環境庁(当時)の職員から大学教授へと華麗な転身を果たしたH教授が、環境にかかわる内外のタイムリーなできごとを、環境行政マンとして過ごしてきた経験に即して解説します。
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第72講『2009年霧中の旅―新春呆談』
第71講『いまこそ「時のアセス」を!』
第70講『憂鬱なる硬派―「人類は絶滅する」考』
第69講 「激動の9月」
第68講 「夏の夜の夢―キョージュの2030年論」
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No. 第71講『いまこそ「時のアセス」を!』
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Issued: 2008.12.05
H教授の環境行政時評(第71講 その3)

Aさん―センセイのご意見は? って、もう決まってますよねえ(にやり)。

H教授―(にやり)当然だよ。財政難の時代だというのに、こんな時代遅れの開発をなお続けるというのは、カネを泥海に投げ込んでいるようなものだ。
ましてや、未曾有の経済危機の中なんだ。とにかく住民投票を一度やってみるんだな。

Aさん―それに埋立をするということは、干潟・藻場の環境破壊だけでなく、それだけの土砂を持ってこなければならないわけでしょう。それだって環境破壊につながるんじゃないですか。

H教授―いや、もともとが隣接する新港の浚渫土の処分地が必要だからということで、はじまった計画らしいよ。港湾をつくるということは、これからの浚渫土をどうするかまで考えなくちゃいけないということだ。
それにその新港だって企業誘致がうまくいかず、遊休地が随分とあるらしい。

Aさん環境アセスメントをしたそうですけど、それで止められなかったんですか。

H教授―日本の場合、環境アセスメントにそこまで期待する方がムリなんだ。
開発するとしたら、環境保全上最低限こういうことをやれというところまでしかできないのが普通【8】
だからこそ、SEA【9】だとか、住民投票制度が必要なんだというのがボクの持論だ。

Aさん―こういう時代遅れの開発計画が、方々にまだあるんでしょうね。

H教授―大規模なダムだとか埋立だとかの巨大公共事業には、20年30年かかって各種調整や補償や用地交渉などの事前準備を行っているうちに、時代遅れになってしまうものが多々ある【10】
この手のロングランのものは、行政内部にストップする仕組みがないのが問題なんだ。そういう意味では、何年か前に話題になった「時のアセス」の制度化が必要だと思う。

Aさん―「時のアセス」?

H教授―うん、十年くらい前に北海道知事が言い出し、流行語大賞で上位にランキングされたけど、具体的な制度はできず終いになった。
EICネットの環境用語集にもあるけど、ボクなりに発展的に解釈させてもらえば、着工や完成が遅れている巨大公共事業について、新たな社会経済情勢を踏まえ、その必要性や費用対効果をいったんゼロベースに立ち帰って検証するシステムのことだ。

Aさん―でもその検証は誰がするんですか。環境アセスのように事業部局がやるんですか。

H教授―そりゃダメだ。泥棒に留守番をさせるようなものだろう。
首長が専門家、有識者等からなる第三者委員会を立ち上げる。お手盛りになるのを防ぐため、委員の半分は公募制にする。審議はもちろん公開だ。
【8】 環境アセスの限界
第2講(その2)「環境アセスメント私論」
【9】 戦略的環境アセスメント
第2講(その4)「戦略アセスと政策決定システム」
第17講(その1)「SEAと立地地点選定」
第51講(その3)「SEAガイドライン」
【10】 時代遅れの巨大公共事業
第5講(その2)「止まらない公共事業の真相=深層」

Aさん―それじゃあ、意見がまとまらないんじゃないですか。

H教授―まとまれば、それに越したことはないけれど、まとまらなければ両論併記でも構わない。その場合はその両論について、住民投票で賛否を問うんだ。
川辺川ダム【11】にしたって、淀川水系4ダムにしたって、こうした「時のアセス」で再評価すりゃよかったんだ。

Aさん―すでに工事が終わったものとしては、長良川河口堰、徳山ダム、諫早干拓【12】などがありますけど、これらだって本来「時のアセス」をやるべきだったですね。

H教授―うん、新聞によると、本格利用のメドが立たない長良川河口堰の水を、徳山ダムの水と合わせて渇水対策に転用する計画があるそうだ。徳山ダムの導水路の総事業費が890億円で、それにプラス長良川河口堰分の導水路が60億円だそうだ。

Aさん―それにこの手のものは実際に工事が始まると、到底それで収まらなくなるのが通例でしょう? 1000億円は優にかかっちゃうんじゃないかしら。いや、ひょっとすると2000億円かな?

H教授―うん、まあそれはさておいて、本来、正当な法手続きを終えた案件に対して、司法が介入するのは問題だと思うけど、こんなことを延々と続けていったら、それこそ日本は破産してしまう。
泡瀬干潟の地裁判決はそういう意味では、ボクの言う「時のアセス」における第三者委員会の役割を果たしたとも言えるんじゃないかな。
昭和40年前後、公害問題に関しては司法が行政・立法をリードする時代があった。昔の時代をいつまでも引きずった、愚かな巨大開発をやめさせるための「時のアセス」のような仕組みをビルドインさせるためには、もう一度司法がリードしなければダメかもしれないと思っちゃったよ。
【11】 川辺川ダム問題
第5講(その2)「川辺川ダム高裁判決」
第69講(その2)「脱ダムの流れ本格化 ―川辺川、淀川水系」
【12】 諫早干拓問題
第29講(その2)「諫早干拓の新たな転回」
第66講(その4)「諫早干拓で原告勝訴」
追い詰められる国交省 ──大戸川ダムと道路整備中期計画

Aさん―それに関連して、例の淀川水系4ダムですけど【13】、大戸川ダムについては明確に反対との4府県知事の共同意見書が出されました。もっとも滋賀県が県議会の承認を得る必要があるそうですから、正式には国土交通大臣には提出していないようです。
地元の大津市長らは依然としてダム早期完成を要望していますが。

H教授―まあ、共同意見書では2ダムについては容認としているし、残る丹生ダムについては、具体的な計画が明らかになっていないからということで、態度を表明しておらず、流域委員会【14】とは一線を画しているけど、国土交通省に真っ向から異議申し立てをすることの意味は大きい。
それだけじゃなく、知事らはその後のシンポジウムで流域自治を主張している。ボクのいう「パーシャル・アライアンス」だ。
それに、あまりにも長引いて、すっかり時代遅れになってしまった大型公共事業をやめる場合のルールつくりが必要だとも語っている。つまり「時のアセス」だ。
吉野川第十可動堰の住民投票や田中前長野県知事の脱ダム宣言に始まり、川辺川ダム、そして今回の大戸川ダムと確実に国土交通省は追い詰められている。

Aさん―そういう意味では、麻生サンの地方整備局の廃止だか統廃合の検討という発言は、タイミング的にはよかったんですね。
そういえば国土交通省は交通量予測を下方修正するそうですね。
【13】 淀川水系4ダム問題
第69講(その2)「脱ダムの流れ本格化 ―川辺川、淀川水系」
【14】 流域委員会
第66講(その3)「淀川水系4ダムと橋下府政」

H教授―うん、02年に将来予測をしていたんだけど、それによると2020年頃まで交通量は増え続けるということだった。これをもとにして、昨年末道路整備中期計画案をまとめ、今後10年間に必要な道路整備費を弾き出した。面白いことに、今後10年間の道路特定財源の総額がほぼ同額【15】
つまり、当時巻き起こっていた一般財源化議論を牽制するための、水増しされた恣意的な予測として問題視され、当時の福田ソーリは精査を指示した。

Aさん―そして06年の交通量の実績は予測通り増えるどころか、漸減していることが明らかになったんですね。そこで渋々下方修正したということですか。

H教授―うん、それだけでなく、今年末に公表予定の道路整備中期計画では、事業費総額を盛り込まないことにした。それだけ追い込まれているということでもあるが、暫定税率による税収総額と中期計画全体での道路整備費との差もみえなくなってしまい、将来に向けての議論もしにくくなってしまう。

Aさん―まあ、いずれにしても戦後日本の、「土建屋国家」としての発展を支えてきた公共事業については、抜本的な見直しをしなければいけないということですね。
【15】 道路整備費の恣意的な試算
第59講(その1)「道路特定財源をめぐる混迷」
マグロとクジラ

Aさん―話題を変えましょう。本マグロの漁獲制限が厳しくなったそうですね。

H教授―うん、地中海を含む東大西洋での漁獲枠は、大西洋まぐろ類保存国際委員会(ICCAT)が決めているんだ。ICCATの科学統計委員会は、乱獲で資源が減少しているとして、半分近い削減を求めていたんだけど、漁場を抱えるEU諸国が抵抗し、結局2割削減ということに落ち着いた。

Aさん―なんだ。温暖化ではかっこいいことをいうEUも、自分のことになると豹変するんですね。

H教授―何言ってるんだ。そのEU諸国が漁獲した本マグロの、最大の輸入国はわがニッポンだということを忘れちゃいけない。
いずれにせよ今後マグロの値上げは必至だろう。持続可能な社会をつくっていく上では、われわれ自身の食生活も変えなきゃいけないということだろう。

Aさん―そうか…。ところで、クジラの方も新たな動きがあるそうですね。

H教授―うん、国際捕鯨委員会(IWC)の作業部会が来月行われるそうだ。調査捕鯨のありかたなどが、本格的に議論されることになるそうだ。
日本の南極海での調査捕鯨は、このところ実績が捕獲目標を下回っている。調査捕鯨の妨害だけでなく、鯨肉の需要低迷もあるとのことだ。調査捕鯨事業は鯨肉の売り上げで賄っているんだけど、日本政府は採算を維持するための最低漁獲量はどれぐらいかの試算を、いろいろしているようだ【16】

Aさん―えー、捕獲目標というのは、科学的な調査のために必要な頭数じゃないんですか。

H教授―はは、そうみたいだな。だから国際的な批判を浴びているんだろう。商業捕鯨の是非以前に、調査捕鯨のありかたをきちんと議論しなきゃいけないだろう。
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【16】 日本の調査捕鯨事業
第66講(その4)「捕鯨小論」
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