環境庁(当時)の職員から大学教授へと華麗な転身を果たしたH教授が、環境にかかわる内外のタイムリーなできごとを、環境行政マンとして過ごしてきた経験に即して解説します。
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第74講「化学物質対策の新展開―化審法改正」
第73講『当たるも八卦、当たらぬも八卦、新たな海域保護制度 ―付:ダーウィン生誕200年』
第72講『2009年霧中の旅―新春呆談』
第71講『いまこそ「時のアセス」を!』
第70講『憂鬱なる硬派―「人類は絶滅する」考』
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No. 第73講『当たるも八卦、当たらぬも八卦、新たな海域保護制度 ―付:ダーウィン生誕200年』
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Issued: 2009.02.09
H教授の環境行政時評(第73講 その1)
オバマフィーバーはいつまで? ─付:上乗せ規制考

Aさん―センセイ、オバマさんは流石ですね。就任演説もカッコよかったけど、就任後一週間もしないうちに、ブッシュ政権が差し止めていた、CO2を大気汚染物質として規制しようとするカルフォルニアなどの州政府の独自規制を認めるようEPAに指示したそうです。

H教授―もともと米国は連邦国家なんだから、本来主権は州政府にある。だから州政府はそれぞれ独自の憲法を持っている。その主権の一部を供託されたのが連邦政府なんだ。
例えば死刑だって、ある州もあれば、ない州だってあるし、消費税率だって州によって違う。環境規制だって、州によってばらばらなんだ。ぼくは連邦のClean Air Act(大気清浄法)も読んではいないけど…。

Aさん―(すかさず)「読めないけど」ですね。

H教授―うるさい! 新聞報道で言われているように、州法で独自規制をしようとするときにEPAの許可が必要だとしても、それは単なる手続き、形式に過ぎないはずで、それを許可しなかったブッシュ政権があまりにも異常というしかない。

Aさん―そういえば日本は主権は国家にあって、地方自治はその枠内で与えられたものに過ぎないんですよね。その日本でさえ水質汚濁防止法大気汚染防止法で、条例による上乗せ規制を認めていますものね。

H教授―うん、一口に上乗せといっても、規制基準を厳しくする「(狭義の)上乗せ」、規制対象を広げる「裾下げ」、規制項目を増やす「横出し」とある。
例えば、水質汚濁防止法ではBODの規制対象は一日排水量50トン以上の工場・事業場で、排水基準、つまり排水口濃度の規制基準は日平均値120ppmだ。
でも、その程度の規制じゃ、到底その流域での環境基準が達成されそうにないとなれば、条例によって上乗せ規制ができる。

Aさん―例えば、一日排水量20トン以上の、より小さい規模の工場・事業場まで規制対象にするのが「裾下げ」、規制基準として日平均値を80ppmにするようなのが狭義の「上乗せ」ですね。

H教授―うん、日本は昭和30年代末期から40年代にかけて危機的な環境汚染にあった。だから水質汚濁防止法の規制強化に関して産業界もあまり強い異議を唱えなかったが、最後まで反対し抵抗したのが上乗せ規制の容認項目なんだ。それを国民の支持を背景に押し切っちゃったんだけど、その自治体の上乗せ規制こそが、かつての激甚な公害を沈静化させたといえるだろう。

Aさん―ふうん、じゃ、「横出し」というのは?

H教授―例えば和歌山では、水質汚濁防止法で規制していない水の「色」について規制している【1】

Aさん―じゃ、アメリカの場合、先進的な州がCO2の“横出し”規制をしようとしたのを、ブッシュ政権が妨害したというわけですね。
でもオバマさんは環境に熱心なだけじゃないですよ。就任翌日には、キューバ東南部のグアンタナモ湾に位置するあの悪評高いグアンタナモ基地収容所での特別軍事法廷の審理をストップさせましたし、一年以内に収容所自体を廃止することを決めたそうです。

H教授―グアンタナモ収容所の特別軍事法廷なんていうのは、明らかに国際法違反だし、そもそもグアンタナモ基地が、米国統治下にあること自体おかしい。植民地時代の不当な負の遺産そのものだし、米国の恥部といっていいんじゃないかな。
英国は香港やマカオを中国に返還した。米国も一日も早くキューバに返還すべきだ。
まあ、それはともかくとして、収容所を閉鎖したら、収容されていた捕虜をどうするのかという難問が待っている。オバマさんがどうするのか見ものだね。
【1】 横出し規制の例
和歌山市排出水の色等規制条例(PDF)
Aさん―ま、いずれにせよこれからオバマさんは、グリーン・ニューディール政策を推進していくでしょうし【2】、温暖化対策だって急ピッチで推進していくでしょう。
オバマさんってほんと素晴らしいわ(うっとり)。

H教授―やれやれ、ほんとミーハーだな。
だけど、イスラエルのガザ侵攻に対して、ブッシュさんほどではないにせよ、イスラエル支持を表明し、一方じゃあ、アフガンに軍を増派する構えをみせている。公約通りイラクから撤退すれば、イラクは間違いなく反米国家になるだろう。
ブッシュさんの負の遺産が大きすぎて、身動きがとれなくなることだって考えられる。
【2】 米国のグリーン・ニューディール政策
EICネット海外ニュース「オバマ大統領のグリーン雇用戦略は「一石四鳥」」

Aさん―いえ、オバマさんなら、きっとなんとかしてくれます(きっぱり)。
それにグリーン・ニューディールという夢の実現に向かって邁進していくことは間違いないでしょう。

H教授―米国経済の危機はなお深刻化している。成長率は過去最大のマイナスが見込まれ、失業率も増大する一方だ。
グリーン・ニューディールで膨大な公共投資をやれば、連邦政府の負債は一気に増してしまう。もし、その肩代わりで米国国債の大量購入を日本に求められでもしたら、たまったもんじゃない。自衛隊のアフガンへの派兵だって求めてくるかもしれないぜ。

Aさん―もうセンセイったらあ。グリーン・ニューディールに賛成じゃないんですか。
H教授―もちろん賛成だよ。温暖化対策に寄与するだろうし、雇用対策の底支えにはなるだろう。だけど、前講でも言ったように、経済を立て直して、再び成長しはじめるなんて幻想は抱かない方がいい【3】
それよりは、産業構造を無限成長指向型から、持続安定指向型にガラッと変えようとするもので、急激なマイナス成長をより緩やかなものにしようとするものだと思った方がいい。それだって果たしてできるかどうか…。

Aさん―どうしてですか。
【3】 グリーン・ニューディールへの幻想
第72講(その4)「2009年、霧中の旅」

H教授―オバマさんは10年間で1500億ドル投資し、緑の雇用が最大400万人生まれるとしている。風力発電などの代替エネルギーだけで50万人の雇用が可能になると目論んでいるらしい。そうなると温暖化対策も一気に進んで、この面でも世界をリードできると踏んでいるんだろう。
だけど、既存のエネルギー業界の抵抗も強い。オバマさんは人気はあるけど、何よりも世論調査では国民の多くは温暖化対策に関心は低く、オバマさんに即効性のある景気対策を望んでいる。

Aさん―でもそれは期待できないでしょう。というか不可能なんじゃないですか。

H教授―うん、だから人気が急にしぼんで、1〜2年で失速してしまう可能性だってある。国民が豊かな消費生活を最大至上のものとして求め続けるかぎり、そうなる可能性は高いと思うな。
GHG排出を2020年に対90年比ゼロ%という微温的なものしか打ち出せなかったのも、その影響だと思うよ。
ま、カリスマ性はありそうだから、国民の価値観を変えることができればいいんだろうけどね。
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日本版グリーン・ニューディールは可能か?

Aさん―米国も深刻でしょうけど、日本だって大変ですよね。名だたる大企業が次々と「派遣切り」するだけでなく、リストラをはじめました。失業率も大幅アップ、大失業時代が来るかもしれません。

H教授―間違いなくそうなるだろう。

Aさん―やはり派遣労働の自由化が間違いだったんですね。

H教授―そうとも言い切れない。自由化しなければ、その時点で失業率も増えただろうからね。

Aさん―でも日本は昔から株主より社員を大事にしてきましたよね。
社長だって上場企業のほとんどが、社員から上がってきたサラリーマン社長だったし、それが日本型経営の真髄だったんじゃないですか。
その時代に戻せばいいんじゃないですか。

H教授―それは幻想だろう。確かに、日本の大企業は正社員や本工を大事にしたけど、派遣の代わりに下請け、孫請け、曾孫請けみたいな差別構造があったのも事実じゃないかな。
ま、それはともかくとして、それでも米国は「チェンジ!」を合言葉にしてオバマさんを誕生させた。オバマさんは奴隷の子孫じゃないけど、黒人の血が流れているし、奥さんは黒人奴隷の子孫だ。画期的なことには違いない。
それに引き換え、日本の政治はどうしようもない。補正予算をめぐるドタバタといい、代わり映えのしない21年度予算案といい、いったい何をやってるんだか。
1月19日には「経済財政の中長期方針と10年展望」が閣議決定されて【4】、その中で「低炭素社会にむけて大胆に」とは言っているけど、中身にはまったく何も触れていない官僚の作文そのものだ。

Aさん―でも、日本版グリーン・ニューディールもいろいろ言われてますよ。
民主党は250万人の雇用創出を言い出してますし、公明党は今後3年間で10兆円規模の環境投資を言い出しています。斉藤環境大臣が同じような環境省の構想を麻生サンのところに持っていったら、もっと大胆な構想を打ち出せと逆にはっぱをかけられて、各省と連携して民主党に対抗するような大規模な構想を3月末には打ち上げるようですよ。
【4】 政府が「経済財政の中長期方針と10年展望」を閣議決定
経済財政諮問会議>「経済財政の中長期方針と10年展望」が閣議決定

H教授―財源はどうするんだ。

Aさん―そりゃあ、非常事態なんだから、借金でしょう。

H教授―もちろん非常事態だから借金するのもやむをえない。
だけど、同時に大胆に今までの構造を打ち破らなきゃいけない。国土交通省の公共事業なんて、いったん全部パーにするくらいのことが必要だけど、相変わらず不要不急のダムや道路のようなトンカチ工事を進めている。
グリーン・ニューディールと言うんなら、泡瀬干潟埋立【5】なんてのは、違反だという判決が出ようが出まいが、即刻中止すべきだろう。
もちろん、そうしたことをすれば痛みを負う人たちも出る。「緑の雇用」への移行の過渡期には、セーフティネットの充実も欠かせない。
そのためにも、道路特定財源とされてきた分の8割と既存の公共事業費の半分を召し上げ、例の給付金2兆円を足せば10兆円近くにはなるだろうから、それを充てるぐらいのことをしなければどうにもならない。

Aさん―また乱暴な…。

H教授―それくらいはしなければ借金が増える一方だ。借金というのは、いずれ返さなきゃいけないということを忘れちゃいけない。
そして税収中立の原則の下で、民間が行うグリーン・ニューディールというに相応しい事業は税の減免をしたり、無利子貸し付けを行う。一方、それ以外の従来型事業には増税を行うと共に、環境税を導入する。

Aさん―センセイのことだから、公共料金体系も変えろというんでしょう。使えば使うだけ単価が高くなるような料金逓増制だとか。
あ、そうだ、自然エネルギー固定価格買取制度も必要ですね。

H教授―あと東日本と西日本では電力の周波数が違い50Hzと60Hzとなっている。そのためにお互いに電力を融通するのが大変らしいんだけど、こんな国は日本だけらしい。
この際、それも統一するなんていう大手術も考えてみてもいいんじゃないかな。

Aさん―うーん、大変革ですね。でもそうすれば、経済は豊かになります?

H教授―純粋な収入という面から見ればマイナスだろう。もともと身の丈以上の生活をしてきたんだから、仕方がない。
だけど農山村回帰がはじまり、格差が減少し、助け合いの精神でコミュニティが再構築されれば、それはある意味豊かになったといえるんじゃないかな。
志布志の藤後惣兵衛サンの名言、「スモッグの下のビフテキよりも、青空の下のおにぎりを」を今こそ噛み締めるべきだ。

Aさん―なんだか革命みたいですね。あ、そうか、センセイ先日「チェ 28歳の革命」を観た興奮がまだ冷めやらないんだ。
【5】 泡瀬干潟の埋立を巡る状況
第71講(その2)「「時のアセス」を考える ──泡瀬干潟埋立に画期的判決」

H教授―ふふ、ばれたか。でも基本的な方向は間違っていないと思うよ。というか、そういうふうに変えていかなければ、人間社会はこれから何百年も持たないよ。
まあ、政府は3月末までに、日本版グリーン・ニューディールをまとめると言ってるから【6】、それを期待しよう。


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【6】 日本版グリーンニューディール
環境省>「緑の経済と社会の変革」(日本版グリーン・ニュー・ディール)のアイデア募集中!
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