環境庁(当時)の職員から大学教授へと華麗な転身を果たしたH教授が、環境にかかわる内外のタイムリーなできごとを、環境行政マンとして過ごしてきた経験に即して解説します。
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第72講『2009年霧中の旅―新春呆談』
第71講『いまこそ「時のアセス」を!』
第70講『憂鬱なる硬派―「人類は絶滅する」考』
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No. 第71講『いまこそ「時のアセス」を!』
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Issued: 2008.12.05
H教授の環境行政時評(第71講 その2)
真の行革とは?―パーシャル・アライアンスの勧め

Aさん―国土交通省の地方整備局と農水省の地方農政局の廃止だか統廃合だかの話はどうなったんですか。

H教授―うん、麻生サンは地方分権改革推進委員会の、出先機関の原則廃止・地方自治体への移管という路線にいったんは同意しておきながら、すぐに真意は統廃合だといい直した。
ところが党内や政府部内の反発がものすごいらしく、その後は口を噤んでいるようだ。

Aさん―センセイはどう思われるんですか。

H教授―今、出先機関の問題については、改革推進委員会と各省の綱引きの真っ最中で、各省は出先機関廃止は論外とのことで、ごく一部だけを人質に出して、逃れようとしている。そんなときの麻生発言だったので、反発もすさまじかったみたいだ。
特に地方整備局の廃止は、コイズミさんの郵政民営化よりももっと本質的な、いわば官僚機構の<本丸>だから、そう簡単にいかないだろう。
廃止して自治体に移管というけど、今のままの自治体では難しくて、むしろ道州制と絡めて議論する必要があるんじゃないかな。
ボク自身は道州制の議論は続けるとしても、とりあえず、政策分野ごとに必要に応じて「一部事務組合」のようなものを導入して、そこが地方整備局の部署と統合すればどうかと思う。

Aさん―一部事務組合?

H教授―消防とか廃棄物処理だとかでよく見られるけど、複数の市町村で分野を限定して広域行政にあたる組織で、市町村と同じような権利義務を負う特別地方公共団体だ。
淀川水系のように複数の府県にまたがっている治水なんかは、この一部事務組合のような複数の府県間でのパーシャル・アライアンスを作ればいい。瀬戸内海の沿岸管理だってそうだし、複数県にまたがっている国定公園の管理だってそうだ。こういう予算も権限もあるパーシャル・アライアンスを、制度的に保証し、積み重ねることが、道州制などの広域行政へ向かう現実的な道筋だと思うけどな。

Aさん―パーシャル・アライアンスなんてはじめて聞いたわ。

H教授―そりゃそうだろう。ボクもはじめて言った(笑)。
ひょっとすればボクの造語かもしれない。「一部事務組合」なんて、なんだか野暮ったいから、思いつきでそう呼んだだけ。
いずれにしても麻生サンは単なる思い付きをほいほい垂れ流すんでなく、口に出したことは不退転の決意で臨むべきだと思うな。

Aさん―ぷっ、思い付きをほいほい口に出すとこはセンセイにそっくりですね、

H教授―うるさい。あと、福田サンのときに道路特定財源の一般財源化を閣議決定したけど【3】、麻生サンは今回の経済危機の緊急対策として、このなかから地方自治体に1兆円配布するとした。
道路族や財務省は猛反発して、面従腹背どころか真っ向から歯向かう構えだし、麻生サン自体もこの1兆円が既存の配分と合わせてのものなのか、オンするものなのか、道路整備以外のものに使える自由な財源なのか、ご自分でもよくわかってないような節があって、これもよく先が見えない。

Aさん―そりゃあ、お粗末ですね。

H教授―まあ、麻生サンのために弁解すれば、麻生サンは軸足を財務省より総務省、つまり旧自治省に置いているようだ。その証拠に筆頭秘書官は慣例を破って、自治省出身のO氏だ。
O氏はボクが県に出向しているときにいっしょになったことがある。切れもののうえ、運転手さんとでも気さくに飲み交わすようなところがあって、ボクは割りと好きだし、評価していたんだ。
このO氏が麻生サンの智慧袋だというのが、もっぱらの噂のようだけど、このO氏の提言を、じっくりと詰めきらず、アバウトにわかったつもりになったところで、麻生サンはついつい発言してしまうんじゃないかと思うけどね。
地方整備局と地方農政局の廃止や統廃合にしたって、道路特定財源の一般財源化に伴い自治体へ広く使える財源として手厚く配分することにしたって、そのこと自体はボクだって基本的に賛成だもの。

Aさん―その割には酷評してましたねえ、

H教授― 一国の総理なんだから、口に出す以上はある程度の見通しを持って、不退転の決意で臨み、「文句あるならオレの首を斬れ」くらいの迫力でなきゃあダメだ。ボクがコイズミさんを評価するのはその点だけだ。
【3】 フクダ前総理による、道路特定財源の一般財源化
第63講(その1)「ガソリン暫定税率期限切れをめぐるドタバタ劇」
第64講(その1)「道路特定財源の一般財源化で変わること変わらないこと」

Aさん―じゃ、同じ出先機関でも地方環境事務所の廃止は? 全国知事会は廃止を提言しているようですけど。

H教授―冗談じゃない。地方環境事務所で予算や権限を持っている業務は、国立公園の施設整備や許認可などの管理が中心だ。
国立公園の管理は国で全部やれって言って、自治体が投げ出してしまったからできた組織なんだ。知事会の事務局はそんな中身もしらず、今さらなにを言ってるんだと思うね【4】

Aさん―ふふ、地方環境事務所のルーツは、センセイが言いだしっぺの「ブロック専決制」だったですものね【5】
でも麻生サンはお粗末だっていうけど、センセイよりは英語がうまいですよ。

H教授―前にも言ったろう。英語だけができて仕事ができないやつは、英語も仕事もできないやつよりさらに悪いって【6】。ま、善人か悪人かっていえば、正直な分だけ悪人じゃないんだろうけど。

Aさん―センセイもいつか言ってたじゃないですか。「英雄のいない国家は不幸だが、英雄を必要とする国家はもっと不幸だ」って。センセイにしちゃあ名言だと思ったんですけど、そういう意味では、ああいう人でもソーリになれる国家って、そう悪くないんじゃないですか。

H教授―ぷっ、そのセリフはボクじゃない。「三文オペラ」のブレヒトだよ、ベルトルト・ブレヒト。
ま、キミも騙されやすい分だけ悪人じゃないけど、それじゃあ、これからの人生渡っていけないぞ。
【4】 地方環境事務所の成り立ちと役割
第23講(その3)「時評3 地方分権と国立公園管理」
第25講(その3)「地方環境事務所誕生!」
【5】 ブロック専決制
第7講(その4)「レンジャーの現在と将来」
【6】 英語だけができて仕事ができないやつは、英語も仕事もできないやつよりさらに悪い
第51講(その1)「キューバから帰国」
「時のアセス」を考える ──泡瀬干潟埋立に画期的判決

Aさん―ええい、もう。早く時評に入りましょう。
沖縄の泡瀬干潟の埋め立てについて、地裁はノーという判断を下しましたね。

H教授―うん、高裁、最高裁でひっくりかえる可能性が高いけど、画期的な判断だと思うよ。形式論からいえば、あの埋立は一応の法的手続きを済ませている。司法は、中身がどうあれ正当な法的手続を経たものであれば、否定的な判断を下すことはまずないからなあ。

Aさん―そもそも泡瀬干潟の埋立計画ってどんなものなんですか。

H教授―泡瀬干潟は、本島中部の東海岸にあって、サンゴ礁で囲まれた中城湾の北部に位置している。南西諸島で最大と言われる300ha近い干潟と、100haを越す藻場からなる礁湖性の浅海域で、貴重な動植物がたくさん棲息している豊かな生態系の海だ。
そこに出島方式で、200ha近くを国と県が埋め立てるもので、その総工費は500億円近い。埋立地は県と沖縄市が半分ずつ購入し、そこに一大リゾート開発をしようとしていて、市の開発費は300億円近くになるというんだ。

Aさん―な、なんだかバブル華やかなりし頃みたいな話ですね。時代遅れじゃないですか。

H教授―はは、まさにバブル華やかなりし頃に計画されたものだ。
最初は陸続きの埋立計画だったけど、反対運動が起きて、出島方式に変更し、規模を縮小したり、漁業補償に手間取ったりして、2000年暮れにようやく公有水面埋立の免許がおりたものだ。
アセスでいろいろ注文がつき、ミティゲーション【7】の検討をしたりして、2002年にようやく着工。
第一区域と第二区域に分かれるが、現在は第一区域の外周護岸ができた段階で、本格的な埋立は来年1月からはじめる予定だった。
一方、反対運動はその後も継続。市議会に求めた住民投票条例案は二度も否決されたが、昨年の市長選挙で慎重派の現市長が、推進派の前市長を破って当選した。

Aさん―えっ、それなのに工事を続行していたんですか。

H教授―法手続きは終了していたからね。
新市長は第一区域については土地利用計画の見直しを表明し、未着工の第二区域については計画を撤回するとしていたが、県はその後も工事を続行し、県民580人が、今後の公金支出差し止めを請求していた。
本格的な埋立がはじめる直前の判決で、今なら事業を中止して干潟保全することに間に合う、ギリギリの時期だ。

Aさん―判決内容は?

H教授―市の土地利用計画の見直しが定まっていない段階で埋立を続行することは、経済的合理性が認められず、地方自治法に違反するとし、これ以上の公金支出を差し止める判決を下した。

Aさん―当然県は控訴するんでしょうけど、市はどうなんですか。

H教授―市長は苦渋の決断とかで、結局控訴することにした。市長選で現市長を支持した反対派住民の失望は大きいようだ。
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【7】 ミティゲーション
第43講(その3)「アセスとミティゲーション」
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