環境庁(当時)の職員から大学教授へと華麗な転身を果たしたH教授が、環境にかかわる内外のタイムリーなできごとを、環境行政マンとして過ごしてきた経験に即して解説します。
トップページへ
第70講『憂鬱なる硬派―「人類は絶滅する」考』
第69講 「激動の9月」
第68講 「夏の夜の夢―キョージュの2030年論」
第67講 『戦いすんで日が暮れて─洞爺湖サミット終了!』
第66講 「福田ビジョンを超えて」
[an error occurred while processing this directive]
No. 第69講 「激動の9月」
page 2/4  1
2
34
Issued: 2008.10.02
H教授の環境行政時評(第69講 その2)
脱ダムの流れ本格化 ―川辺川、淀川水系

Aさん―さ、ぼちぼち環境ネタに行きましょう。川辺川ダムについては、本時評でも取り上げたことがありますけど【7】、熊本県知事が反対の意見書を提出しました。

H教授―うん、おまけに福田サンまでが、知事が反対するようなら難しいだろうというような発言をしている。多分、これで「勝負あった」じゃないかな。地方分権がやっと機能し出したと言える案件だな。

Aさん―地元自治体としては環境云々よりも、地元負担に耐えられなくなったんじゃないですか。

H教授―はは、うがったことを言うけど、それもあるだろうねえ。
それにしても、これまで、いったんはじまった公共事業について、自治体が国土交通省に正面切って反対意見書を出したことはない。これが前例となって、いろんなところで同じような脱ダムの動きが起こるだろう。

Aさん―ふふ、まずは淀川水系4ダムですね【8】
【7】 川辺側ダム
第5講(その2)「川辺川ダム高裁判決」
【8】 淀川水系4ダム
第68講(その2)「淀川水系4ダムと地方自治体」
淀川水系流域委員会

H教授―うん、すでに淀川水系流域委員会は、大戸川など3つのダムについては効果が限定的で緊急性が低く「不適当」とし、残りの1ダムについては規模・運用方法が示されておらず、事業の「見直し」を求める最終意見書を昨日(9/27)決定した。
これについては、滋賀、京都、大阪3府県知事が共同の意見書を出すそうだ。すでに京都府は大戸川ダムについて反対だと言っているし、滋賀県も同じだ。大阪府だけが態度を表明していないが、橋下サンはポピュリストで世間の風向きをみるのに長けているから、それに同調するだろう。4ダムすべてノーでないにせよ、相当厳しい意見書が出ることは間違いない。
国土交通省はトップ不在の混乱した中で、進退窮まるところに追い込まれると思うよ。
地方分権は温暖化対策に有効か ─産業公害と地球環境問題

Aさん―そういう意味では、地方分権が事実上進行しつつあるといっていいですね。
日本の公害行政は地方自治体がリードしたと、よくセンセイがおっしゃってましたね。地方分権が進めば、温暖化対策も一気に進むんじゃないですか。

H教授―残念ながらそうはいかないだろう。なぜなら、地域の産業公害と、地球規模の環境問題とはまったく性質が異なるからだ。
どう違うのか、考えてみよう。地域の産業公害の特徴は?

Aさん―加害者と被害者がはっきりしていて、因果関係もはっきりしていることですね。

H教授―うん、加害者は工場だし、被害者は地域住民。しかも公害被害は、目でみえ、肌で感じられるから、ふつふつと怒りも込み上げてくる。そうした地域住民と一番身近に向き合うのは自治体だから、国がアテにならないとすれば、条例だとか、協定だとか、自分たちでやれることを極限までやり、最後は国を包囲して現在のような公害行政を強制した。
じゃ、地球環境問題、例えば温暖化問題をみてみよう。加害者は?

Aさん―…工場もだけど、ワタシたち自身もですね。

H教授―因果関係は?

AさんIPCCは人為が原因というのが、ほぼ確かと言っています。

H教授第4次報告書でやっとそれだ。まだまだわからないところも多く、不確定要素も大きい。専門の学会では、さすがに温暖化懐疑論というのは姿を消したが、巷には温暖化など起きていないだとか、起きているけどそれは自然現象だとか、温暖化は悪いことばかりじゃないだとか、温暖化はどうあがいても止まりようがないから、やるだけムダだといった有象無象の温暖化対策懐疑論者【9】が掃いて捨てるほどいる。

Aさん―彼らの本がベストセラーになったりしているんですよね。

H教授―というのも、温暖化の場合、被害者は未来の世代だったり、途上国や他の生物。住民は自分たちが被害を実感しているわけではないから、地域の産業公害のときのように、感覚的な怒りが込み上げてきて、直接行動に結びつくということがない。
しかも自分たちのライフスタイルも原因だと言う。だったら、そういう懐疑論者の言うことが、ホントだったらいいなあと思うじゃないか。最近の温暖化対策懐疑論本の著者たちは、そういう層を顧客にして、売名とカネ稼ぎをしているんじゃないかと思い込みたくなるぐらいだよ。
ま、これ以上言うとカッカくるばかりだから、この辺りにしておこう。
で、温暖化への解決策は?
【9】 温暖化対策懐疑論者
第50講(その3)「温暖化を疑い、反温暖化対策論を疑う」

Aさん―どこまで効果が上がるかは疑問だし、どこまでやれるかも疑問ですけど、省エネとか、自然エネルギーへの回帰だとか、エネルギー消費の抑制ですね。

H教授―つまり自分たちの快適な暮らしを犠牲にしたり、余分な負担をしなくちゃあいけないということだ。
世論調査では温暖化対策は必要だと言いつつ、実際に自分の生活にかかわってくるということになれば、及び腰になってしまうし、ボクだって例外じゃない。
そうした地域住民の本音を真っ向から受けるのが自治体。だとしたら地方分権が進めば進むほど、マットウな温暖化対策をやれる自治体は少なくなっても不思議ではない。

Aさん―だから、東京都などごく一部の自治体以外は、普及啓発のようなことばかりで、温暖化のための規制だとか、経済的な誘導策などの低炭素社会づくりのためのシステム改変ができないんですね。

H教授―もちろん環境部局はやりたいだろうけど、2050年70%カットなどをスローガンとして掲げる先進自治体であっても、他の部局などの抵抗にあって、結局は普及啓発活動や庁舎の節電などの「率先行動」程度に終わってしまうことが多いんだ。

Aさん―そんなことを言うと救いがなさすぎるじゃないですか。

H教授―事実だから仕方がない。まあ、東京の場合は例外で、以前に石原サンの特異なパーソナリティを挙げたことがあったけど、院生のSクンが都にヒアリングに行ったところ、どうもそうじゃなかったようだ。
彼の話によると、環境部局は以前から地道で強力な個別指導を関係者の納得づくで展開してきたようだ。そういう積み上げがあったから、今度の規制導入に際しても、都庁内他部局や市区からの真っ向からの反対などなかったそうだ。
東京都の場合、“規制をすることによって工場が都外に出てくれるなら、むしろ歓迎、商業ビルやオフィスビルなんかも、東京に進出したいところがいっぱいあって、規制をかけたからって都心が空きビルだらけになる心配もない”──なんていう首都の特殊性が背景にあるんじゃないかとボクなんかは勘ぐってるけどね。

Aさん―つまり例外はあっても、地方分権の進展により、CO2の排出削減を誘導するシステムが自動的に導入されることは期待しにくいということですか。

H教授―多分ね。自然エネルギーに恵まれた地域など、結果的にCO2の排出削減をすることが地域のメリットになるようなところは別にしてね。

Aさん―ということは国際圧力に押されて、政府がリードせざるを得ない状況が続くということですね。

H教授―当面はね。だが、前講でも言ったように、ロングタームで考えれば、エネルギーの自給化とか、エネルギー消費の抑制をせざるを得ない状況に追い込まれるときがくるだろうし、そのときは、がらっと変わるだろう。
そうなったときに、地域は自分のアタマで生き残りを考えざるを得ない。そのときに備えて今から地方分権しておくことは重要なことだ。
どういう低炭素社会を具体的に地域で構築するかをあらかじめ考え、今から先取りして実施に努める英明な首長や、首長に提言できる優秀な役人が必要だと思うよ。
そして、現在は少数者であっても、そういうことを自覚し活動する市民リーダーができるだけ多くいて、時代を先取りする地域社会を、彼らとともに作り出せればいいんだけどね。
 ページトップ
page 2/4  1
2
34
前のページへ 次のページへ

Copyright (C) 2004 EIC NET. All rights reserved.