環境庁(当時)の職員から大学教授へと華麗な転身を果たしたH教授が、環境にかかわる内外のタイムリーなできごとを、環境行政マンとして過ごしてきた経験に即して解説します。
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第69講 「激動の9月」
第68講 「夏の夜の夢―キョージュの2030年論」
第67講 『戦いすんで日が暮れて─洞爺湖サミット終了!』
第66講 「福田ビジョンを超えて」
第65講 「08年5月、神戸のG8環境大臣会合をめぐって」
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No. 第68講 「夏の夜の夢―キョージュの2030年論」
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Issued: 2008.09.04
H教授の環境行政時評(第68講 その4)

Aさん―でも海外からの輸入ができなくなれば、資源も不足するでしょう。

H教授―資源不足、資源不足って言うけど、もともと日本は原油とアルミ以外、大抵のものは自給できていたんだ。
4万キロに及ぶ長い海岸線は豊富な海の幸をもたらしてくれたし、国土の三分の二という先進国きっての高い森林率は山の幸ももたらしてくれた。
資源の足りない部分はリサイクルの徹底で補うんだ。人口も世帯数も減っているんなら需要そのものも減っていくだろうしね。
その頃になるとメーカーは安価なものを大量生産するんでなく、長持ちするいいものを作るようになるだろう。そして、その補修、修理や維持管理の収益の方がメインになっているかもしれない。

Aさん―でもエネルギーはどうなるんですか。日本で原油なんてほとんど採れないんでしょう。

H教授―自然エネルギーと石炭、天然ガスが中心になって、炭坑が復活する。もちろん、石炭や天然ガスでの発電はCCS付きだ。自然エネルギーの活用には復興した林業の副産物として出てくる膨大な量の間伐材が重要な役割を果たすだろうし、建物の屋上にはソーラーパネルというのが常識になる。
原子力をどう考えるかだけど、日本は火山と地震の巣なんだし、原子力燃料はもともと自給できないんだから、脱原発の道を進むしかないだろう。
エアコンは贅沢品になるかもしれないが、その頃には、舗装のアスファルトやコンクリートも多くは剥がされたり透水性のものになるだろうし、都市へのエネルギー集中が減少しているだろうから、窓を開けっ放しにして扇風機をつけたり、玄関先などに打ち水をして涼をとればいいんじゃないかな。

Aさん―ク、クルマは?

H教授―バイオ燃料などで動く超低燃費の小型自動車には乗れるかもしれないけど、総じてクルマも贅沢品になっていることだろう。公共交通と自転車中心ののんびりとした社会になればいいじゃないか。でも、それは世界と隔絶した社会になるんじゃなく、IT技術の発達で国際性は十分に担保できるだろうよ。
人々はあくせくとモノを手に入れることを夢見て、忙しない生活をするんじゃなくて、自然の中で散策したり、思索したり、芸の道に励んだりして、“人間らしい生活”を送るんだ。

Aさん―うーん、他の選択肢はないんですか。

H教授―そりゃあ、エネルギーだけに関して言えば、メタンハイドレートの実用化とか水素化社会がもし実現していたとすると、クルマやエアコンなども今と変わらず使えるし、海外旅行なども同じように行けるだろう。でも、それだけの話だよ。
いずれにせよ、都市化と脱第一次産業化、また資源や食料、エネルギーの極端な海外依存からは脱却しなければいけない。

Aさん―で、2030年にはそういう時代になっていると。

H教授―まだなってはいないだろうけど、そういうふうに行くしかないというのが、全国民的なコンセンサスになっていて、その方向に急転回しつつある社会だと思うよ。逆に言うと、そうならない限り「2050年低炭素社会」なんてのは不可能だと思うな。

Aさん―なんだか夢がないなあ。

H教授―そうかあ? 一人当たりのGDPで言えば、フランスや北欧と日本は同レベルだし、持っている電化製品の種類と数だって日本の方が多いだろう。でも、のんびりとしたバカンス、ゆったりとした生活空間という点からみると大違いだ。人口、世帯数が減少していくということは、地方分散、農業回帰とともに、そういう人間らしいくらしが実現していくということだ。
食生活は質素になるし、ブランド品からは遠くなるけど、そういう社会に近づくんだから、夢一杯じゃないか。

Aさん―でも牛肉は食べたいし、ブランド品もほしいし、海外旅行もしたいし、エアコンとクルマもないと寂しいし…。

H教授―それは飛躍的な技術のブレークスルーがあれば可能かもしれない。そうなれば素直に享受すればいいんだけど、それがなくても、皆がそうなら慣れるよ。
日本は敗戦でガラっと価値観が変わった。同じように、2030年にそんな価値観の大転換が実現しているかどうかだよね。

Aさん―…。

H教授―それから少子高齢化の話なんだけど、農業回帰が進むという話をしたよね。
農業というのは経験知と家族の手助けが必要だから、老人の知恵は尊重され、大事にされるようになるだろう。結果としてこれ以上の核家族化は防げる。しかも安定して食料が確保できるということで、男女を問わず農業志向の若者が増えるんじゃないかな。農家に嫁いだ女性は、老人が子どもの面倒をみてくれるということで、安心して子作りができて、少子化にも歯止めがかかるかもしれない。
一方で、政府にはカネがない、借金だらけだし、年金財政だってその頃には破綻しかかっているだろう。介護や保育にこれ以上かける財源がないとすると、お互いの知恵で助け合って暮らしていくしかないだろう。そうなると人口は減少するけど、世帯数はもっと急激に減少する。つまり、大家族が新たな形で復活の兆しを見せるかもしれない。
これが新たな日本型文明の夜明けになればいいよねえ。

Aさん―…(話の展開についていけず呆然としている)。

H教授―その日のために、キミも今から大学のエコファームで汗を流すんだな。農業体験というのは多分役に立つよ。たとえそういう社会にならなかったとしても、とりあえずのダイエット対策にはなるだろう。

Aさん―放っておいてください。ですけど、そんな社会が来たとして、センセイのその頃の夢はなんなんですか。

H教授―その頃には日本の多くの鉱山や石切り場も再開されるに違いないじゃないか。ボクにとっては夢いっぱいだよ。

Aさん―な、なんですって! あのくだらない石ころ拾いがしたいがためだけに延々と夢を語ってきたんですか。それにセンセイ、その頃85歳ですよ。万が一生きていたとしたって、石ころ拾いなんかできるわけないじゃないですか。バカバカしい(憤然と席を蹴って去る)!!

H教授―…ゴホン、せめて鉱物採集と言ってくれないかなあ。

(平成20年8月26日執筆 同月末編集了)


Aさん─セ、センセイ。大変!自前の内閣も出来たし、お手並み拝見とか言ってましたけど、それがアップもされないうちに、福田サンが突然政権を投げ出しました。

H教授―そ、そんなバカげたことが。そりゃあ、無責任すぎる。ボクは福田サンにはそれなりに好感をもって期待していたというのに(ブツブツ…)

Aさんーセンセイ、よく聞こえませんが。

H教授―……(突然叫ぶ)フ、フクダ!! 

(9月1日加筆)


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註:本講の見解は環境省およびEICの見解とはまったく関係ありません。また、本講で用いた情報は朝日新聞と「エネルギーと環境」(週刊)に多くを負っています。
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