環境庁(当時)の職員から大学教授へと華麗な転身を果たしたH教授が、環境にかかわる内外のタイムリーなできごとを、環境行政マンとして過ごしてきた経験に即して解説します。
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第75講「再生するか、国立公園」
第74講「化学物質対策の新展開―化審法改正」
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No. 第74講「化学物質対策の新展開―化審法改正」
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Issued: 2009.03.09
H教授の環境行政時評(第74講 その4)
化審法改正

H教授―うん、まだ各省協議中のようだ【*】。次講あたりで、話ができるかもしれない。
それよりも前講で先送りした「化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律」、いわゆる「化審法」改正の動きを見ておこう。

Aさん―もう法案はできたんですか。

H教授―うん、すでに閣議決定されて今国会に提出されている。多分全会一致で可決されるだろう。

Aさん―そもそも化審法というのはどういう法律なんですか。

H教授PCBの環境汚染問題がきっかけで1973年に制定された新規化学物質の製造や輸入を、ヒトの健康や生態系への化学物質による環境汚染防止のために審査し、必要に応じて規制しようとする法律だ。

Aさん―つまり大気汚染防止法だとか水質汚濁防止法の規制が、公害防止のための出口規制だとしたら、化審法は入り口規制なわけですね。

H教授―うん。で、化審法は環境省、厚生労働省、経産省の共管になっている。
新規の化学物質の製造・輸入に関しては、あらかじめ毒性、分解性、蓄積性、という3つの観点からチェックしていたんだ。
毒性は特に
慢性毒性生態毒性の有無をチェックする。また、分解性というのは、毒性があっても、生体内で速やかに無害なものに分解するようなものであればいいという観点からのものだ。さらに蓄積性というのは、生体内に入っても速やかに排泄されるのでなく、生体内にどんどん蓄積していくようなものであれば要注意という考え方だ。
【*】 編集部注
校了直後の3/2付けで、自然公園法および自然環境保全法改正の閣議決定がされました。

Aさん―で、規制の仕組みは?

H教授―毒性、分解性、蓄積性のいずれもが灰〜黒の場合は、「第一種特定化学物質」として事実上の製造輸入禁止に近い措置をとり、蓄積性は白だが、他は灰〜黒の場合は「第二種特定化学物質」として、製造輸入を厳重な管理の下で行うというものだ。
それ以外にもそれぞれの候補物質のような「第一種監視化学物質」「第二種監視化学物質」「第三種監視化学物質」というのも決めている。

Aさん―でもそれらは全部新規化学物質なんですね。それ以前から流通していた物質はどうするんですか。
それにアスベストだとか重金属は化学物質とは言えないですよね。もうひとつ、作るつもりじゃなかったけど結果的にできてしまう物質もあるでしょう。

H教授―まあ、確かにそうなんだけど、この法律一つでキミが言ったもの全部をカバーするのはムリだろう。
化審法は何度か改正されたが、それを大改正しようというもので、今回の改正ではキミの指摘事項のうち、第一番目の点にかかわってくる。
即ち、法制定以前から流通していた既存化学物質についても、「一般化学物質」として定義し、一定数量以上の製造輸入については、その数量等を届出ることを義務づけた。
そして従前の第二種・第三種の監視物質という分類は廃止し、数量と有害性等の既知データによりスクリーニングを行い、灰色のものは新たに「優先評価物質」というジャンルを設ける。そして、リスク評価を逐次行い、特定化学物質指定の可否判定を行うというスキームにするそうだ。

Aさん―既存の化学物質全体に網をかけようということですね。
審査や規制の考え方に何か変化はあったんですか。

H教授―そうだなあ。今まではどちらかというと、その化学物質自体の持つハザード、つまり毒性などの危険度に重点を置いていたんだけど、ハザードよりはリスク管理に重心が移ったような気がする。
リスクってのは「ハザード×その物質の総量」ということになる。ある化学物質自体のハザードは小さくても、大量に使用されるものはリスクは相対的に大きくなる。

Aさんダイオキシンはハザードは大きいけど、リスクはどちらかいうと小さいってわけですね【11】
【11】 ダイオキシンのリスクとハザード
第3講(その2)「ダイオキシンの虚実」

H教授―ダイオキシンはその大半が非意図的生成化学物質だから、化審法のスキームには入らないけど、まあ、そう言ってもまんざら間違いではないだろう。
あと難分解性以外の化学物質は、化審法の規制対象にはなっていなかったが、それをやめて、易分解性のものも規制対象になりうるとしたことにも留意しておこう。

Aさん―こうした改正の背景には何があるんですか。

H教授―国際的な流れに対応したということだろう。2002年の「持続可能な開発に関する世界首脳会議(WSSD)」で決められた国際標準的なリスク評価手順とリスク管理手順で、化学物質の悪影響を2020年までに最小化するという「WSSD目標」を具体化したということじゃないかな。

Aさん―EUのREACH規則もその流れですね。日本版REACH規則といってもいいのかな。でもEUのRoHS指令【12】もそうでしたけど、化学物質に関してEUは予防原則に固執しすぎて、過剰規制だという批判がありますね。

H教授―EUは一般原則はそうでも、例外規定を結構設けているらしいから、実際はそれほどでもないのかもしれない。

Aさん―だけど現に、ダイオキシンにしても環境ホルモンにしても、余りにもリスクを過大評価したという話がありますよね【13】

H教授―じゃ、化学物質じゃないけれど、アスベストはどうなんだい。われわれは今にして思えば、かつて、あまりにもリスクを過小評価しすぎたんじゃないか【14】
リスクの過大評価と過小評価を較べれば、過大評価の方がはるかにマシだろう。
過大評価はせいぜいコストが余計にかかったり、快適性が損なわれるだけだが、うっかり過小評価しちゃうと将来にとんでもない禍根を残しかねない。

Aさん―じゃ、この化審法の改正で、化学物質対策は万全になったと思っていいんですね。
【12】 RoHS指令
第30講(その3)「ローズ指令を巡って」
【13】 環境ホルモンのリスクの過大評価
第16講(その3)「環境ホルモンのいま」
【14】 アスベスト被害の教訓
第31講「アスベストのすべて」

H教授―そんなわけないだろう。そういうのを“過信法”というんだ。

Aさん―…オジンギャグで〆るのか。
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(平成21年2月28日執筆  同年3月3日編集了)
註:本講の見解は環境省およびEICの見解とはまったく関係ありません。また、本講で用いた情報は朝日新聞と「エネルギーと環境」(週刊)に多くを負っています。
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