環境庁(当時)の職員から大学教授へと華麗な転身を果たしたH教授が、環境にかかわる内外のタイムリーなできごとを、環境行政マンとして過ごしてきた経験に即して解説します。
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第73講『当たるも八卦、当たらぬも八卦、新たな海域保護制度 ―付:ダーウィン生誕200年』
第72講『2009年霧中の旅―新春呆談』
第71講『いまこそ「時のアセス」を!』
第70講『憂鬱なる硬派―「人類は絶滅する」考』
第69講 「激動の9月」
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No. 第72講『2009年霧中の旅―新春呆談』
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Issued: 2009.01.13
H教授の環境行政時評(第72講 その4)
2009年、霧中の旅

Aさん―さあ、ぼちぼち新しい年のことを語りましょう。今年の見どころと見通しは。

H教授―大状況がどうなるかにすべてかかっているね。
戦後日本を牽引してきたトヨタまでが赤字に転落、米国じゃGMなど自動車の三大メーカーすべてが死に体みたいになってしまっていて、どこも失業者がうなぎのぼりに増えている。
この経済危機がどこまでいくのかだ。
不況になればなるほど、民間からのCO2排出は減るが、一方じゃ環境投資の方はしようとしてもできなくなってしまう。
政府の役割はいやおうなく大きくなって「小さな政府論」はすっとんでしまうが、他方では政府の資金も税収減で底をついてしまう。

Aさん―オバマさんは「グリーンニューディール」ということを言っています。今後10年間に日本円にして15兆円の国費を投入し、500万人の雇用創出を図るとしています。

H教授―日本でも民主党がその日本版をまとめた。予算の試算はしていないようだが、エネルギー転換や農林漁業再生で雇用を250万人創出するということのようだ。

Aさん―センセイはどう思われますか。

H教授―もちろん賛成だよ。そしてその財源として、道路やダム、空港に代表されるトンカチ型公共事業は大幅削減しなきゃあいけないし、民主党の案に関して言えば、農家への所得保障のような単なるバラマキもやめるべきだ。
ただねえ、グリーンニューディールで、経済は再び成長をはじめるという幻想は捨てた方がいい。
これ以上の“負のスパイラル”を止めて、健康で文化的な生活の底支えをしてくれる手段だと思った方がいい。

Aさん―これ以上の経済成長は幻想だなんてどうして言えるんですか。

H教授―ちらっとテレビで聞いたんだけど、レスター・ブラウン氏なんかも、再生可能エネルギーは無限大にあり、それを活用する技術革新により、経済成長は永遠に可能だと誤解されかねない──真意は違うと思うけど──発言をしていた。」
だけど無限の経済成長なんていうことは、地球自身が有限なのにあるわけがない。生態系の頂点にいるヒトは、底辺の地球資源や生物に制約されるに決まっている。
だから、技術革新は必要だし、結果としてGDPや国民総所得があがれば享受すればいいとは思うけど、経済成長自身を自己目的にしちゃあダメだと思うよ。
“成長”よりは“安定”、“モノの豊かさ”よりは“心の豊かさ”を涵養すべきだし、「貧しきを憂えず、均しからざるを憂う」ことを忘れないでほしいね。

Aさん―そうですね、目的はみんなの幸せですものね。
グリーンニューディールによって格差はできるだけ小さく、未来の世代ともども、衣食住を保障し、その基盤である環境を守って、持続可能な安定した社会を築ければそれでいいということですね。
(小さく)…でもやっぱりもっとオカネがほしいし、ブランド品も身に付けたいんだけどな。

H教授―え?

Aさん―いえいえ、別に。
米国ではいよいよブッシュさんが消えていき、オバマさんが登場します。どんな舵取りをするのかが見ものです。日本の方は、麻生サンがいつまでもつか、民主党政権が誕生するかどうかで、いろんなことが変わってきそうですね。

H教授―うーん、ボクは民主党政権ができても、それは一時的なもので、大規模な政界再編成が起きそうな予感がする。当たるも八卦、当たらぬも八卦というやつだけどな。

Aさん―ところで今の経済危機に関しては、年末年始の討論番組なんかでも、金融資本主義の時代は終わっただとか、ホントの20世紀が終わったという人もいます。これからグリーンニューディールの時代が始まるなどという評価もあります。センセイはどう思われます。

H教授―うーん、よくわからない。資本主義はコンドラチェフの波だとか、いろんな周期で好況・不況の波があるらしい。たまたまいくつかの波がかぶっただけで、何年かすると戻るのかも知れない。ただ、ボクはもっと本質的な“一つの時代の終わり”が来たような気がする。つまり「無限成長の夢」が終わったと、とらえるべきじゃないかな。
それよりもっと、今回の危機では強く思ったことがあるんだ。

Aさん―え、なんですか。

H教授―80年代後半からのバブルの膨張と91年の崩壊もそうだったし、そして今回のサブプライムローンの破綻に端を発した経済危機。
いろんな人がいろんなことを言っていて、いかにももっともなんだけど、全部起きてからの「後智慧」なんだよね。
前FRB議長のグリーンスパンさんは、伝説的な名采配を振るったって、現役中の評価は高かったけど、今度の危機の勃発後には自分の誤りを認めて、100年に一度の大津波だと言った。
だけど津波なら自然現象だけど、今回の危機は自然現象とは一切関係なく、100%人間のやったことだ。
当局や経営者や経済学者は、なんでこうなることを事前に予測して、規制するなり警告するなりの手を打てなかったんだろうってことだ。

Aさん―そりゃあ、戦争なんかのように民族的・宗教的な憎悪で、どうにも止められないってこともありますし、何時の世にも詐欺師に騙される人がいるじゃないですか。

H教授―関係ないよ。経済政策とか経営戦略だとかは、頭のいい多くの優秀な人間が冷静な頭脳で立案したはずだから、こうなることを当然予測できたろうし、阻止できたはずだと思うんだけどなあ。

Aさん―センセイだって予測できなかったでしょう。

H教授―ボクは経済学にはとんと無知だから、具体的に何が起きるかなんてのは、もちろんわからなかったけど、こんなことが永遠に続くはずはないという、断固たる確信だけは持っていたから、うろたえたりはしなかった。だからこそ、何でプロがそんなこともわからなかったのか、余計に不思議なんだ。

Aさん―そんなこと、いっぱいあるんじゃないですか。
派遣労働者の切捨てが問題になっていますけど、あれだってコイズミ改革で派遣の自由化を認めたときに、当然今日の事態は予測できたはずでしょう。
H教授―うーん、となると、やはり人間社会が進化システムであるがゆえの宿命ということなのかなあ【20】
考えてみれば気候変動対策だって、もうズルズルと20年以上も手を拱いていて、ネットや書籍では反温暖化対策論者が跋扈しているものなあ【21】
やっぱり前途は多難だ。2009年の先行きは不透明で、「2009年霧中の旅」に出かけなければいけないということだ。

Aさん―でもセンセイが本当に出かけたいのは「石探し夢中の旅」なんでしょう。

H教授―(しみじみと)そうなんだよなあ、せっかくの正月休みなんだ。
元旦は石探しに行って、二日・三日はミオを膝に抱いて箱根駅伝を見ながら昼酒を飲みたかったのに、何でこんなできの悪い院生相手に、時間を取られなきゃあいけないんだって思っちゃうよね。
【20】 人間社会が進化システムであるがゆえの宿命
第70講(その4)「ヒトは「ダーウィン・ディレンマ」を超えられるか」
【21】 反温暖化対策論者の跋扈
第50講(その3、4)「温暖化を疑い、反温暖化対策論を疑う」

Aさん―セ、センセイ、何もそんな言い方しなくったっていいじゃないですか、ア、アタシだって…(泣き出す)。

H教授―(うろたえて)あ、冗談、冗談。さあ、お屠蘇を空けて。
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(平成21年1月3日執筆 平成21年1月6日編集了)
註:本講の見解は環境省およびEICの見解とはまったく関係ありません。また、本講で用いた情報は朝日新聞と「エネルギーと環境」(週刊)に多くを負っています。
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