環境庁(当時)の職員から大学教授へと華麗な転身を果たしたH教授が、環境にかかわる内外のタイムリーなできごとを、環境行政マンとして過ごしてきた経験に即して解説します。
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第71講『いまこそ「時のアセス」を!』
第70講『憂鬱なる硬派―「人類は絶滅する」考』
第69講 「激動の9月」
第68講 「夏の夜の夢―キョージュの2030年論」
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No. 第70講『憂鬱なる硬派―「人類は絶滅する」考』
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Issued: 2008.11.07
H教授の環境行政時評(第70講 その3)
書評―「人類は絶滅する」

H教授―目先のことじゃなくて、「人類の絶滅」を考えてみよう。

Aさん―ひぇえ、またなんで。

H教授―マイケル・ボウルターという生物学者が学際的なチームを組んで2002年に発表した『人類は絶滅する』(朝日新聞社、2005)という本を読んだんだ。

Aさん―そりゃ、まあいつかは絶滅するでしょう。だって地球だって何十億年か先には太陽に飲み込まれるんでしょう。

H教授―うん、そしてその太陽自体が燃え尽きて最後に爆発をするらしいし、宇宙だって何百年億年か先にはエントロピーが極大になる、つまり熱的死を遂げるとされている。
だけど、そんな超超未来じゃないんだ。

Aさん―えー、じゃ、いつだっていうんですか。

H教授―うん、今までのいろんな生物の「綱」とか「目」とかいう大グループごとに、もっと細分した「科」という数がどれだけ含まれているかを化石記録を使って100万年ごとに算出して見ると、すべての生物の大グループは同じパターンの盛衰が見られて、数式化できるというんだ。
つまり、ある時点から急速に科の数が増えてピークに達したあとは徐々に減少に転じ、やがては絶滅していくというんだ。

Aさん―で、アタシたち人類は?

H教授―動物界脊椎動物門哺乳綱、つまり哺乳動物という大グループに属している。
かれの数式を当てはめれば、哺乳動物は6500万年前の新生代に入ってからは、科の数を増やす、つまり多様性を増していき、中新世初期、2000万年ほど前にピークに達したが、それから多様性は減少に転じた。そして9億年先に絶滅するそうだ。
大型哺乳動物と小型哺乳動物にわけると、ヒトも含めた大型哺乳動物に関してはもっと早く、数百万年先に絶滅するといっている。

Aさん―数百万年か、そんな先のこと考えても仕方ないじゃないですか。

H教授―ところが、この数式は系外からの干渉がない場合で、生物史をみると過去5回の系外からの干渉による大絶滅が起きている。
一番最近のものは6500万年前だ。メキシコ湾に隕石が落下することによって、恐竜をはじめとする大絶滅が起きた。だからこそ空いたニッチを埋めるべく哺乳動物の科レベルでの多様性が増してきたんだろうと思う。

Aさん―…大絶滅…(話の先が読めない)。

H教授―驚いたことにボウルターの率いるチームによると、4万2千年前から6回目の大絶滅が起きているというんだ。
そしてそれは近年になりますます加速しているという。つまり今、6回目の大絶滅の真っ只中にいるというわけだ。

Aさん―4万2千年前っていうと…。

H教授―ホモサピエンス、つまりわれわれがアフリカを出て、世界に散っていったときだ。ヒトはその優れた狩猟技術により、われわれの兄弟であるネアンデルタール人からマンモスまで、多くの大型動物を絶滅に追い込んだというんだ。つまり人類が元凶で大絶滅がはじまった。
ネアンデルタール人については、直接われわれのご先祖さまが殺戮したわけじゃないと信じたいけどね。
そうそう、この間、イエティ、つまり雪男の足跡を日本人チームが発見したという記事が出ていた。このイエティがネアンデルタール人の末裔であってほしいね。

Aさん―…じゃあ、われわれは生物にとっての悪魔みたいなもんじゃないですか。そ、そんなあ。

H教授―これは別の本で読んだんだけど、生物としてのヒトは数十万年前にアフリカに登場し、今日まで生物学的にはほとんど変わっていないらしい。だが、4万2千年前かどうか覚えていないけど、数万年前にヒトは突然抽象的な思考や高度な言語コミュニケーションができるようになったらしい。つまり生物としてだけではなく、社会的存在としても今日と変わらないものになってしまった。

Aさん―え、どうして?なんで?

H教授―わからない。神が啓示したというトンデモ論者もいる。先日逝去した偉大なSF作家、A.C. クラークなんかも、そこに超存在としてのモノリスの関与を暗示した『2001年宇宙の旅』という名作を発表している。
ま、ボクは知能の発達が単に閾値を越して、量から質にそれこそ弁証法的に転化しただけだと思うけどね。
それに抽象的な思考や高度な言語コミュニケーションを持つのはヒトだけだというのは早計かもしれない。ネアンデルタール人はヒトよりも豊かな思いやりや自然哲学を持った存在だというジーン・アウルの『エイラ』のような作品もあるし、イルカだってそうだという研究者もいるからね。

Aさん―またペダンティックなゴタクを並べているわ。

H教授―うるさい。ここから先は再びボウルターが言っていることだ。1万年前、われわれは農業を発明した。いわゆる農業革命だね。それから以降農耕牧畜のため、次々と森林を切り開き、多くの動植物の生息地を破壊し、絶滅に追いやった。さらに宗教や文字を発明してからは、それが一層ひどくなった。
そして近世に入り、われわれは自然科学を手にした。それが技術と結びつくことにより、科学技術は今日まで異常な発達を遂げ続けている。産業革命で、化石燃料による動力を得た以降、温室効果ガスを排出し続けることにより気候変動をもたらし、今やわれわれ自身の首を絞めようとしている。
このあたりはジャレド・ダイアモンドの『銃・病原菌・鉄』『文明崩壊』に通じるものがある【13】
そして確実に近い将来ヒトは絶滅し、そのことにより、再び地球は動物、それもげっ歯類などの小型哺乳動物の天国になるが、9億年先には結局すべての哺乳動物は滅びてしまうというんだ。

Aさん―そのヒトが元凶となったために起きている大絶滅で、ヒト自身はいつ絶滅するとボウルダーは言っているんですか。

H教授―具体的な年数は言っていないが、何千年も先という遠い未来のことではないように思ったな。長くても2〜300年以内という感じじゃないかな。ひょっとすれば100年以下ということも考えているのかもしれない。

Aさん―えー、長くても2〜300年? セ、センセイはどう思われるんですか。
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【13】 ジャレド・ダイアモンドの説
第38講(その4)「「文明崩壊」を読む」
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