環境庁(当時)の職員から大学教授へと華麗な転身を果たしたH教授が、環境にかかわる内外のタイムリーなできごとを、環境行政マンとして過ごしてきた経験に即して解説します。
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第71講『いまこそ「時のアセス」を!』
第70講『憂鬱なる硬派―「人類は絶滅する」考』
第69講 「激動の9月」
第68講 「夏の夜の夢―キョージュの2030年論」
第67講 『戦いすんで日が暮れて─洞爺湖サミット終了!』
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No. 第70講『憂鬱なる硬派―「人類は絶滅する」考』
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Issued: 2008.11.07
H教授の環境行政時評(第70講 その1)
世界同時経済危機の真っ只中で

Aさん―センセイ、アメリカ発の世界同時経済危機は一層深刻になったみたいですね。円高が続く一方で、株はバブル破綻時の最低安値を更新しました。どうなっちゃうんでしょうね。

H教授―さあ、ボクは経済オンチだからわからないけど、ひょっとしたらもう世界恐慌の中に入ったのかもしれない。
アイスランドなんて、国家自体が破産に瀕しているようだもの。ボクも何年か前に例の“人妻”【1】と行ったけど、アイスランドって本当にいいところで、キューバと並んで好きな国だったんだけどなあ。
そのキューバもハリケーン被害と今度の経済危機の影響で大変なんじゃないかな。
日本だってこれから深刻な不況がはじまるだろう。株で損をした人は自己責任だろうが、学生やキミのような院生は来年から再び就職氷河期に入るかもしれない。

Aさん―やっだー。脅さないでくださいよ。でも、そうなるといろんなところに影響が波及するでしょうね。

H教授―日本や欧州なんかより、外需頼みの中国、インド、ブラジルといった新興国の方がダメージは大きいんだろうな。
でも日本だって、急激な株価の下落のあとの乱高下と円高。輸入産業にとってはいいだろうが、輸出産業には大きな痛手だろう。
株はボクには関係ないが、外貨で少し預金をしていたのが、えらく目減りしちゃった。ま、その分、円預金は外貨換算では高くなったからいいようなものだけど。

Aさん―誰もセンセイの懐具合なんか聞いていません。
そういえばガソリンが安くなりましたね。数少ないよいことですね。

H教授―投機マネーが逃げたのかな。でもそうなると結果的にCO2は増えちゃうだろう。それにいずれまたガソリンはじりじりと値を上げるんじゃないかな。
【1】 例の“人妻”
第27講(その1)「道東周遊随想―世界遺産登録と海域保護」

Aさん―で、麻生サンは補正予算を二次に渡って組み、その予算規模は6兆円。急遽まとめあげた政府の総合経済対策、追加経済対策の事業費規模では27兆円という途方もない額。道路財源からも1兆円を地方に交付税として配るそうです。
でもこれって、バラマキみたいなものじゃないですか。気前よく減税もするそうですし。

H教授―みたいなものというか、票目当てのバラマキそのものだろう。今こそ真の構造改革のチャンスだと思うんだけど、そういうことには目がいってないようだ。
これでますます日本の借金は増えるだろう。もう1000兆円の大台に乗るのは時間の問題、目と鼻の先じゃないかな。
そして、この経済危機を奇貨として麻生サンは解散を先送りするつもりらしい。

Aさん―そんなことはどうでもいいです。

H教授―どうでもよくはないだろう。国民の審判を一度も受けていない総理大臣が次々と誕生なんて、異常そのものじゃないか。
それと、この時評がアップされる頃には米国の次期大統領が決まっているだろうが、この経済危機問題で世論は一気にブッシュさんの共和党──つまりマケインさん──から民主党のオバマさんに流れた。ワイルダー効果がよほど利かない限り、地滑り的勝利になるかどうかは別としてオバマさんに凱歌が上がる公算が大きい。

Aさん―ワイルダー効果?

H教授―白人の心の奥深くに巣食う黒人差別が、いざとなると表面に出てくることだ。
経済危機と温暖化対策

Aさん―ふうん。そうはなってほしくないですねえ、
ところで、この経済危機で温暖化対策が遅れるんじゃないですか。

H教授―うん、ある先生の掲示板に、ヒマさえあれば先生の悪口を書き込むストーカーのようなのがいて、(この経済危機で温暖化対策などという馬鹿げたことをいうやつはいなくなるだろう)なんてことを嬉しそうに書き込んでいたけど、英国政府はこの経済危機のさなかに2050年にはGHG排出を90年比で80%カットを目指すと表明した。EU内先進国の姿勢は変わらないし、むしろ加速するかもしれない。
ただEUの中でも東欧諸国などは尻ごみをする可能性はあるだろうし、新興国はそれこそ温暖化対策どころじゃないかもしれない。
でも世界同時経済危機がもっと進行すれば、ソ連崩壊後の共産圏諸国のように、世界全体が生産力を大幅にダウンさせ、結果としてCO2排出量を相当減らすというシナリオだってまったくありえないわけじゃないだろう。決して好ましいことじゃないけど。

Aさん―恐ろしいことを言わないでくださいよ。で、米国はどうなんですか。

H教授―米国だってオバマさんはもちろんのこと、マケインさんも温暖化対策は前向きに取り組むとしている。
もともと米国はブッシュさんという温暖化対策消極論者がヘッドなんだけど、カラダの方は違う。州や市レベルでは、日本よりはるかに熱心な対策をとっているところが多い。
例えば再生可能エネルギーの普及のために、欧州はドイツを筆頭に自然エネルギーの固定価格買取制度を導入している。一方、日本や米国では、RPS法といって電力会社に一定量の新エネルギー導入を義務付けている。でもねえ、その一定量というのが日本では1%台で、2020年の目標だって2%を切っているのに対して、米国の州では2020年には15%とか20%とか2桁台を目標としているところが多い。
ボク自身は固定価格買取制度を導入すべきだと思っているんだけど。

Aさん―でもブッシュさんだって、バイオエタノールの拡大にはご執心じゃないですか。

H教授―そのおかげでとんでもない混乱が起きている。米国では大豆畑からトウモロコシ畑に切り替えるところが増えてきて、世界的に大豆不足。そのトウモロコシは中南米の主食であるソルティージャの原料なんだけど、米国の戦後世界戦略が功を奏し、その大半を米国から輸入するようになってしまった。
ところがブッシュ政権のバイオエタノール政策でトウモロコシの多くが、食糧としてではなくバイオエタノールの原料になってしまい、トウモロコシ価格が高騰してしまった。
おかげで中南米の庶民は、今度の経済危機とで弱り目に祟り目とのことだ。

Aさん―でも温暖化対策には有効なんでしょう。

H教授―先日発表されたFAOの08年世界食料農業白書では「現状では温室効果ガス排出抑制への貢献は期待されたほど大きくない」とした。緑地や森林が畑に転用されることでかなり相殺されるし、エタノール製造過程で化石燃料を消費するので、場合によっては温室効果ガスを増やしてしまうことだってあるとしている【2】
つまりブッシュさんのやったことはトウモロコシ業界のロビー活動に乗せられたトウモロコシ農家へのバラマキだということだ。

Aさん―本当にセンセイのブッシュさん嫌いは徹底していますね。それにコイズミさんと橋下サン。あれほど毛嫌いしていた石原サンは今ではたまに褒めているようですけど。

H教授―新銀行東京の一件だけはどうしても許せないけどね。
【2】 FAOの08年世界食料農業白書(The Sate of Food and Agriculture)
世界食料農業白書 目次ページ(英語)

Aさん―日本の首相、麻生サンはどうなんですか。

H教授―麻生サンの頭の中には温暖化対策などはないと思うよ。なにせ、国会答弁で閣議決定したはずの2050年に現状よりGHG60〜80%カットの数字を知らなかったほどだから。
ただ温暖化対策は後回しだとトップダウンで指示するほどの信念と権威を持ってないのが幸いして、国内排出量取引の試行【3】は予定通りスタートしたし、官邸にあった懇談会では中期総量目標についての検討会を設けることを決定した【4】

Aさん―その試行なんですが、産業界はこぞって参加しそうなんですか。

H教授―前講でも言ったとおり、政府はキャップを自主申告とし、経団連の業種ごとの自主行動目標をブレークダウンした罰則なしのキャップを容認する代わりに、団体ではなく個別企業ごとの参加を原則とした。鉄鋼メーカーの組織する鉄鋼連盟は依然業界団体としての加盟を要求しているようだ。でもこれを認めたらほとんど排出量取引の意味はなくなってしまうから、断固拒否すべきだと思うな。
前向きな企業も多いし、その流れが大勢になれば鉄鋼連盟も容認せざるを得ないんじゃないかな。
また排出原単位など二酸化炭素排出総量以外のものを自主的なキャップとして容認することもありうべしとしているが、これもやっちゃいけないと思うな。

Aさん―ま、いずれにせよ、どうなるかお手並み拝見ですね。

H教授―年末にポーランドのポズナニで開催されるCOP14がどうなるかだね。
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【3】 国内排出量取引の試行
第66講(その2)「国内排出量取引制度と都内排出量取引制度」
排出量取引の国内統合市場の試行的実施
地球温暖化対策推進本部「排出量取引の国内統合市場の試行的実施について」
【4】 中期目標検討委員会の設置
地球温暖化問題に関する懇談会(開催状況)
「第6回地球温暖化問題に関する懇談会(平成20年10月20日)」(議事要旨)
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