本はどうなっているんですか。

H教授―今原油は値上がりしてるよね。ただ、今の高騰は多分に投機マネーによるもので、まだオイルピークに達しているかどうかは明確ではない。でも、2030年なら多分オイルピークを過ぎたことが誰の目にも明らかになる。
つまりこれからも原油価格はどんどん高くなっていって、ガソリンにしてもいずれはリットル300円とか400円になっているかもしれない。
それから2030年には中国もインドも先進国になっていて、膨大な量の原油を必要としているだろう。それだけじゃなく、食料も資源も大量に消費して輸出余力はなくなっている…いやそれどころか輸入大国になっているかもしれない。
われわれは今、豊かな──ある意味では飽食の──時代に生きているけど、それは海外から安価な食料を輸入できているからなんだ。安価な労働力、安価な輸送費、そういう条件が全部すっとんだら、大変なことになると思わないか。

Aさん―ということは、食料も海外に依存できなくなるということですか。

H教授―うん、そういうことだ。
だけど逆に考えてごらん。戦後の日本の発展は、都市化と脱第一次産業化と資源・エネルギー・食料の海外依存がもたらしたものなんだ。
この話は授業で何回もしたけど、都市化ということでいえばDID人口──つまり人口集中地区というか、街に住んでいる人──は、1950年に35%、それが高度経済成長開始とともに年々上昇、2005年には66%になっている。かつては人口の3分の2が田舎に住んでいたのに、今や3分の2の人が街に住むようになった。都市がどんどんできていき、大きくなってきたということだ。
また主たる生計を何で営んでいるかというと、1955年には41%の人が農林漁業だったのに、それが急激な勢いで減少し、2005年にはわずか4%だ。
エネルギーの輸入依存度は、1955年に21%だったのが、今日では90%を超しているし、戦後の日本を支えた炭坑はほぼ姿を消して久しく、金属鉱山もほとんど壊滅だ。
同じように主食用穀物で言えば自給率は93%から60%に減っているし、カロリーベースでいえば、40%を割り込んでいる。木材の自給率なんかは95%から21%まで落ち込んでいる。
以上述べたように、都市化と脱第一次産業化そしてエネルギー・資源・食料の海外依存化が、一貫して戦後日本では進行してきたんだ。

Aさん位―それが日本の経済的繁栄をもたらしたんですね。

H教授―うん、実質GDPはこの50年で11倍になった。もっともこの間、一次エネルギーの供給も7.5倍になっているから、再生不可能な枯渇性のエネルギーをじゃぶじゃぶ消費した分だけ豊かになったと言えるかもしれない。
しかし、こうした日本の成長と繁栄を支えた前提条件が崩れさっていることが、2030年には誰の目にも明らかになっているだろう。

Aさん―まずはガソリンや食料がどんどん値上がりするわけですね。

H教授―そう、当然のことながら、食生活のレベルは落ちる【10】し、クルマ社会を維持することも難しくなるだろう。

Aさん―じゃあ、マクドのハンバーガーも吉野家の牛丼も高級料理になるわけかしら。

H教授―少なくとも、今みたいな過当な値引き競争はできなくなるんじゃないかな。
食生活全般として、肉よりは魚や野菜、同じ肉でも牛よりは豚や鶏がおかずの中心になるだろう。それも国産品中心にならざるを得ない。それも結構高価になって、エンゲル係数は上昇していくだろう。

Aさん―そ、そんなあ。あまりにも暗い未来じゃないですか。

H教授―そうネガティブに考えるからいけないんだ。食生活が変わるということは、労せずしてメタボ対策ができるということだし、キミの場合で言えば、ダイエットなどしなくても済むということだ。それから肉食から野菜や魚介中心の食事になるということは発ガンリスクの減少にもなるだろう。
国産品中心になるということは、フードマイレージだとかバーチャルウォーターを減らすという観点からも、好ましいことだ。

Aさん―センセイ、コーヒー中毒で、牛肉の脂に目がないんでしょう。そういう生活ができなくなって我慢できるんですか。
【10】 日本の成長と繁栄を支えた前提条件が崩れたときの、食生活のレベル低下
第16講(その2)「BSEと鶏インフルエンザ雑感2」

H教授―うるさい。
それからもっと肝心なことは、農産物、林産物、水産物が安価に海外から輸入できたことが、都市化や脱第一次産業化と農山漁村疲弊の最大の原因なんだけど、その原因が徐々に消滅していく。つまり、都会と田舎、農林漁業と商工業の経済格差がなくなっていくわけだ。
そうなると都市化や脱第一次産業化とは逆の流れがはじまる。人口だけじゃなく世帯数も減ってくるんだから、空き地や空家もいっぱいできて、地方回帰、農業回帰がはじまるし、庭やベランダでの自家菜園が当たり前になる。
会社だって、屋上にはソーラーパネルがびっしりとあり、週一、二回は会社所有の農園で農業するのが勤務の一部になるかもしれない。そうなると当然、給与の一部は現物支給の食材ということになる。

Aさん―でも現在の自給率はカロリーベースで40%しかないんでしょう。一気に自給率100%なんて物理的にも不可能じゃないですか。

H教授―高度経済成長以前は8000万人が自給できていたんだ。農業技術も向上している。
贅沢さえ言わなければ十分可能だよ。キューバではソ連崩壊後の経済危機の中で、都市内のあらゆる空地に菜園を作って耐え忍んだ。2030年には多くのゴルフ場や赤字空港、赤字のアミューズメントパークを農地に戻そうという動きが出ているかもしれないぜ。
ついでにいえば、空き地、空家がいっぱいできてくるということは、浸水危険地帯なんかを居住地域じゃなくするような誘導策もとれるようになる。莫大なカネがかかるハードな洪水対策よりも、自然に逆らわないようなソフトで安価な洪水対策だってとれるようになる。

Aさん―つ、つまりGDPだとかGNPは減少時代を迎えるわけですね。

H教授―いやGDPやGNPはオカネのやりとりの総量みたいなものだろう。全体的に物価が上がるから、GDPやGNPは必ずしも下がらないだろう。ただし、モノのやりとりの総量は減ると思うよ。
だからごみの総量も減るし、リユース、リサイクルは当たり前になって、3R社会が実現する。

Aさん―つまり社会はどんどん昔の時代に戻っていくことになるんですか。

H教授―そうはならないだろう。ITや省エネなどの技術はどんどん進んでいくんだ。クルマやエアコンは難しいかもしれないが、それ以外については、現在程度の電化製品は享受できるだろう。
ITの浸透で、在宅勤務も増えると思うよ。通勤地獄からは開放されるんだ。
海外旅行はなかなかできなくなるかもしれないが、豊かな自然の中で暮らせるようになる。
 ページトップ
page 3/4  12
3
4
前のページへ 次のページへ

Copyright (C) 2004 EIC NET. All rights reserved.