環境庁(当時)の職員から大学教授へと華麗な転身を果たしたH教授が、環境にかかわる内外のタイムリーなできごとを、環境行政マンとして過ごしてきた経験に即して解説します。
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第73講『当たるも八卦、当たらぬも八卦、新たな海域保護制度 ―付:ダーウィン生誕200年』
第72講『2009年霧中の旅―新春呆談』
第71講『いまこそ「時のアセス」を!』
第70講『憂鬱なる硬派―「人類は絶滅する」考』
第69講 「激動の9月」
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No. 第72講『2009年霧中の旅―新春呆談』
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Issued: 2009.01.13
H教授の環境行政時評(第72講 その3)
Aさん―また“拡大”シリーズですか。「拡大PPPの原則」ってなんですか。

H教授―今までのPPPの原則──ま、PPPの最後のPは「原則」という意味だからPPPだけでいいんだろうが──は、公害被害の責任・補償に限定されている。そうじゃなくて、環境負荷そのものに税とか課徴金のようなものを課せばいい。
つまり、これまでは規制基準さえ守っていればOKだったけど、そうじゃなくてBODだってSO2だって規制基準以内であっても、排出量に応じて負担を課すようにする。
CO2だってそうだ。CO2の排出量に応じて税を課すんだ。難しく言えば外部不経済の徹底した内部化を図るということだ。
開発税だとか水源税、森林税だとか、いろんなことが言われてきたし、ゴミの世界では拡大生産者責任ということが言われているが、そういったものも、みな拡大PPPの原則の変形だといっていいだろう。

Aさん―超広義の環境税ですね。その場合の税額はどうして決めるんですか。
H教授―理屈だけでいえば、ノーネットロス原則【13】で、環境劣化の絶対値を価格換算して、それを税額にすればいいんだろうけど、誰もが納得する数式化は無理だろうから、当面はエイヤッで決めるしかないだろう。
ま、拡大PPPと言ってもいいし、「拡大代償ミティゲーション」と言ってもいいが。

Aさん―そんな実例、外国にはあるんですか。

H教授―さあなあ、でも夢物語かも知れない。先日、途上国の人々と話する機会があったんだけど…。
【13】 ノーネットロスの原則
第43講(その3)「ミティゲーション・バンキングとノーネットロス原則」
第2講(その3)「環境アセスメント私論」

Aさん―(話を遮って)「通訳さんを介して」って言わなきゃダメですよ。

H教授―はい、はい。

Aさん―「はい」は一度でいいんです。

H教授―わかったよ。途上国じゃあ、基準オーバーみたいな違反があっても、罰金さえ払えば、そのまま違反を続けてもいいんだってところが多いみたいだ。びっくりしたなあ。

Aさん―日本はどうなんですか。

H教授―もちろん刑事罰、つまり懲役とか罰金は、警察−検察−裁判所といったルートでなされるんだけど、それとは別に行政罰というのがあって、違反をした場合には排水停止命令のようなものまでかけられるから、違反を続けることはできない。

Aさん―従わない場合はどうなるんですか。

H教授―そうすると告発、つまり司法の手に委ねることになるんだけど、公然と違反し続けるなんて例は聴いたことがない。つまり罰金さえ払えば、違反し続けられるなんてことは日本じゃほぼ不可能なんだ。その話をしたら途上国の人はびっくりしていたなあ。
だけど逆をいえば、規制に違反さえしなければ、いくら環境負荷をかけても免罪されるなんて言うのもおかしな話だ。違反しなくても、それなりの負担を排出量に応じてかけるというのが、ベストじゃないかなあ。
Aさん―うーん、その話をもっと拡張していけば、いわゆる環境税だけじゃなくって、カーボンフットプリントだとか、カーボンオフセットだとかフードマイレージだとか、バーチャルウォーターだとかいった、いろんな目新しいコトバ【14】も全部引っくるめて税制のシステムに組み込めそうですね。

H教授―うん、そのためには環境基本法に、大原則としての「拡大PPPの原則」を埋め込んじゃえばいいんだ。いや、それだけじゃダメだな。税の基本法、つまり憲法も改正しなくっちゃダメかも知れない。

Aさん―つまり、環境負荷の削減に向けて、憲法改正まで視野に入れなきゃあいけない時代になったということですね。
だけど、そんなことをしたら物価は高くなるでしょうし、国際競争力も落ちて、経済もマイナスになるんじゃないですか。

H教授―すぐそういうことを言う。まだ成長神話にとりつかれているな。
まあいい、この話はまたあとでやろう。
そうそう、来年度政府予算案の話だったな。大戸川ダム【15】には予算はつけなかったそうだ。
【14】 本講で扱ってきた“目新しいコトバ”と、税制システムへの組み込み
カーボンフットプリント 第66講(その1)「福田ビジョンの可能性と限界」
カーボンオフセット 第59講(その3)「カーボン・オフセットとフィフティ・フィフティ」
フードマイレージ 第66講(その1)「福田ビジョンの可能性と限界」
バーチャルウォーター 第68講(その3)「真夏の夜の夢―キョージュの2030年論」
【15】 大戸川ダム
第71講(その3)「追い詰められる国交省 ──大戸川ダムと道路整備中期計画」

Aさん―あと国内排出量取引制度の試行【16】は結局どうなったんですか。

H教授―12月12日に締め切った。個別企業の参加申し込みが315社。その他に鉄鋼連盟、自動車工業会、自動車車体工業会は団体で加盟を申請したそうで、全部で446社で、そこからのCO2排出総量は国内排出量の約半分だそうだから、「とにかくスタートを!」との環境省の念願は果たされたといっていいだろう。
まあ、どれほどの排出削減効果があるかはわからない。
ただ、幸か不幸か、自動車業界などは今年は大幅な減産を余儀なくされそうだから、来年度の排出総量は相当減ることになるだろう。経済危機がもっとひどくなれば、排出総量はどんどん減っていって、ちょうど90年前後のソ連・東欧の状況のようになるが、こういう減り方は決してハッピーじゃないな。

【16】 国内排出量取引制度の試行
第62講(その2)「国内排出量取引制度の検討開始へ」
第70講(その1)「経済危機と温暖化対策」
日本初、商業用原子炉の廃炉
Aさん―ところで浜岡原発ですが、中部電力は1号機と2号機を廃炉にすることを決めたそうですね。で、代わりに6号機を新設するとか。

H教授―実は原発の耐用年数は当初30年と決められていたんだが、まだもつということで60年まで延ばしちゃった。
この1号機、2号機とも運転開始後30年程度だから、廃炉にする必要はないんだけど、一方じゃ耐震基準が強化され【17】、耐震補強工事にかかる経費が莫大なものになり、廃炉にして新たに作った方が経済的ということになったようだ。
日本では本格的な廃炉ははじめてのケースなんだけど、似たような話は他にも出てきそうだ。
CO2対策で日本は原発をメインに据えているが、国際的にはCDMの対象にもなっていないことからもわかるように、きわめて補完的なものと捉えている。
前にも言ったけど、浜岡原発は東海地震の想定震源域だし、浜岡に限らず、日本は地震と火山の巣なんだから安易な原発頼みはやめた方がいいと思うんだけどね【18】

【17】 原発耐震基準の強化
第55講(その2)「中越沖地震と柏崎刈羽原発」
【18】 “地震と火山の巣窟”日本における原発頼みの危険性
第45講(その3)「原発とエネルギー」
必要なダム、あと100基?

Aさん―これから各地の原発も老朽化が進みますよねえ。心配だわ。
そうそう、12月10日付けの朝日新聞によると、全国の一級河川で100年から200年に一度あるような規模の大洪水を防ぐためには、建設中・計画中のダム150基以外にも新規に100基必要だと国土交通省は試算しているんだそうです。

H教授―97年に河川法が改正され、1級河川109水系について逐次河川整備基本方針とそれに基づく河川整備計画を策定中なんだ。
基本方針は今後100年を見通した整備方針で、基本計画の方は今後30年間の具体的な整備計画をまとめようとするものだ【19】
基本方針の方は、すでに104水系で策定されていて、今年度中にはすべて策定されることになるそうだ。まあ、今後100年の見通しということだから、技術者の夢を語っているんだろうが、それこそ前世紀、いや19世紀の夢だね。時代感覚のなさに呆れちゃうよ。
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【19】 河川法の改正と、河川整備基本方針・河川整備計画の策定
第45講(その2)「新たな河川行政の芽生え」
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