環境庁(当時)の職員から大学教授へと華麗な転身を果たしたH教授が、環境にかかわる内外のタイムリーなできごとを、環境行政マンとして過ごしてきた経験に即して解説します。
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第71講『いまこそ「時のアセス」を!』
第70講『憂鬱なる硬派―「人類は絶滅する」考』
第69講 「激動の9月」
第68講 「夏の夜の夢―キョージュの2030年論」
第67講 『戦いすんで日が暮れて─洞爺湖サミット終了!』
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No. 第70講『憂鬱なる硬派―「人類は絶滅する」考』
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Issued: 2008.11.07
H教授の環境行政時評(第70講 その2)
安全安心な食品のために

Aさん―さて、中国ギョーザ事件からミニマムアクセス米の事故米転用事件に引き続いて、再び中国の乳製品のメラミン汚染が話題になってましたけど、そのあと国内でも日清食品のカップ麺から防虫剤が検出されたり、さらには伊藤ハムの東京工場で長年使っていた地下水がシアン化合物に汚染していることが明らかになり、どこも回収に大わらわになっています。

H教授―しかも伊藤ハムの場合、公表までにタイムラグがあった。つまり隠蔽していたということだ。
ただ、伊藤ハムの事件では、地下水が汚染されていたということで、ただちに代替水源にしなければいけないのは当然のことだけど、製品にシアン化合物が検出されたという報道はなかったから、当然、分析したと思うんだけど、検出されなかったんなら回収までする必要があるのかなと思っちゃうね。廃棄処分にするのはもったいないじゃないか。もっともソーセージからはトルエンが検出されたというニュースもあった。
いずれにしても先日からの食品回収騒ぎで膨大な量の廃棄物が出ることになった。
一方じゃあ、飢餓に苦しんでいる何億という人がいるというのに、なんたることかと思うよ。

Aさん―それだけじゃありません。最新のニュースでは、キリンビバレッジがフランスから輸入したミネラルウォーターのボルヴィックにペンキが浸透して異臭がしたとかで57万本を回収することにしたそうです。
でも、これだけ食品の安全性が疑われるような事態が続発すると、ワタシたちは何を食べたらいいのかと思っちゃいますね。

H教授―ひとつは前から言っているように食品安全委員会があまり機能していないという問題だ【5】
それともっと根本的な対策として、自給率アップと地産地消を進めるべきじゃないかな。新興国が食糧輸入大国になってしまい、一方じゃ、米国の大豆畑がバイオエタノールブームでどんどんトウモロコシ畑に変わっていっているなんて話もあって、世界的な食糧危機も噂されている。穀物自給率が3割を切る国なんて先進国じゃ日本だけだぜ【6】

Aさん地産地消ですけど、それだって安全とは限らないじゃないですか。

H教授―だったら自分で栽培すればいい。そのうち市民農園だとか、ベランダ菜園が大流行するかもしれない。休耕田を市民農園に開放するような施策も考えてみればいいんじゃないかな。政府は市民農園整備促進法なんてのを平成2年に作っている【7】けど、制約ばかり多くて、ほとんど機能していないのが実態だ。

Aさん―でも現に、ほうぼうに市民農園があるじゃないですか。

H教授―農協や自治体の公営のものもあるけど、大半が個人のものだ。農地法などの法に抵触しないよう、農園を所有している個人が市民に土地の貸借契約をするんじゃなくて、入場料というか使用料をとって市民に非営利目的のために使用させるという形態だ。だから、市民農園の作物は耕した市民の自家消費に供されるだけで、売買は禁止されているし、流通ルートに乗ってこない。そうした市民農園は全国各地に1万箇所以上あるらしいけど、きちんとした統計もない。
本当に推進する気があるんなら、農地法の抜本改正を含めて、もっとマトモな政策を打ち出すべきだと思うな。
民間の方が進んでいるよ。貸家だって昔は大屋さんが店子から家賃を徴収していたけど、今じゃほとんどが管理会社に代行させている。市民農園の管理に関しても同じように農家から委託を受けるビジネスが一部では生まれて好評を博しているという記事も出ていた。
【5】 食品安全委員会の問題
第69講(その1)「食品不祥事 ―事故米転売、メラミン入り食品」
【6】 食料自給率
農水省「食料自給率の部屋」
世界の食料自給率
【7】 
市民農園整備促進法(総務省法令データ提供システム)
農水省「市民農園整備促進法」
海洋保護区の設定、検討開始

Aさん―ところで環境省が海洋保護区だとか自然公園の海域特別地域の創設について検討を始めたそうですね。

H教授―うん、海洋基本法が議員立法で昨年4月に成立、7月に施行されたんだけど、この3月には同基本法に基づく「海洋基本計画」が定められた【8】
その中に、「浅海域藻場干潟サンゴ礁等については重要な場所であるが、過去にその多くが失われた」として、「自然公園や鳥獣保護区等の各種保護区域の拡充の取組をする」としている。また、生物多様性の確保や水産資源の持続可能な利用のため「わが国における海洋保護区の設定のありかたを明確にしたうえで、その設定を適切に推進する」と明記されたんだ。

Aさん―いいことですね。いつまでに具体的なことが決まるんですか。

H教授―基本計画はおおむね5年後を目途として、5年後に見直しされることになっているので、5年以内にやるということだろう。

Aさん―これで藻場、干潟、サンゴ礁などは少なくとも破壊からは免れることになるんですね。よかったじゃないですか。ちょうど今年は国際サンゴ礁年でもありますし【9】

H教授―さあ、どれだけの藻場、干潟、サンゴ礁が指定されるかだけど、楽観はできないと思うよ。

Aさん―え、どうしてですか。

H教授―自然公園の前面海域は「普通地域」という規制の極めて緩い地域にしか指定できなかったんだ。

Aさん―ああ、だから知床世界自然遺産の登録のときも海域の保護体制が弱いってIUCNからクレームがついたんですね【10】
【8】 海洋基本法の制定と海洋基本計画の策定
第55講(その3)「その他の話題」
海洋基本法(総務省法令データ提供システム)
海洋基本法について(首相官邸)
海洋基本計画について(首相官邸)
【9】 海洋基本法の制定と海洋基本計画の策定
国際サンゴ礁年ホームページ
国際サンゴ礁年について(環境省)
【10】 知床の世界自然遺産登録と、海域の保護体制の脆弱さへの指摘
第27講(その1)「道東周遊随想―世界遺産登録と海域保護」

H教授―うん、瀬戸内海なんてのは、中心部の海域は一応は国立公園でありながら、環境省──当時は厚生省だったけど──は埋立にはほとんど関与できず、どんどん埋立と汚染が進行していった。だから、漁民や市民、そして地方自治体の手で、ついに瀬戸内海環境保全臨時措置法を作ったほどだ【11】

Aさん―そうか、センセイは昔瀬戸内海国立公園のレンジャーで、後には瀬戸内室長もやったんでしたっけ。

H教授―自然公園の海域特別地域の設定だとかの海域保護制度の創設は、長年の環境庁の悲願だった。だが、各省の利害が交錯する中で、一向に日の目をみず、辛うじて自然公園の海中公園地区自然環境保全地域海中特別地区がその後創設されたにとどまっている。それだって指定も本当に点のような狭い区域だったんだ。
だから、いくら海洋基本計画に明記されたからって、従来型のやりかたでいくと、各省協議でもみくちゃにされて、ものすごく狭い区域に限定される可能性が高いだろう。
各省協議で完全に調整がついてから、上にあげるという従来型の方式でいっちゃあダメだと思うよ。
【11】 瀬戸内海の埋立と、海域保全前史
第10講(その3)「瀬戸内法の世界 ・・・その1 瀬戸内法とはなにか」〜(その4)「瀬戸内法行政の先駆性・先見性と限界」、(その5)「埋立て秘話」「臨時措置法から現行法に」

Aさん―じゃあ。どうすればいいと?

H教授―海洋基本計画については総合海洋政策本部が立ち上がった【12】。本部長は総理大臣、副本部長は官房長官と海洋政策担当大臣になっている。
環境省の原案と、それに対する各省の意見を提出させて、それに対してこの3人がエイヤッと決めてトップダウンにするぐらいにしないと本当に実効性のある保護区なんてできないと思うな。
海洋保護区ってどんなもので、どんな規制をするかという議論は必要だが、少なくとも現存するすべての藻場、干潟、サンゴ礁は原則として海洋保護区にしなくちゃいけないだろう。
また沿岸部が自然公園になっているところでは、それだけではなく、すべての自然海岸の前面海域を自然公園海域特別地域にするぐらいのことはしてほしいね。
もちろん海洋保護区や海域特別地域では埋立は、原則禁止と明言するんだ。

Aさん―海域だったら「地域」はおかしくないですか。「水域」か「海域」にしないと。

H教授―くだらん揚げ足をとるんじゃない。そんなこといえば海中公園地区の「地区」だってそうじゃないか。

Aさん―そうか…。
ところで本日のメインディッシュはなんですか。
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【12】 総合海洋政策本部
総合海洋政策本部(首相官邸)
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